【第二十章 攻撃】第二百四話
”守る者。身体は石。心を持たず、武器は持たず、スキルは使わず、武器は通じず、スキルは通じず、腕のみで攻撃す、それは人型。神殿の最深部を、女神を守る者なり”
ナーシャから教えられた言葉だが、確かに今回出てきた魔物の姿を的確に表現している。
問題は、最後の部分だな。
”女神を守る者なり”
女神?
女神・・・。心当たりがあるが、ちがうだろう。神殿には住んでいない。少なくても、俺が知っているのは”神”であって女神ではない。
ロックハンドダンジョンからホームに戻る。
シロたちが集まって、何やら議論しているところが魔物を調べている場所だろう。
「どうだ?」
「皆で見ていますが、通常の魔核と純度が高い鉱石です」
「そうか・・・。スキルは無いのだな?」
「はい」
「そう言えば、スキルカードも落ちていなかったのだよな?」
「うん。なかった」
スキルカードが落ちていれば、俺と同じ能力なのかと思ったのだが違うようだ。
クローン・クローエたちが運んできた魔物の残骸を鑑定する。
// レベル7
// 魔核
// スロット:空き×2
確かに、スロットが空いているけど、レベル7魔核だな。
不思議な部分はない。スキルが付与されている感じもしない。
// 黄鉄鉱
愚者の黄金か・・・。
「クローエ。これしかなかったのか?」
「はい」
「そうか・・・」
「マスター。どうされたのですか?」
「あの魔物の大きさから考えて、もっと黄鉄鉱があってもいいと思ったのだけどな」
「崩れた場所にはこれだけしか残っていなかったです」
「そうか・・・黄鉄鉱は水に弱いと聞いたけど、さすがに簡単に溶けてなくなるほどでは無いだろうからな」
これで全部だとしたら、胴体くらいしか残されていなかった事になる。
「あ!」
「どうした?」
「マスター。そう言えば、魔物が崩れる時に、なにかスキルが発動しました」
「先にそれを教えてほしかったな」
「もうしわけありません」
「うーん。そうなると、どんなスキルなのか気になるけど、状況から判断すると、重要な部分の回収をしたと考えるのが妥当だよな。でも、なんで全部回収しなかったのかが気になってくる」
足と腕ともしかしたら頭だな。
回収したのは・・・。
「マスター?」
「あぁすまん。それで、フラビアやステファナの意見は?」
「これが動いていた事に違和感を覚えます」
ゴーレムの概念がないのか?
それとも、知られていないだけなのか?
自立型は難しいだろうけど、操作ならできると思うのだけどな
作ってみるか?
まずは骨格を用意して・・・あっ無理だ。
関節が作られない。あの”しなる”腕も再現ができそうにない。魔物を原料に使っているのなら、なんとかなるかも知れないが、鉱石を原料に使っているとしたら難しい。
鉱石か・・・。
「オリヴィエ。鉱石にスキルを当てても、効果は小さいよな?」
「はい」
「剣で切っても同じだよな」
「そうですね」
関節は無理だったが人の形に成形して鑑定をしてみる。
何も表示されない。黄鉄鉱と表示されるだけだ。当然だよな。
「シロ。この人形を操作してみてくれ」
「・・・。できません」
やっぱり無理か・・・。
魔核?
そうか・・・。
頭の部分にくぼみをつけて、くぼみに魔核を埋め込む。
「シロ。これだとどうだ?」
「あ!できました」
確かに、ぎこちない動きだが、自立して動いているように思える。
上手く歩けないようだし、立っているのもやっとの様子だが、操作はできているようだ。
関節がないのだから当然だよな。
鑑定を行うと、攻撃半減とスキル攻撃半減のスキルが出ている。
操作が鍵を握っているのか?
どうやって作ったのかは不明だが、鉱石を使って人形を作って、それに魔核を埋め込めば、操作ができる。
クローン・クローエを、ダンジョンコアが乗取ったのと同じ様な現象だな。
スキルがついた方法はわかった。可能性のレベルだが、ヒントくらいにはなるだろう。
素材を持ち帰っている。
「これは、まだ続きそうだな」
「え?」
素材を見ていたシロが俺を見る。
「あぁ考えてみろよ。素材を持ち帰っているのだし、確認できているのは3体。色が全部違うという事は、素材を変えてきているのだろう?」
「そうですね」
シロが、黄鉄鉱を持ち上げながら答える。
ゼーウ街とエルフ大陸に出た物は色しか伝わってきていないが違うと考えて良さそうだ。
もしかしたら、素材を変えて性能を見ているのかも知れない。
敵だとしたらかなり厄介だな。
想像ばかりで何も判明しそうにない。
「一旦、ルートガーに素材を渡しておくか?」
「はい。それがよろしいかと思われます」
オリヴィエが賛同してくれる。
一任したのだから、ルートガーに情報を渡しておく必要が有るだろう。
「オリヴィエ。ルートガーに素材とこちらで得た情報を渡しておいてくれ」
「かしこまりました」
フラビアとリカルダが手伝ってくれるようだ。
どうやらホーム内のことも納得できたようだし、今日はこのまま帰るようだ。
「ツクモ様」
「あぁ頼むな。少し、作業が遅くても構わない。今発生している問題を解決しないと、本気で楽しむことができそうにない」
「そうですね。わかりました。スーン殿には、こちらから接触しますがよろしいですか?」
「あぁ頼む。フラビアとリカルダには負担をかけるけど、頼むな」
「もちろんです」「大丈夫です。お任せください」
オリヴィエとフラビアとリカルダが、ブルーフォレストダンジョン向けの転移門から出ていく、ルートガーがどこに居るのかわからないので、迎賓館に向かう事にしたのだろう。
フラビアとリカルダにも、ホームに来るためのパーミッションは付与してある。
「さて、シロ」
「はっはい!」
期待しているのが目に見えてわかるな。
「期待しているところ悪いけど・・・」
「はい。わかっています。まずは、新種の魔物をどうにかしないとダメですよね」
「あぁ俺が直接なにかする事はないと思うけど、対策は考えておきたい。特に、ロックハンドは襲われたからな」
「そうですね。カズトさん。暫く、僕とカズトさんとカイ兄さんやウミ姉さんで、ロックハンドに行きませんか?」
ふむぅ案外いいアイディアかも知れない。
隠れてなにかをするには、あの環境は丁度良いかも知れない。
「そうだな。そうするか?」
「はい」
ルートガーに後々文句を言われたいように、所在だけはしっかり伝えておくか?
「リーリア。悪いけど、ルートガーにロックハンドに行っていると伝えてきてくれ。帰りは、オリヴィエと一緒に帰ってきてくれればいい。その時に、暫く・・・2-3ヶ月位生活できるだけの準備を頼む」
「ご主人様。私だけでは荷物が大変なので、ステファナとレイニーにも準備を手伝ってもらってよろしいですか?」
「そうだな。頼む。ステファナとレイニーも頼むな」
「かしこまりました」
「はい」「承ります」
リーリアとステファナとレイニーもオリヴィエの後を追うようにブルーフォレストダンジョンに向かっていく。
「さて、行きますか?」
残っているのは、シロとエリンとアズリとクローエたちだ。
クローン・ティリノがついてくるようだ。それ以外の眷属は、ホームの中で過ごす事にしたようだ。
カイとウミから、一つのお願いというか提案がなされた。
『主様。ホーム内に、100階層に出てくるような魔物を配置できないですか?』
「フロアボスって事?」
『はい。できれば、戦い方が違う魔物が出てくるようになると嬉しいのですが?』
「どうして・・・って聞かなくてもわかるな。この前の魔物への対策か?」
『はい。不甲斐ない事態になってしまったので・・・』
「シャイベ!」
「はい。一部にフロアボスを配置する事はできますし、万が一の時には、強制的に魔物を消す事ができます」
「そうか・・・魔物の知識はどうする?」
「マスターの知識を拝借できればと思います」
「旦那様。それでしたら、私達もホーム内に残って、戦闘訓練をしたいです」
眷属達も戦闘訓練に参加するつもりのようだ。
「シャイベ。魔核を吸収すれば、フロアボスを作り続けても問題はないか?」
「ありません。でも、スキルカードや魔核を産むと効率が悪くなります。魔物だけで良いのでしょうか?」
「そうだな。戦闘訓練が目的だからな」
「それでしたら、自然回復だけでも十分ですが、カイ兄さまやウミ姉さまが連続で倒してしまうと、徐々に弱くなってしまうことも考えられるので、魔核の吸収を考えたいと思います」
「わかった。エーファ。魔核を渡しておくから、シャイベと相談しながら使ってくれ、足りなくなったら、ログハウスに居る執事かメイドにもらってくれ」
「かしこまりました」
「カイ。ウミ。シャイベと相談しながら、魔物を出すようにしてくれ」
『かしこまりました』『うん。わかった』
「マスター!魔物の知識をお願いします」
「どうしたらいい?」
「思い浮かべてください」
「動いているところとか?」
「それがいいです」
「わかった」
約2時間程度、某モンスターをハントするゲームに出てくる—主に2G—モンスターとの死闘を思い出していた。
それを興奮しながら取り入れているシャイベ。ホームの俺とシャイベとシロが居る場所の横に具現化するモンスター達。
はっきり言おう。
めちゃくちゃ怖い。最初の方に倒す鳥類?のモンスターでも怖かった。
それを、喜々として狩っているカイとウミと眷属たち・・・。喜んでもらえてよかったよ。
知識は、3までで止まっているので、3のモンスターを覚えさせたところで、俺の役目は終わった。
他にもいろんなゲームの魔物が居るが、動きや攻撃を考えると、あのゲームのモンスターが一番いいだろう。
「カイ。ウミ。エーファ。エリンにアズリも、俺たちはロックハンドに居るから、何かあったら来てくれ」
皆から了承の返事が来る。
結局、ロックハンドには、シロとクローン・ティリノだけがついてくる事になった。
あとから、オリヴィエとリーリアとステファナとレイニーが合流してくる事になる。
カトリナは来た船で帰っていったようだ。ホームは、カトリナだけではなくイサークたちにも使えない—ことになっている。
パーミッションが設定されているから当然の事だが、攻略時に一緒に居た者しか使えないようだ・・・。と、説明した。
イサークもナーシャもこれで納得している。
使えれば便利だという事はわかるが、二人が使えてしまうと、他の人間が使えない事が説明できなくなってしまうので、使わせない事にしている。クリスが俺の眷属になっている事は、知っている者も多い情報の為に、クリスが使える事は不思議に思われないだろう。その結婚相手であるルートガーが使うのもギリギリセーフだろう。と、かってに判断している。
イサークに言って、港に近い場所に家を一軒立てさせてもらう。
ここを、ロックハンドの拠点にする。
と、言ってもなにか目的が有るわけではない。
あの魔物が現れないか監視を続けるだけだ。
「ご主人様。ナーシャ殿が来られました」
「あぁわかった。いつもの様に頼む」
「かしこまりました」
俺たちが居を構えてから毎日ナーシャは昼になるとやって来る。
俺が頼んだからだ。甘味の試食とシロの料理の練習に付き合ってもらっている。
その間、俺はイサークとガーラントとピムとオリヴィエを連れて、魔の森を調査している。
調査と言っても、クローン・ティリノが居るので、ダンジョンに関しては調べる必要がない。
主な調査は、魔物の分布を調べる事だ。ティリノが支配領域をダンジョン内に絞って、魔の森全域は開放したので、地上に出ていた魔物が放置された事になる。ダンジョンも小さい物は放棄している。
そのために、魔物の分布も変わっている状態なのだ。驚異になりえる魔物は居ない事はすでにわかっているのだが、放棄されたダンジョンに厄介な者が住み着いていないかを調べる必要がある。
2週間程度、こんな生活を送っていた。
魔の森の全域を調べるのは無理だが、ロックハンド周辺は調べる事ができた。
放棄されたダンジョンなに住み着いていた、ゴブリンやオークをダンジョンごと始末して回った。その時のスキルカードや魔核は、頭割りする事になった。
そんな日々を過ごしていたのだが、ローレンツの使者が船でロックハンドを訪れた。
使者は口頭で情報を伝えてくれた。
やはり、アトフィア教の大陸でも、同様の魔物が出没したようだ。黄金色と言っているが、愚者の黄金である可能性は排除できない。ただ、攻撃方法が違っていた。”しなる”腕ではなく、腕を突き刺すように使っていたようだ。
そして、いくつかの集落を襲ってから姿を消したという事だ。
ローレンツからの伝言は、この他にもアトフィア教からの情報をまとめてある。あの魔物が中央大陸のゼーウ街以外の場所で何度も目撃されている事を報告してきた。巡回司祭などが遭遇しているようだ。
色も形も攻撃方法もバラバラな様子だが、共通項として・・・
・物理攻撃が効かない
・スキル攻撃が効かない
・スキル攻撃はしてこない
・喋らない
・鉱石の様な身体
倒した例はまだないようだ。
やはり、何者かが攻撃を仕掛けてきていると考えるべきなのかもしれない。
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