【第一章 ギミックハウス】第五話 【帝国】魔王城

 

 俺は、第七番隊の隊長から直々に命令されて、魔王討伐部隊の輜重兵に紛れ込んでいる。

 俺が指揮する部隊がそのまま配置されている。
 表向きは、輜重兵の統率なのだが、それ以上に、大事な役目として、魔王城のギミックを見抜くことにある。聞こえてくる話では、奴隷兵を使って罠を食い破るつもりのようだが、ギミックが、魔物を絡めた物だった場合に、奴隷兵ではただ死ぬだけだ。我らが、ギミックを突破して、殿下を安全に魔王の下に届ける。

 陛下の演説から、殿下の出陣の挨拶。
 そして、殿下を先頭にして、討伐部隊が帝都から祝福されながら魔王城が出現するポイントまで移動を開始した。

 魔王城までは、整備されている道ではないが、奴隷たちを使った兵站は機能した。
 部下たちも、周辺の情報を集めてきている。

「殿下。予定通り、進んでおります」

「わかった。数名で、野営の予定地を確認してこい。奴隷も連れて行け、場所の確保くらいは出来るだろう」

「はっ輜重兵からも連れて、殿下のお休みになられる場所を確保いたします」

「貴様に任せる」

 殿下から、許可を頂いて、部下と奴隷兵を先行させる。

 魔王城への途上で、野営を行って、明朝に魔王城が見える場所まで部隊を進める。

 報告書は、隊長が手を回して入手してある。
 しかしこれは・・・。

 野営を終えて、殿下が進軍を指示された。
 私たちは、輜重兵となっている奴隷兵を引き連れて、殿下の指示の前に、野営地を出ている。次に、魔王城が見える場所に、陣地を構築する。

 部下からの報告を聞いて、信じられないという気持ちが湧き上がってきた。

 部下の報告を聞いて、今回の魔王城は、今までにない大きさになっている可能性を危惧した。実際に部下の口から報告を聞いて、戸惑ってしまった。

「ギルドから来ている者はいるのか?」

「はい。確認を行うために、殿下のお側に控えております」

「わかった。お前たちは、陣地の設営を行ってくれ。急げよ」

「はっ」

 部下と輜重兵を追加で、前線に送り込む。
 報告が本当であれば・・・。違うな、報告を、殿下が信じていただけなければ、最前線に赴いて自ら指揮を取られるだろう。

「殿下。七番の目です」

 殿下のお使いになっているテントに近づいて、中に聞こえるように声をかける。

 テントの中に居た者が、殿下と話をしている声がする。

「はいれ」

 殿下の声が聞こえた。
 テントに扉の代わりに掛けている布を押して中に入る。

 殿下は、豪奢な椅子に座って、美女・・・。首輪から見て、奴隷から、ワインを注がれて居る。

「殿下。ご報告があります」

「なんだ」

 辺りを見れば、全員が揃っている。
 第15番隊の副長が居るのには少しだけ警戒心を持つが、1,000の奴隷兵を出しているのだ、当然だと思い。頭を切り替える。

「はっ。魔王城の前に陣地を構築するために向かった部下からの報告です。口頭での報告になってしまいますが、ご容赦ください」

「ここは、戦場と同じだ。構わん。話せ」

「はっ」

 部下からの報告を、殿下に報告を行う。

「以上です」

 報告を話し終えて、殿下に向って頭を下げる。片膝を付いて、片手を床につける状態で殿下からの沙汰を待つ。

「貴様の見解を聞こう」

 殿下から恐れていた質問が来てしまった。
 当然、聞かれるとは思っていた。

「はっ。私たち、七番は、撤退を前提とした情報収集を提案いたします」

 15番の副長が、鼻で笑って、否定する。
 たかが、産まれたばかりの魔王に何を恐れるのか・・・。と。想像通りの返答だ。自らが安全な場所に居て、奴隷兵での突撃しか出来ない低能に相応しい発言だ。

「貴様の言葉は、記憶しておく」

「はっ」

「下がれ」

 立ち上がって、手を心臓の上に置いて、お決まりの宣言をする。

「帝国にこの生命を捧げます。永久の忠誠を」

 殿下が、手を振って、体質の指示を出すまで、ポーズを維持する。
 これは、攻勢の指示が出るだろうと、表情を見て悟った。15番の副長が、何やら殿下に耳打ちをしているのが確認出来た、隊長が危惧している内容が、現実になりつつ有るのではないか?

 野営地を引き払って、魔王城の前に作った陣地に到着した。

「殿下。7番の目です。野営地を引き払いました」

 中からの返事はない。当然だ。中からは、別の声が聞こえてくる。

「殿下は、お休みになっている」

「かしこまりました。物資の搬送、野営地の引き払いが終了いたしました」

「ご苦労」

 15番の副長は、見下ろすような位置から声をかける。
 どうやら、殿下の相手をしているのは、15番が用意したのだろう。

 立ち上がって、自分ために用意したテントに移動する。告げ口ではないが、15番のやっていることを、隊長に報告する。

「誰か!誰も居ないのか?」

「はっ」

 テントの前に居た部下がテントに入ってくる。

「そのままで聞いて欲しい」

「はい」

「この討伐は、失敗する」

「・・・」

 部下も感じているのだろう。表情を少しだけ歪ませるだけだが、納得している雰囲気がある。

「そこで、ギルドの人間を探して、連れてきて欲しい。そして・・・。若い奴らを、10人ほど見繕ってくれ、他は貧乏くじだと思って・・・。殿下と命運を共にする」

「10名で?」

「どうした?」

「今回は、経験を積ませるために、幼年兵も動員しています」

「何名だ?」

「奴隷兵に紛れ込ませて、18名です」

「そうか、わかった。15番が全面に出そうな雰囲気がある。輜重兵は、できるだけ後方に配置して、逃がせるだけ逃がせ」

「はっ。奴隷兵は?」

「同じだ。できるだけ、後方に・・・。そうだな。森の手前に陣地を構築させろ」

「かしこまりました」

 部下の何人を、生きて返せるだろうか?

 陣地の前に広がる白い壁は、異様だ。

「ギルドの情報官を、お連れいたしました」

 早いな。部下が出ていって、2-3分しか経っていない。

「入ってください」

「はじめまして、第七番隊。小隊を率いる者です。名乗りは控えさせてください」

「・・・。七番隊。納得いたしました。私のことは、ボイドとお呼びください」

「わかった」

 ボイドは、ギルドで用いる用語だ。
 第七番隊の役割を知っているようだ。表の役目も、裏の役目も・・・。その上で、ボイドと名乗るのか?ギルドが使う暗部の総称がボイドだ。
 ギルドは、最初から、今回の魔王を危険視していたのか?

「それで、閣下は、私に何をお聞きになりたいのですか?」

「ボイド殿。閣下は辞めてください。不敬になってしまいます」

「失礼しました。貴殿とお呼びしますが、よろしいでしょうか?」

「私のことで、ボイド殿に気遣いをさせてしまって、申し訳ない。本題だが、ギルドは今回の魔王をどう見る?」

「・・・」

「ボイド殿?」

「貴殿。7番隊なら、ご存知だと思いますが、ギルドは、前回の魔王を討伐しております。魔王を討伐してから、次の魔王が誕生するまで、監視を行っております」

「そうか・・・」

 手を上げて、続きを話すようにお願いする。

「はぁ・・・。あの魔王は、異常です」

「異常だと判断する理由は?」

「監視をしていた者からの報告です。お読みになっていませんか?」

 ボイドは、懐から資料を出して、私に渡してきた。

「これは?」

「魔王城の報告と、殿下の側仕えをしているギルド員の報告です。あっ殿下に関する報告は、殿下にはお渡ししていませんので、報告書は回収させていただきます」

 受け取った報告書は、ギルドが使う暗号で書かれた物だが、基本は七番隊が使う物と同じだ。暗号表があれば、読むことが出来る。ボイドは、暗号に使った暗号鍵と暗号表を出してくれた、謝意を伝えて、報告書を読む。

 殿下に七番隊が進言した内容も書かれている。
 そもそも、殿下の”言動”や”行い”まで報告する必要はない。

「そうか・・・」「貴殿の考えは、口にしないほうが、お互いのためだ」

 やはりな。ボイドが、俺が”名前”を出そうとしたときに、阻止した。二人しか居ない空間だが・・・。これで、はっきりとした。ギルドに依頼を出したのは
陛下か陛下に近い者だ。

「やはり、今回の魔王は危険だな」

「はい。それに、1000名の奴隷を突入させようとしています」

「どういうことだ?」

「別の場所の・・・。人族以外は、奴隷という国で、やはり1000名の奴隷を使って、攻略しようとして、実際に実行しました」

「・・・。結果は?」

「失敗です。ただ、失敗した後で、魔王城が、10倍以上の大きさになったようです」

「え?」

「突入時点では、帝都の中堅どころの宿屋程度の広さでしたが、それが、皇城に匹敵する広さに拡張されました」

「・・・。シュワルツ城か?」

「貴殿は、物知りですな」

 シュワルツ城。
 神聖国に存在する、魔王城だ。神聖国は、資源のために攻略を行っていないと言っているが、ことごとく攻略が失敗している。難攻不落の魔王城の一つだ。噂では、聖女と聖騎士100名を突入させても攻略が出来なかった。帰還者が居るために、情報の積み重ねは有るらしいが・・・。

「彼の魔王城に匹敵すると・・・。ギルドは判断するのか?」

「いえ、それ以上の危険性があると考えています」

 それ以降、ボイドは黙ってしまった。