【第五章 共和国】第三十話

 

アルトワのダンジョンを、ベルメルトに任せて、次の町まで移動した。
野盗の頭は、ダンジョンの肥やしになってもらうので、ベルメルトに預けてある。頑丈だし体力もあるので、いい肥しになるだろう。野盗のメンバーも同時に預けている。ダンジョンの中層に放置しておけば、”いい”実験ができそうだ。
元町人の犯罪者たちも、ダンジョンで働いてもらうことが決定している。命の灯火が燃え尽きるまで、ダンジョンから出る事は不可能だ。それが、俺から彼等に課した罰だ。この罰に文句があるのなら、神でも相手になる。
彼等は、俺から、大事な友を、部下を、家族を奪おうとした。利己的な理由で・・・。だ。許せない。そして、彼等は俺を殺すと言い切った。なら、自分たちが殺されても文句はないだろう。

アルトワ町に行っていたクォートとシャープが戻ってきた。
少しだけ打ち合わせを行ってから、隣町に向かって移動を開始した。

次の町が見えてきた。
しっかりとした塀が作られている。アルトワ町とは大違いだ。しかし、門番が居ないことや、町の周りが有れていることから、この町も期待ができない。

「マスター」

馬車の中でプログラムを作成していた俺に、クォートが声をかけてきた。
すでに、方針は決めている。皆にも説明を終えている。いくつかの状況が予測される物事にも、それぞれの対処を考えている。大きく外しても、俺たちなら何とか対処ができるだろう。

「予定通りにしてくれ」

「かしこまりました」

クォートとシャープで、野盗+元町長+元町民を、引き渡すことになっている。
元町長は、もう自分の無罪を訴えることができない状況になっている。町民たちも同じだ。野盗たちは、生き残った者の半分はダンジョンに連れていかれて、こちらには、従順になっている者たちだけを連れてきている。

町長の罪を無かったことにしたら、共和国も”その程度”だと考えて、新たな力を得るための”素材”と考える。

クォートとシャープが、町に向かう。馬車は使わないで、拘束した奴らを連れていく。

「カルラ。共和国内にあるダンジョンで、攻略されていないダンジョンは?」

共和国の収益は、半分以上がダンジョンに依存している。はずだ。
食料も、ダンジョンのドロップに頼っている町が存在している。だから、アルトワ町も農業だけではなく、産業が衰退していった。

「全部で、12。20階層程度のダンジョンばかりです」

低階層で終わっているダンジョンばかりだな。ドロップを得るのは、難しくは無いのだろう。
わざと攻略を行っていないと考えてよさそうだ。それとも、ウーレンフートの様に、最下層に”なぞかけ”があるのか?

「わかった。アル。共和国の対応次第では、ダンジョンの攻略を行う」

カルラを見てから、アルバンに宣言する。
共和国の連中が、”なあなあ”で終わらせるような対応を取るのなら、ダンジョンを攻略して、資源を減らす。交易品が減ってくれば、その時点でどうするのか考えても、衰退が始まっていたら手遅れだし、いち早く気が付いても、対処が難しい。俺たちをダンジョンから締め出すしか方法がない。でも、実際に交易品を絞るのは、準備が整ってからだ。

「うん!カルラ姉ちゃんも?」

「そうだな。クォートとシャープも一緒に行く。もちろん、エイダも連れていく」

「準備は?」

「食料も、ベルメルトが持ってきて、大量に補給できた。問題は、馬車とユニコーンとバイコーンだな」

準備は必要ないだろう。
武器を持っている。武器が傷んでも、修繕ができる状況だ。

「兄ちゃん」

「ん?」

「おっちゃん達に頼めない?」

アルバンの提案は一考する価値がある。

「それは、考えてみてもいいかもしれないな」

俺とアルバンの話を聞いて、エイダが割り込んできた。

『マスター』

「ん?」

『それならば、クォートたちと同タイプを呼び寄せれば良いのでは?彼らなら、眠る必要もありません』

そうだ。
アルトワダンジョンなら、繋がっている。
呼び寄せるのに不具合はない。

基礎は、クォートとシャープを作った時のエンジンを使って、職制別にカスタマイズを行えばいい。プログラムの基礎は出来上がっている。
疑似感情は、職制で切り出したデータから生成すればいいだろう。それほど、難しい事ではない。基本データの違いで、個性を出せばいいだけだ。姿かたちは、パラメータで振り分けを行えばいい。それらしく見せるのは、ウーレンフートで十分なデータが収集できている。

「わかった。エイダ。手配を頼む」

『はい。同じタイプと、ハンタータイプを準備します』

「任せる。全部で、5名か?」

『いえ、7名です。実験的に護衛対象2名と護衛5名のパーティーにします。そのまま、行商が可能な体制を整えます』

確かに、行商まで考えれば、7名+馬車で考えればいい。
俺たちが使っている馬車は、オーバースペックだから、ウーレンフートで用意できる物でいいだろう。

別に持ってくる必要はないな。
アルトワダンジョンでも、馬車は用意できる。馬の手配だけだが、ヒューマノイドタイプで用意すればいい。

「わかった。人選は任せる」

『了』

名前を考えないと・・・。

「エイダ。名前は、最初の者から、デイトナ/シカゴ/メンフィス/カイロ/ジョージア/ウィスター/ブラッコムだ」

パーティーを組ませるのなら、識別はナンバーリングでいいな。最初だから、デイトナ・アインスだ。ツヴァイ/ドライ/フィーア/フュンフ/ゼクス/ズィーベン・・・。と、増やしていけばいい。
この7人を1組として行動させる。情報を共有するように設定すればいい。

共和国の出方次第だけど、問題がなければ、そのまま通常の行商を行えばいい。

『了』

エイダが作成作業に入る。
パラメータを渡すことで、個性を出す。情報共有部分は、新しいモジュールを組み込む必要があるのだが、エイダと同じ仕組みが使えるだろう。エイダで使っているモジュールを派生させて、パラメータを増やそう。蓄積方法は、変更しなければならないから、エイダのモジュールにも少しだけ手を加える。基底クラスは変更の必要がない。プロパティに保存先のオブジェクトを渡す形になっている。だから、エイダモジュールのプロテクト部分をオーバーライドすればいい。
簡単なテストを行って・・・。問題はなさそうだ。
記憶という重要な部分だから、保存されないのは困る。モジュールと負荷を分散するために、保存場所のクラウド化は行っていない。遠隔でできるような作業ではない。
そうか、保存部分は、バッチ処理になっているのだから・・・。保存した物から、ウーレンフートにバックアップを作成する。保存先で、ミラーリングやバックアップを行えばいいのか?
細かい処理は、落ち着いてから考えるか?
同期を考えなければ、アインスだけなら問題にはならない。記憶の混在も防げている。

「エイダ!パーティーに持たせる連絡用のモジュールも用意する。テイマー職にして、動物型のヒューマノイドを用意しろ」

『了』

これで準備はいいかな?
ヒューマノイドの生成は・・・。生成にリソースを全振りして3時間くらいか?

ウーレンフートにも余裕が出来てきたのだな。

6時間後には合流が出来そうだ。

それまでには、クォートとシャープも戻ってくるだろう。

「カルラ。共和国は、食料の自給率は低いのだよな?」

「はい。商業で成り立っています」

「その商業も、ダンジョンからの採取が必要だよな?」

「はい。輸出品は、ダンジョンからの採取が殆どです」

「材料を仕入れて、製品を輸出は?」

「行っていません」

少し、クォートとシャープが戻って来るまで、共和国の現状を調べる必要が有りそうだな。

一般常識レベルの話なら、カルラに聞けば判るだろう。
大凡の方針を決めて、あとは状況を見て、調整を行えばいいかな?

共和国の全体というよりも、3つの大国と大商人たちへの対応を考えればいいか・・・。

アルトワダンジョンを結合して解ったのだが、処理速度を上げることができる。
俺の直接的な力にはならないが、魔法プログラムの効率を考えれば、ダンジョンの結合は必須だと思う。

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