【第四章 スライムとギルド】第二十四話 報告(5)
部屋に、私が隠し持っていたお菓子を持って戻りました。
蜂蜜はなしです。普通の飲み物です。
今回は、お茶にしました。日本茶です。掛川のお茶農家から買った美味しいお茶です。湯山のお茶も捨てがたいのですが、今日は掛川のお茶です。
お菓子には、お茶です。異論は認めますが、私の信念は変わりません。
部屋に戻った私は、円香さんに捕まりました。
「茜!?」
「はい?」
「廊下の音が聞こえない。どういうことだ?」
盗み聞き対策です。とは、答えにくい状況です。
千明も円香さんも同じような作りの部屋に住んでいます。
廊下を歩く音が聞こえるのは知っているのでしょう。
「あぁそれも、後で説明します。ギルドで言った、この部屋は”クリアです”に繋がります」
「そうか・・・。わかった」
円香さんが引いてくれました。
諦めたという雰囲気ですが、今はそれで十分です。
多分、全部の話が終わった頃に、主殿とライから追加の爆弾が投下されます。
ほぼ、確定している未来です。
休憩時間は、短縮されました。
「はぁ・・・」
「茜嬢?」
「大丈夫です。蒼さんも、千明も大丈夫?疲れていない?」
「大丈夫だ」「大丈夫。アトスから、いろいろ教えてもらったよ。聞きたくなかったけど、聞いちゃったから・・・」
”みゃぁみゃぁ”
うん。可愛い。
アトスが、褒めて欲しそうにしている。
千明が諦めの表情で、アトスを褒めている。
私の足下にも、クロトとラキシが寄ってきます。
ユグドとクシナとスサノが、ベランダで日向ぼっこをしながら主殿とライが来るのを待っています。二時間前なので、部屋で待っていてもいいとは思いますが、ベランダで待っているようです。ユグドも日光浴が必要なのでしょうか?
まず、蒼さんから、魔石の生成ができたと報告がありました。
これで、スキルを持っていれば、魔石の生成ができる事が判明しました。合成は、まだ出来ていないようです。スキルの融合もまだです。あと、水見式は成功したようです。水見式は、公開してもよいという方向ですが、スキルを持っていない人ができるか不明な状況では、意味があまりあるとは思えません。この辺りの調整は、円香さんと孔明さんが行うようです。
さて、他にも、受諾販売ですが、円香さんからOKが出ました。これも、最終的には、孔明さんが担当するようです。
同時に、オークションを開くようです。こちらは、千明の仕事です。
うんうん。私の手から離れるのなら、どんな方法でも歓迎です。
海底火山は、ワイズマンに問い合わせることになりました。
主殿からの確認という感じです。カードでの問い合わせで、カードの情報以降は手繰れない状況にするようです。日本支部が特別に発行しているギルドカードで、情報は秘匿されています。
これは、ギルド支部に認められた特権です。
国によっては、国の重要人物がスキルを得て、ギルドに登録することがあります。あとは、特別なスキルを取得している人を、他国に引き抜かれないようにするための処置とされています。
住所や氏名などが、登録されてしまうと、国益を損なう可能性がある為に、秘匿情報として登録されるのです。アメリカなどでは、軍に所属している者たちの情報は秘匿情報になっています。ヨーロッパ各国でも多くは秘匿登録です。
日本は、今まで秘匿登録になっている人は少ない状況です。
国として指示がない状況で、自衛隊の隊員の登録は非推奨となっていました。
秘匿登録からの問い合わせです。目立つのは目立つのですが、主殿を隠す為には必要な事です。
さて、休憩時間に決まった事を、皆が報告してくれます。
私は、本来の業務である。議事録を作成します。
これは、公開しても良い情報だけに留めます。
さて、残念なことに皆からの追加での報告が終わってしまいました。
どこから、話をしましょうか?
「円香さん。孔明さん。主殿からの要求は、金銭以外に、二つです」
「二つ?」
「はい。金銭は、それほど必要とはしていない様子でした」
「茜の感想か?」
「はい」
「そうか・・・。情報に対する対価が欲しいと言うことだな」
「そうです。二つの情報が欲しいそうです」
「それは?」
用意していた資料を円香さんに見せます。
「茜?」
「女性は、主殿の本名です。そして、通っていた高校です。遠い親戚は探せばいるらしいのですが、交流が無いので、家族は眷属だけだと言っていました」
「そうか・・。それで?」
私もそうですが、皆それぞれに事情を抱えています。
その為に、主殿の境遇には思うところがあるようです。
「主殿は、”スライム”にされてしまった高校生です。誰がやったのか解らないそうです。ただ、呼び出されたのが学校なので、学校の関係者の可能性が高いと考えているようです。そのうえで、その後も不思議な現象が続いたので、スキルを得た誰かが、スライムを大量発生しているのではないかと考えているようです」
「え?」「それで、あの時に・・・」
「はい。主殿は、自分をスライムにした人を探しています」
「・・・。復讐か?」
「わかりません。そもそも、人にスキルを使って、魔物にするような・・・」「茜!それ以上はダメだ!」
「はい。解っています。主殿が欲しいのは、スライムや魔物の大量発生情報です」
「それは・・・」
「円香さん。考えても無駄ですよ。私たちが教えなくても・・・」
「そうだな。確かに、俺たちが見つけない限りは、ネットに情報が拡散される。それなら、俺たちが主殿に流した方が、俺たちを信頼してくれるきっかけになる」
「私も、孔明さんと同じことを考えました」
「わかった。孔明と茜が、”是”とするのなら、問題はないだろう。蒼も千明もいいよな?」
円香さんの呼びかけに、蒼さんも千明も首を縦に振った。
大きな関門を突破しました。
「もう一つは、ライの身元調査です」
「え?」「スライムなのだろう?」
そういえば、子供の姿になったライを見ていなかった。
「それは、2時間くらい後に説明しますが、ライは元人間です」
「え?でも、身元調査は?」
千明が混乱しています。
「ごめん。千明。言い方が悪かった。ライは、スライムだけど、人の姿も持っている。その人が誰なのか解っていない」
「え?でも・・・」
うん。そう思うよね。私も、そう思った。
「ライは、スライムになってしまった昆虫や動物や魚の集合体みたいなの。あっ詳しくは聞いていないし、私には答えられないから質問はしないでください」
多分、ライを構成しているスライムは、主殿をスライムにした奴がやっているのだろう。
ここ数か月の間に、学校の池にいた魚が全部”いなくなっていた”ことや、スライムが発生するといった事件が発生している。
全部が、同じ犯人だとは思われていなかったけど、同一犯の可能性が出てきた。
そして、黙っていたけど、千明が前の会社を辞めるきっかけになったスライムを街中で見かけたという話も、時期から考えると、ライに合流しようとしていたスライムの可能性が出てきている。
目的がわからない限り、主殿をスライムにして、ライを作り出した人物は、今後もスキルを使って、スライムを作り出すのでしょう。
スライムに留まっていればいいのですが・・・。
「わかった。それで?」
円香さんが、話を戻してくれました。
「どうやら、主殿をスライムにした奴が行っているみたい」
「・・・。そうか、それで、女王蟻のスライムを・・・」
あの時には、クロトとラキシとアトスでいろいろ吹き飛んだけど、元々はスライムの大量発生が原因だった。
円香さんも気が付いているのでしょう。
あの公園は、主殿が通っていた高校の近くです。
「うん。それは副次的なことで、メインは、ライが吸収した白骨死体が有ったらしくて・・・」
「え?」
「主殿がいうには、多分4-50年以上前の子供の白骨死体だったらしい。吸収した場所はわからないらしいけど、静岡と山梨の県境辺りらしい」
「それは・・・。なんというか・・・」
「姉弟の子供だったみたいで・・・。その姉弟を探して欲しいみたい。解らなければ、解らないで、大丈夫だとは言っていたけど、気になるみたいなのです」
「わかった。ライ殿の姿がわかれば、探すことは可能だろう。蒼。頼めるか?」
「わかった。警察関係に当たって大丈夫だよな?」
「どうだ?」
「うーん。解らないけど、大丈夫だと思う」
主殿には、後で聞いてみればいいよね?
ダメなら、条件を聞き出せばいい。警察資料とか古い新聞を探すしか方法が無いのだから、しょうがないよね?
「茜。いろいろ聞いたが、そろそろ、この部屋の説明をお願いできるか?」
そうですよね。
うん。解っています。
積読本や購入予定の書籍の情報を投稿しています
小説/開発/F1&雑談アカウントは、フォロバを返す可能性が高いアカウントです