【第二章 ギルドと魔王】第二十一話 【ギルド】ボイド

 

 私たちは間違ったのだろうか?私たちは、間違っていない。笑顔で、遊ぶ子供たち。猫人族の少女と、エルフ族の男の子が、人族の女性と手を繋いで、買い物をしている。こんな風景は、この場所を除けば、もう一つしか知らない。

 帝国も、この城塞町も、私たちのギルドも、発展している。間違いなく、いい方向に進んでいる。

 城塞町は、魔王ルブランが設定した領域から出ないようにしている。名前が示すように、城塞で守られている。それでも、地方都市以上の人が生活している。私たちが夢見た。種族に捕らわれずに生活できる場所だ。獣人族と人族が朝の挨拶をして、ドワーフ族が酒樽を抱えている場所を、エルフ族が挨拶をしながら通り抜ける。
 私たちが叶えようとして、遠く届かないと思っていた場所が、目の前に広がっている。

 ノックされる音で、思考を現実に戻して、執務している椅子に座りなおす。

「お待ちしていました」

 ドアの前にいる人物は、約束していた人物だ。ドアが開けられて、一人の男性が部屋に入ってくる。従者も護衛も連れてきていない。

「急にすまない。ボイド殿」

 部屋に入ってきて、ソファーに腰を降ろすのは、この城塞町の領主である。ティモン殿だ。魔王ルブランからも了承を貰っている。この特殊な土地をまとめているのが、ソファーに座る男だ。
 先ぶれでは、魔王ルブランの動向を聞きたいと言っていた。主に新しく作られた”ハウス”なる建物のことだろう。

「いえ、ティモン殿」

 控えていた者に、飲み物と摘まめる食べ物を頼んで、ティモン殿の前に移動する。

 私とティモン殿とメルヒオールの、3人は同格だと考えている。対外的には、ティモン殿は領主だ。私は、新生ギルドのギルドマスターの役割を持っている。メルヒオールは、私とティモン殿の間の調整役と、各地にあるギルドとの連絡係だ。

「早速で悪いが、”ハウス”に関して・・・」

 出された飲み物を手に取る前に、ティモン殿は直球で踏み込んでくる。

「はい。カプレカ島のギルドを通して、魔王ルブランに、問い合わせました」

「は?まぁいい。それで?」

 何を言いたいのか解る。
 解るけど、確実な情報を得ようと思ったら、カプレカ島で問い合わせるのが一番だ。ダメなら、その時点で改めて考えればいい。それに、魔王サイドが本気で隠そうと思ったら、どうやっても調べるのは不可能だ。それは、ティモン殿も”いや”ってほどに理解しているのだろう。
 苦虫をまとめて噛みつぶしたような表情をしている。帝国が、魔王ルブランの動向を知りたくて、密偵を魔王サイドに潜り込ませようとしているのは知っている。そして、悉く送り返されている。殺されるような事がないから、帝国の上層部は軽く考えているが。密偵に悟られないように捕えて、王都の中に縛り付けて送り届けるのが、どれほど非常識な行為か考えた方がいい。

「どうやら、連合国に対する”いやがらせ”のようです」

 大きく息を吐き出してから、カプレカ島から告げられた、非常識な理由を告げる。

「いやがらせ?ふふふ。城塞町に来てから、私の常識が崩れる日々だ」

 ティモン殿の、唖然とする表情が今回も見られた。
 同じ表情を私も、部下からの報告を聞いた時に見せてしまったようだが・・・。

「それは、私も同じです。それで、”いやがらせ”の真意ですが・・・」

 私たちが、カプレカ島のギルド経由で聞いた話を、ティモン殿に伝える。
 魔王ルブランも配下の方々も、元奴隷たちも情報を隠していない。それどころか、”ハウス”の情報は率先して流している雰囲気さえある。

「なるほど・・・。城壁を確実に越えるためには、4つの”ハウス”を規定の時間内に攻略する必要があるのですね」

「そうです。ちなみに、ハウスを物理的に破壊してしまうと、最悪は近隣の連合国に属する国まで被害が及ぶ”炎”が出現するようです」

「は?」

「最初、連合国はハウスに攻撃を行って、4000人程度の部隊が全滅しました」

「4000?それは、魔王ルブランからの情報なのか?」

「いえ、ギルドに潜り込ませている者からの報告です。多少の誇張があるとは思いますが、2-3000を一気に殺せる規模の攻撃が行われたのは、間違いはないでしょう」

「そうか・・・。それで?」

「ハウスは、難易度はいろいろです」

「難易度の設定は、ギルドが?」

「・・・。いえ、魔王ルブランたちです」

「は?」

 その気持ちはよくわかる。
 私も、信頼できる部下からの報告でなければ、頭がおかしくなったかと思う所だ。

「ティモン殿。難易度は、魔王ルブランたちが、設定しています。今のところ、難易度に嘘はないようです。それだけではなく、ヒントや説明が存在している場合もあります」

「ちょっと待て、魔王ルブランは、何が望みなのだ?ハウスは、罠や魔物が徘徊しているのだろう?簡単に言えば、ダンジョンだな?魔王城を守るために、ハウスを作ったのではないのか?」

「いえ、だから、先ほども言った通りに、”いやがらせ”なのです」

「・・・。それは、わかった。しかし、魔王ルブランが得るメリットが無いのではないのか?」

「・・・。ティモン殿。これは、魔王ルブラン経由ではなく、連合国に潜り込ませた者からの情報です」

「わかった」

「魔王たちは、ダンジョンで人を倒す事で、成長すると思われています」

「そうだな」

「間違いでは無いのですが、どうやら”倒す”必要はないようなのです」

「どういうことだ?」

「連合国の序列一位は?」

「エルプレだ」

「はい。そのエルプレに、ギルドの本部があります。そして、ギルド本部の建物には、ダンジョンが存在しています」

「・・・」

 ティモン殿も知っている情報だが、肯定は、身の破滅に繋がってしまう。認められない情報だ。

「魔王は、ダンジョンに人がいるだけで、成長ができます。倒す必要がないのです。倒すよりも、成長は遅いのですが、それでも確実に成長ができる方法が、ダンジョンに人を誘いこんで逃げられない状況を作ることです」

「・・・。そうか、それで、連合国は・・・。特に、エルプレは奴隷制度の廃止には、反対の立場を・・・。そうか、魔王ルブランが得るメリットは、ハウスを攻略させることではなく、ハウスの中で人を留めることか?」

「はい。連日、ハウスには連合国だけではなく、近隣諸国から挑戦者がアタックしています。ハウスがある場所は、連合国の領地ではないので・・・」

「なぜだ?」

「攻略者には、難易度に寄って、報酬が渡されるからです。攻略できなくても、階層を突破したり、魔物を倒したり、得られる物が多い状況なのです」

「・・・。魔王ルブランは、悪魔か?」

「そうですね。これで連合国は、魔王ルブランの魔王城を、強引に攻め込む手札を失いました。自国民だけならよかったのですが、他国の人間まで居るので・・・。強硬手段が取れません」

「なぜ、そんなことになっている?」

「スキルのスクロールが出現します」

「なに?しかし・・・」

「はい。魔王ルブランのいやらしい所で、出るスクロールは、”回復”や”解呪”や”清潔”や”解毒”や”異常状態回復”です。それも、かなり、簡単に手に入るようです」

 攻撃に必要なスクロールは極々まれに出現しているだけだ。

「おいおい。魔王ルブランは、神聖国に喧嘩を売るのか?」

「どうでしょう。でも、神聖国が黙っている。とは、思えません」

「そうだな。それにしても・・・。ふふふ。面白いな」

「えぇそうですね。あっそれから、城塞町は、魔王ルブランの手下だと思われていて、近日中に皇国から侵攻を受ける可能性があります」

「皇国?なぜ?」

「さぁ・・・。皇国としては、この町の存在は問題なのでは?他種族が平等に過ごしているなど、人族主義者たちに取っては、悪夢でしょう。それに、後ろにいる、ハイエルフどもにも悪夢に見えるでしょう。エルフ族が、他の種族・・・。特に、獣人とドワーフと同列に扱われているのですからね」

「それは・・・。考えても仕方がないな。城塞町は、帝国の領土だ。侵略するにも手順がある。準備だけは進めておこう」

「そうですね。魔王ルブランにも連絡を入れておきます」

「頼む・・・。ボイド殿?」

「なんでしょうか?ティモン殿?」

「この飲み物・・・。旨いな」

「ハハハ。わかりました。メア殿に連絡をして、領主の館に届けさせます」

 メア殿の名前を聞いて、ティモン殿が大きく生きを吐き出した。あの少女は、多分だがメルヒオールよりも強い。帝国で勝てる者がいるとは思えない。その少女が、魔王ルブランに絶対の忠誠を誓っている。魔王ルブランの為ならば、命すらも惜しくない。そんな雰囲気がある。そんな者が、1000人の規模で存在している。どこの国も勝てるとは思えない。

 ティモン殿は、うなだれてから、一言”頼む”と言ってから、飲み干してからソファーから立ち上がった。

 また忙しくなりそうだ。

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