【第五章 共和国】第五十三話 出立準備

 

アルトワ・ダンジョンの要塞化は、残りは中身をソフトウェアを整える段階に入った。ここからは、時間がかかる為に、アルトワ・ダンジョンに残る者たちに任せることになる。

残る者たちの手助けに鳴るように、警報装置を設置した。
結界を応用した物だが、消費を抑えた魔法プログラムが完成した。かなり機能を削ったが、アラーム程度には使える。アルトワ・ダンジョンに近づいた者をマーキングするだけの魔法だ。
正規の手続きをしないで、城壁を越えたらアラームが鳴るようになっている。
出来たらブラックリストを作りたかったが、そこまで組み込むと消費を抑えることが難しくなりそうだった。
常時発動しているのは、極々小さなモジュールで、そこから数秒単位で、探索サーチを行うようにしてある。あとは、コアの仕組みを使ったイベントを拾えるようにしてあるが、イベントが遅れる事象が見られたので、イベントでの通知は補助程度だと考えている。
成長がある程度まで進めば、イベントや処理に割けるリソースが増やせる。増えたら状況が変わる。

クォートとシャープが戻ってきた。
アルトワ町では何もなかったようだ。考えすぎていたのか?

「旦那様。食料は余剰がないという事でしたので、水場から水を得てきました。他にも町で余剰な物を買ってきました」

元々、食料の余剰があるような町ではなかった。
それに、援助が無ければ立ち行かなくなるのが解っていた。俺たちが持っていた余剰分を分け与えたのだが、焼け石に水状態だったのだろう。短期的に改善できる手段と考えたのが、愚かな行為だ。

町で余剰になっていたのは、薪だろう。
他にも、石材も余っている可能性がある。俺たちには必要はないが、買い取れる物は買い取っておこう。俺たちには必要はないが、アルトワ・ダンジョンには必要になる可能性もある。

「クォートとシャープが必要ないと判断した物は、アルトワ・ダンジョンに置いて行こう」

薪なら、有っても困らない。
最悪は、ダンジョンに吸収させてしまってもいい。邪魔な荷物を捨てる場所としても都合がいい。

「かしこまりました。情報も多少ですが仕入れてきました」

情報か?
それほど必要になるとは思えない。共和国のダンジョンは俺たちの支配下にある。情報は、ダンジョンからでも搾り取れる。それだけではなく、ダンジョンに依存していた場所は、これから衰退するだろう。採取だけではなく、魔物の討伐が難しくなり、素材の確保ができなくなる。
依存の度合いで変わってくるが、それでも、多くの町や都市が崩壊する可能性が高い。カルラを通して、アイツらにも伝えている。対共和国で戦端を開くとは思えないが警戒をしておく必要がある。
その為の、アルトワ・ダンジョンでもある。

「ありがとう。食料が買えなかったのか?偽装の為だから、無ければないでしょうがない」

食料があれば嬉しかったが、無ければ手持ちから出せばいい。
動物を探して狩ってもいいだろう。俺たちだけならなんとかなる。

「はい」

「情報は、カルラに渡してくれ、俺が知りたいのは、町の様子だ」

情報は、俺よりもカルラの方がうまく使えるだろう。
それに、俺が持っていてもうまく使える自信がない。

「衰退を受け入れている感じでした」

働き手になりえる者たちが捕まったり死んでしまったり奴隷落ちしたり衰退を受け入れるしかないのだろう。
立ち直る方法はまだあるとは思うが、俺が心配するようなことではない。きっかけは、俺たちの行動だが、破滅への道を選んだのは、町長たちだ。

「わかった。ありがとう。エイダと合流して、出立の準備をしてくれ」

衰退を受け入れている?
そんな感じなのか?
少しだけ意外な感じがした。良くも悪くも、足掻いているのかと思っていた。衰退を受け入れたのなら、俺たちが顔をだしても問題にはならなかった可能性もあった。

エイダは、カルラと協力して出立の準備を行っている。
馬車の改造から始めているから時間がかかった。クォートとシャープが帰ってきたのなら、馬車と馬の問題は解決する。

今、エイダとカルラが調整を行っている馬車は、荷馬車にすればいいだろう。
俺たちが付悪の葉、クォートとシャープが使っていた馬車だ。

「かしこまりました」

クォートとシャープが頭を下げて、馬車をアルトワ・ダンジョンに移動する。
カルラとエイダが馬車を改造している場所は、誰かに聞けばすぐにわかるだろう。そもそも、エイダが居れば、クォートとシャープを誘導するのは簡単だ。今は切断されているが、エイダはアルトワ・ダンジョンの影響下に居る。クォートとシャープも影響下に入った事で、コネクトができるようになっているはずだ。

クォートとシャープに出立の準備を頼むことにした。準備はカルラが済ませている。最終確認と、馬車の偽装が残っている状況だ。最終確認だけなのだが、クォートとシャープなら安心して任せられる。

二人を見送ったあと、俺は城壁を越えて、森に向かうことにした。
スキルの実験を行っておきたい。アルトワ・ダンジョンの影響下だと、スキルの消耗がわかりにくい。独立した状況で、判断しておきたい。
確認を行いたいプログラム魔法は新しく作った物だけだ。W-ZERO3での動作確認は出来ている。あとは、影響下から外れた状況でも、ダンジョンにアクセスを行ってデータの表示ができるのか?レスポンスには問題はないのか?それらの判断をしておかなければならない。
もし、レスポンスが悪い場合には、削れる機能を探さなければならない。

城壁近くまで歩いた時に、後ろからアルバンが呼びかけてきた。

「兄ちゃん」

「アル?」

もしかしたら、カルラに俺の護衛をするように言われたのかもしれない。
必要ないとは言わないが、この辺りなら大丈夫だろう?

アルトワ・ダンジョンの影響下なら大きな問題が発生するとは思えない。カルラも、解っているのに・・・。

「兄ちゃん。どこに行くの?」

「森の中を散策しようと思っただけだ。アルも来るか?」

「うん!あっカルラ姉ちゃんも呼んでくる」

やはり俺の行動を知りたかったのだろう。

「そうだな。一緒の方が・・・」

カルラを呼ばなかったら、護衛を連れないで・・・。とか、小言を貰いそうだ。

アルバンに、カルラを呼びに言ってもらう間に、新しく作った結界探索機能付きを試してみよう。

徐々に範囲を広げていく、動物らしき物が数体だけヒットするだけで、近くには魔物は存在しないようだ。
アルトワ・ダンジョンに居る者たちは、登録を済ませてあるので、味方判定にしている。これから、人が増えたら味方以外のフラグも用意しておいた方がいいだろう。

2キロくらいまでなら広げられることが解った。
外で使うには、2キロの距離があるのなら、逃げるにしても、戦うにしても、時間的な余裕がある。余裕があれば、対処も考えられる。問題は常時発動型ではないので、イベントの取得を工夫しなければならないことだ。動かない結界なら、問題はないが、俺を中心にしている場合には、イベントの買える場所
が実行されるか解らない。

「本当ですか?」

「本当ですよ?お疑いですか?」

「いえ。いえ。あなた様は、信頼できるお方です。アイツらとは違います」

「そうだ。彼らは、強いですからね。貴方に、これを授けましょう」

「これは?」

「少しの傷でも貴方の望みを叶えてくれる物です。予備を含めて、3本ほどあります。ダンジョンで得た物ですが、貴方の気持ちを考えて、お渡しいたします」

「よろしいのですか?」

「私も商人ですので、対価をいただきたいと思います」

「すみません。お支払いできる物が・・・」

「あぁ大丈夫です。金貨や銀貨ではありません。貴方が支払えるものです」

「それは?」

「貴方の目的が成就できた時にお話をしましょう」

「よろしいのですか?」

「かまいませんよ」

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