【第三章 帝国脱出】第十七話 おっさん相談する
カリンを出迎えたおっさんは、カリンに”おかえり”と伝えて、背中を見せる。カリンは、おっさんの背中を呆然と見つめている。
カリンは、怒られると思っていたので、神妙は面持ちで居たのだが、一言だけで終わってしまって、余計に怖くなってしまった。カリンが抱えていた、バステトは、カリンの腕から飛び出て、おっさんの肩に駆け上がっている。おっさんは、バステトの頭をなでながら、後ろを振り返る。
「そういえば、カリンは、夕飯は食べてきたのか?」
普段通りの声色で、おっさんがカリンに話しかける。
これなら、怒られたほうがまだましだと思えてくるから不思議だ。
カリンは、おっさんの心理を測りかねている。
それでも、バステトがカリンを見て居るので大丈夫だと考えている。
「え?食べてない」
素直に、食べていないと告げる。
嘘を言ってもしょうがない。それに、実際に食べていないので、お腹が減ってきている。
「そうか、バステトさんも?」
おっさんは、肩に上がってきているバステトにも話しかける。
”にゃ!”
食べていないと返事をするバステトもバステトだけど、おっさんもかなりの人物だ。しっかりと、バステトと会話が成立している。カリンは、二人のやり取りを何度も見てきているが、会話が成立している状況を不思議だとは感じていない。
「それでは、夕ご飯にしましょう。何があったのか、話してくれますよね?」
普段通りの口調だけど、カリンには少しだけわざと丁寧に話しているように聞こえてしまっている。実際に、おっさんはカリンが無事だったので、安堵の気持ちを隠すために、普段以上に丁寧な口調になってしまっている。
おっさんは、カリンに笑顔を向けて、食堂に向かう。
その席で、話を聞かせてほしいとカリンに投げかけた。
「・・・。うん」
カリンは、”怒られる”ことを恐れているが、本人でも気がつかない深層で、おっさんに”呆れられる”のを恐れている。
「まー様。カリン様」
食堂に入ると、イーリスがすでに着席して待っていた。先に食事を行っても良いとおっさんは告げていたのだが、イーリスはカリンが帰ってくるのを待っていた。
「イーリス。ごめん」
待っていたイーリスにカリンは素直に頭を下げて、謝罪した。
「いえ、私が、謝罪しなければならないのです。カリン様。謝罪させてください」
「え?なんで?なに?」
カリンは、軽いパニック状態になってしまっている。
抜け出したのは自分で、自分が悪いのだ。もっと早く帰ってくるつもりだったのだが、楽しくて、時間が過ぎてしまっていた。
カリンは、おっさんに救いを求めた。
視線で”助けて”と伝える。おっさんは、カリンの視線に気がついて苦笑を返す。
「カリン。素直に、受け取っておけ。イーリス。いきなりではわからないぞ、後で俺からカリンには説明する。それでいいよな?」
イーリスもカリンも、おっさんの折衷案を受け入れた。
カリンは、イーリスの謝罪を受け入れた。理由は、後で教えてもらえるのだとわかって、少しだけ気持ちが軽くなっている。おっさんの声色も、怒っているわけでも、呆れているわけでも、嫌われているわけでもないとわかって、カリンは気持ちが楽になった。
食堂に用意された席に座ると、食事が運ばれてきた。
イーリスは別の仕事があると断りを入れて、食事を自室に運ばせる。
おっさんとカリンの前に食事が運ばれてくる。
「食べながら、何があったのか教えてくれ」
「あっうん」
カリンは、正直に、宿についてからの話した。カリンは、冒険だと思っているので、少しだけ話が大げさになってしまっている。
おっさんは食事をしながら黙って聞いていた。
「大丈夫だったのか?」
「うん。怪我は無いし、私だって知られていない」
「そうか、アンダーカバーとしては、十分だな」
「え?」
「少しだけ早いけど、辺境伯領を出ることを考えるか?」
「え?」
「ん?カリンが、残りたいのならかまわないぞ?俺は、帝国と王国の間にある森に住もうと思っている」
「え?危ないって話だよね?」
「そうだな。いろいろ調べたけど、人が住むには適さないようだ」
「それは・・・」
「馬車での移動中も、王都でも”生活魔法”しか使っていないから忘れられているだろうけど、俺のスキルを使えば、結界も作れるからな」
「・・・。あっ!」
カリンは、一つのスキルを思い出した。
実際に、おっさんは”生活魔法”を使っていたのだが、おっさんは”生活魔法”を使っていない。イーリスに見せてもらった”クリーン”の魔法を使っていた。火種も、護衛が使っていた魔法を”模倣”していた。
おっさんは、スキルを発動するときに、自分が発動できるスキルでも、わざわざ模倣したスキルを使っていたのだ。
そうして、模倣スキルを鍛えていた。王都で遊び歩いていたのも、模倣するスキルを盗み見るためだ。魔道具を作るための技術も盗んでいる。
最終的に、持っていたビー玉にスキルを付与して、魔道具の核として使えることを発見していた。
「結界を発動させて、魔物よけのスキルを付与した魔道具を使えば大丈夫だ」
「でも」
「強度は、バステトさんに協力してもらって確認している。カリンの魔法を100発打ち込んでも結界は破られない」
実際には、そんな強度テストはしていない。
おっさんが行ったのは、バステトに全力のスキルを打ち込んでもらっただけだ。それから、並列でバステトが可能な数だけ打ち込んで、結界が破壊されるのかを確認した。バステトの全力を弾き返したことで、大丈夫だと判断した。
時間も1週間は持つことも確認している。
「うそ?」
「実際には、まだテストをしてみないと不明だけど、大丈夫だと思っている。それに、森の中に行くのも、まだ時間が必要だ」
カリンは、おっさんがいきなり森の中に拠点を作ると思ったが、おっさんはそんな無謀なことは考えていない。
それに、アンダーカバーがしっかりとできない状況で動けば、辺境伯やイーリスが疑いの目を向ける可能性があると考えている。できるだけ、使える駒としての役割を演じながら、フェードアウトしようと考えている。
「そうなの?」
「いきなり、消えたら、辺境伯も不思議に思うだろう?」
おっさんは、まだカリンに向けての言葉は”不思議”を使ったが、”不審”が正しいだろうと考えている。
潜在的には、イーリスと辺境伯は”敵”にもなり得ると考えているのだ。できる限り、”不審”に思われないように、イーリスや辺境伯に勘違いさせる状況を作ろうと考えている。
「え?あっうん」
「だから、辺境伯領のギルドに登録して、ハンターとして、活動して、徐々に拠点を作っていこうと考えている」
おっさんは無能な人間として振る舞いながら、カリンをサポートすることを考えている。
「うん!うん!」
「まずは、辺境伯の領都に拠点を作って、森を挟んで反対側の街にも拠点を作って、最終的に森の中に拠点を作る」
「まーさん。私も協力する!いいよね!ダメって言っても、ダメだよ」
「わかった。わかった。それなら、明日、領都のギルドに登録するぞ」
おっさんは、最初からカリンを巻き込むつもりで計画をねっていた。
カリンが残ると言った場合には、傀儡になる別の人物を探す手間があると思っていたのだ。最悪は、借金奴隷を購入して、活躍させようと考えていた。カリンから協力を申し出てくれて、嬉しい気持ちもあるが、計画が進められるという安堵の気持ちもある。
「うん!転籍だね」
「そうだな。転籍のほうが、辺境伯も安心するだろう。イーリスの視線もある。少しだけ慎重に動いたほうがいいだろう」
「ん?うん!」
”にゃ!”
「もちろん、バステトさんにも協力してもらいますよ」
”にゃにゃ”
任せろとでも言っているように、バステトは胸を張る。
それを見て、カリンが笑い始めて、つられて、おっさんも笑い声を上げる。
その後、カリンに代官との話を聞かせて、イーリスがなぜ謝罪をしたのか、カリンに説明した。
カリンは、イーリスの謝罪の理由を聞いて、それなら自分が悪いと言い出して、イーリスの部屋に謝罪の言葉を告げに行った。
おっさんは、宿の主にお願いして、渡して冷やしてもらっていたウィスキーを出してもらった。
まだまだ若いウィスキーをストレートで喉に流し込んでから、部屋に戻った。
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