【第四章 スライムとギルド】第三十二話 治療(4)

 

桐元孔明よしあきさんの妹さんが、スキル利用者になりそうです。真子さんと呼んでいいのかわかりませんが、皆さんが”真子さん”と呼んでいるので、私も真子さんと呼ばせてもらいます。
それから、孔明よしあきさんのことも、桐元さんではなく、孔明よしあきさんと呼んだ方がよさそうです。

真子さんは、孔明さんのご実家にいらっしゃるとのことでした。
ご実家は、富士宮にあるらしい。移動は、迷いましたが、孔明さんの運転する車に便乗させていただくことにしました。茜さんと円香さんも一緒です。心配性の家族が上空を飛んでいますが大丈夫でしょう。

ギルドの周りには魔物の気配はありませんでした。
移動中に、魔物を見つけて、キングたちが対処をしています。茜さんの眷属になったスサノちゃんとクシナちゃんも駆除に参加してくれています。ユグドちゃんは、分体を作り出して、スサノちゃんとクシナちゃんの上から支援をおこなっていました。ライがこっそりと教えた方法です。
ユグドちゃんもライと似たようなスキルを得ていて、ユグドちゃん同士での物資の移送ができるようになっているようです。
残念なことに、本体から分体に送ることができなくて、分体から本体にしか送ることしかできません。今回は、キングたちもユグドちゃんたちへのご祝儀のつもりなのでしょう。魔物の素材を譲っています。

ライとユグドちゃんの間で、縄張りも決めたようです。
ユグドちゃんがそれほど広い範囲を担当するのは難しいと言っていたので、興津川を境にする案ではなく、巴川を境にする案で落ち着きました。もちろん、キングたちも広域のパトロールは続けますが、巴川を越えた場所で魔物を発見した場合には、ユグドちゃんたちに連絡を入れます。対応は、ユグドちゃんたちに一任されることに決まりました。

ライとユグドちゃんが話し合って決めた内容です。
茜さんには、ユグドちゃんが説明をすることになったので、今は黙っていることにします。

久しぶりに、車に乗ったけど、運転免許が欲しいな。
あと2年くらいで免許が取れる年齢に、戸籍上はなるから、免許は取ろうかな?車は必要ないけど、免許があるといろいろ便利だよね。身分証明にもなる。ギルドカードがあるから大丈夫だけど・・・。公的な身分証は有ったほうがよさそうだ。
車も買おうと思えば変えるだけのお金が手に入った。
あまりにも大きすぎる金額で、よくわからない。
まずは、家の周りの土地や山を買おうかな?
買えるだけ買っておいた方がいいよね?特に、裏山に繋がる場所はできるだけ買っておきたい。皆が安心して過ごせる場所を確保しておきたい。

そうだ。
街中にも家を買っておこうかな?私の連絡先とか、有ったほうが便利だよね?
今の家でもいいけど、あそこは内緒にしておきたい。

いい考えかもしれない。
茜さんに相談しよう。

茜さんは優しい。
私が緊張しないように手を握ってくれている。凄く安心できる。お姉ちゃんが出来たみたいで嬉しい。

静岡市内から、バイパスに入って、富士川を渡る。
そこから、富士宮に向かう。1時間30分くらいかかると言われた。私は大丈夫だけど、途中でトイレと食事の為に、道の駅富士に寄った。

茜さんとおふくろ食堂に入った。
削りたて鰹節がかかった”しらす茶漬け”を頼んだ。茜さんは、私に好き嫌いを聞いてきた。桜エビが好きではないと聞いて、鮭茶漬けを頼んだ。初めて、食事をシェアして食べた。凄く美味しかった。茜さんが、鮭茶漬けを私に食べさせてくれた時には恥ずかしかったけど、遠慮しないでと言われて、”あーん”状態で食べさせてもらった。嬉しかった。もちろん、私もお返しにしらす茶漬けを食べてもらった。茜さんも美味しいと言ってくれた。
それから、IDEBOKでクレープを食べた。ホイップクリームハニーを頼んだ。茜さんはホイップクリームカスタードを頼んで、これも一緒に食べた。

私は、トイレの必要がないので、車に戻ると、ライが周りの状況を教えてくれた。
やはり、富士山が近い場所なのか、魔物の素が有ったらしく、テネシーたちが散らしてくれていた。スサノちゃんとクシナちゃんにも魔物の素を見分ける方法を教えたいというので許可をだした。必要なら、スキルを与えるようにも伝えておいた。

道の駅富士で、孔明さんがご自宅に連絡を入れたようだ。
真子さんはご自宅に居るようだ。ご両親は、既に他界しているらしく、お手伝いさんが家に来てくれているらしい。

孔明さんが言葉を濁すので、円香さんの補足で判明したのですが、他にも何か事情があるようですが、私には関係ない事です。”嘘”ではないです。本当の事を言っているか解らないのですが、私を騙そうとしているとは思えません。ライのスキルにも反応がないので大丈夫でしょう。

車は、富士宮に向かっている。はずだ。でも、私が知っている道とは違います。富士宮ではなく、大回りで三島や沼津に抜ける道に向っている。
そして、不自然に道を変えている。

『おねえちゃん』

『ライ?』

『うん。なんか同じ車が何度か後ろに来ているけど、対処した方がいい?』

『ちょっと待って、聞いてみる』

『うん。車を調べてみる』

『お願い』

尾行かな?
そういえば、道の駅富士で嫌な視線を感じた。私ではなく、茜さんを見ていたから気にしなかったけど、もしかしたらギルドに敵対している人たち?でも、なんのために?

「円香さん。お聞きしたいことがあるのですが?」

「なんでしょうか?」

「この車、尾行されています?」

「・・・。孔明!」

「どうして、それを貴子嬢が知ったのか・・・。間違いなく、2台に尾行されている」

「尾行か?」

「あぁギルドを出る時からついていた。道の駅で巻けるかと思ったがダメだったようだ」

それで、道の駅に入るときに急に曲がったのですね。

「あっそれで、ライたちが対処をすると言っていますが、対処させますか?」

「お姉ちゃん。あのね。この車から、電波が8つ出ているけど、合っている?」

「8つ?」

「うん。ユグドにも協力してもらったから間違いはないと思うよ」

「え?ユグド?!」

「うん。携帯電話?みたいな奴が、6個と、よくわからない奴が2つ」

「孔明!?」

「携帯電話は、俺と円香が二つだ。茜嬢が一つで、貴子嬢も持っているよな?」

「はい」

「残りの二つは、盗聴と位置情報か?」

「多分な」

「ライ。車を結界で隔離できる?」

「できるよ?やっていい?」

「ユグドちゃんにも協力してもらって」

「わかった」

ライが結界を発動した。
ユグドちゃんにも補助をお願いしたのは、今後の為だ。移動体への結界には、少しだけコツが必要だ。産まれたばかりのユグドちゃんには難しいだろうけど、今後の事を考えれば必要なことだ。

ギルドは、いろんな組織から狙われているのかな?

結界を展開したことを伝えた。
孔明さんが試しに、何度か道を変えた。孔明さんも確認をしてくれたようだ。後ろから追ってきた車がはぐれて見えなくなった。

結界は、暫く維持することに決まった。後ろをつけていた車は全部で3台だったらしい。ドーンとアイズとフェズが分担して、車を尾行している。
円香さんがライの負担を気にしていたけど、負担に感じるようなことでもないので、大丈夫だと伝えてある。

孔明さんは、何度か道を変えたが、30分くらいしてから、進路を富士宮に変えた。
途中で一度だけ停まって、自宅に電話を入れた。

家は真子さんだけになっているようだ。
よくわからないが、真子さんだけの状況になっているのに安心している様子だった。

30分後に、ちょっとだけ古ぼけた感じがするマンションに到着した。
最初に、顔見知りだという円香さんが部屋に向った。

10分くらいして戻ってきてから、私たちも孔明さんのご自宅に向かうことになった。

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