【第二十二章 結婚】第二百二十九話

 

シロと一緒に寝たり、シロと一緒に風呂に入ったり、シロと一緒に狩りを楽しんでいる方が、シロに結婚式の事がばれないとわかってからは、ルートから報告を受けるとき以外はシロと一緒に過ごす様にした。

すでに、チアル大陸に俺とシロの結婚が正式に発表されて、結婚式の日取りが告知された。

しかし、シロの耳には届いていないようで安心する。ただ、なにか周りが騒がしいと思ったのか、メイドドリュアスに聞いていた、メイドドリュアスが俺に内緒でシロに教えたのは”俺がシロの誕生日パーティーを企画している”と、いう事だ。しっかり、メイドドリュアスから報告が上がってきたのだが、もともとバレたときの為の方便なので問題はない。
気がついているのかもしれないが、俺と居るときには気がついている素振りを見せなさい。
それだけではなく、俺と一緒に居るのが嬉しいと全身を使って表現しているのだ。

今日は、フラビアとリカルダが来てシロの衣装合わせをしている。
もちろん、結婚式での衣装なのだが、それはシロには言っていない。最近の模擬戦や狩りで筋肉の付き方が変わってしまったので調整が必要になってしまったのだ。フラビアとリカルダにはブチブチ文句を言われたのだが気にしないことにしておく。シロには、誕生日のときに着るドレスだと説明したと二人からは説明を受けた。

2時間くらいはかかるという事なので、元老院から来ていた要請ヘルプに関して話を聞く事にした。

元老院に移動すると、ルートが出迎えてくれた。

「ルートか?」

「はい。他の人たちは調整に走っています」

「そうか?それで、なにか要請ヘルプがあると聞いのだけど?」

「そうでした。ツクモ様。なんとかしてください」

「は?ルート。いろいろ言いたい事はあるがまずは落ち着け。それから、何をなんとかして欲しいのか説明してくれ」

「そうでした・・・」

ルートが困っているのは、他の大陸から来ている連中のことのようだ。
別に来るなとか言うわけではない。多少マナーが悪かったり、この大陸の作法に沿っていない事があるだろうが、大きな問題にはならなかった。

護衛で来ている奴らがダンジョンに潜り始めてから問題がではじめた。

そもそも、護衛なので、ダンジョンに挑戦すること自体が間違っているのだが、期間が空いてしまったために、護衛の維持ができなくなってしまった者たちが発生し始めたのが始まりだった。元老院は、滞在費に上乗せしたスキルカードを渡して、護衛の維持を行うように頼んだようだが、この大陸に住んでいるものなら、俺や元老院が大量にスキルカードを持っているのは知っているし、ダンジョン産である事も認識していたのだが、他の大陸から来た者たちの中には知らない者も多かった。

その者たちが、自分もダンジョンに潜ればスキルカードを得られるのではないかと考えた。間違っては居ないのだが、それなりの実力が必要になる。もともと住んでいる者たちは、初心者ダンジョンから徐々になれていくのだが・・・。護衛で来た者たちやその上役たちは自分たちの実力を過大評価していた。
そのために、忠告を無視して中級ダンジョンや上級ダンジョンに挑む者たちが多いのだ。
通常の場合だと、初級ダンジョンのクリアがないと中級にアタックできないなどのルールが有るのだが、他の大陸から来た者たちは実力をはかる方法が存在しない。そのために、自己申告でダンジョンアタックを行わせた。ダンジョン内のルールに則っているので、俺たちがとやかく言うつもりはない。

ここまではさして問題になる事はなかったのだが・・・。

護衛の帰還率がこの大陸の者たちよりも明らかに悪くなってしまったのだ。
この大陸の者は、帰還率だけなら98%と高い。もともと実力に適した場所に潜っているので当然の結果だ。
しかし護衛の帰還率が当初は97%と高かったのだがより危険なダンジョンの方が儲かると考えた護衛達が忠告を無理をし始めてから一変した。帰還率が90%を下回ってしまっているのだ。このままでは、ジリ貧になってしまう上に帰りの護衛が足りなくなってしまう事も考えられる。
そのために、元老院や行政区に護衛を求めてきたりしているのだ。ひどい奴になると奴隷を売って欲しいと言ってくる者まで出てきている。
チアル大陸には奴隷が居ないと宣言しているのにも関わらず、奴隷を求めるのは俺たちのことを調べないで来た事に等しい。

それでよく結婚式に来たなと呆れるほどだ。

「それで?」

ルートの話を聞いた俺の感想は一言で表現できる。”自業自得”だ。

「なんとかできませんか?」

「そもそも、する必要があるのか?」

「え?」

「自業自得だろう?」

「はい。護衛や命令した者たちは、自業自得ですが、元老院や商業区の者たちが困っています」

「困っている?」

「はい。一応、客なので・・・」

「そういう事か、奴隷云々と言い出した奴らは、客じゃない。追い出せ」

「いいのですか?」

「なにか問題はあるか?」

「ツクモ様の評判が・・・」

「気にするな。そもそも、俺は別に評判なんて気にしない。大陸の悪口を言い出す奴らがいれば潰せばいいだろう?」

「え?それでよろしいのですか?」

「ルートは、なにか問題だと思うのか?」

「いろいろと・・・。第2第3のデ・ゼーウを産み出しても・・・」

「いいよ。そういう奴はほっといてもこの大陸や俺へのヘイトを高めるだろう?無視するか、来たら潰せばいい」

「わかりました。元老院や行政区に伝えます」

「あぁ他には?」

「・・・。いえ、特には・・・」

ルートがまだなにかありそうな雰囲気がある。
俺に判断を仰ぎたいというよりも、困ってしまっているという感じだな。

「ルート!」

「本当に、くだらない話なのですが・・・」

「いいよ。話せよ」

「はい・・・」

本当にくだらなかった。でも、無視するのは簡単だけど・・・。

「なぁルート。屋台で作る物で、チアル大陸なら簡単に手に入るけど、他の大陸だと手に入らない物を材料に使っている物のリストアップはできるか?」

「え?あっ・・・。ツクモ様・・・。それはいくらなんでも・・・」

さすがはルートだな。俺の意図がすぐにわかったようだ。

「いい考えだろう?」

「そうですね。商業区で検討します。レシピを公開していいのですよね?」

「問題ない。専売レシピになっている物の場合にはなにか補填を考えろよ」

「はい」

ルートの話はこの二点だったようで、すぐに手配するために部屋から出ていった。
残された俺はテーブルの上に乗っているコーヒーを飲み干してから、ホームに戻る事にした。

ルートが悩んでいたのは、これも結婚式が延期された為に出てきた問題だった。
他の大陸から来ていた者たちが、屋台の料理のレシピを求めたのだ。商業区の取り決めで、レシピは特定の条件を満たした者に公開していた。最初の条件が”チアル大陸に住む事”としているために、他の大陸から来た商隊にはすぐに公開できるようなものではない。
レシピの横流しも厳しく罰せられるために、チアル大陸でレシピを取得している者は、他にレシピを漏らすような事はない。

ホームに戻るとちょうどシロの採寸が終了していた。

「カズトさん!」
「シロ。終わったのか?」

フラビアとリカルダを見ると満足そうな表情をしているので、問題なく終わったのだろう。

「はい!」

「フラビア。リカルダ。お疲れ様」

「いえ。これで、準備は終わりになるのですが、ツクモ様。お願いですから、これ以上シロ様に余計な筋肉がつかないようにお願いします」

「わかった。わかった。訓練も、模擬戦も、狩りも、程々にしておくよ」

「お願いします(本当にお願いしますよ。いい加減ごまかすのが難しくなってきていますからね)」
「(わかっている。今、作ってもらっている物ができたら、シロに打ち明けるから、もう少しだけ待ってくれ)」
「(わかりました。でも、後3週間を切っていますからね。しっかりしてくださいね)」

小姑化している二人を送り出してから、シロを抱きしめる。
今日はシロがどんな採寸をしたのを教えてもらいながらイチャイチャした時間を過ごした。

問題は無いはずだ。
はなし疲れて寝てしまったシロの綺麗な髪の毛を触りながら、俺も目を閉じた。

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