【第二章 スライム街へ】第二十一話 想定外

 

 ゴブリンの上位種や色違いを討伐した。

”ライ。慎重に対処して”

『はい』

 ライから、皆に向けての指示が飛ぶ。
 キャンプができる場所の殆どを解放できた。川?湖に隣接部分は、すでに魔物は掃討できている。

”ライ。こちらの被害は?”

 見た感じでは、被害は無いと思っている。
 大けがを追えば、ライがすぐに知らせてくれる。撤退を考えなければならない。

 気分が悪いだけで戦っている状況だ。無理をする必要はない。

『ナップが、人が放つ光で目をやられましたが、復活しています。アイズが、ゴブリンの色違いの攻撃を受けましたが、負傷は軽微。後方に下がらせました』

 色違いは強いけど・・・。
 投光器からの光をナップやダークが見てしまうと、目が潰れてしまうだろう。私だって、スライムになっていなかったら、あの光は強力だ。失明してしまうかもしれない。
 バッテリーを狙うにも、発電機を使っているし、意味がなさそうだ。それだけではなく、人と敵対する必要はない。私たちの邪魔をしなければ、参戦してくれてもいいと思っている。自己責任になってしまうから、できれば結界の中に入って欲しくない。
 自衛官や警官が弱いとは思わないけど、人が混じった乱戦になると、味方と敵の識別が難しい。私たちなら大丈夫だけど、自衛官や警官が持つ力を私の家族に振るわれたら、私は家族を守るために、人に牙を向ける。可能性ではない。確実に、牙を、爪を、力を、人に向けてしまう。

”ほかは?”

『大丈夫です。魔石が多くて、移送に時間がかかっています』

”それは・・・”

 魔石が多くなるほどの魔物が居たの?
 確かに、多いとは思ったけど、それにしては手ごたえが無かった。スキルで簡単に討伐ができてしまった。

 弱い。
 私の率直な感想だ。

 犠牲を出したくないから、弱いのなら問題はない。問題は、なんで弱いのか?人も殺されている状況だ。強い個体がいると想定していた。

 何か理由があるの?
 連携もしているし、意識がないから、連携すれば対応はできるだろうとは思っていたけど、想定以上に弱い。

 弱いと言っても、数はいる。魔物から取れる、魔石も大量に確保されている。
 魔石を放置するのは、経験から避けた方がいい。使い道も解ってきたから、全部を持って帰ろう。

『大丈夫です。現地で確保した者たちに協力を頼んでいます』

 現地?
 鳥系の動物はそれほど多くなかったと思ったけど・・・。ライが大丈夫と言うのなら大丈夫なのだろう。

”安全?”

『はい。こちらに協力したいと申し出ています』

”わかった。他には?”

『ピコンとテネシーから、消えなかった魔物の処置を聞かれました』

”必要?”

 魔物は、素材になるけど、必要としていない。魔石は、使い道があるから、回収を考えていたけど、消えなかった魔物は必要としていない。特に、ゴブリンは食べられない。正確には、私やライなら溶かして、吸収ができるけど・・・。判明しているメリットが少ない。ライが吸収を実行した時には、バッドステータスが付与してしまった。あとで、解ったことだけど、バッドステータスを繰り返していると耐性が取得できたり、無効系のスキルが取得できたり、魔物が持っているスキルが取得できる。
 ゴブリンから得られるバッドステータス程度の物なら取得しなくても、無効にできる。ライが、アイテムボックスを取得できないか、試しているが、まだ取得ができていない。

『一部は、素材になるかと思いますが、ゴブリン程度は必要ない。です。上位種や色違いを数体だけ確保すれば十分です』

 ライも同じ見解だ。上位種や色違いは、まだ解らないことが多い。吸収を行って、発生する状況を調べておきたい。
 あと、死後でも鑑定が使える。詳しく調べれば、何かわかるかもしれない。

 消えない魔物が、上位種や色違いに多いのも気になっている。

”ライの判断に任せる。あっ獣から魔物になってしまった者たちは確保して”

 動物は、確保して近くに、墓地を作成したい。
 私のわがままで、偽善かもしれないけど、動物は被害者だ。魔物に侵されてしまった。

『はい。すべて、送るようにします』

 うん。
 ライに任せておけば大丈夫だろう。
 今の所、大物は犬や猫だけだから、テネシーたちと、ピコンたちで対応ができるだろう。
 難しくなったら、ライの分体に私が移動して、アイテムボックスを使ってもいい。

”お願い”

『はい!』

 人が騒ぎ始めている。
 想定の範囲内だけど、投光器があんなにあるとは想定外だ。

『マスター。結界に攻撃が開始されました』

”わかった。どこ?”

『オーガの近くに居た人です』

”はぁ?なんで?”

『どうしますか?』

”ダークを向かわせられる?”

『可能です。ダークだけでは、殺してしまいます』

”あっそうね。ナップと一緒なら?”

『それなら、拘束は可能ですが、ナップの存在を知られてしまいます』

”うーん。結界は、まだ持ちそう?”

『今程度の攻撃なら、突破される可能性は、”ゼロ”です』

”それなら放置で!一応、周りに、魔物が居ないことを確認して!”

『はい。そちらは、ダークを向かわせます』

”魔物を見つけても、攻撃はしないように!結界の外側は、無視するように!”

『はい』

 想定していたよりも、人の動きが激しい。
 マスコミだろう?

 前半戦が終わって、中盤戦に移行する前に、序盤の後始末をしておかないと・・・。

”キングとクイーンは大丈夫?テネシーとクーラーを向かわせる?”

『大丈夫です。牽制だけですが、オーガたちの動きは、想定以上に緩慢です』

 牽制だけでも、オーガの力だと、一撃でも当たってしまうと、ダメージが入る。キングとクイーンなら、一撃でやられる心配は無いが、それでも余裕は無いはずだ。動きが、緩慢なのはよかった。何が影響しているのかわからない。理由が解れば、戦い方も変わってくるし、今後にも活かせる。

”わかった、無理はしていないよね?”

 私のお願いだと、無理をしてでも叶えようとしてしまう。何度も、諫めてきたが、命令してでも辞めさせる必要がある。

『大丈夫です。倒すのは無理ですが、逃げるだけなら、容易い状況です』

 オーガの単体なら問題はないとは思っていた。
 複数体が確認できて、上位種や色違いまでいる。オーガの上位種とは対峙したことがあるが、強かった。色違いは初めてだが、上位種よりも強いと予測されている。簡単に勝てるとは思っていない。

”了解。ライ。魔物。弱い?”

 変に日本語になったが、意味が通じればいい。
 天子湖の魔物に抱いていた違和感の正体だ。
 魔物が弱いように感じる。裏山で最初に見つけたオークは強かった。怖かった。天子湖に群れを作っている者たちは、強いのだろうけど、怖さはない。私たちが強くなっているのかもしれない。犬の群れが魔物になってしまった時の方が怖かった。

『魔物は想定よりも弱いと思います』

 ライたちと話をして、想定していたのは、犬の魔物の集団や、オークの上位種や色違いを考えていた。個々では強いのかもしれないけど、拙い連携が悪い方向に作用して、個々の強さが出ていない。邪魔しあって、弱く感じてしまっている。

”そうだよね?何か、理由が考えられる?”

『わかりません』

”魔石の大きさは?”

『変わりありません』

 魔石の大きさが、魔物の強さを測るバロメータになっているのは、間違いではない。倒してきた魔物で、確認をしている。ゴブリンから得られる魔石よりも、ゴブリンの上位種の方が大きい。ゴブリンの上位種よりも、色違いの方が大きい。

 想定外なことが有ったけど、概ね考えていた作戦はうまく機能した。
 この前まで、女子高校生だった私が考えた穴だらけな作戦でも、皆が協力してくれて・・・。

 結界も、銃火器を使われない限りは、大丈夫そうだ。
 自衛隊や警官が攻撃し続けても壊れていない。マスコミの人たちがどんな攻撃をしているのか解らないけど、破られていない。

 結界の情報は、副次的な物だけど、私たちの安全が確保される重要な情報だ。
 この作戦で、家にあった魔石を使い切ってしまっているけど、補充もできている。

 さて、中盤戦に行ってみよう。

”皆!行くよ!準備して!”

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