【第三章 魔王と魔王】第十八話 【カミドネ】

 

魔王カミドネの生活は、神聖国からの攻撃を退けてから、さらに変わった。
大きくは、領土が広がった。

当初は、モノリスの魔王から、ポイントの補助を貰わなければ難しかった維持も、今では自ダンジョンだけで維持ができるようになってきた。魔王カミドネは、それで独立をしようとは考えていない。独立を考えて、実行に移すことは可能だ。しかし、独立して維持するのは不可能だと考えている。
魔王カミドネの領地が広がった事で、神聖国と連合国と王国と接する境が広がった。

それだけではなく、奪ったのは神聖国の領土が殆どだ。

使い道が無かった場所だが、神聖国から見れば、奪われた事実だけが残った状況だ。国際的に、神聖国が”負け”た事実だけが残っている。
神聖国から支援を受ける形で、王国や連合国も動いた。その結果、魔王カミドネの領地がさらに広がる結果になった。

神聖国や連合国や王国にあった獣人族の隠れ里は、こぞって魔王カミドネの領内に居を移している。
それだけでも、かなりのポイント源になる。神聖国や連合国や王国は、獣人の里が無くなったことで少なくないダメージを受けることになる。黙認していた、獣人狩りが出来なくなった。
そして、神聖国はダンジョンだ。獣人が居なくなった事で、獣人たちからのポイントが入って来なくなった。

「カミドネ様」

「うーん。フォリ?」

「いえ。フォリ様は、既に起きられて、迎撃に向っています」

「迎撃?」

眠気を追い払うように、頭を大きく振って、思い出す。
昨晩は、フォリだけではなく、トレスマリアスの三女であるマルゴットが一緒に寝所に入ってきた。二人の身体を満足するまで堪能してから、眠りについた。魔王カミドネは、自分の状況を確認してから、昨晩の事を思い出す。

しかし、目の前に居るのは、昨晩、床を共にしたマルゴットでもフォリでもなく、次女のマルタだ。

「マルタ?迎撃と言ったか?」

魔王カミドネは、目覚めて来る手足の感覚を確認しながら、マルタが言った”迎撃”という言葉を思い出す。

この時点での戦況は解らないが、マルタがフォリから聞かされた話では、所属不明の集団が、魔王カミドネの領域に獣人族を追って入り込んだ。通常なら、魔王カミドネの領域に入り込んだ獣人を深追いすることはない。

犯罪や犯罪組織に手を汚した獣人は、確たる証拠があれば差し出すと魔王カミドネは、神聖国だけではなく、王国や連合国、領地を接していないが、皇国や帝国にも宣言を通した。魔王ルブランとの連名だ。

確たる証拠を持って、申請してきた者たちは居ないが、それでも犯罪組織に属していたと思われる獣人族は、厳正なる裁判を行い処断している。
獣人族だから、人族だから、エルフ族だから、ドワーフ族だから、種族が保護の理由ではない。魔王ルブランと魔王カミドネはしっかりと周辺国に宣言を行っている。

「はい。カミドネ様」

マルタは、起きた魔王カミドネにガウンを渡している。
全裸の状態の魔王カミドネは、立ち上がって渡されたガウンを肩にかけるだけで袖を通そうとしない。

「なぜ、起こさなかった?」

不満に思っているのは、フォリが迎撃で出た事ではなく、迎撃が必要な状況なのに、自分を起こさなかったことだ。
フォリやマルゴットが一緒に居たのだ、自分を起こすのは無理なことではない。確かに、昨晩は二人を相手に、満足している。自分の足に、自分が出した物だけではなく、フォリやマルゴットが魔王カミドネにしめした愛情の跡がある。

「フォリ様が、自分だけで十分だと・・・」

フォリは、出かける時に、マルタには伝言を残していた。
魔王カミドネが起きたら、自分を探すだろうと解っていた。

しかし、フォリは、魔王カミドネの領土を、領民を守るために、必要なことだと考えていた。

フォリの気持ちが解るだけに、魔王カミドネもそれ以上は強く言わない。

「他には?」

魔王カミドネは、マルタが寝所に居た事から、マルゴットも一緒に迎撃に出ていると思っている。
相手の戦力が解らないが、二人だけでは心配だと表情が訴えている。

「マルゴットとマリアが出ています」

二人の名前を聞いて、魔王カミドネは少しだけ落ち着きを取り戻す。

本来なら、マルタも迎撃に出たかったが、魔王カミドネの報告と、魔王カミドネが迎撃に出ると言った時のストッパー役として残った。身体を使ってでも、魔王カミドネを引き止めるつもりで居る。

「戦況は?どこが攻めてきた?また、神聖国?」

フォリたちの懸念は、マルタにも痛いほどよくわかっている。
そのために、戦況を聞かれた時に備えて、状況のアップデートは常に行っている。

姉や妹が気になるのも正直な気持ちだが、フォリが傷ついた時に、魔王カミドネを止めるのが不可能なことは、理解している。
そのために、戦況の確認は必須だと思っていた。

「戦況は、優勢です。完勝できる見込みです。ポップする魔物を使っての迎撃を行っています」

「そう・・・。それで?」

魔王カミドネが気にしているのは、攻め込んできたものたちだ。
小競り合い程度なら、フォリが出る必要はない。大規模な進軍だと判断したから、フォリが迎撃の指揮を取ったと考えている。魔王カミドネは、フォリが自分から離れるはずがないと思っている。そのフォリが離れたのには理由があるのだと・・・。

「不明です。侵入は、連合国からですが、連合国に属している国ではありません」

マルタの意見は、魔王カミドネが満足する物ではない。しかし、十分な情報でもある。
不明な者たちの進軍。それなら、少数でも、フォリが出ていくのは間違っていない。

自分が納得できる理由が見つかって、魔王カミドネは少しだけ落ち着いて、状況の確認ができるようになった。

「そう・・・。魔王ルブランには?」

「連絡済みです。援軍は、フォリ様が断わりを入れています。魔王ルブランからは、撃退後に、逃走先を追跡する者を借り受けました」

「映像は出せる?」

「可能です。しかし・・・」

マルタの視線は、全裸にガウンを肩からかけている状態の魔王カミドネに注がれる。

「ん?なに?」

「カミドネ様。お召し物を持ってきます。湯あみはされますか?」

魔王カミドネは、この段階で、初めて、マルタの姿をしっかりと確認する。
湯あみに向う状態だ。魔王カミドネが起きたら、身体を綺麗にするために準備をしていた。

もちろん、魔王カミドネの足止めの意味もあるのだが、マルタは魔王カミドネの身体を隅々まで洗うつもりでいた。自分の身体を使って、魔王カミドネの身体を洗う。もちろん、洗うだけではない。

「あぁ・・・。頼む。湯あみは、マルタが付き合ってくれるのなら?」

「かしこまりました」

湯あみから出て、寝所に戻った魔王カミドネは、戦場になっている場所を表示させたモニターを眺める。

そこには、既に戦闘が終了した状況だけが映されていた。

掃討戦も終了して、追撃に入っている様子に見える。
戦場には、魔王カミドネが見た限りでは、仲間が倒れている様子はない。全て、今まで見た事がない様式の武器や防具を持っている者たちだ。

「この者たちは?」

「もうしわけありません」

「そうだな。すまない」

「フォリ様が、魔王ルブランから借り受けた者たちから情報を得ていると思います」

「そうだな。待っていれば解るか?フォリには、情報はそのまま魔王ルブランにも流すように伝えてくれ」

「はい。しかし・・・」

「魔王ルブランから借りたのだから、情報が伝わっているだろう」

「はい」

「それは、解っている。それでも、情報は長そう。流したとい事実が大事になる」

「はい。わかりました。それで・・・。カミドネ様」

「そうだな。フォリたちが帰って来るまで、まだ時間があるだろう。おいで」

「ありがとうございます」

魔王カミドネも、マルタの考えを見抜いている。
自分の足止めを行うのだろう。解っていながら、覚えてしまった快楽の誘惑には勝てない。

同性の魔王カミドネから見ても、フォリ、マリア、マルタ、マルゴットは、タイプこそ違うが、魅力的な女性だ。魔王カミドネが自分の理想をつぎ込んだ者たちなので、当然と言えば、当然なのだ。

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