【第二章 スライム街へ】第二十二話 中盤

 

 結界はまだ作用している。
 キャンプ場に居た魔物たちは、討伐できている。人の遺骸も見つかっている。人数は解らないが、マスコミが騒ぎ出すには十分な数なのだろう。

”ライ。人らしき遺体は、一か所にまとめて”

『すでに指示をだしてあります』

”ありがとう”

 さて、中盤戦だ。

 オークの上位種と色違いが相手になる。

 オークの上位種だけなら、私とカーディナルなら、100体でも対応ができる。
 でも、上位種の後ろに色違いが見える。オークが群れになっている。色違いは、戦力分析が難しい。よくわからない。

 オークのテリトリーはわかっている。今まで、戦ったこともある。

 分断は難しそうだ。
 共闘してくるとは思えないが、同時に襲ってくるくらいはありそうな距離感だ。

”全部で、20体くらい?”

『はい。23体です』

 戦っているのは、私たちだ。この場所で見ていても、誰かが数を減らしてくれるわけではない。
 自然と消えるような状況でもない。

”いくよ!”

 全体の指揮官になっていると思われる、オーガの色違いや上位種をキングとクイーンが対応している。早くしないと、負担が増えるばかりだ。

『はい』

 作戦は、ゴブリンたちと対峙した時は違う。
 オークが集団になっているためだ。外側からスキルで攻撃を加えて、倒れた場所から徐々に内部に食い込んでいく作戦だ。連携が取れている私たちだからできる作戦でもある。

 スキルで全体に攻撃を行うと、オークたちは動き出す。

”フルオープン”

 持っているスキルを使っての攻撃を許可する。
 私とライとカーディナルとアドニスは、スキルを温存する。オークたちの始末は、他の者に任せる。私たちは、オークたちを攪乱する役目だ。被弾しなければ、家族でも余裕なのだが、色違いがいる事から、被弾は命に関わってしまう。私とライなら、分体がやられてしまう可能性はあるが、命は大丈夫だ。何度か説明はしているが、家族からは反対されている。私もライも、被弾して分体を失うと、家族が心配してしまう。

 オークたちを観察していると、上位種と色違いしか居ない。
 通常個体は居ないようだ。通常個体が居れば、そこから切り崩せたのに・・・。

”アイズ!”

 私の指示で、アイズ隊からスキルが放たれる。
 一つの塊となる攻撃がアイズ隊は得意だ。火のスキルを風のスキルで相手にぶつける。単体の火のスキルよりも、効果が強くなる。連携技だが家族なら簡単にやってのける。

”ディック”

 数はそれほどではないが、ディックも参戦している。
 土のスキルが得意な者が来てくれている。足元に土のスキルを使って、小さな落とし穴を作る。10cmにも満たない落とし穴だが、オークたちのバランスを崩すには十分だ。

 バランスを崩したオークに、ドーンたちが突撃する。自分自身に強化スキルを使って、体当たりを行う。

 倒れたオークを、集中してスキルで攻撃する。できるだけ近接での戦闘はしない。

 近接での戦闘を始めれば、左右から倒れたオークもろとも攻撃を受けるのはわかっている。魔物たちには、仲間意識がないように思える。

 一体、一体、しっかりと倒していけば時間はかかるが討伐は完了できる。

”ライ。キングとクイーンは?”

『大丈夫です。余裕を持って、対応ができています』

”こっちは、残りは作業のような事だから、何人かは回せると思うけど”

『キングから、数が増えると、オーガたちからの攻撃を受ける者が分散してしまう可能性があるから、今の数で対応するということです』

”わかった。それなら、オークたちへの攻撃を強めて、オーガに早めに向かおう”

『はい』

 攻撃を強める指示を出す。
 もちろん、私やライがスキルを使えば、もう少しだけ早く討伐はできるのだけど、作戦の都合上、私とライとカーディナルとアドニスは温存する。

 特に、スキルは温存しておいた方がよいだろうという結論になっている。
 オーガの強さが未知数なのが大きな理由だ。

 キングとクイーンからの報告も逐一聞いている。徐々に分析も終わって、当初の予想している範囲を大きく越えない程度だと報告が来ている。安心できる情報だが、奥の手を残している可能性は存在している。

 オークに関しては、もう心配しなくてもよさそうだ。
 まとまっていた形だが、分断に成功している。最初は、中央に割り込んで、二つに割る。その二つを更に二つに割る。これを繰り返していけば、分断ができた。押さえる者たちの相性を見極める必要があるが、上位種はスキルを使用してこない。スキルが使えたとしても、ダメージを与えるほどではない。これは、今までの戦闘でわかっている。色違いは、”色”でスキルが判定できる。スキルは強力だけど、頻度は多くない。あとは、スキルの兆候を見逃さなければ対応はできる。

 肉塊に変わっていくオークたち。
 多くのラノベでは、オークの肉は食べられるとなっているが、目の前にある肉は”食べる事ができる”程度だ。スライムになって味覚が変わってしまっている可能性もあるが、おいしくはない。普通に、イオンで売っている100g100円を少しだけ越える程度の豚肉の方がおいしい。いろいろ加工してみたが、おいしくならなかった。パルの眷属やライが吸収して消費する。

『マスター。オークの処理は?』

”肉は、保護した動物たちが食べるかな?”

『肉食の者は食べるとは思いますが、それほど多くはないので、肉を確保する必要はありません』

”それなら、必要な部分だけ持って行って、放置。牙と魔石は確保。あと、心臓も確保して”

『はい。心臓は、吸収してよいですか?』

”うん。色違いなら、脳も吸収する?”

『はい。数体の脳を吸収してみようと思います』

”わかった”

 私とライが、オークたちの処分を検討していた時に、最後の色違いがバランスを崩して倒れた。
 そこに、皆のスキルが殺到する。

 最後は絶叫を上げる暇を与えないで倒しきった。

 さて、残るは、周りに散らばっている動物から魔物に進化した者たちと、オーガだ。

 何者かの攻撃で、投光器が壊された。
 その後すぐに、近くにある車のヘッドライトも壊されてしまった。光を付けなければ壊されないとわかった時には、半数以上のヘッドライトが何者かに壊されたあとだ。

「・・・」「・・・」

「おい。円香?」

「あ?」

「お前・・・。見えているよな?」

 榑谷円香に、桐元孔明が普段の言葉使いも忘れて問い詰める。

「聞きたいか?」

 ため息をつきながら、榑谷円香は桐元孔明を見る。”見えていた”という表現が正しいのだが、他の者には感知ができない事象を、榑谷円香は”見る”ことができる。そういうスキルを持っている。

「是非、聞かせてくれ」

「蒼。孔明。後悔しないか?」

 二人は、榑谷円香から告げられた”後悔”は、すでに何度もしている。そのために、今更の気持ちが強いので、素直に頷けた。

「わかった。茜!」

「はい?」

「お前も聞いてほしい」

「わかりました。千明は?」

「そうだな。一緒に・・・。キャンピングカーの中で話をしよう」

「わかりました!」

「孔明も、蒼も、それでいいよな?」

 二人が頷いたのを見て、手に持っていたカップを持ち上げて、キャンピングカーに移動する。

「それで?円香。何が見えた?」

「まずは、状況の整理がしたい。そのうえで、見たことを説明する」

「わかった」

 桐元孔明が、皆を代表して、榑谷円香に質問をする。
 質問は、誰が初めてもいいが、質問に答えるのは、榑谷円香だ。ギルドの代表に、質問ができる人間は少ない。それでなくても、榑谷円香は秘密主義ではないが、説明がうまくない。そのために、桐元孔明がしっかりと質問をしないと、話が飛んで収拾がつかなくなる。質問に質問で返される可能性もある。そして、回答を整理して皆につたえる必要がある。その役目は、桐元孔明にしかできない。

「茜」

「はい?」

「透明な壁の確認は?」

「範囲は、推定も入りますが、確認が終わっています」

「地図に出してもらえるか?」

「モニタに表示しますか?」

「せっかく、周りが暗いから、プロジェクターで投影してくれ、投影したほうが、皆が見えるだろう」

「わかりました」

 里見茜が、端末を操って、プロジェクターでデータが投影される。

 皆の視線が、榑谷円香に集まる。

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