【第七章 日常】第四話 住居
狙っていた通りに、暗くなってから、六条が所有する離れ小島の前に到着した。
ナビが示しているのは、島の中央ではなく、海沿いになっている。島の全体が私有地なので、地図は表示されていない。
「晴海さん。入口が封鎖されています」
夕花が指摘した通り、島の入り口は封鎖されている。
厳重な門の扉が閉じられている。島に向かう道路にも高い壁と鉄柵で海からの侵入を防いでいる。
門には、ガードロボットが配置されている。武装が許可された物だ。
「大丈夫だよ」
晴海は、情報端末を取り出して近づいてきたカードロボットに認証させる。反対側に回ってきたガードロボットに夕花も情報端末を近づけて認証させる。
”文月晴海様。認証いたしました”
”文月夕花様。認証いたしました”
晴海の持つ情報端末から、認証が終了した旨のメッセージが再生される。
晴海が、情報端末を操作すると、門が開いた。
車が門を通り抜けると、門が閉まる仕組みになっている。
晴海が島に繋がる道路を走る。公道ではなく完全に私有地なので、アクセルを思いっきり踏み込んでも問題ではない。道が蛇行しているので、速度は出せない。両脇を壁に覆われている為に、圧迫感もある。島に入るための門が見えてきた。晴海は、門の前に停車してガードロボットに情報端末を認証させる。夕花も同じ様に情報端末を認証する。
シャッターの様になっている物が開いてから門が開く。裏側にもシャッターがあるので、3重になっているのだ。
「ふぁぁ」
門をくぐって、島の内部に車を進めた。
夕花は、島とだけ聞いていたので、何があるのか知らなかった。私有地になる前も軍の持ち物だったために、非公開になっていた。軍が使っていたときの名残も存在する。ヘリポートは当然だが、小型戦闘機の離着陸が行える滑走路もある。今は、六条の小型機が置かれている。
軍の駐屯施設として、必要な建物はすべてが揃っている。六条家が買い取った後も施設は壊さないで残してある。島の南側に軍の施設が集中している。中央に道路があり、北側が住居スペースになっていた。住居スペースは壊され、六条の別荘地となっている。木々が植えられて、池まで作られている。
それらの光景が、夕花の目の前に広がっている。
晴海はゆっくりとした速度で、ナビが示す場所を目指す。
地図が表示されないので、ビーコンだけが頼りだ。
島の北側にある高台がビーコンの示す場所のようだ。
(あのやろう・・・)
晴海にあてがわれた別荘もこの島に存在していた。しかし、場所は違っていた。
ビーコンが示す場所は、先代が使っていた別荘で間違いないようだ。確かに、セキュリティを考えれば一番なのだろう。諦めの気持ちのまま、晴海は車を走らせた。北側の一番奥にある。他の場所よりも、30メートル程度高い場所にあり、一本道は大型トラックがギリギリ通られる幅しか無い。屋敷に入る為には、坂道になっている一本道を通っていくしか無い。両脇は高い壁で、もちろん頑丈な門が設置されている。
壁は全部の場所が反り返っている。古き良き日本の城を彷彿とさせる作りになっている。石垣ではないが、似たような効果が期待できる壁だ。
「晴海さん?本当に、ここですか?」
「そうだな。門が、俺の情報端末に反応している。多分、夕花の情報端末にも反応があると思うぞ・・・。認証を許可してくれ・・・。はぁ・・・。二人だぞ?どうしろというのだ?」
晴海も夕花も、認証を行った。
これで、晴海と夕花が”ここ”に住むのが確定したのだ。他に選択肢が示されていないので、”ここ”に住むしか無いのは解っているのだが、外から見ただけで”頭痛が痛い”状態になってしまう。
高台にある家は、”平城”なのだ。見えているのは天守なのだろう。大きさから5階建てだ。
晴海は、細い道を上っていく。
石壁もしっかりと整備されている。中に入ると堀の変わりだろう、5メートルほどの幅で水が満たされている。循環は、内部の池と島の池で総合的に行われていて、真水になっている。浄化槽も島に備え付けられている。軍の施設だった名残で、2-3年の籠城にも耐えられるようになっている。地下には、シェルターも備え付けられている。
晴海は、能見が”屋敷”と呼んでいたのを思い出した。”屋敷”と呼べるのは、”平城”だけだ。
上がった先にも門があったが、能見の報告に有ったように、認証は通してあるようだ。門が開いて中に入る。
天守以外は、駐車スペースと大きな庭と塀がある。他にも、建物があるが使用人が住む場所の様だ。
「正直、使用人の部屋でも十分だけど・・・」
「晴海さん。多分ですけど、能見さんや礼登さんがものすごく残念な表情をされると思います」
「そうだよな。それに、脱出路は、天守にあるし、海に出るためのエレベータやシェルターへの入口も天守だろう・・・。ダメだな。諦めるか」
「はい。全部使う必要は無いですし、どこか適当な部屋を探しましょう」
「夕花は、能見が解っていないな。アイツのことだ。俺と夕花の寝室は、間違いなく最上階にしているはずだ」
「え?」
「ベッドが配置されているのが、最上階だと思うぞ」
「あっ・・・。でも、晴海さん。昼に寄ったショッピングモールで、布団一式を買っています。セミダブルですが問題はないと思います」
「!!そうだ!買ったな。偉いぞ!夕花!ザマァ!!能見!ここの風呂だけは最高の場所だから、それだけは認められる!夕花!荷物をガードロボットに預けて、部屋を探そう」
晴海のテンションが上がる。能見の裏をかけたのが嬉しいのだ。
「はい!探検ですね!」
こころなしか夕花のテンションが高い。晴海の手を引っ張って天守にはいっていく。
「夕花。ちょっとまった。荷物をガードロボットたちに持たせる」
「あっ・・・。ごめんなさい」
「いいよ。初めての場所ってワクワクするのは解るよ。先に部屋を探そう。それから、ガードロボットに指示を出したほうがいいな」
「はい!」
「その前に・・・。ガードロボット。天守の地図を頼む」
晴海は、自分の情報端末をガードロボットに翳しながら命令する。
”地図を転送しました”
晴海が、転送された地図を開いた。
「あの野郎・・・・。悪趣味だ!」
「??」
晴海は、情報端末に表示されている地図を夕花に見せた。
「・・・。え?流石にこれは・・・」
夕花は、晴海に断って階層別になっている地図を操作した。
地図は、7階の天守と地下以外は通路と階段だけが表示されている。それも一部だけだ。1階の入口から地下に繋がる階段が表示されていた。地下には1階から繋がる階段とは別に、階段でシェルターと桟橋に行けるようになっている。
それ以外の場所は、可愛い丸文字で”はるみさま。ゆうかおくさま。れっつたんけん!つかれたら、7かいでおふたりでおやすみください。かんしカメラははずしてありますのであんしんしてね。7かいには、ちかからしかあがれません!あなたをあいするのうみより(はあと)あ!あとのへやのかぎはかくしてあるよ。たんけんしてみつけてね。じゅんびがたいへんだったよ”と書かれていた。それも丁寧に、1階から6階まで同じ内容を違う書体で書いてあった。
「駄目だ。夕花・・・。殺意が湧いてくる」
「・・・。能見さん。これは、フォローする気持ちになれませんよ。私も、イラッときました」
夕花も、この場に居ない能見をフォロー出来ない。居たとしてもフォローする気持ちにはならないだろう。
能見のくだらない策略で疲れ切ってしまった晴海と夕花は、能見の手に乗るのは癪だがそれ以上に面倒に思えてきた。屋敷にはいって実感した。靴を脱ぐスタイルになっているのは別に問題ではない。二条城などはこのスタイルだ。本当に、部屋に鍵がかけられている。それだけではなく、鍵の場所を示すヒントが書かれていて、それがまた晴海を苛つかせる。クイズだったり、パズルだったり、なぞなぞだったり、そう思ったら数学の問題や物理の問題もある。
最初に与えられた情報は、7階は晴海と夕花の情報端末でしか行くことが出来ない。部屋は、寝室と晴海と夕花の個室。それにリビングとオープンキッチンだ。もちろん、トイレも2つ設置されている。寝室にはシャワールームもある。7階だけで生活が完結出来るようになっているのだ。
地下には、大きめの食堂と海に飛び出る形になっている大浴場があり。天窓があり簡易的な露天風呂にもなる作りだ。7階に行くには、地下に一度降りてから直通エレベータで上がるか、桟橋に繋がるエレベータで上がるしか方法がない。シェルターも7階から直接行ける。7階には、3基のエレベータが設置されていて、地下と桟橋とシェルターに直接行けるようになっている。
「晴海さん。もう7階で生活しませんか?なんか、能見さんに見透かされたようで癪ですが、きっと探検すればしたで、精神的に疲れると思います」
「そうだな。そうするか・・・」
晴海と夕花は、車に戻って、ガードロボットを呼んで、荷物を持たせてから、7階のリビングに運ぶように指示をだした。
”地下の食堂から、荷物運搬用のエレベータがあります。モニタで確認後、お受け取りください”
「・・・」「・・・」
晴海は、能見の手のひらの上で踊っていたのが解って天を仰いだ。
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