【第五章 共和国】第五十六話 同行者?
クォートとシャープとの合流まで、半日程度の距離に到着した。
順調な行程に、少しだけ不安を覚える。
俺たち側には、問題は出ていない。
アルバンが暇をもてあましたのが、問題と言えば問題になっている程度だ。俺もカルラも、それぞれでやることがある。何もないアルバンだけが暇を持て余している状態になってしまっていた。狩りに出かけようにも、目的が合流なので、俺たちから離れての行動は許可できない。食料の調達や素材の確保も現状では必要ない。流石に、文句は言っていないが、何もない状況に飽きているのが目に見えてわかってしまう。
しかし、俺もカルラも王国に戻ったあとに発生すると考えられる。面倒な処理を先に行おうと考えていた。主に、過保護な奴らに見せる報告書だ。
こちらに向かっているクォートとシャープたちにも、大きな問題はないは発生していない。しかし、順調だとは言えない。
向こうからは、定時連絡がしっかりと入っている。行程に問題は出ていない。合流にも問題はないと思われる。
クォートとシャープの隊列に、付かず離れずの距離で同行してくる者たちが居る。二人が認識して、俺に報告をしてきた。
対処するのは簡単だけど、難しい問題に発展しそうな雰囲気がある。
アルトワ町の町長だった男の妻や、俺を襲った者たちの家族たちが、アルトワ町での生活が難しくなり、町から出ていくことに決めた連中が、クォートたちの隊列の勝手な同行者になっている。
クォートから町の状況の報告が上がってきている。
町の運営に問題が発生していないのは、少しだけ意外だった。確かに、人数が減った事で、いろいろな物に手が回らなくなったらしいが・・・。以前と同程度だと報告が上がってきている。シャープからは、食事が以前とは違うと報告が上がっている。以前よりも、豪華ではないが、量が増えたようだ。人が少なくなって、配分を増やしたか、今まで不正を行っていた連中が居なくなって健全な経営になったのか?
どちらかだろうと思える。カルラに潜入して貰えば、詳細な情報は抜けるかもしれないが、共和国内の一つの寂れた町だ。アルトワ町が与える影響は軽微だと思える事や、カルラには内通者対策を頼んでいた。これ以上の作業は負担になると考えて、アルトワ町の内情は調べていない。アルトワ・ダンジョンに与える影響は皆無だろうと考えたのも放置した理由だ。
そのアルトワ町に居づらくなった者たちが、街から追い出されるタイミングで、クォートとシャープがアルトワ町を訪れた。交渉は無かった。町に残っている人間たちも何も言わなかった。らしい。
アルトワ町から出た者たちは、いろいろ言い訳をしているようだ。
クォートとシャープがそれとなく監視をしている。眷属たちやヒューマノイドタイプを使って同行者未満の奴らの話を拾ってきている。俺の名前を含まれた恨み言を聞いたら、処分するつもりで監視を続けている(らしい)。俺は、過剰な反応だと思ったのだが、カルラとクォートとシャープだけではなく、エイダさえも、”処分”を推奨してきた。
クォートとシャープの後についているのは、共和国を見限って、王国に移り住むことを考えている(らしい)。そして、クォートとシャープの戦闘力が解っているので、道中の安全を考えて、付かず離れずの距離感を保っているようだ。
問題ではないが、面倒な状況になりつつある。本当に、”処分”が一番の解決方法に思えて来る。
王国に入る検問の通貨は、どうするつもりなのか?王国内に当てはあるのか?
共和国から王国に入る場合には、俺たちは大きな問題は出ない。
特に、王国側の検閲は簡単に抜けられる。
同行者未満の奴らは、どうするつもりなのか?
俺たちを頼るつもりなら、お門違いだ。
俺たちは襲ってきた者たちを返り討ちにした。殺した連中も居る。捕えて、奴隷として売り払った者たちも居る。
しかし、元々は、彼らが間違えたからだ。俺たちは襲われた被害者だ。確かに、誘導したが、襲撃を選んだのは、彼等であり、俺が強要したわけではない。間違えないで欲しい。
しかし、今の俺たちなら襲われても対処は可能だろう。
アルバンもカルラも強くなった。クラーラには及ばないだろうが、薬で強化したリーヌス程度では二人を傷つける事は出来ない。
カルラが自分の作業を中断して、外部から来た物から何かを受け取っている。
カルラの部下なのか、王国に居る心配性からの連絡なのか?それとも、催促か?
カルラの表情からは何も読み取れない。
アルバンも、何かを感じているのか、武器に手を置いている。襲撃や襲撃の予兆があるのなら、カルラは報告の聞き直しをしないだろう。
想定内のことが発生したと考えるのがよさそうだ。
緊張を解いて、カルラの説明を待つ。アルバンも、俺の態度を見て緊張を解いた。
「旦那様」
俺の呼び名が、旦那様に戻ったのは、怪しい同行者が居ると解ったからだ。
「どうした?」
受けた報告から、俺に伝えなければならない事があるのだろう。
敵襲や罠が見つかったのなら、これほど落ち着いてはいない。
安心は出来ないが、緊急の案件では無いのだろう。
「合流を少しだけ遅らせた方が良いかと思います」
クォートたちに関係することなのか?
「ん?問題が発生したのか?」
問題なら、こんなに落ち着いていない。
緊迫感が出てもいいはずなのに、カルラの様子を見ると、どこか呆れているように思える。
合流を送らせるのも、後始末を考えてのことなのかもしれない。
「内通者が捕えました」
内通者?
まだ居たのか?
それとも、いままで活動をしていなかったのか?
「え?今?」
今?
なんで、こんなに警戒している時に行動するの?
「はい。先ほど、捕えたと報告がありました」
捕まえた?
それなら、情報が流れていないのか?
そもそも、情報は何かを流そうとしていた。
相手は?
「何をした?」
カルラなら既に状況の把握は出来ているだろう。
先ほど来た報告が、”内通者”に関しての報告なら、慌てなくても大丈夫なのだろう。
それに、共和国にいる間に、俺たちの素性が知られたとしても、困るのは共和国で、俺たちではない。
俺たちの存在が知られて困るのは、俺たちの命を狙っている連中が居る場合だけだが、今のところ共和国で俺たちの所業が知られている様子はない。アルトワ・ダンジョンに居た内通者なら、俺たちの所業を知っている可能性は皆無だ。
アルトワ・ダンジョン内で知っている人間は、居ない。はずだ。
「帝国に情報を送ろうとした所を捕えたようです」
「情報は、アルトワ・ダンジョンか?」
「はい。内部の人数や配置情報でした」
そんな情報を”今”送る理由が解らない。
何か、情報に意味があるのか?
隠された情報があるのかもしれない。
「わかった。捕えたやつらは、ダンジョンの中階層か下層で隔離する。搬送は、途中まででいい。そこからは・・・。エイダ。頼めるか?」
情報を抜き出さなくては対処が出来ない。
上層に檻を作ろうか?
今回は必要なさそうだけど、今後の事を考えると、どこかのダンジョンに収容所を作ってもいいかもしれない。
俺が定めた”罪人”を隔離するには必要な処置だろう。
『是』
ダンジョンに送り込んでおけば、あとはヒューマノイドたちが情報を抜き取るだろう。
それにしても・・・。
帝国に情報?
このタイミングで?
帝国からの増援が来る頃には、俺は王国に入っている。ウーレンフートには向かわないが、目的の場所には到着しているだろう。
うかつすぎないか?
俺ならどうする?
使い捨ての機能に、重要な情報を渡さずに目的を達成させる。
シグナルがロストしたことで、情報を得る?
俺なら・・・。
どうでもいい情報を、シグナルとして送信させる。ダミーとは言わないが、届けばラッキー程度の情報だ。今更、人数や配置情報を受け取っても、日々変わる。作戦に必要な数字ではない。アルトワ・ダンジョンの規模の推測には役に立たないジャンクな情報だ。
情報を受け取る側も、捕えられても問題がない奴らを配置しているのか?
どうせ、お互いに情報を取り合っているのは解り切っている。お互いに、どんな情報を抜き出して送付して解析しているのかが重要になってくる。相手が知っていると考えるのか、知らないのかで、考え方も違ってくる。
そうか・・・。
ジャンクな情報!
しまった!
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