【第五章 共和国】第十三話 休養

 

 ウーレンフートからの補給物資が届くまで、休養にあてる事にした。

「旦那様」

 カルラが部屋に入ってきて、頭を下げる。
 何か用事ができたのか?

 休養にあてるようには伝えてあるはずだ。

「どうした?」

 カルラは、書類を手に持っている。
 報告書なのだろうか?
 昨日の段階で、前回までの報告書と、クリスからの返答を貰った。問題になるような記述は無かった。近況報告のようになっていただけだ。皇太孫だけが、わがままを言っているようだが、そこはクリスに頑張ってもらおう。共和国に、皇太孫が身分を隠してでも来られるわけがない。”楽しそうだ”の一言で、来ようとしないで欲しい。それに、ダンジョンなら、ウーレンフートに潜ればいい。わざわざ、整備されていない、できたばかりのダンジョンを目指さないで欲しい。

「いくつかご質問と、ご許可を頂きたく思っております」

 カルラの話は、今後の話か?

「質問?許可?」

「はい。4-5日の間。お側を離れる許可を頂きたい」

 クリスへの新しい報告だろう。
 アルトワ町を補給基地化する考えをカルラに伝えてある。何か、問題になりそうな事案なら、クリスからストップが掛かるだろう。
 俺としても、方法は置いておくとして、補給基地は欲しい。アルトワ町が最高ではないが、最良の選択だと考えている。

「あぁいいよ。クリスへの報告?」

「はい。そこで、報告にあたって、いくつかご質問があります」

 報告に付随する質問なのだろう。
 確かに、報告を書いていたら、いろいろと疑問が湧いて出るだろう。後から、突っ込まれないように、カルラの質問にはしっかりと答えよう。カルラとクリスト俺の為に、しっかりと理解してもらったほうがいい。

「いいよ?何?」

「はい。まずは・・・」

 カルラの質問は、今後の活動について聞きたいことがあるようだ。
 目標は無いけど、いくつかのダンジョンの攻略を目標とした。わかりやすい方が、報告を読むクリスも納得するだろう。頻発している。小規模ダンジョンの攻略を視野に入れている。頻発している理由が解れば、最高だろうけど、そこまで行かなくても、行路の近くにあるダンジョンだけでも潰しておけば、物流が楽になるだろう。次いでに、山賊や盗賊たちの根城を潰しておきたい。”賊”たちは、俺たちが潰さなくても良いとは思うが、俺たちへの補給物資を運ぶ時に、安全に運べるようにしておきたい。

 カルラの質問に、簡単に答えた。

「旦那様。最後に、一つだけ・・・」

「ん?どうした?気にしなくていいよ」

 質問は、報告書を作成するために必要なのだから、遠慮しないで欲しい。
 報告書が中途半端になって、クリスから再質問が来る方が面倒だ。もう一人は、再質問ではなく、これ幸いと共和国に来る可能性すらある。だから、カルラには悪いけど、疑問点はすべて潰してほしい。主に、俺の平穏のために・・・。

「はい。ありがとうございます」

「旦那様は、この村・・・。あっアルトワ町を補給基地にする。お考えのようですが、方法はあるのでしょうか?」

 村って・・・。
 まぁ俺も注意していないと、”村”と呼んでしまう。人口だけなら、町には違いないけど、生活様式や雰囲気が”村”だ。

「ん?ウーレンフートからその為の物資を運んできているよね?」

「はい。しかし、一時的には、物資の蓄積はできるとは思いますが、この村の生産能力では、持ってきた補給物資が救援物資に変わって、村に吸収されてしまいます。特に、あの村長では・・・」

 カルラ。もう少しだけ繕うことをした方が・・・。村と呼んでいるし、村長と言っている。
 区分では、”町”で町長だ。

「解っている。物資を食い潰して終わりの可能性があるな」

 実際に、補給物資を持ってきたとしても、町長に懇願されたら提供するしかない。金銭での受け渡しになってしまう。補給物資が救援物資に変わるだけだが、補給基地にしようとしたら意味がない。
 それに、補給基地にしようとしたら、この町で補給物資を生産しなければ意味がない。
 ウーレンフートやライムバッハ領から輸送し続けるのでは、負担が大きすぎる。

 カルラも解っているのだろう。
 今の町長や町民では、自分たちが食べていくだけで精一杯だ。考えることを放棄している。効率化したり、作物を変えたり、他の町や都市と交渉したり、できることはまだあるはずなのに、緩やかな滅びを受け入れようとしている。

「それなら!」

 カルラが言いたいことは解る。解っているつもりだ。この町を占拠してしまうか、自分たちで拠点を作ってしまったほうが早いと言いたいのだろう。俺も、そう思っている。思っているけど、今回はもっと緩やかにやろうと思っている。

 最初は、村長。いや、町長に協力を求める。町長が形の上だけでも従ってくれるのなら、利益を分配してもいいと思っている。そのうえで、町長たちが協力してくれないのなら、無理矢理にでも協力してもらおうと考えている。

 クリスから来た連絡の中に面白い話が書かれていた。

「なぁカルラ。俺も知らなかったけど、共和国には興味深い”法”があるのを知っているか?」

 共和国は、簡単に言えば”多数決”で物事を決めてきた。

「え?興味深い?」

「あぁ形骸化されてしまっているけど、共和国の都市や街が村の長を決めるのは、”選挙”という方法を取る」

「??選挙?」

「そうだ。俺がこの町の長になることもできる。いろいろ条件は、あるが半年以上の居住実績と一回以上の納税を行えば、立候補できる」

 俺には馴染みがあるが、カルラには馴染みが無い。
 ウーレンフートのホームでは、合議制を取っているが、”選挙”で代表を決めるような方法ではない。貴族社会では、もっとも遠い所にある。合議制でも革新的だと思われているのに、選挙を理解しろと言われても無理だろう。

「しかし、それでは・・・。旦那様が長になるのは難しいのでは?町民は、現在の町長の味方ですよね?」

「そうだな。この方法は、比較的、民のことを考えているように見えるけど、落とし穴がある」

「落とし穴?」

「そうだ。数の暴力に対抗できない」

「え?」

「カルラ。この町の人口は?」

「おおよそ、80名です」

「子供を除けば、60名って所か?その中で、納税しているのは、50名って所かな?」

「しっかりと調べないと・・・」

「あぁいい。50名とする。全員が、町長の仲間だとして、俺が立候補したとしよう。50対1だ」

「はい」

「しかし、51名の仲間を連れて、この町に移住してきたらどうなる?」

「・・・」

「カルラ。51名を連れて来るのは無理だと思ったのだろう?」

「はい」

「忘れていないか?俺には、クォートとシャープがいる。納税さえすれば、それ以上は突っ込んでこない」

「あっ」

 この方法は、日本に居た時に、合法的に”村”を乗っ取る方法を考えた時に、悪友たちと考えた。動員できる人間が200名を越えていた悪友がいた。行政区分で、丁度いい場所が見つからなかったから、実行には至らなかった。しかし、状況が許せば実行していた可能性があった。

 カルラは、俺から聞いた内容をまとめて、報告書にするようだ。
 報告は、好きにしていいと伝えている。クリスに伝われば、何かを考える可能性があるが、俺が気にしてもしょうがない。

 カルラと入れ替わりに、アルバンが部屋に入ってきた。

「兄ちゃん。休みだよね?」

「あぁ」

「兄ちゃん。探索に行こう!」

「探索?」

「うん!待っているだけだから、訓練をしたい。でも、村の中では、カルラ姉ちゃんがダメだっていうから・・・」

 お前もか・・・。
 アルバンが”村”と言っているのは、しょうがないだろう。いい直しもしないし、悪いとも考えていないだろう。

「わかった。わかった」

「いいの!」

「俺も、見られても平気な魔法を作りたい。アルとの模擬戦もやろう。魔法の作成を手伝ってくれるか?」

「うん!もちろん!やったぁ!行こう!」

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