【第三十一章 本腰】第三百十五話

 

ピカとハミから話を聞いた。
最初は、尋問のようになってしまったが、イザークとピムが必死に誤解を解いていた。

新種は、自然界でも産まれる。上位種に至る魔物は少ないようだが、一体でも十分な脅威になりえる。”できそこない”の1体でも、戦闘に慣れている者が居ない場所では、村や町が全滅しても驚かない。

人為的に上位種を作り出そうとしているのなら・・・。そして、その上位種に至った魔物を他の大陸に・・・。大陸が危険に晒されてしまう。

ルートガーに報告と相談を行うために、行政区に戻った。

「それで?」

「ピムの妹がアトフィアの輩に依頼されて魔物を運んでいた」

ルートガーが眉間に出来た皺を指で叩いている。
俺も、同じような表情をしているのだろう。

「そうか・・・。確定だな」

「あぁあとは、アトフィア教の奴らが、何を狙っていたのか・・・。ピムの妹は、ピカと言うのだけど、その旦那がハミだ。ハミの言葉では、アトフィア大陸までの輸送が仕事だったようだ。洋上で、荷物が魔物だと解ったと言っていた」

「ん?荷物の確認はしなかったのか?」

その疑問は最初に聞いている。
尋問と言われてもしょうがない態度だったが、聞かなければならない事が多いからしょうがなかった。

「最初は、動物だと言われて確認を下様だぞ」

「動物?」

動物が魔物に変異することがある。
途中で守音に変異した可能性があるが、そのうえで”できそこない”に変化するとは思えない。

すり替えられたと考えるのが流れ的には正しいように思える。

「上層部に提出するために、生きたまま運びたいと言われたらしい。書類も交わしている」

「書類は?」

俺も同じ疑問を感じて、ハミに聞いた。

「船と一緒に沈んだ」

「動物が魔物に変わったのか?」

書類が無いのは残念だが、書類が有っても大きくは変わらない。
どうせ、動物と書いてあるだけの書類で、アトフィア教の連中を問い詰めても、ハミたちが自分たちで魔物を運んで、アトフィア大陸を危険に晒したとか言い出すに決まっている。

「それはわからないようだ。船には、アトフィア教の連中が積み込んだようだけど、積み込む所は見ていたようだから、すり替えるのは難しいと言っている」

「方法は別にして魔物を積み込んだ船がアトフィア大陸に向かった事実が重要だな」

方法は、別途考えればいい。
アトフィア教が何をやろうとしているのかが問題だ。

そして、大きな疑問がある。

「そうだ。あの大陸には、魔物は存在しないことになっている。もちろん、ダンジョンも存在しない。ありえると思うか?」

「解らない。お前は、信じるのか?」

信じる?信じない?
アトフィア教の奴らが言っているのは綺麗ごとだ。平等を謳いながら、平等なのは自分たちが認めている種族だけ。種族に関しても、信じる者が同じ者同士が平等だと言っているに過ぎない。
経典もなにもない。あるのかもしれないが、教えも何も解らない状況で”信じろ”と言っているような者たちは、詐欺集団と同じだ。まだ詐欺集団の方が、先にメリット提示があるだけ良いように思えてしまう。
宗教を否定するつもりはないが、”信じる”という行為を推奨して、考える行為を”愚”と論じることがある。

「信じるに足る情報が出ていない限り、懐疑的なスタンスだ。ルートは?」

信じてもいいとは思っている。
シロたちは、チアル大陸で守尾に対峙した。アトフィア大陸では、魔物と戦っていないと言っている。獣は居たようだが、それでも数は多くない。

大きな疑問だが、アトフィア大陸では、穀物の入手は簡単に出来ている。
川も少ないが、水には困っていない。そのために、農業に適した場所は多く存在している。

「情報不足だ。しかし、それなら外部から魔物を調達してくる意味が解らない」

確かに、魔物を調達してきている。輸送の依頼をだしていることから、”調達”と考えることができる。
アトフィア教の奴らが言っていることが事実だとしたら、外部から”調達”してくる意味が出て来る。しかし、魔物を調達してくる意味が解らない。実験で使いつぶしただけなら、外部に拠点を作って、そこで実験を行えばいい。手元で行う理由があるのか?

「そうだな。でも、調達が目的ではないとしたら?」

「は?」

俺が懸念しているのは、調達が目的ではない場合だ。

「ルート。ハミの話では、ドワーフ大陸の近くにある港から、荷物を運んだらしい」

「ちょっと待て、アトフィア大陸に向かうのだとしたら、反対側だろう?陸路で運んで、ゼーウ町の・・・港は無理でも、アトフィア大陸に近い港が他にもあるだろう?」

最初に話を聞いた時に抱いた違和感だ。

「そうだ。アトフィア教の者だと名乗ったうえで、前金まで渡している」

「前金?」

「通常は、始めての取引の時には、半額を貰うようだ。身元がはっきりしていれば、1/3程度の前金らしいが、アトフィア教の身分証明書を見せたうえで、全額を前払いしたようだ」

「は?奴らが?」

驚きの表情が全てを物語っている。
話を聞いた時に、俺も驚いた。

アトフィア教の奴らが前金を渋るのなら話はわかるが、全額を支払っているのに驚いた。通常よりも高めに提示した金額を支払ってきたのだ。驚かないほうがおかしい。
違和感の一つだ。
運ぶものが魔物だと解っていたら、そして魔物を閉じ込める事で発生する状況が解っていたら、船が沈まないまでも、行商人たちは死ぬ可能性が高い。解っていなかったのか?それとも、他に何か狙いがあるのか?

「そうだ。ハミに確認をしている。ピカも前金を貰ったと証言している。それでも、船を失ったことを考えれば赤字だと嘆いていた」

「どうする?」

ルートガーの質問の意図が解らない。

「どうする?」

「船の補填をしてやるのか?」

補填の必要はないと判断している。

「必要ないだろう。情報料は渡すつもりだけど、損害を賄えるほどではない」

「そうか・・・。いいのか?」

十分だろう。
情報料は支払ってやるが、前金を貰っている。補填を行うのなら、アトフィア教の奴らから巻き上げてからだ。俺たちの仕事を受けた結果船が沈んだのなら、補填は必要になってくるとは思えるが、知り合いの親族というだけで補填を行うのは間違っている。

「十分だろう?必要なら、イザークたちが出資すればいい。出資をお願いされたら、その時に考える」

「出資?」

「あぁ行商用の船が欲しいと言えば、俺の仕事を手伝う条件で、船の代金の一部を出してやってもいいとは覆うが、俺やチアル大陸の行政が補填を行うのは違うだろう?」

チアル大陸からの補填は考えられない。
俺の仕事を手伝わせる。俺が船を買って船の運用を任せるのなら・・・。それでも、メリットが少ない

「そうだな。チアル大陸の動きは?」

チアル大陸の動きかぁ・・・。
そろそろ、アトフィア教とアトフィア大陸を調べないと、新種の問題が解決しない。
奴らが解ってやっているのか?それとも、偶然の産物なのか?自然界では?

いろいろと疑問だけが残ったが、アトフィア教の連中が震源地だと解ったのは大きな進歩だ。

「本腰を入れて、アトフィア教とアトフィア大陸の調査を行うつもりだ」

「任せていいのか?」

「あぁ”全部、任せろ”とは言わないけど、俺の方が得意だろう」

やり方は、ルートガーよりも俺が考えた方がいいだろう。
真正面からの優等生的な戦いなら、ルートガーの方が得意だろうけど、相手がアトフィア教でなんでもありの戦いになる可能性が高いのなら、俺が陣頭指揮を取った方がいいだろう。
面倒だけど・・・。

ルートガーも納得してくれたので、草案を考えてからまた話し合いを行うことに決まった。
チアル大陸として動くことも考えられるために、行政区と長老衆も巻き込むことが決定した。

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