【第二章 ギルドと魔王】第十九話 新しい施設

 

 会談が終わって、セバスが帰ってきた。
 内容は、聞いていたので把握している。しかし、セバスからの報告を聞くのも、俺の役割だろう。

「マスター」

「いいよ。入ってきて」

「はい」

 セバスが入ってくる。
 ミアとヒアも付いてくるのかと思ったけど、どうやらセバスだけのようだ。

 入口で二人に指示を出して、下がらせた。

「マスター。ギルドとの会談を行いました」

「聞いていたから大丈夫。それで、セバスはどうしたらいいと思う?」

「城塞村に本部を作ったギルドは、現状でよいと思います」

「そうだな。問題は、連合国のギルドか?」

「そちらも、現状では問題ではないと分析をしています」

「どういうこと?」

「鹵獲した武器や兵站を調査いたしました。そして、マスターから頂いた資料と突合させた所、技術は産業革命以前程度ではないかと判断しました」

「え?」

「武器の質は、確かに帝国よりも良い物を使っていますが、我らの使う盾を貫けません」

「盾?俺、盾なんて大量に出していないぞ?誰に渡した盾だ?」

「マスターから頂いた書籍に、武器や盾の制作に関する情報があり、カプレカ島で制作を行いました」

「ほぉ・・・。そうか、質の差は歴然というのだな?」

「はい。マスターから頂いた武器では、剣で剣を切り裂けました」

「おかしな表現だが、現象はわかった。それなら、連合国のギルドは無視でよさそうだな」

「はい。しかし、彼らは数だけはいるようです」

「数?」

「はい。まだ、情報としての精査が終わっていませんが、人口だけなら、帝国の3-4倍です。兵数は、傭兵を使う国もありますが、2-3倍程度は存在しています。そして、帝国と違い連合国内での争いは禁じています」

「それは、帝国のように貴族同士の争いがないというのか?」

「建前は・・・。です。争いが発生しても、エルプレ国が調停役として、判断を下します」

「文句が・・・。そうか、ギルドからの資源としてスキルを提供するのか?」

「はい。どうやら、それだけではなく、ダンジョン産の物資も優先的に回しているようです」

「そうか、魔王とギルドと国が連携しているのだな」

「はい。おそらくは、協力関係にあると考えます」

「セバスたちの予想では、”また攻め込んでくる”のだろう?」

「はい。ギルドから提供された情報からも、連合国を支配している魔王は、好戦的だと判断しました」

 好戦的?
 穏やかに過ごせるのなら、それが一番だとおもうのだけど・・・。自分から攻めていく意味がわからない。守って、守り切れないのなら、攻められない方法を考えた方が建設的だと思うのだけど・・・。
 他の魔王・・・。あぁそうか・・・。

 端末を起動する。

「マスター?」

「少しだけ確認したいことがある」

「はい」

 セバスが、立ち上がった。
 俺が飲んでいた紅茶を片づけて、新しい飲み物を用意してくれるようだ。

 端末の中で気になる記述があったのを思い出した。
 モノリスの中に、他の魔王に関する記述があったはずだ。

 やっぱり。記憶違いではなかった。
 連合国のギルドを仕切っている魔王が狙っているのは・・・。

 面倒だな。

「マスター?」

「ギルドの裏にいる魔王の狙いがわかった」

「?」

「魔王は、他の魔王を討伐したら、討伐された魔王が使ったポイントが反映される。すべてでは無い・・・。しかし・・・」

 ポイントを持っている魔王が、他の魔王を狙うリスクは、当然のように存在している。
 そのくらいのことが解らないのか?それとも、自分は連合国とギルドに守られているから、大丈夫だと思っているのか?

 もし、大丈夫だと思っているのだとしても、組織がうまく回っているとは思えない。
 城塞村にできたギルドから得られた情報だけだが、周りの国だけではなく、いろいろな組織から”恨み”を買っている。それだけではなく、周辺国との軋轢も産まれている。

 どこまで、領地を広げているのかわからないけど、現状でもかなりのポイントが得られているのではないのか?
 連合国だけでも、俺が抱えている人数よりも多い。

「ありがとうございます。マスター以外の魔王は敵だと認識しました」

「あぁこちらから手を出す必要はない」

「・・・。はい」

「セバス。言っておくぞ、魔王を討伐しないようにしろ、降伏させるくらいならいいが、殺すのは許さない」

 飼い殺しにできれば、ポイント的にもおいしいかもしれないけど、メリットが少ない・・・。いや、メリットが無いと言ってもいいかもしれない。魔王を奪われたギルドがどうするのか?
 どう考えても、連合国の・・・。あぁエルプレ国は、魔王と互助の関係になっている。
 武器や防具だけではなく、スキルも融通してもらっているのだろう。その提供が”止まる”彼らにとっては致命傷になる。俺も、別に戦乱の世を作り出したいわけではない。できるだけ、平穏に安全に過ごしたいだけだ。

「それは・・・」

「セバス。魔王は、討伐されると、新しい魔王が産まれる」

「はい」

「どういう理屈か解らないが、時代が進む印象がある」

「??」

「セバスたちは、歴史書を読んだな?」

「はい」

「セバスの報告で考えると、連合国を支配している魔王の時代は、俺がいた時代基準で考えると、1000年くらい前になる」

 セバスも考えているようだが、1000年も1100年も大きくは違わない。おおよそで考えれば十分だ。
 1000年の違いは大きい。主に、技術の分野では大きな違いがある。

「魔王が討伐されると、時代が進む」

「確実なのですか?」

「わからない。しかし、先代たちの情報から、ほぼ間違いではないと考えている」

「わかりました。皆と共有してよろしいですか?」

「四天王と、各種族のトップまでは許そう。今後、魔王との戦争になる時に、開示するようにしろ」

「かしこまりました」

 手で、話が終わったと合図をすると、セバスが少しだけ寂しそうな表情をしてから、頭を下げて部屋を出ていく。
 甘い顔をすると、いつまでも部屋に残ろうとする。それだけではなく、風呂の世話だけではなく、トイレの世話までしようとする。心を鬼に、部屋から追い出す。別に、世話をしたければさせてやるが、セバスの意図が解らないから困惑している。
 こんな子供に抱かれたいのか?今度、聞いてみるか?いや、俺の勘違いだと、恥ずかしい。セバスの尊厳を無視したセクハラ発言になってしまう。

 さて、愚かな考えは頭から追い出そう。
 連合国とギルドの関係は解った。やつらの裏の狙いはなんとなく想像できた。表の狙いは、捕えた者たちから聞きだしている最中だ。拷問に関する情報が役立つとは思わなかった。

 地図を見ると、最終防衛ラインにした場所も領域に組み込めるようになっている。最終防衛を行った草原が俺の領域に指定できる。
 ポイントも残っているから、領域にしてしまおう。領域を広げるだけでは、防衛の役には立たない。

 どうしようかな?
 何か、俺が考えなくても済むような物で、楽しそうなこととかないかな?
 魔王城の1階とか見ていても楽しくない。

 そうだ!

 今の壁の前に内側の壁よりも高い壁を設置する。
 壁には、門を作る。門の前に、4つの屋敷を作成する。

 うん。面白い。
 4つの屋敷は、四天王に任せよう。

 門には、それぞれの屋敷を攻略するとロックが外れる。4つの屋敷を攻略できたら、門が開かれる。

 門の先には、さらに壁があるから、別にこちらとしては困らない。屋敷を破壊したら、壁とは反対側に爆風が発生するようにしよう。ヒントは、城塞村のギルドから、自然な形でギルドに流れるようにすればいいだろう。

 屋敷と繋がる仕組みは、罠で実現できそうだ。
 スイッチ式にしよう。屋敷の中に隠されたスイッチを押すことで、門が開かれる。

 屋敷の一つは、大量の罠が張り巡らされている。
 屋敷の一つは、魔物が徘徊する。
 屋敷の一つは、魔物と罠で構成される。
 屋敷の一つは、作る者に任せよう。

 セバスを呼んで指示を出す。

 セバスからは、四天王ではなく、四天王に使える者たちに対応させたいと言われて許可をだした。
 使えるポイントを制限して、知恵を巡らせるように変更する。

 魔物を使うのも、罠を使うのも、自由にした。

 新しいアトラクションのようで楽しい。
 致死性の罠も許可を出す。アイテムや素材を落とさない魔物だけにする。屋敷を攻略したら、今の時代としては逸品の武器か防具が手に入るようにした。そのくらいのご褒美は必要だろう。

 あと、セバスから言われて修正したのが、攻略してから48時間しかスイッチが有効にならない。有効になっている最中は、その屋敷には、新規にアタックができないようにした。

 やはり、一人で考えるよりも、誰かと考えた方が、考えの粗が見つかっていい物ができる。

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