【第二章 帰還勇者の事情】第二十六話 夜

 

 少女はユウキたちが用意した部屋で、眠りについた。

 そのころ、ユウキたちは、普段とは違う侵入者たちへの対応を開始していた。

『ユウキ!』

 屋敷の周りを守っている、リチャードからユウキに現状の報告が入る。
 ユウキは、ユウキで侵入者に対応しながら、皆の状況をまとめて、指示を出している。

『そっちは、レイヤに任せる』

 ユウキは、すでに対処を行っていることをリチャードに告げて、新しい報告を聞いて、次の一手を考える。
 会話は、遠隔地でも通じる。スキルによるものだ。ユウキたちの情報を持って帰りたい者たちは、無線の盗聴を試みているが、何も情報が獲られない。それだけではなく、盗聴器を仕掛けようと侵入を試みても、悉く排除されてしまっている。

 ユウキが指示を出している間にも仲間から連絡が入る。
 昼間に到着して、少女の状態を把握した。それから、すぐに原因の排除に乗り出した。まずは、わかりやすく証拠となる毒物を確保した。そして、護衛とメイドを分離して、メイドを拘束した。わかりやすく、問題がない護衛にメイドを拘束した部屋の封鎖を依頼した。

 慌てたのは、少女を殺そうと動いている者たちだ。
 ユウキたちの目を盗んで、指示を出した者に連絡をしていた。無線の傍受は、成功しなかったが、会話を盗み聞くことは、ユウキたちには造作もない事だ。会話を録音して、執事に渡した。

『おい。ユウキ!今日の客は普段と違うよな?』

 普段から、各国のエージェントが情報を盗もうと暗躍している。侵入からの盗聴が目的なために、自衛以上の武器は所持していないことが多い。特に、言い訳が難しい、日本では所持が許可されていない武器は使ってこない。
 しかし、今日の侵入者たちは、”銃”を所持している。殺傷能力を持った”弾”を込めている。

『あぁ姫を狙っているのだろう』

 言葉と態度から、狙いはすぐに判明するが、ユウキは対応を返るつもりはなかった。
 返る必要もないと思っていた。確かに、”殺し”を普段から行っている連中だが・・・。ユウキたちの敵ではない。

『そうか、レイヤだけで大丈夫か?』

 レイヤが、拠点の周りを警戒している。レイヤの能力なら、問題はないと思われていた。

『エリク!無理だ』

 そのレイヤから、エリクにヘルプが入る。

 レイヤの”無理”というセリフは、皆がよく聞いていた。そして、この”無理”というセリフから、まだ奥があることも認識していたが、普段ならレイヤの愚痴を聞き流しつつ軽口を叩いて、レイヤに任せるのだが、今回は自分たちだけではなく、客が来ている。客に被害を出すわけにはいかない。

『わかった。サンドラ!街道の封鎖を頼む』

 答えたのは、エリクではなく、ユウキだ。ユウキたちの拠点には、招かれざる客でも2種類の客が居る。非合法な組織に属している人間と、表社会で偉そうにしている者やその関係者に雇われた者たちだ。
 前者は、無力化して拘束してしまえば、後始末は別の者たちがしてくれているが、後者は厄介な存在だ。
 ユウキたちに非がなくても、施設内で何かがあれば、ユウキたちを非難するのは解っている。そのために、施設に入れないようにしているのだ。街道を封鎖してしまえば、それらを排除することはできる。私有地のために、法的にも問題はない。

『手配してある。サンドラとフェルテが向かっている』

 ユウキからの指示を受けて、フェルテが現状を伝える。すでに向かっているのなら、街道からの”来客”は、しばらくは無視していい。問題は、街道の脇から入ってこようとする者たちだ。
 拠点に居る者では、ユウキたちが認めた者以外は、排除すべき”敵”だという認識になる。

『わかった。侵入者は殺していいのか?』

『リチャード!話を聞いていなかったのか?』

 リチャードが、嬉しそうな声で反応するが、エリクから訂正されてしまう。
 地球に残ったメンバーは、各々で”やるべき”ことがある。レナートに残ることを選択したメンバーは、サトシ以外は”人を殺す”ことに躊躇いを無くしてしまった者たちだ。理由は様々だが、地球での暮らしに不安を抱えて、レナートに残ったのだ。それでは、地球に来たメンバーたちが、”躊躇う”のかと聞かれると、”NO”と答えるだろう。ただ、手加減が上手いメンバーなのだ。敵と認定した者を殺すのに、戸惑う者は居ない。

 侵入者も、殺すだけなら、ユウキたちなら簡単な作業だ。
 殺さずに、無力化しているのは、その方が、抑止力になると考えているからだ。

『あぁ?』

『殺さずに無力化!』

 リチャードに待ったをかけたのは、ロレッタだ。リチャードとロレッタは、自分たちの復讐を終えて、ユウキの復讐に協力すると申し出ている。そして、ユウキの復讐が終われば、日本で式を上げることを希望している。

『わかった。ユウキ!何人か、回してくれ、思った以上に多い。縛るやつが欲しい』

 リチャードは、ロレッタからの指摘を受けて、ユウキにお願いを申請する。
 人数が多いために、無力化した連中を連れて行って欲しいということだ。”縛るやつ”と言っているが、縛るだけなら、リチャードのスキルで対応が可能だ。あえて、人を依頼するのは、運ぶのが面倒だと思っているからだ。
 ユウキも、リチャードの言い回しが解っているので、対応策をすぐに導き出した。

『わかった。森田さんにお願いしておく』

 ユウキは、すぐに無線を使って、待機している森田に連絡を入れた。
 森田たちは、無力化された者たちを回収して、然るべき対応を行っている。

『ユウキ!山側の対処は?』

 エリクが気にしているのは、山側に潜んでいる連中や遠距離からの狙撃を警戒している。

『終わった。街道が終われば、今日は大丈夫だろう』

 山側の対処を終わらせていた。
 ユウキたちが拠点を作るときに、気にしたのが、狙撃に適した場所だ。ユウキたちは、わざと狙撃ができそうな場所を作ってある。それも、巧妙に隠している。狙撃できそうな場所を作ったことで、その周辺を監視するだけで襲撃者のほとんどに対処ができてしまう。連絡方法を調べるなどで、他の襲撃者が判明する。
 ユウキは、狙撃者が居ることを想定して、山側の対処を先に行っていた。混乱した所を狙撃してくると考えたからだ。

 残敵は、街道から襲撃してくる者たちだけだと判断をしている。
 街道から拠点に向かってくる者たちの数は多いが対処は難しくない。無力化したあとの対応が面倒なだけだ。

『了解。俺も出る』

 エリクは、自分の担当している場所が、クリアになったのを確認して、街道に居る連中の対処を行う。

 ユウキは、皆の動きを確認してから、拠点に戻る。

「ユウキ様」

 出迎えたのは、執事のミケールだ。
 ミケールは、母国語ではなく、日本語でユウキに話しかけた。

「ん?日本語が話せたのか?」

「はい。試すようなことをしてしまい、申し訳ございません」

「いや、構わない。それよりも、何か用事があるのだろう?」

「はい。旦那様から、ユウキ様にお願いがあります」

「ん?お嬢様に関することか?」

「はい」

「必ず、希望に応えるとは言えないが、できる限りのことはしよう」

「ありがとうございます。旦那様から、ユウキ様の所で、数日で構わないので、お嬢様の療養を目的とした滞在のご許可を頂きたい」

「療養と来たか・・・。予定ではどのくらいだ?」

「可能なら、2週間程」

 ユウキは、ミケールの表情を伺ったが、ミケールの表情は変わらない。何か、裏があるのはわかるが、スキルを利用してまで調べる必要はないだろうと、結論付けた。

「わかった。ホテル並みの待遇を期待されると困るが、今日と同じレベルで良ければ提供しよう。療養なら、仕方がない。俺たちの治療の後で、療養が必要になってしまうと考えたのだろう」

「はい。療養の為に、滞在のご許可を頂きたい。その間の費用はお支払いいたします。また、お嬢様や私たちへの客がユウキ様たちにご迷惑をおかけいたしましたら、ユウキ様たちのご判断で処断していただいて構いません」

「いいのか?」

「はい。ご迷惑をおかけした費用もお支払いいたします」

「わかった。何か、処分に困る物が出た時には、相談したい」

「かしこまりました」

 ミケールは、ユウキに頭を下げてから、辞した。

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