【第二十九章 鉱山】第二百九十一話

 

結婚騒動は、子供ができた場合でも、仕事に配慮すること、産まれた子供を安全に預かる場所を作ること、これらのことを、ルートガーに宣言をさせた事で、落ち着いた。

獣人族は”子供は皆で育てる”が染み付いているので、それに倣った形だ。

ルートガーは、最初は抵抗したのだが、クリスからの説得を受けて、最後には受け入れて、宣言を出すのに賛成した。ルートガーが反対していた理由も理解ができる。上流階級で産まれて教育を受けてきたルートガーには、獣人族のやり方が正しいと言われても納得ができないだろう。俺も、クリスも、獣人族が正しいとは思っていない。仕組みとして、子供を育てる環境を構築して欲しいだけだ。ルートガーが、他に、素晴らしい方法があるのなら、話を聞きたい。しかし、”誰でも”享受できる形での施策が出ない以上は、俺のやり方を押し通させてもらう。

「カズトさん?大丈夫ですか?」

シロが俺の横に座って、覗き込むように質問してきた。
最近、二人になると、以前の様に前に座るのではなく、横に座るようになってきた。誰も居ないと本当に甘えてくるようになってきた。

「ん?あぁルートガーに渡した施策の状況を確認していただけだ」

今日は、崖の上の屋敷で執務を行っている。
別荘になり始めているロックハンドに行っても良かったのだが、シロが屋敷で過ごしたいと、希望を言ってきたので、屋敷で過ごしている。

「先日の?」

「そうだ。ルートガーは、上からの統治には向いている。けど・・・」

「はい。その辺りは、クリスティーネ様に補佐をお願いするのが・・・」

シロも感じているのだろう。
確かに、ルートガーの補佐は、クリスにしかできない。でも、そのクリスも果たして”統治に向いているのか?”と聞かれたら疑問符がついてしまう。結局は、切り捨てる側に居た人間たちだ。切り捨てられる側の気持ちは解らない。俺の隣に居るシロも同じだが、シロはそもそも統治に向いていない。全員を救おうと考えてしまう。シロは為政者ではない。どこまでも、騎士なのだ。

「まぁなるようにしかならない」

「はい」

いつもの結論に達したところで、扉がノックされる。

今日は、誰かが訪ねて来る予定にはなっていない。シロが立ち上がって、ドアを開ける。

「旦那様。奥様。ファビアンと名乗る者が、旦那様を訪ねてきております」

ファビアン?
中央大陸のたしかゼーウ街にあったスラムの顔役だった男だ。

「ファビアン?」

「はい。中央大陸ゼーウ区のヨーゼフ様の書簡を持ってきています。他にも、リヒャルト様の紹介状をお持ちでした」

ヨーゼフとはしっかりと話が出来ているのだな。
中央大陸への足がかりだが、デ・ゼーウには安定して欲しい。ヨーゼフが書簡を持たせたのなら、ファビアンが自ら赴いたのではないだろう。リヒャルトまで絡んでいるのなら物資に何か問題が発生したか?

「まだ下に居るのだな?」

頷いているので、下で待機させているのだろう。下なら、監視も簡単だ。

「1人で来たのか?」

「はい。従者も護衛も連れてきていません」

リヒャルトの紹介状を持っているのなら、リヒャルトの商隊と一緒に来た可能性があるのか?

エルフ大陸から帰ってきて、やっと落ち着いたと思ったのに、今度は中央大陸か?

「シロは、待機していてくれ」

「・・・。はい」

一緒に行くつもりだったのだろうけど、中央大陸に行くのなら、シロは絡めたくはない。
いまだに、アトフィア教の奴らが幅を利かせている街が多い。中央大陸の前に、アトフィア教の奴らをどうにかしたくなってしまう。滅ぼしてしまおうか?でも、自分の正義を疑わない連中で、宗教というよりどころを持っているロマンティストは、テロになりやすい。それも最悪な・・・。自爆テロを、殉教だと本気で考えるような連中の相手はしたくない。内部から壊れてくれるのがいいのだが・・・。

「会おう。先に書状と紹介状を預かってきてくれ、そのうえで、屋敷の応接室に通せ」

「はい。グレードは?」

「3でいい。いや、2だ」

「かしこまりました」

頭を下げて、メイドのドリュアスが出ていく、グレードは、ドリュアスたちが困っていたので、作成した物だ。
グレード1がもっとも上級な対応で、ドリュアスが2名以上で相手を行う。飲み物も最上級な物を出すようにしている。部屋も、調度品から拘った部屋だ。グレード2は、部屋のグレードが下がるだけで、それ以外には、飲み物のグレードが下がるが、十分に上級な物を提供する。食べ物も出している。来客の状況次第では、風呂に誘導することもある。
グレード3-5は、徐々に部屋のグレードを下げる。対応する者も1名になる。
グレードAからは、敵対者への対応になり、エントの分体を配置する。威嚇することを目的とした対応だが、今まで使われたことはない。

どうやら、ドリュアスの報告からファビアンは風呂が必要な状況らしい。
下の家で、風呂に入れて・・・。身を清めてから、上に移動させることになったようだ。

着ている物も着替えさせるようだ。
そこまでしなくてもいいと思ったが、グレード2を指定したので、部屋の格調に合わせてもらうのだと説明された。

少しだけ時間が出来たので、俺も風呂に入ってから、応接室に移動する。
途中まで、シロが付いてきたが、部屋には入らないように、もう一度だけ伝える。

「カズトさん」

シロが縋るような声と表情で訴えるが、中央大陸の事には絡ませない。

「中央大陸で無ければ、シロに頼る」

「わかりました」

渋々だが従ってくれた。
シロが引いてくれたので、グレード2の応接室に足を踏み入れる。

ソファーには、恐縮した表情で座っていたファビアンが立ち上がって、俺に頭を下げる。

シロに、引いてくれと言ったが、ファビアンの用事は、中央大陸が絡む話だが、中央大陸に赴く必要はない。

「ツクモ様。本日は」

手を挙げてファビアンの口上を遮る。
別に、ご機嫌伺いに来たのではないだろう。

「早速で悪いが、本題に入ってくれ」

「はっ」

別に立ち上がる必要はない。
座ったままで問題はない。

ファビアンにもう一度だけ状況の説明を、座ってしてくれとお願いする。
ヨーゼフからの書簡に、詳しい内容はファビアンから伝えると書かれていた。

ファビアンは、まだ緊張が解けていないのか、口調が前に戻っていない。
別に気にする必要は無いのに・・・。もしかして、応対のグレードを上げたのは間違いだったか?

書簡の内容を思い出しながら、ファビアンの状況の説明を聞いた。

「そうか、それで、リヒャルトの紹介状に繋がるのだな」

「はい。ツクモ様には、デ・ゼーウ。ヨーゼフ様。ゼーウ街の未来の為にも・・・」

大げさな言い方をしているが、一部の者にはチャンスに見えているだろう。そして、一部の者には恐怖と思えているだろう。ファビアンは、恐怖の方が強いようだ。ヨーゼフは、チャンスと考えている。だから、リヒャルトを巻き込んで、ファビアンを使者として送り出したのだろう。

問題は、ヨーゼフでも、ファビアンでも、リヒャルトでも、ゼーウ街に住んでいる者たちではない。

「それで、ドワーフ族たちの言い分は?」

「それが、チアル大陸の鉱山に連れていけの一点張りで・・・。今は、ヨーゼフが引き止めていますが・・・」

中央大陸に居るドワーフ族が、鉱山を求めている?
ヨーゼフからの書簡は、ドワーフ族が鉱山を求めていると書かれている。鉱石ではなく、鉱山を?

採掘権が欲しいのか?
ファビアンも、ドワーフ族たちが求めているのが、解らない。

しかし、このままでは、ドワーフ族が・・・。中央大陸に住んでいるドワーフ族が、チアル大陸に移住を開始してしまう。移住と言っても、正規な手続きではない可能性がある。そのために、ヨーゼフはドワーフ族が密航などでチアル大陸に渡る事を危惧している。

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