【第六章 約束】第三話 目標と罠

 

共和国に攻め込む者たちを含めて、アルトワ・ダンジョンに移動した。
実効支配している場所を確認してから、落としどころを考える事になった。

俺たちが見聞きしてきた情報を、皆に伝えたところ、今なら共和国の半分は無理でも、1/3くらいは取れると考えているようだ。
経済戦争を行うのには、お互いに準備が足りていない。

「ユリウス。共和国への対応だが・・・。適当な落としどころを決めてくれ、王家に渡すにしても、飛び地では管理が難しいだろう?」

「それは・・・」

「アルノルト様。大丈夫です。考えがあります」

「え?」

クリスティーネが、”大丈夫”だと言い切る。

「まず・・・」

クリスティーネの計画が解った。
”ぶっ飛んでいる”計画だけど・・・。確かに、領土の割譲よりも、共和国としても飲みやすい上に、デメリットが少ない(ように見える)。俺たちのメリットは少ないように見えて、長期的に見れば大きなメリットに繋がる。それに、共和国には知られていない情報がある。クリスティーネの考えは、オープンになっていない情報を上手く使った”詐欺”のような行為だ。

クリスティーネの考えでは、共和国にあるダンジョンで、俺が攻略したダンジョンを接収する。

共和国からもぎ取るのは、ダンジョンの周辺の権利だけだ。近隣の村や街は、王国の領土にはしない。ダンジョンから産出する物の権利も主張しない。商取引の優先権は取得する予定だが、絶対に必要な権利ではない。

共和国は寄り合い所帯なので、クリスティーネの提案も受け入れる土壌が出来上がっている。
俺たちが攻略したダンジョンは、共和国内では力が弱い国の領土になっている。共和国は、その国を切り捨てる可能性もあるのだが、疲弊した国を貰っても、王国としては困る。ライムバッハとしても荷物が増えるだけでメリットがない。

そこで、ダンジョンとダンジョンの周辺を割譲する。
アルトワ・ダンジョンの様に、塀で囲んでしまう。

ウーレンフートのノウハウということで、押し通すつもりのようだ。
スタンピードに備えて、周辺の村や町に被害が行かないようにする為だと強弁するようだ。

「クリス。代官というか、ダンジョンを管理する者たちには、心当たりがあるのか?」

「それこそ、ウーレンフートにいる者たちや、辺境伯領にいる者たちを派遣すればいい。」.

最悪は、ヒューマノイドに管理を行わせればいいだけか・・・。

「ん?素材の買い取りはするのか?」

「それこそ、商人が来ているわよね?」

ギルベルトがいい笑顔で頷いている。
どうやら、既に手配をしているのだろう。ギルベルトの商会なのか、親の商会なのか、マナベ商会なのか解らないが、既に入り込んでいるのだろう。マナベ商会でダンジョンの素材を買い取るのは・・・。あまりメリットに感じない。
そうか、値段調整を行う役割を持たせたいのだな。
共和国内に安い採取品が回るのを防ぐのだな。それなら、マナベ商会でも大丈夫だ。話が決まったあとで考えればいい。

「あぁ」

「別に、王国としては、元々無いダンジョンだから、そこで儲けようと考えなければいいのよ。もし、王国の商人が商売をしたいと言えば、許可を出してあげる程度でいいと思うわよ」

戦略拠点としての意味と、共和国との緩衝地帯を作るのが目的だ。
共和国が一致団結して、王国に攻め入ることは考えにくい。共和国がこのまま進むと暴動が発生する可能性がある。その時に、王国にまで飛び火しないようにしたいのだろう。

「そうか・・・」

そうなると、メリットは、ダンジョンを自由にできることと、リソース稼ぎになることか?
共和国には知らせていないけど、ダンジョンの採取を絞っているから、以前と同じように採取を行おうと思ったら、4-5倍の人間が必要になる。

「クリス。ダンジョンへのアタックには、奴隷を禁止したいけどできるか?」

「どうして?」

「共和国のダンジョンにアタックしている時に、奴隷を壁の様に運用している者たちが多かった」

「・・・」

「奴隷を否定するつもりはないが、使いつぶす前提の奴隷運用は認められない」

「アル。奴隷の解放条件に繋がるから・・・。ダンジョンへの入場を禁止するのは・・・。難しい」

ユリウスの言葉は正しいのだろう。
王国では、ダンジョンの中で得たものを主人に渡すことで、奴隷から解放される場合がある。その為に、ウーレンフートでは、奴隷だけでダンジョンにアタックしている者たちも存在している。

しかし、奴隷を使いつぶす輩が、共和国のダンジョンでは多い。ウーレンフートとは比較にならない。ウーレンフートと同じではどこかで破綻してしまう。

「アルノルト様。ダンジョンにアタックする時に、ウーレンフートの様に、メンバーの登録は可能ですか?」

メンバー?
ダンジョンに潜る前に登録するようにしている帰還予定を記入して、それまでに帰還しなければ、捜索隊を派遣する場合もある。

「ん?ウーレンフートで運用している仕組みなら組み込めるぞ?」

あの仕組みは、ホームでカードを発行しているから、似たような仕組みなら運用が可能だ。

「それなら、奴隷以外には、ダンジョンのアタック前に、アタック料を取りましょう。ダンジョンの保護を理由にすればいいでしょう」

「あぁ。それで奴隷は?」

「奴隷は、無料にします。その代わりに、奴隷の”価値”を提示してもらいます」

「ん?”価値”」

「そうです。ロストした時には、提示された”価値”分の支払いを命じます。従わなければ、王国が管理するダンジョンへの入場を禁止して、王国への入国を禁止します」

「ほぉ・・・」

「クリス。それでは、奴隷の価値を低く提示するのではないのか?アルが求めているのは、奴隷のロストを防ぐことだ」

「ユリウス。クリスの案で大丈夫だ」

「なに?」

「ユリウス。愚かな奴が、奴隷を銅貨1枚の価値と提示した場合。ダンジョンにいる管理人や人手が欲しい者が、奴隷を銅貨1枚で買い取ることができる。それに、提示された価値が低ければ、奴隷はその場で自分を買い取ることもできるだろう?ダンジョンの管理所から、奴隷に銅貨1枚を貸し出してもいい」

「・・・。クリス?」

クリスティーネが頷いている。
俺の推測で大丈夫なようだ。

ユリウスも納得していることから、基本方針をクリスティーネがまとめることに決まった。

「アルノルト様。是非、教えていただきたいことがあります」

「なんだ?」

「ダンジョンのコアを攻略したら”何が”出来るようになるのですか?」

やはり聞いてきたのか?
報告は受けているのだろう。

エヴァンジェリーナの名前を出して、まだ教えていないから、先に”エヴァンジェリーナに教えてから”と言えば引いてくれるだろう。

周りを見ると、話を聞きたいと思っている顔が揃っている。
クリスティーネやユリウスは報告を呼んでいるから知っていることも多いだろう。アルバンやカルラから話を聞いている人も居るだろう。いろいろ不可解な事が多いけど、報告とすり合わせれば結論には達しているのだろう。

隠してもメリットには繋がらない。説明しても、デメリットにはならない。

アルトワ・ダンジョンからウーレンフートに移動してもいい。
共和国への強襲が終了したら、アルトワ・ダンジョンに戻ってきてもらって、実際に見てもらったほうがいいかもしれない。

エヴァンジェリーナの約束を考えれば、アルトワ・ダンジョンからウーレンフートに移動して、王都に向かったほうが早いかもしれない。
新しく作った馬車が使える。
それに、ユニコーンとバイコーンが使えるのも大きい。国境で問題は発生するとは思えないが、電撃的な作戦でも難民が発生する可能性はある。難民が国境に押しかけたら・・・。

ダンジョンの説明と一緒に、現状の説明をした方が・・・。俺も楽だ、効率もよさそうだ。

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