【第九章 ユーラット】第十五話 誤算

 

姫様が見つからない!
馬車の中を探しても、姫様の姿が見えない!

隠れている?違う。私が助けに来たのだ、隠れている意味はない。
そうか、私が助けに来たことを察知して、馬車から降りたのだな?

「オリビア姉ちゃん!」

誰だ!

二つの車輪が付いたアーティファクトに乗った子供が二人、馬車に近づいてきた。

「カイル!イチカ!」

姫様が、馬車の中から出てきた?
探しても姿が見えなかったのに?
どこに居たの?

アーティファクトに乗ってきた二人の一人が、私に突っ込んできた。

とっさに避けた。
私くらいになれば避けると同時に攻撃を仕掛けるのは簡単だ。カイルと呼ばれている男児に切りかかる。

剣が弾かれた。
アーティファクトの権能か?

「オリビア様!」

イチカと呼ばれている女児が、姫様に手を差し出す。
姫様!

姫様!

姫様が、イチカに・・・。神殿に騙されてしまった。
神殿の勢力に、姫様を連れ去られてしまった。

私のミスではない。
そうだ、まだ・・・。

姫様は、最後まで馬車の中に隠れていた。
私の到着を待っていてくれた。

そうだ。
馬車の中に・・・。

やはり!
姫様は、まだ神殿でやることがあるのだ!そうだ!

姫様は、帝国の姫だ。
魔道具の起動に必要な鍵は、既に預かっている。

方法に間違いが無いように・・・。
姫様のお心は、私には解っております。

しっかりと、帝国に姫様が得られた神殿の情報を活用します。

カイルとイチカが、オリビアを救い出したのは、カイルとイチカの独断だ。ヤスたちが考えたシナリオではないが、カイルとイチカが動いても問題が内容には考えていた。

カイルは、オリビアがメルリダとルカリダだけを伴って、ユーラットに向かうと聞かされていた。
そして、ユーラットで問題になるような行動を行っているヒルダが、オリビアの奪還を考えていると教えられた。大人たちが、誰も護衛に付かないのなら、自分が護衛すると言い出した。
周りから”やんわり”と、”大丈夫だからおとなしくしておけ”と言われていた。カイルが言いつけを守るわけがない事も、大人たちは理解していた。イチカに、カイルが飛び出したら、一緒に”オリビアの救出”に向かうように指示を出していた。
二人が使っているモンキーにも細工が施されていた。普段は、結界の発動には、ハンドルにあるスイッチを押す必要があるのだが、この日はエンジンをスタートさせたら、結界が発動するようになっていた。スイッチは、トグルになっていて、スイッチを押下することで、結界が解除されるようになっていた。
モンキーの活動時間は短くなるが、問題にはならないと判断されていた。

オリビアたちが乗った馬車が、神殿を出てから、監視の目をかいくぐって、カイルとイチカが神殿の西門から飛び出た。大回りで、オリビアが乗った馬車を目指した。
襲われている状況が、見えてカイルが加速する。イチカも、カイルの加速に遅れないように、スロットルを開ける。

二人が見たのは、狂喜で表情が歪んでいるヒルダがルカリダの身体に剣を突き立てている場面だった。

ヒルダの攻撃をかいくぐって、オリビアを救い出した二人は、そのまま加速して、モンキーで通ることができる脇道に入って、西門を目指した。

最初に異変に気が付いたのは、カイルだった。
後ろを気にしながら、追跡がないことを確認して、カイルがモンキーを停めた。

「オリビア姉ちゃん。大丈夫か?」

カイルは、モンキーを降りて、イチカに捕まっているオリビアに話しかける。

カイルから見ても、オリビアが落ち着きすぎているように感じていた。
襲われて、従者が殺されたのだ.泣き叫べとは言わないが、冷静で居られるとは思えなかった。

「はい。カイル様。大丈夫です。ヤス様にお聞きでは無いのですか?」

イチカは、オリビアの言い方に違和感を覚えて、一つの可能性に辿り着いた。

「え?何を?」

カイルは、何も聞かされていない。
そして、イチカが辿り着いた可能性には、小指の先ほどにも届いていない。

イチカは、神殿で作業をする傍ら、サンドラやアーデルベルトやドーリスから話を聞いていた。他にも、神殿で生活をしている女性たちから噂話を聞いていた。その中の一つに、眉唾だと思っていた噂話がある。今、自分たちが置かれている状況を過不足なく説明ができる噂話があった。

「イチカ様も?」

オリビアは、カイルが知らないと把握して、イチカに質問を行う。

オリビアは、あの場所で殺されるか、ヒルダに連れ攫われることになっていた。カイルとイチカが助けに来るとは聞いていなかった。しかし、とっさにイチカの手を取ったのは、自分が死んだことになるよりは、神殿に連れ攫われたとヒルダが思い込むほうが有効だと”指示”を受けたからだ。
オリビアは、ヒルダに見つかって、自分と一緒に来るように言われる。それを拒否して、ヒルダに殺される予定になっていた。

「ふぅ・・・。他に、誰が知っているの?」

イチカは、可能性の確認を行うために、オリビアに質問を行った。

「ヤス様。リーゼ様。オリビア様。メルリダ様。ルカリダ様。ルルカ様。アイシャ様。サンドラ様。アーデルベルト様。アフネス様。ドーリス様です」

オリビアは、イチカが何を聞きたいのかわかったので、素直に質問に答える。
11名の名前を上げるが、実際には、あと数名は今回の作戦には直接関わっていないが、事実として知っている者が存在している。

オリビアは、自分自身に”様”を付けて名前を告げている。
イチカは、これで噂話が真実だと悟った。

イチカが、オリビアを見て、自分の目を指さす。
目を指さしたのは、神殿で見たオリビアと目と側に居るオリビアの目の色が違う。目の色の確認を込めて指さした。その行動には、本当に偽物なのか確認する意味があった。

「やっぱり・・・」

大人たちが不自然だったのを思い出した。
そして、救い出して大丈夫だったのか考え始めた。

イチカは、オリビアを見ている。
オリビアも、意味が解るのだろう、イチカをまっすぐに見て頷いた。

大人たちの作戦を自分たちが壊してしまったのではないかと考えたのだが、オリビアの反応から大丈夫だと思って安堵の表情を浮かべる。

「イチカ?何?どういうこと?」

カイルだけが解っていない状況だ。

「カイル。落ち着いて聞いてね」

まずは、カイルを落ち着かせる。
いきなり、話しても信じない可能性が高い事を、イチカは経験から理解している。

「あぁ」

イチカの声のトーンから、理由は解らないが、慌てなくても大丈夫だと感じたカイルは大きく息を吸い込んでから、大きく吐き出す行動を繰り返してから、イチカに言葉を返した。

オリビア(偽物)は、二人から少しだけ距離を取るように場所を移動した。
神殿の領域でも、普段から使われている道ではないので、魔物が出る可能性がある為に、魔物が飛び出してきても対処ができる場所に移動したのだ。

「オリビア様も、メルリダもルカリダも無事よ」

カイルは、オリビア(偽物)を救い出した瞬間を思い出そうとしていた。

「え?だって・・・。ルカリダ姉ちゃんが刺されて、だからおいら・・・。慌てて、メルリダ姉ちゃんも・・・。血が・・・。血?え?え?なんで?血が流れて・・・。え?」

剣がルカリダを突きさしているのを見て動揺した。思い返してみれば、突きさされた場所から血が出ていなかった。馬車が破壊され、4人が殺された場所なので、血が出ていなかった。まったく無かったわけではないが、微量の血が出ているだけだ。血の臭いが充満していなかった。

「そう。方法は、多分、帰ったら教えてもらえると思うけど、誰も死んでいない」

イチカは、血に関しては気が付いていなかった。
でも、そういうことだろうと理解している。

イチカの言葉を肯定するように、オリビア(偽物)が頷いている。

「はい。オリビア様もメルリダ様もルカリダ様も、ルルカ様もアイシャ様もご無事です」

「貴方たちは、死んだりしないの?」

「あの程度では、死んだりしません。核が破壊されない限りは、大丈夫です」

「核の回収は?」

「マルス様の指示で、確保に別の者が向かっています」

「そう・・・。大丈夫なのね」

「はい。カイル様。イチカ様。私をお救い頂いて、ありがとうございます」

オリビア(偽物)は、カイルとイチカに深々と頭を下げる。
そこには、感謝の気持ちが含まれている。

イチカも感謝の気持ちを汲み取って、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて、サンドラやアーデルベルトに言われていたことを思い出した。

「いいのよ。はぁ・・・。これが、サンドラ様やアデー様が言っていたヤス様に騙されるな・・・。と、いう事ね。よくわかったわ」

「え?え?何?どういう事?」

カイルだけが、未だに解っていなくて、混乱のただなかに居る。

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