【第一章 スライム生活】第五話 魔物化
”なぜ、僕の呼び出しに、誰も・・・”
僕が、魔物化という素晴らしいスキルを得てから、何度も呼び出しているのに、奴らは、一人として呼び出しに応じない。
実験で、待ち合わせ場所に来ていた女子をスライムには出来た。
—
「よし!メッセージは送られた!」
彼は、覚えているアカウントに対して、呼び出しのメッセージを送った。
自分のアカウントだと、知られないように、フリーのアカウントを取得して使っている。
普通に考えて、知らないアカウントから、”お前の秘密を知っている。バラされたくなかったら・・・”などと、メッセージが入っても、よほどの暇人か、ITリテラシーの低い人以外は、無視するだろう。
実際に、受け取った。彼が呼び出したかった男女は笑いながら無視した。自分たち以外に、見覚えがないアカウントがリストに入っていたので、余計にイタズラだと判断した。
男女は、彼がスマホを持っているとは知らなかったので、彼からのメッセージだとは考えなかった。
そして彼は、待ち合わせ場所に現れた一人の女子生徒を魔物化してしまった。
彼は、魔物化を起動する。
対象との距離は、壁を挟んで15メートルほど離れている。魔物になって反撃されるのが怖かったのだ。
「魔物化。スライム。使えるだけ全部だ」
彼は、このときに大きな取り返しのつかないミスをした。
スキルを初めて起動するときに、説明が行われる。
魔物を倒して得たスキルでは、必ず発生する。彼は、自分が天才だと思っている。そのために、説明を斜め読みするクセが付いてしまっていた。この時にも、スキルの説明を斜め読みして大事な部分を読み飛ばしてしまった。
彼が理解したスキルの説明は次のようになる。
”魔物化は、魔物以外を魔物に変換するスキル。術者の精神力を使って、魔物化を行う。距離に依存して精神力が必要になる。術者の精神力が不足していたり、対象の生命力が上回っていたり、諸条件が揃わないと魔物化は失敗する”
しかし、実際の魔物化のスキルは、彼が理解したような物ではなかった。
”魔物化は、魔物以外と魔物に変換するスキル”
正しいのはここまでだ。
魔物化のときに使われる精神力は、魔物化の過程で、対象者にスキルを与える能力である。術者の精神力と生命力を使って、対象を魔物に変換し、術者が考えるスキルを付与する。
”距離が離れていると、眷属にするための精神力が必要になり、対象の生命力が上回っていると、眷属化が失敗する”
彼は、彼女を魔物化する時に、自分の精神力と生命力の限界に近い数字を使っていた。
そのために、彼が自分に欲しいと思っていたスキルが、彼女に付与される結果となった。
彼は、臆病者だったために、魔物化した魔物に襲われない距離をとっていた。そのために、対象の眷属化が失敗した。
そして、彼は、精神力と生命力のほとんどを使っていたために、眷属化が失敗した反動を受けて、気絶してしまった。そこで、また彼に計算外のことが発生する。魔物化では、魔物化するときに使用した、精神力や生命力が経験として”スキル 魔物化”に付与されて、レベルアップしていくのだが、彼が気絶してしまった為に、経験値が彼女に割り振られてしまった。
そして、彼女が魔物で最も弱いはずのスライムだったのが、問題を大きくした。
大量の経験値。
”人を殺す”に、等しい経験値を、最弱のスライムが受け取ったのだ。彼女は、レベルアップの余波で意識を飛ばしてしまう。スリープモードに入ってしまったのだ。彼女は、急激なレベルアップが発生して、体組織の組み換えが発生してしまった。セーフティーが発動してスリープモードになってしまった。
彼の不運は、まだ終わっていない。
彼女がスリープモードに入ってしまったために、承諾を求められている項目が、全て”Yes”として処理されてしまった。
・彼が得る経験値が”今後も”彼女に付与される。
・彼が得るスキルが、彼女に自動的に付与される。
・彼のステータスの上昇分が、彼女に自動的に付与される。
・彼の眷属が、彼女の眷属となる。
ラノベ的に表現すれば、”無自覚ざまぁ”や、”自業自得展開”に入ってしまった。
— 閑話休題
実験は、成功した。
スライムになった所までは、確認した。
そのあと、距離が離れていたために、僕は少しの間だけど気を失っていた。実験をしておいてよかった。これが、アイツらの前だと、アイツらは僕を襲っていただろう。
やはり、僕は天才だ。
確かに、実験でミスをしたが、そのミスを最小限に押さえて、ミスから学ぶことができる。努力ができる天才が本当の天才だ。
アイツらが、僕の呼び出しを無視するのは、僕が怖いからだ。力を得た僕が怖いから、アイツらは、僕の前に現れない。
そうだ。
まずは、ママを魔物にしよう。そして、殺そう。
それとも、誰かに殺させてもいいかもしれない。僕が、手を汚す価値はない。
それで、パパに連絡をして、ママが居なくなったって連絡すればいい。僕が、ママを魔物化したなんて、パパはわからない。完璧な計画だ。ママは、今日も家に居て、僕に勉強しろと言ってくる。ドアの前で、スキルを利用すれば、ママをスライムに出来る。
普段なら、帰りたくない家路だけど、今日は気分がいい。
素晴らしいスキルを得た。これから、ママの声に、暴力に、理不尽な言い分に、天才の頭脳を使わなくて済む。
家があるマンションに着いた。天才の僕に相応しいとは思えないが、凡人のパパとママならしょうがない。早く、世間が僕の才能に気がつけば、もっと違う結果になるのだろう。スキルを得たことで、時期が早まるかも知れない。
玄関・・・。
そうだ、ママは玄関のチャイムが鳴ると、玄関まで出ていって、話しかける。のぞき穴を塞ぎでいれば、僕だって気が付かれない。
ほら、簡単だ。
チャイムを鳴らしたら、近づいてきた。
でも、今日じゃない。今日は・・・。そうだ、まだ、僕の素晴らしいスキルを隠しておく必要がある。ママの声が聞こえる。
ひとまず、玄関の前から移動しよう。
そうだ、お腹が空いた。コンビニで、何か食べるものを買ってこよう。お金は、アイツらに貸したけど、まだ残っている。そうだ、スマホで電子マネーを使えるようにしよう。パパに言えば、教えてくれるかもしれない。ママにも、アイツらにも知られずに、買い物が出来る。
マンションから離れて、5分くらい歩いた場所にあるコンビニに到着した。
お財布を確認して、買える物を確認する。
今日は、素晴らしい日だ。僕が、Aランクという希少なスキルを得た。武器を得たのだ。世間に認められて、ママやアイツらも僕を認めるはずだ。
—
彼の中では、彼女を魔物に変えたことは無かったことになっている。
一人の女性の人生を狂わせたことなど、考えもしなかった。
彼のスキルで作り出したスライムが、今後、スライムらしからぬ進化を遂げるとは、想像さえもしていない。
コンビニで買ったおにぎりとパックジュースを飲みながら、彼は妄想の中で母親を魔物化する。アイツらと呼んでいる。暴力や恐喝の加害者たちを、魔物化して殺す妄想をしている。
彼の中では、彼の行いは”正義の行い”で、誰にも咎められないことなのだ。
彼のスキルは、本来なら、獣を魔物化して、自分の眷属にする物だ。そして、スキルを成長させて、仲間を作って、彼がトップになり、彼が考えるスキルを持った強力な魔物を従えた、最強な集団を作り上げることが出来た。
彼のスキルを、彼が使い方を理解して使っていれば、彼は世界の王になることも可能だったかも知れない。
彼は、復讐を行うのに相応しいスキルを得ていたのだ。
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