【第二十七章 玩具】第二百七十六話

 

本当か?
原因を切り分けていくと、起因している状況が似てきている。

「カズトさん?」

俺がまとまった資料を見ていると、シロが飲み物を差し出してきた。
資料をまとめるのは、シロも手伝ってくれたから、内容は理解が出来ている。

「シロ。すまん。少しだけ驚いただけだ」

本格的な調査は、戻ってから行うとしても、取っ掛かり位はつかめればと思って、始めた作業だったが、想像以上に、人はどこに居ても人なのだと、納得させられてしまった。

「そうですね。余裕が出来て、できた余裕の為に、争って余裕が無くなる」

「そうだな。愚かだけど、しょうがないのかもしれないな。”隣の芝生は青く見える”らしいからな」

「え?」

「簡単にいうと、同じ物でも、近くにいる人が持っていると、なぜか相手が持っている物の方が”いい物”に見える現象だ」

「あぁ」

シロが何か納得した表情を見せる。
何か、心当たりがあるのだろう。

「シロ?」

「カズトさん?」

「いや、シロが何か、納得していたから・・・。何か、あるのかと思っただけだ」

「・・・」

シロが、耳まで赤くして、なぜか恥ずかしそうにする。これ以上は、突っ込まないほうがよさそうだ。

「シロ。何か、解決策があるか?」

「え?あっ・・・。そうですね。余裕を無くしてしまうのは、本末転倒なので・・・」

「そうだな」

まったく同じ物を持つのでは意味がない。
全く同じではなく、自分が持っている物が一番だと感じなければ、衝動が押さえられない。

ペットなどは、衝動を押さえるには役立つが、どこにでも愚か者が存在する。その愚か者が、”金額”でペットを選んで、自慢する。その結果・・・。

「やっぱり、娯楽か・・・」

「娯楽ですか?」

不思議そうな表情で俺を見るけど、娯楽が少ないから、できた余裕をもてあます。
持て余した余裕が吐き出されるのが、家具だったり、食器だったり、服だったり、日々の些細な物になる。高級品も確かに作られているが、それは一部の者が独占している状態だ。
そして、既製品という概念を持ち込んでいない状況では、家具にしろ、食器にしろ、服にしろ、まったく一緒の物は皆無だ。そのために、他人と比べてしまって、優劣を考えてしまう。
優劣を考えるだけなら問題にはならないが、それが嫉妬に変わった時点から問題に発展してしまう。
矛先が、優劣を競っている者に向くのならまだいいのだが、作った者や売った者に向かい始めるのが問題だ。

買い手と売り手は、平等であるべきなのに、関係が崩れてしまう。
”お客様神様”という考えは嫌いだ。増長した客は、迷惑にしかならない。

「そうだな。例えば、武術大会には、”武”に心得がある者だけが出場・・・。しないだろう?」

「はい」

「武術大会は、見て楽しめる可能性はあるから、娯楽としての武術大会は必要だ。だけど結局は、中央だけになってしまう」

「そうですね」

「個人が・・・。そうか、表現できるような物があればいいのか・・・」

「表現?絵とかですか?」

「絵だけじゃなくて、玩具を作って、玩具の腕前とか、いろいろ競い合える物が有れば、隣の芝生の状態は気にならないだろう?」

ヨーヨーやけん玉でもいい。
簡単に作られる物なら、職人の練習にもなるだろう。素材を高級品にしても、腕がなければ、意味がない。収集癖を持つ者は、収集すればいい。

産まれた余裕を、娯楽で埋める。

「でも・・・」

「わかっている。結局は、同じ事になってしまうのだろうけど、やらないよりはやったほうがいいだろう」

娯楽の提供にも限界がある。
それこそ、偶像アイドルでもプロデュースしないとダメかもしれないが、自然発生するまで待った方がいいだろう。
大会を繰り返していけば、自然と人気が集中する者が出てくるだろう。

「いえ・・・。カズトさんが、忙しく・・・。僕では、何も手伝えない・・・」

「あぁ玩具は作るけど、大会はルートと長老衆に任せる丸投げ

「あっ(また、ルートガー殿?大丈夫かな?)」

「どうした?」

シロが遠い目をしているけど、何かを考えているようだ。

「ルートガー殿に仕事が集中すると思って、クリスティーネ殿が・・・」

「大丈夫だろう。クリスの従者たちも育っている。作業の分担を行う者たちもいる」

「そうですが・・・」

「それに、ルートは解っている」

「解っている?」

「責任は、俺に帰着する。だから、問題が発生した時には、俺が出ていくしかない」

「え?」

「ん?ルートは、その自分の首を差し出せばいいと言ってきたけど、責任を取るのは俺の役目で、作業をするのがルートの仕事だ。それに、長老衆もいる。長老衆が、好き勝手にやっているのは、何かの失策があった時に、責任を取るためだ。組織は、上が責任を取るために存在する」

「そうなのですか?」

「俺は、そう考えている。上が責任を取らない組織は腐っていく」

「・・・。そうですね」

「だから、大丈夫だ。ルートは、しっかりと認識しているよ」

「そうですね」

シロが資料に目を落すのを見て、俺は”何を”作るのか考え始める。
自重する必要はない。問題を先送りしてきた部分を含めて・・・。対処を行う必要がある。

ヨーヨーは、芯が難しそうだな。
けん玉は大丈夫だろう。技は覚えている限り書き出せばいいだろう。

定番物は当然として、個人的に好きだったゲームも作るか・・・。
バックギャモンは作ろう。カジノは中央で、商人たちに仕切らせるか?

ダイスを作って、クラップスとかかな?
トランプゲームは、ギャンブルで行うのには、紙質が今の状態ではダメだろう。最低でも見分けができるようになるのに、使い捨てにできるくらいの量産が出来なければ、ギャンブルとしては成り立たない。トランプは無理だけど、パイゴウなら可能か?ツーアップとか簡単でいいけど、商人が仕切るようなカジノ向きではない。ルーレットは作ってもいいだろうけど、どこまで厳密にするのかが問題になりそうだ。

つらつらメモを作成している。
シロは、資料を読むのに飽きてしまったようだ。俺が書いたメモに質問をしてくるようになると、玩具の説明をする。シロとしては、子供向けの玩具があるとよいと考えていたようなので、本当の意味での玩具も考える。

シロに説明をしながら、玩具をメモしていく、馬車での移動だが苦にならなかった。
新婚旅行らしくはなかったが、SAやPAの視察を兼ねていると言っても、二人だけで過ごす時間が持てた。

最後の野営地を出れば、明日の昼には中央に到着する。

時間をかけた帰り道だったが、良かったと思う。
いろいろ見えなかった事が見えてきた。先ぶれとして、向かわせていたモデストが戻ってきた。俺の帰還は、大げさにしないようにだけは厳命した。もし、大げさに、派手にしたら、ルートとクリスの結婚式を”ド派手”にしてやり直すと伝えた。

「それで?」

「はい。ルートガー様は、嫌そうな顔をしながらもご納得していました」

「そうか、そうか、それはよかった。クリスは?」

「笑っておいででした」

「そりゃぁよかった」

「カズトさん?」

「あぁシロはモデストに頼むときにはいなかったな」

「はい」

「少し、ルートとクリスに頼み事をしただけだ」

「頼み事ですか?」

「そう、だから、断ってもいいけど、断ったら」

「断ったら?」

シロの復唱が可愛い。

「ルートとクリスの子供の名付けを俺が行うと伝えただけだ」

「それで、お二人の返答は?」

「快く、俺の頼み事を承諾してくれたよ」

「それで、僕にも関係するのですか?さっきから、モデストがニヤニヤしているので・・・。気になってしまって」

「モデスト」「すみません。奥様。簡単な頼み事で、ルートガー様とクリスティーネ様で揃って、奥様を含めたお二人での食事を頼んだのです」

「え?僕も?」

「はい」

「モデスト。シロにも秘密だと言わなかったか?」

「言われておりません」

モデストは、悪びれることなく、シロに教えやがった。
口止めは、軽いレベルで、シロに知られないようにとだけ伝えていた。確かに、秘密だとは言っていない。言っていないが・・・。

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