【第十章 エルフの里】第八話 エルフたち
「リーゼ様。ヤス殿。私は、エルフの里長候補の1人で、ペドロと言います」
ヤスを、射殺すような目線で見てから、リーゼに頭を下げながら”ペドロ”と名乗った。ヤスは、面倒な流れだと思いながらも、ペドロを観察し始める。
ヤスの存在は、ペドロの中からは完全に消えていた。リーゼの従者としてしか認識をしていない。
ペドロが、リーゼに美辞麗句を並び立てている所で、ドアがノックされた。
「誰だ!リーゼ様が、この俺様!ペドロ様の話をお聞きしているのを邪魔するのは!」
ヤスは、ペドロから出たこのセリフだけで、目の前に居るペドロを”胡散臭いやつ”と認定した。自分のことを”様”付で呼ぶやつにまともなやつは居ない。ヤスが、少ない経験から学んだことだ。
「ペドロ!」
ペドロの声に反応して、ドアを乱暴に開けて部屋に入ってきたのは、エルフの男性だ。
「誰だ!」
イライラし始めていたヤスは、ドアから入ってきたエルフ族の男性を睨みつける。
「失礼。私は、エルフの里親候補の1人で、フリッツと言います。そこで、リーゼ様にまとわりついている愚か者とは違う集落の者だ」
「愚かとは心外だな、貴様たちのように、現状を受け入れられない者たちと違う考えを持っているだけだ」
「それが愚かだと言っている。我々は、森に住み、森に愛されている。だからこそ、リーゼ様をお迎えするのは、我らだ」
ヤスとリーゼの目の前で、言い争いを始める二人のエルフ。
ここまで来るとヤスも理解する。
「ペドロ!フリッツ!リーゼ様。失礼いたしました。私は、エルフの里から、リーゼ様をお迎えに上がりました。カストロと言います。リーゼ様の婿候補筆頭です」
「カストロ!いい加減なことを言うな!リーゼ様には、俺様が、森を支配するフリッツが相応しい」
「何を!貴様たちは、交流もなく引きこもっているだけではないか、我らの派閥のように、稼ぎがなく、リーゼ様を幸せにできるのか?」
3人は、その後も自分こそがリーゼに相応しいと言い争いをするだけで、ヤスとリーゼは状況を見守るしか出来ない。
「おい。リーゼ。これは?」
「ヤス。僕が知っていると思う?」
「思わないけど、一応、聞いてみた。このまま帰るのは”あり”か?」
「うーん。僕もそうしたい」
ヤスとリーゼが二人で会話しているのだが、エルフの男たちは大声で怒鳴るだけで何も建設的な話が出来ていない。
”ばーん”
ドアが叩かれる。
怒鳴り合っていた3人が、ドアをミル。驚いた、ヤスとリーゼもドアを叩いた女性を見つめる。
「え?」
リーゼの反応は、間違いだが、間違っていない。
「アフネス・・・。ではないな」
ドアを叩いた女性が、ヤスの前まで来て、跪いた。
「マスター・ヤス。神殿の主様。同胞が無礼をいたしまして、もうしわけございません。咎は、私にあります。私の命だけでご容赦ください」
「まて、まて、意味がわからない。まず、あなたは?」
「失礼いたしました。私は、ラフネス。アフネスの妹で、現在、里の長の1人でございます」
ヤスは、リーゼを見るが、首を横に降って、知らないとアピールする。
「長!人族の小僧に、頭を下げる必要はない!リーゼ様が帰ってこられたのだぞ!我らでお迎えするのが、当然ではないか!」
「そうだ!」
「貴殿たちは、長の決定に異を唱えるのですね。そもそも、貴殿たちは長候補でもなければ、婿候補でもない」
ヤスがリーゼの前に出る形になって、エルフたちからリーゼを隠す格好になる。リーゼも、ヤスの背中に隠れることで感情が落ち着きを取り戻した。
「ラフネス殿。まずは、俺たちは手紙を届けに来ただけだ。これは間違っていないよな?」
「はい。神殿の主様」
「”里に招かれている”とは思っていない。要望にもない。そもそも、リーゼは道案内で来ているだけだ。俺は、リーゼが残ると言わない限り、神殿に連れて帰る義務がある。これは、理解しているよな?」
「はい。もちろんです。里に来て欲しいというのは、私たちエルフの里が思っている、要望です」
「わかった。要望なら、話ができる。それならなぜ、3人は、それぞれが”リーゼ”を連れて行こうとした?リーゼの意思を確認しないで?」
「それに関しては、もうしわけない・・・。と、しか言いようがありません。各派閥には通達を出したのですが・・・」
「わかった。それで?」
「”それで”とは?」
「俺たちは帰って問題はないな。依頼は達成したのだから」
「ふざける」「黙れ、お前らみたいな奴がいるから、俺は帰ると言っている。リーゼが残ると言わない限りは、早々に帰る」
「お待ち下さい。神殿の主様。不手際をお詫びいたします」
「あのさ、言いたくないけど、”不手際をお詫びします”は、解ったよ。それで、何をしてくれる?この3人がいる場所では、リーゼが怯えて話が出来ないのは、見ていてわかるよな?俺が、どんどん機嫌が悪くなるのもわかるよな?待たせて、いきなりやってきて、リーゼを連れて行こうとする。俺が知らないだけで、エルフという種族では、初対面の女性を無理矢理連れて行こうとするのがマナーであり、当たり前なのか?」
「・・・」
「ヤス」
ヤスの背中に隠れていたリーゼが、言葉を発しようとするが、ヤスが制する。
「どうした?何も、言い訳が出来ないのなら、俺はいるべき場所に帰る。世話になった、ラナからの依頼だから受けたが、金輪際エルフに関わる依頼は、神殿では受けない。もちろん、受け入れている住民はこれからも問題はないが、これからどんな理由でもエルフ族は俺が管理する神殿では受け入れない。それでいいな」
「お、お待ち下さい。お前たち、下がりなさい。里に帰っていなさい」
3人は、ヤスをにらみながら、部屋から出ていく。部屋から出ていきなり悪態をつき始めるが、ヤスは気にしないことにした。
ラフネスが立ち上がって、扉を締める。しまった扉を見て、リーゼがヤスの後ろから出てきた。
「それで、俺とリーゼは何に巻き込まれている?状況を教えてくれ」
「え?」「・・・」
ヤスの言葉を聞いて、リーゼは驚いた。今の流れから、ヤスが”巻き込まれている”と言ったのだ。リーゼは、自分の問題だと認識していたが、ヤスまで巻き込まれているとは思っていなかった。
ラフネスは、ヤスの言葉が真実を言い当てていたので、驚いたのだ。
「まずは、座ってくれ、リーゼに聞かせられる話なら、リーゼと一緒に話を聞く」
「はい。リーゼ様にも関係がある話です。是非、お聞きください」
ヤスは、横に座っているリーゼに話しかける。答えは解っているが、意思を確認するのは大事なことだ。
「リーゼ。あまり、楽しくない話だけど聞くか?」
「うん。僕も、ヤスと一緒に聞く」
ヤスは、リーゼの答えを予想していたので、そのままラフネスに話を始めるように促す。
ラフネスは、椅子に座り直してから、二人に向って頭を下げる。感謝の意を示した。
「はい。まず、本題に入る前に、エルフ族に関してご説明します」
「わかった」
「エルフの里には、4つの集落があります」
「それが、派閥か?」
「はい。そう考えて頂ければ・・・。そして、4つの集落から、それぞれの代表・・・。長が存在します。その長が集まって、エルフ族の代表を取り仕切っています」
「ラフネスは、どこの長だ?」
「私は、村の長です」
「そうなると、この村がそうなのだな」
「はい」
「そうなると、3人は森の中に住んでいる、者たちなのか?」
「そうです。集落が3つに解れていて、森の奥地に住む者たちと、森の中にある泉の近くに住む者たちと、森の入口の集落に住む者たちです」
「仲が悪いのか?」
「長老たちは、問題はないのですが、100歳前後の若者が・・・」
「あぁなんとなく想像が出来た、選民意識が芽生えてしまっているのだな」
「はい」
ラフネスが、ちらっとリーゼを見たので、ここからがリーゼが関係する話になる。
ヤスは、手を上げて一旦話を遮って、飲み物を用意することを提案する。ラフネスも、ヤスの提案に従って、飲み物の調達をしてくると部屋を出ていった。
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