【第一章 少年期】第十八話 中等部試験

 

 シュロート商会で思った以上に時間を取られてしまった。
リバーシ対戦をこなしていたのが原因だが、ギルも販売が出来ると喜んでいた。

 早速、”鉄を引き寄せる石”を何個か融通してくれた。
 砂鉄を集めて、たたら製鉄やカイロを作って売れないか考えよう。磁石を使った”方位磁石”を作ってもいいが、なんとなく魔法で解決出来てしまいそうだ。

 寮に皆で戻ってきた。夕飯の時間には、なんとか間に合ってよかった。

 食堂に入ると、丁度準備をしている所だった。ラウラとカウラがロミルダを手伝う為に厨房に入っていった。
 俺はいつもの席に座って待つ事にした。

「アル。ありがとうな。おやじがうるさくてな。助かったよ」
「いいよ。俺も、商人ギルドへの登録とか世話になったからな」
「そんな事。それに、何やら、リバーシの新しいアイディアを貰ったって興奮していたからな」
「いやいや。新しいアイディアって、ほどの事でもないよ。すこし位揺れても遊べるようにしただけだよ」
「そうなのか?リバーシは間違いなく大ヒットだろう。おやじも暫くは増産に忙しいと言っていたからな」
「そうか、沢山売れてくれるといいな」
「そりゃぁ当然だろう。馬車移動中の暇な時間で遊べるのだからな」
「そんなものかね?」

 ユリウスとギードとハンスがげっそりした顔で食堂にやってきた。
 クリスも席に座った所で、全員揃っての夕飯となった。

 ユリウスに、商人ギルドに登録してきた事を報告した。
 報告の義務は無いが、教えないで、後で知られると、確実に拗ねられる。そして、拗ねられると面倒だからだ。
 クリスは、俺の気持ちが解るのか、苦笑を浮かべただけで感想の一言もなかった。

 その後は、中等部の試験の話になった。

「クリス。勉強はどう?」
「う~ん。やはり、計算がネックね。ユリウス様もギードもハンスも、単純な計算なら大丈夫だけれども、3つの数字の掛け算や足し算で間違えるのよね。あと、面積の計算もダメね」
「あんな物何の役に立つ!そんなことよりも、魔法の技量を上げるほうが役立つ」

 はぁ・・・まぁそう思うよな。
 数学とかって、何の役に立つって勉強しているときには思うからな。

「ユリウス。それは違うよ。確かに、現場の人間なら、魔法の腕を磨くほうがいいのは納得するよ。でも、ユリウスはダメだ」
「なぜだ!アル。」
「簡単だよ。ユリウスは、現場で働く人を管理している人を使う立場になるのだからね。違う?」
「違わないが、それが、計算と何が関係する?」
「あのな。ユリウス。すこし考えろよ。今、アーベントロート王家に何家の貴族があるか知らないが・・・」
「425家よ。アルノルト様」
「クリス。ありがとう。425家の貴族がある。その貴族に、私兵が1,500名ずつ居るとして、その私兵を30日間行軍させる時に必要になる兵站はどのくらいになって、何人の兵站部隊と荷台が必要になる?」
「な・・・そんな現実的じゃない」

「ユリウス。君がさっき言った事も同じだよ。でも、計算が出来るのなら、考える事は出来る。さっきの話だと、19,125,000食が必要になる。荷台で1,000食運べるとしたら、19,125の荷台が必要になって、一つの荷台に、5人の兵隊部隊が必要になるとしたら、95,625人必要になる。この兵站部隊の人間にも食料が必要になるから、現実にはもっと増えてしまうだろうね。それに、食料だから、腐ったりする事を考慮するともっと必要になるだろうね」

 損耗率とか経験則でしか出てこない数字があるのはわかるが、それでも、大まかな計算ができる方がいいに決まっている。

「・・・・」「・・・・」
「どうしたの?皆?」

「ねぇアルノルト様」
「ん?何?クリス」
「はぁまぁいいわよ。ユリウス様。おわかりになりましたか?」
「あぁ解った」

「なんか、釈然としないけど、ユリウスがわかったのならいいかな」

「ねぇアル君。やっぱり、家で雇われない?」
「エヴァそれは何度も言っているだろう」
「そうだけど・・・」

 そう、エヴァはなにかある度に、俺をスカットーラ家に仕えないかと誘ってくる。
 隣国の人間だと知っているが、俺を雇ってどうしたいのか一向に解らない。雇われるにしても、もう少し自分自信、”何が”出来るのかが判ってからにしてくれと話している。

 雑談を交えながら食事をして、本日は解散となった。

 来週には、中等部の入試が行われる。
 会場は、幼年学校と同じ敷地内になる中等部の校舎だ。
 明日、皆で下見をする事になっている。クヌート先生も一緒について行ってくれる事になっている。

 中等部の試験も、幼年学校の時と同じ様に行われる。
 当日にならないと部屋は解らないし、席も解らないが、受付場所や皆で昼を食べる場所の確認をした。
 幼年学校の特待生以外のクラスでも、試験に向けての準備が進んでいる。特待生になれなかった生徒も、中等部の試験でいい成績を出せば、特待生に選ばれる事があるので、必死になる。
 特に、今年は”皇太孫”と同じクラスになれるというメリットもある。

 実際に同じクラスの俺からしたらデメリットの方が大きいのだが、実情を知らない奴らからしたら、メリットに見えるらしい。

 試験を明日に控えて、今日は早めに夕ご飯を食べて、休む事になった。

「アル。わかっているのだろうな」
「はい。はい。本気で試験を受けますよ」
「解っているのならいい」
「ユリウス様。念押ししなくても、アルノルト様なら大丈夫でしょう。それよりも、ユリウス様は大丈夫なのですか?」
「なにがだ?」
「アルノルト様だけではなく、ラウラやカウラに負けても知りませんよ」
「なっそんな事・・・」
「負けないにゃ。僕も真剣に受けるにゃ!」

 最後は、カウラのおかげで険悪にならないで済んだ。
 カウラを撫でてから、食堂を後にした。部屋に戻ってから、早々に休む事にしたのだった。

 中等部の入試試験の当日。
 気負う事なく、試験に向かう事になった。

 実際、幼年学校の時の様なイベントもなく、無事試験が終わって、午後の魔法力の測定となった。
 全員が受けることになっているので、順番は関係なく、来た者から魔法力の測定を行う事になっている。

 食事を取ってから、皆で魔法力の測定を行った。

 俺達が測定した時点での最高は”6”だと教えられた。事前に調べた時には、特待生クラスのメンバーは全員が7以上である事はわかっている。
 この次点で試験さえ問題なければ、特待生になれそうだという事が解った。

「アル。終わったのか?」
「え。あっはい。終わったよ」
「そうか、試験はどうだった」
「まぁ大丈夫でしょう」
「そうか・・・」

「ユリウス様。それじゃ、アルノルト様もわけがわかりませんよ」
「クリス。どういう事?」
「あぁユリウス様は、アルノルト様が手を抜いているのでないかと思っているのよ。そうですよね?」
「ああ。どうだ?アル。」
「真剣にやりましたよ。自己採点では満点ですね」
「そうか・・・解った」

 何か、奥歯に挟まった言い方だけど、気にしたら負けだろう。
 クヌート先生がいうには、5割できれば合格で、7割出来たら特待生候補らしいから、全員その位は出来ているだろう。
 ラウラとカウラに確認したら、全問書けたと言っているし、特待生にはなれそうだ。
 特に、ラウラとカウラは魔法力が8になっている事から、まず大丈夫だろう。
 俺も、無事今回も10のままだ。下がる事は無いと言われているが、測定結果が出るまで心配なのは間違いない。

 寮に戻って、皆で入試の答え合わせをした。
 座学に関しては、皆がほぼ満点だろうという事になった。計算もクリスの頑張りもあり、7~8割の正答率だろう。これならば、中等部でも引き続き同じメンバーは特待生クラスになれそうだ。

 そのまま食堂で雑談してから、解散となった。

「ラウラ。後で、父上達に出す手紙を書くから頼めるか?」
「かしこまりました」
「すぐに書くから、部屋に取りに来てくれ」
「解りました」

 部屋に入って、父や母や妹への手紙を書く。
 入試が無事終わった事や、近況報告として、商人ギルドに登録した事を報告した。事後報告になってしまった事を詫びる言葉も忘れずに書いておく。

 ラウラに手紙を書いた手紙を渡した。

 手紙をだしてから、1週間後に試験結果と返事が同時に届いた。
 中等部からは、試験結果が送付されてくるのだ。領地に送ってもらうのが一般的らしいが、俺達は寮に送ってもらう事にした。その為に、この休みも帰省しないで寮で過ごす事にしている。
 幼年学校最後の休みは誰一人帰省する事なく寮で過ごす事にしたようだ。

 結果は、俺は予想通り主席だった。次席が、ラウラだ。
 3番がクリス。以下、イレーネ。エヴァ。カウラ。と女性陣が続いて、ユリウス。ギル。ギード。ハンス。の、順だった。
 10人は変わらず特待生クラスになることが決定した。

 皆で試験結果を見ていたら、クヌート先生が寮にやってきて、お祝いの言葉をくれた。
 先生は中等部でも魔法を教える事になっているので、特待生クラスは引き続き先生が担任をする事が決定したと教えてくれた。

「アルノルト君。すこしいいかな?」
「あっはい。大丈夫です」

 先生に連れられて、応接室に入る。

「アルノルト君。主席合格おめでとう」
「あっありがとうございます。運が良かっただけです」
「運か・・・。まぁいいでしょう。そこで、アルノルト君に3つお願いがあります」
「はい。何でしょう?」
「一つは、君なら予想出来ていると思いますが、新入生代表を努めてもらう事になります」
「やはりそうですか、ユリウス殿下がいらっしゃるのによろしいのですか?」
「それは、王家にも確認しましたが、『”家名”を外している者だから、次席とかならともかく7番手では本人も恥ずかしいだろう』という事です」
「・・・わかりました。それで、その代表は何をすればいいのですか?スピーチとかなら全力で遠慮します」
「それは大丈夫です。先頭を歩いてもらうだけです」
「わかりました。詳細は、前日にでも教えてください」
「そうですね。それから、もう一つですが」
「はい」

 一呼吸置くように、持ってきた飲み物を一口くちに含んだ

「特待生が二人増えます」
「そうなのですか?それは、皆に伝えた方がいいですよね?」
「えぇお願いします」
「でも、なんで私に先に知らせてくれたのですか?」
「その二人が、研究所に入る事と、この寮に入る事を希望したからです。研究所の方は、私が許可を出しましたが、寮は君が寮長ですので、君の許可が必要だと判断したのです」
「そうですか、解りました。一度会ってみないとわかりませんが、皆と相談して決めたいと思います。」
「よろしくお願いします」
「それで、いつまでに返事すればいいのですか?」
「中等部の入学式までに返事もらえたら十分です。二人も明日一度寮につれてきます」
「わかりました。それで、もう一つは?」
「あぁそうでした。そうでした。”リバーシ”といいましたか?あれを一つ融通してもらえないかと頼まれてしまいましてね」
「はぁ構いませんが・・・」
「ギルベルト君に聞いたら、発案者は君だというのでね。中等部の校長が一つ欲しがっていましてね。商会に問い合わせたら、2ヶ月待ちと言われたようなのですよ」
「・・・解りました。シュロートさんに一つ回してもらいます」
「あぁありがとう。これでやっと校長の小言から開放されます」
「”リバーシ”はそんなに人気なのですか?」
「そうですね。貴族や商家の間で流行り始めているようですね」
「へぇ」
「皆。馬車の中では暇を持て余していましたからね」

 次の日に、シュロート商会に足を運んで一つ”リバーシ”譲ってもらった。
 幾つか用意してあるので、持っていって欲しいと言われたので、遠慮なく5つ貰ってきた。
 一つをクヌート先生に渡した。

 新しい二人に関しては、皆。俺に任せるという事だ。
 ただ、エヴァとラウラとカウラは、面談には立ち会うと言ってきた。

 俺とエヴァとラウラとカウラの4人で、二人と先生を出迎えた。
 すこし緊張している様子だったが、皇太孫や辺境伯の娘が居ない事が解ると、すこしは落ち着いた様子だった。

 お互いに自己紹介をして、すこし雑談をした。
 エヴァとラウラとカウラも問題ないということだったので、その場でOKを出した。

 二人は、エルフ族とドワーフ族だった。
 エルフ族の子は、ザシャと名乗った。
 エルフ族の特徴である細く尖った耳を持ち、魔法特性に優れているらしい。魔法力は9だという事だ。
 緑色の髪の毛をボブにしてカットしている。身長も、俺に近い感じだ。エルフ族の族長の娘だという事だ。本人のたっての希望で、中等部に入学する事になったのだと言っていた。

 ドワーフ族の子は、ディアナと名乗った。
 身長は一番低いが毛むくじゃらのイメージだったが、そんな事はない。赤い髪の毛を短くして居て、挑戦的な目つきが印象的だ。
 魔法力は7と高めになっている。この年で、鍛冶仕事も出来るのだと言っていた。
 中等部から、泊りがけでの実践訓練も入ってくる。鍛冶が出来る者が居ると行動に幅が出来る。

 二人とも、入学式前には寮に引っ越してくると言っていた。
 ラウラとカウラに言って、今日にでも部屋割りを決めてもらう。

 昼飯の時間が近づいてきたので、二人にはこのまま残ってもらうことになった。
 昼飯に皆揃うので、ついでに紹介しておこうと思う。あと、数日で引っ越してきて、一緒に住むのだから、慣れるのなら早いほうがいいだろう。

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