切ないの記事一覧

2021/01/17

雪上の愛情

私は、雪が嫌い。私から、母さんを奪った雪が嫌い。同じくらいに、父さんが嫌い。 本当は解っている。母さんを殺したのは、私だ・・・。雪ではない。 私が、初めて無断外泊をした日。母さんは、死んだ。 私が住む地方では珍しく、その日は雪が振っていた。当たり一面を白く染め上げるくらいの雪だ。私は、地面に降り積もる雪に、自分の足あとが残るのが嬉しくてテンションが上がっていた。友達に誘われて、遊びに行った。スマホも携帯もそれほど普及していない時だ。家には連絡をしなかった。小さな・・・。小さな・・・。そして、大きな反抗だ。私…

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2020/05/07

【第五章 移動】第五話 休憩

 晴海と夕花は、小屋から出て、改造されたトレーラーから外に出た。周りに誰もいない状況なのは、礼登から報告が上がっている。 「うーん!」  疲れてはいないが、小屋の中でさっきまで寝ていた晴海は身体を伸ばした。筋が伸びるのが気持ちよくて、声が出てしまった。  夕花は、そんな晴海を見て嬉しそうにしている。 「夕花?」 「はい」 「何か食べよう」  晴海が差し出した手を夕花が握った。  指を絡めるようにして握った状態で、パーキングエリアにあるフードコートの中に入っていく。 「パーキングエリアとか、サービスエリアとか…

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2020/05/06

【第五章 移動】第四話 戯事

「夕花?」 「はい?」 「いや、なんか不思議そうな顔をしていたからな」 「あっ・・・。先程、移動ルートを教えていただきましたが、かなりの距離ですし遠回りになっていると思います。時間も、相当ゆっくりとした速度で走られるのですね?」  礼登が示したルートを一般的な車の速度よりも遅い速度で走っても6-7時間で到着できる。オート運転だと、礼登の示したルートでは行けない。効率が悪すぎるのだ。夕花の指摘は当然なのだ。 「速度は、礼登に任せたからな。多分、僕たちを気にしていると思う」 「え?」 「通常速度で移動されて、急…

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2020/05/05

【第五章 移動】第三話 礼登

 晴海と夕花は、ホテルに戻って、チェックインをしたフリをして、荷物だけを受け取ってエレベータに乗る。  一度、最上階まで登ってから、地下駐車場に移動する。トラクターにトレーラーを連結した状態で待機させてあると言われている。 「晴海さん。トレーラーは解ると思いますが、私たちが乗る車は、どれなのでしょうか?」 「能見さんが用意したから・・・。あった。あった。相変わらずだな」 「え?これが、そうなのですか?」 「そうだ。ナンバーが、863だろ?」 「晴海さん。愛されていますね」 「・・・。夕花・・・。可愛い顔して…

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2020/05/04

【第五章 移動】第二話 変装

「晴海さん。準備が終わりました」  話をしてから、1時間後には夕花の準備が終わってしまった。もともと、奴隷市場で売られていて、晴海が入札したので当然と言えば当然だ。晴海も、情報端末と身分証明が行える物だけを持って奴隷市場に来たのだ。  お互い、このホテルで用立てた物か、晴海が能見に依頼して用意した物しか荷物はない。  夕花の提案から、姿を消す方法で伊豆に向かうと決めたので、コンシェルジュに頼んでいた方法で脱出すると決めた。  晴海と夕花は、明日以降のスケジュールを大まかに決める。 「夕花。それじゃ、エステに…

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2020/05/03

【第五章 移動】第一話 方法

 晴海は悩んでいた。昼間に移動するか?夜に移動するか?  一人で悩むよりも、相談したほうが良いと判断した。 「夕花」 「はひ!」  夕花がおかしな返事をしてしまったのには理由がある。今日も二人でホテルの部屋で過ごしていた。能見に頼んだ、試験に必要な書類が届いたので、二人で勉強していたのだ。共通の勉強は、大学への入学申請に必要になるテストの対策テキストだ。試験は、形だけなのは晴海も夕花も認識している。せっかくだからと二人で勉強をしていたのだ。そして、夕花は復活した資格の上位資格を目指す勉強を始めた。能見からは…

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2020/05/02

【第四章 襲撃】第五話 移動

 昼食に近い朝ごはんを晴海と夕花は並んで食べた。夕花は、食事の度に場所を変えて食事を摂ってみるが、正面で食べれば晴海の視線が気になってしまうし、横で食べれば晴海の仕草が気になってしまう。そして、晴海の匂いを感じて、自分の匂いを晴海が感じているのかと思うと赤面してしまうのだ。  食事を終えて、夕花が食器を片付ける。最初は、晴海がやろうとしたが、自分の仕事だと言って夕花が行うようになった。 「晴海さん。何か飲みますか?」 「そうだね。コーヒーを頼むよ」 「はい。ミルクをたっぷりと砂糖は少なめですか?」 「うん。…

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2020/05/01

【第四章 襲撃】第四話 観察

 夕花は、朝の6時に目が覚めた。二日目の夜も何もなかった・・・はずだ。今までとは違う柔らかいベッドで寝ていた。白く綺麗な天井。カーテンから差し込む優しい光。すべてが、しばらく感じられなかった物だ。そして、自分が”奴隷”として六条(文月)晴海に買われたのを思い出した。 (昨日も、何もされなかった)  2日連続だと自分に魅力がないのかと思えてしまう。  夕花は、ベッドからゆっくり起き出した。夕花は、控室にあるベッドに入る時に、晴海から呼び出された時の為に、下着を脱いで寝ていた。寝る時に脱いだ下着を見つめてから、…

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2020/04/30

【第四章 襲撃】第三話 考察

 晴海は、夕花が寝ているのを確認してから、部屋のリビングに戻った。  情報端末には、次々と能見に頼んだ仕事が完了した情報が表示されていく。 (流石だな。仕事が早い)  晴海はローテーブルに、キャビネットから取り出したウィスキーを取り出す。キャビネットを探すが、欲しいもう一つの酒が見つからない。  ホテルのルームサービスで、氷とアマレットを注文する。普段は、飲まないが今日くらいはいいだろうと思ったのだ。  すぐに、先程対応したコンシェルジュが氷とアマレットを持ってきた、ロックグラスと短めのバースプーンも持って…

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2020/04/24

【4で割り切れて】400で割り切れて・・・

 空になったコップをテーブルの上に置いて旧友に愚痴を言う。 「ヨウコ!聞いてよ」  学生時代からの親友であるヨウコに話を聞いてもらう。 「はい。はい。今日はどうしたの?また、いつもの人?」 「そうなの聞いて!うるう年って有るでしょ?」 「うん」 「計算方法って知っている?」 「マキ。私のこと馬鹿にしているの?文系でもそのくらい知っているわよ。4で割り切れる年でしょ?」 「でしょ!でしょ!それでいいよね!」  私は、注文していたモスコミュールを一気に煽る。  ヨウコの顔が”今日も長くなるのか”と言っているよう…

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2020/04/20

【第四章 襲撃】第二話 情報

 夕花は少しだけ考えていた。  晴海が、自分を主寝室に呼ぶのではないかと・・・。  紅茶を飲み終わって、二人の間に沈黙が訪れる。  両者とも人付き合いが得意な方ではない。  晴海は、それなりの経験はあるが、人付き合いという面では受け身だ。  当然だろう。金持ちの子息なので、周りが勝手に興味を持って話しかけてくる。晴海の興味を引くためにいろいろな話題を振ってくるのだ。自分から話題を振るような必要は夕花と話をするまで必要なかった。 「晴海さん」 「なに?」 「今日は、どうされますか?」  晴海は時計を見る。 (…

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2020/04/20

【第四章 襲撃】第一話 監視

 晴海は着信を確認してから、通話モードに切り替えた。 「何かあったのですか?」  着信は、コンシェルジュからだ。 「文月様。夜分に申し訳ありません。先程、親戚を名乗る者が夕花様の事を問い合わせてきました」  晴海は夕花を見て、少し考えた。  不思議に思った事が2点ある。 「なぜ夕花だと?」 「はい。具体的に、写真を見せられました。当ホテルのエステを使われる前の夕花様に似ていらっしゃるお写真でした」 「夕花の名前を聞いたのか?」 「いえ、写真だけを見せられました」 「それで?」 「お泊りになっていないとお答え…

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2020/04/20

【第三章 秘密】第三話 会話

「夕花」 「はい。晴海さん」  晴海は、夕花を自分が座るソファーの前に座らせた。 「夕花の事を聞きたいのだけどいいかな?」 「私の事ですか?」 「そうだ」 「・・・」  夕花は、晴海がどんな答えを望んでいるのかわからない。わからないが、必死に考えた。 「どうした?」 「いえ・・・。お話できるような事はないと思います」  晴海は少しだけ困った顔をする。しかし、夕花に問題があるわけではない。晴海に大きな問題があるのだ。話を聞きたいとだけ言われて、どんな話をすればいいのか考えられる人間がどれほど居るだろうか?  …

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2020/04/20

【第三章 秘密】第二話 準備

「晴海さん」 「夕花。部屋で待っていてくれ。外からノックを3回したら鍵を開けてくれ」 「はい?」 「今から少しコンシェルジュに忘れた頼み事をしてくる」 「わかりました」  晴海は、夕花に先に部屋で待っているように言って、自分は一度ロビーに戻った。  コンシェルジュに頼んでおきたい事が有ったからだ。 「文月様。何か?」 「もうひとつの部屋の事を問い合わせた者が居たら教えて欲しい」 「かしこまりました。どの様にお伝えすればよろしいでしょうか?」 「端末にメッセージを遅れるだろう?」 「はい。大丈夫です」 「秘匿…

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2020/04/20

【第三章 秘密】第一話 部屋

 六条晴海が、待っている場所まで、文月夕花を連れてきたのは、赤髪の女性だ。  エスコートしているというセリフが似合っている。 「ご主人様」 「夕花。綺麗になったね」  少しだけ俯いて頬を赤く染める。 「よろしいのですか?」 「問題ない」  六条晴海は、赤髪の女性から、文月夕花の手を渡された。  紙幣を丸めた物をチップとして渡す。一礼して女性が立ち去った。  文月夕花はどうしていいのかわからないようだ。 「夕花。座っていいよ」 「はい」  そう言われても、六条晴海はラウンジにあるバーカウンターに座っている。横…

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2020/04/20

【第三章 秘密】閑話 夕花

 私の名前は・・・。あんな奴の名字なんて名乗りたくもない。  考えただけで・・・気分が・・・。悪くなる。  父は、愚者だった。  お金が欲しいくせに、汚い癖に他人に悪く言われるのがイヤで他人には文句を言わない。母にだけは強く出られる小心者だった。  働き者ではなく、小心者と怠け者で自分で考えることができない愚者だった。  父は、知人から持ちかけられた共同経営の話に乗った。  最初は会社がうまく回ってかなりの売上が出ていた。歯車が狂いだした。最初は些細なミスだったのかも知れない。父は、他人から責められる事に我…

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2020/04/20

【第二章 落札】第三話 合流

 全身コーディネートコースまで存在している。  ケチってもしょうがないよな。 「下着や服を、夕花に選ばせる事はできるのか?」 「もちろんできます。ご予算をおうがいいたしますが、文月夕花様に予算内で選んでいただく事ができます」  全身を一番高い物で固めてもそんなに高くは無いな。  女性物の服は・・・あるにはあるが、あれを着せる事はできない。 「わかった。次の事を夕花に伝えてくれ、 ・換えの下着と服。7日分を140万以上200万以下で揃えろ。 ・靴は5足。カジュアルとフォーマルを一足ずつと街歩き用を一足と山歩き…

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2020/04/20

【第二章 落札】第二話 契約

 今、僕は落札が成立したとして部屋に通された。  部屋の中にいる執事風の男性がいて、これからの手続きを説明して貰った。  目の前にある端末には、僕が落札した本人が希望をつけた奴隷契約書がある。  内容の説明を聞いた。 — 奴隷契約書  法規で定められた云々から始まっている。  ん?条件が何も書かれていない。  執事風の男性に質問する事にした。 「これでいいのですか?条件が書かれていません。通常、解放の条件や待遇が書かれていると先程お聞きしました」 「はい。通常ではそうです。18番からの条件は口頭…

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2020/04/20

【第二章 落札】第一話 締切

 壁のタイマーが残り60分をしめした。  館内放送でも同じ事が告げられる。  入札を終えた人たちはひとまず入札をしなかった奴隷の部屋を最後に見て回っている。  必ず入札が成立するわけではない。相思相愛にならないと落札できないのだ。  問題なのが、複数に入札を行った者が両方の奴隷を落札してしまった時だ。  この場合には、先に入札を行った方が優先される仕組みになっている。奴隷側には、複数入札が解るようになっているので、選ぶときの指標にもなる。  壁のタイマーが徐々に少なくなっていく。  残り10分になると、廊下…

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