【第三十章 新種】第三百七話

 

ゴブリンの巣を殲滅した
レベル5の”猛毒”という新しいカードを取得した。

他にも、レベル1-3のカードを大量に入手した。戦果としては、十分なのだが、しっくりこない。

”蟲毒”が行われたのは想像出来るのだが、”蟲毒”が新種発生のプロセスなのか?
人為的に”蟲毒”が行われたのか?自然発生なのか?偶然にしては出来すぎている。

「ライ。近くには、ゴブリンは居ないよな?」

『居ない』

「ゴブリン以外は?」

『居ない』

洞窟の探索では、新しい発見はなかった。
洞窟を出て、高台になっている場所に上がってみる。

違和感が凄い。
何かが、俺が知っている森とは違っている。

チアル大陸に残っている自然な森と何かが・・・。

「カズ兄。この森、生き物が居ないよ?なんで?」

俺の足下にやってきたウミが呟くように質問をしてきた。

そうだ。
この森、正確には、俺たちが居る場所には、生命が感じられない。

ゴブリンたちが根こそぎ駆逐してしまったことも考えられるのだが、可能なのか?

洞窟の中では、”蟲毒”が行われていた。外側には、生命が感じられない。
新種が産まれて、統率されたゴブリンたちが、餌を求めて、人が居る里に姿を現した?

「戻るぞ」

デーウ街だけではなく、近隣に大きな影響が出る。
チアル大陸以外では、食肉の為に魔物や動物を飼育する考えはない。

森に入れば、食肉に適した魔物や動物が居るのが当たり前だ。

近隣の森から、小動物を含めて、動物や魔物が居なくなった。
最初はいいかもしれないが、徐々に影響がでる。確実に出る。

ダゾレに、食肉に適した魔物を多めに出させなければ、食肉が足りなくなる心配はないだろう。ダゾレ・ダンジョンをゼーウ街が所有すれば、パワーバランスが崩れてしまう。かなり、高い可能性で崩れるだろう。最悪は、街同士の戦いに発展する。

”蟲毒”の結果、生物が居なくなったのだとしたら、他の場所でも同じ状況になっているのだとしたら・・・。

ゼーウ街に来ているドワーフたちに話を聞きたい。
他の大陸の情報を持っているのは、商人以外では、旅をしてきたドワーフたちだ。鉱石と酒以外には興味がなくても、何等かの情報を持っているだろう。

「ウミ。ライ。協力して、森の調査を頼む。生物が居るのか調べて欲しい。新種が見つかっても、攻撃しないで帰ってきてくれ、今日一日だけ調査してほしい」

『わかった』『はい』

「カイは、俺と一緒に、ダゾレに向かう。指示をしなければならない」

『伝えてきますが?』

「カイが?」

『はい』

カイが、俺から離れる?
この辺りには脅威はないと判断したのか?

確かに、俺とカイで移動するよりも、カイに任せてしまったほうが早い。

「頼む。指示は、低階層に食肉に適した魔物を増やすように指示してくれ」

『はい』

ダゾレへの指示は、これで十分だろう。
細かい調整は、今後の課題として考えるとして、鉱石と食肉があれば大丈夫だと思いたい。森には、魔物が居ない事を・・・。

昆虫も居ないから、受粉しないのか?
昆虫は、他から移動してくる可能性を信じたい。小動物も戻ってくるだろう。ダンジョンで、食肉の確保が可能になれば、近隣の街はダンジョンで確保を考えるだろう。森が再生するまでの時間を稼いでくれる。森が再生しないと、最悪は中央大陸が砂漠になってしまう。水の保持も出来なくなる。人が住めない大地にしないためにも、ダンジョンを使って共存する方法を探す必要があるだろう。

俺は、ゼーウ街に向かう。
今から戻れば、交渉に割り込める可能性が高い。

割り込まなくても、必要な情報を伝えて、ダンジョンに関しての変更点が伝えられる。

急いでもしょうがないので、適度な速度で走る。

ゼーウ街が見えてきた。
さすがに、ルートガーたちは外には居ないようだ。

「ツクモ様」

何度か言葉を交わしたことがある門番だ。
手続きをして、街の中に入る。

次いで、デ・ゼーウへの面会を依頼する。
二つ返事で、門番の一人が中央に走った。

デ・ゼーウが執務している建物は解っている。
町並みを見ながら歩いて行けばいいだろう。

ぷらぷら周りを見ながら歩いていたら、見たことがある奴が俺に向ってまっすぐに走ってきた。

「ファビアン?」

「ツクモ様。何か、お話があると聞いたのですが?」

「そうだな。デ・ゼーウとルートはまだ会談中か?」

「はい。大凡の合意が出来たので、細部をまとめています」

ファビアンに案内されて、一つの建物に入った。
執務を行っている建物ではない。

ちょっとだけ高級な感じがする宿屋のようだ。

「お待ちいただけますか?」

「あぁ緊急性はあるけど、対処は終わっている。報告だけだ」

「ありがとうございます」

簡単に要件を伝えた。
ファビアンは、俺を部屋に残して、部屋を出て行った。廊下を走る音が響いた。こういう所は、従者教育を受けていないのならしょうがないのだろう。

10分くらい待っていると、ルートガーが姿を現した。

「お!ルート。交渉は終わったのか?」

「終わった。それで?何か、交渉に追加する問題が発生したのか?」

「あぁ条件は変わっていない。ただ、一つ大きな問題が発生した」

「問題?」

ルートガーの目は、”最初から説明しろ”と言っている。交渉を任せた事が、悪かったのか?
かなり機嫌が悪い。

ルートガーの機嫌が悪くても、俺の”考え”は変わらない。俺とシロは、いずれ表舞台から消える。タイミングは解らないけど、消えるのは既定路線だ。そうなると、残る者たちで力がある者が、俺の座っている位置を占めることになる。それがルートガーだと俺は嬉しい。ただそれだけだ。

「ダンジョンを攻略した」

「それで?」

ダンジョンの設定変更は、詳しくは話したことがない。
今後も説明するつもりはない。ルートガーやクリスティーネなら大丈夫だけど、二人の子供は?その子供は?

ダンジョンの設定変更は、いろいろなバランスを壊しかねない。チアル大陸が大きな力を得た根幹だ。
今の状態では、チアル大陸はダンジョンに依存している。依存している根幹を弄れる為政者は存在してはダメだと考えている。

「鉱石が産出する階層が存在することが解っている」

「あぁ。デ・ゼーウが、ダンジョン攻略を宣言した。貴様から渡された証拠品を持って、認めるように迫っている」

「そっちは、デ・ゼーウや中央大陸の人間に任せる。ドワーフの問題も解決したのか?」

元々の問題は、ドワーフたちが鉱石を求めたことだ。
ダンジョンに鉱石が産出するように設定を変えてある。

「鉱石が産出するのがわかったので、ドワーフたちが調査を行っている」

ルートガーに情報が渡った時には、鉱石が産出する設定を変更しただけで、実際には産出まで出来ていなかった。
うまく交渉のテーブルでごまかしたようだな。

確認は、”まぁ大丈夫だろう”という段階だった。実際に、産出するのか確認はしていない。
ダゾレが支配している状況だ。鉱石が産出するように調整するのは容易だ。あとは、量の問題だが、ドワーフに任せていると彫りつくしてしまうのだろう。ダンジョンなので、暫くしたら復活はするのだが、調整は必要だろう。中央大陸で強い武器は防具が大量に出回るのは・・・。

ドワーフたちが先走った感じがするけど、検証に向っているのならタイミングが良かった。

「ダンジョン攻略が終了して、情報をお前たちに伝えた後で、ライが”新種”を見つけた」

「新種だと!」

ルートガーが立ち上がって、身を乗り出す。
やはり、ルートガーなら悪い方向に進んだと判断できる。

「安心しろ、対処した」

「そうか・・・。お前たちが、放置するとは思わないが・・・」

「そうだ。最初に見つけた”新種”以外にも、”できそこない”も発見した。そして、ゴブリンの”新種”だと俺たちは判断した」

「・・・。続けてくれ」

ルートガーがソファーに深く腰掛けた。
話を聞く状態になった。テーブルの上に置かれた飲み物に口をつけて、新種の話と、俺の推測を合わせての説明を開始する。

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