【第七章 神殿生活】第十三話 計画

 

アデレード殿下が神殿に関わることが決定した。
アデレード殿下もルアリーナも、神殿には居ない。二人は、ミヤナック辺境伯領で療養していることになっている。

アデレード殿下から、詳しい話を聞いた。
詳しい話も、隠し事をしないで全部を話してくれたようだ。ルアリーナが聞いていた話で補助を行ってくれた。

アデレード殿下とルアリーナという外部との折衝で頼りになりそうな人物が、折衝を行う事ができない。
神殿の勢力が大きくなって、独自の戦力だけで他の勢力と拮抗できるようになれば、二人が表舞台に出ても問題はないだろう。それまでは、二人は外部との接触が行われる場所には出られない。

「リン?」

ミトナルが、俺の横に来て、袖を引っ張るようにしている。
マヤは、アデレード殿下の所で、世間話でもするように、いろいろ話をしている。

「何か?いい方法が?」

「うん。僕に、任せてもらえる?」

「それは、ルナも?」

「うん。ルナもいい?」

いつの間にか、ルアリーナも俺たちの所に来ていた。

「リン君とミルに任せる。私たちにできることがあるの?」

「ある。でも、断ってくれてもいい」

「え?」

「二人が、”無理”なら、僕がやる」

「??」

「ミル?」

「うん。ルナと殿下には、リンの配下の教育を頼めばいい。二人なら、適任。文字の読み書きや計算なら僕でもできる。でも、王国の地形や貴族家の関係や派閥は無理。調べに行く必要がある。あと、王国と敵対している国や組織があれば、教えたい」

それは、俺も聞きたい。
特に、王国の地形や貴族家の関係は、俺たちには入ってこない情報だ。
確かに、アデレード殿下やルアリーナなら、王家と上級貴族だ。十分な情報を持っているだろう。

「ミル。それは・・・。リン君の配下?ミアちゃんが連れているような?」

「それだけではない。リンの下には、ネームドが沢山」

「え?そんなに?」

「うん。多分、王国は無理だけど、全戦力をぶつければ、アゾレムくらいなら駆逐できる。配下の犠牲も出るだろうから、最終手段」

「リン君?ミルの言っていることは本当?」

俺も驚いた。
確かに、ヒューマとアウレイアとアイルが・・・。そういえば、ブロッホが居たな・・・。黒竜。確かに、勝てるな?

それなら、ルアリーナとアデレード殿下を神殿の奥に匿う必要はないか?
いや、政治力が足りないか?

神殿の勢力は・・・。

食料の自給自足ができるようになれば・・・。あっ。

「ルナ。すまん。少しだけ、待ってくれ」

「え?うん?」

「ミル。ロルフに言って、ダンジョンもどきを作ったけど、もしかして・・・」

「うん。意識がない魔物が産まれている」

「食用の魔物か?」

「もちろん、ボア系やブル系。あと、ロルフがおいしいと言っていたスネーク系も出る。他にも、沢山」

自給自足が出来そうだ。

「野菜や香辛料は?」

「岩塩は採掘ができる。野菜は無理だけど、山菜や食べられる野草やキノコ類も採取が可能」

「・・・。自給自足が出来てしまう。アロイ側の村で、湖を使った漁が可能だ」

「あっ。リン。でも、ロルフが、ポイントが無くなるから、あまり魔物を出せないと言っていた」

「それは、人の往来が増えれば、解決するだろう?」

「うん。だから、人が増えて、ポイントが潤沢になるのを見越して、ヒューマやリデルやジャッロやヴェルデやビアンコたちに、状況を教えておきたい。作戦行動は、僕が教える。あと、茂手木にもやらせる」

「そうだな。話を戻して、ルナ。俺の配下には、カーバンクル種・オーク種・ゴブリン種・コボルト種・オーガ種・ドラゴニュート種が居る。全員が、ネームドと同じ進化を行っている個体で構成されている。あと、ミアの護衛についている、スコル種とフェンリル種と竜種・・・。あぁ黒竜だけどな。現状では、それだけだ」

「・・・。・・・。・・・。はぁぁぁぁ?リン君?なんで?冗談だよね?」

急に、ルアリーナが大声を出した。
最初は、理解が出来なかったのか、少しだけ考えてから、大きな声を出して、俺に詰め寄った。

声に反応して、マヤと話をしていたアデレード殿下や、他の決めごとをしていた、タシアナやイリメリやサリーカやフェナサリムまでも、俺たちの方を見ている。手が止まって、俺を見ている。

「ん?」

ごまかしきれないようだ。

アデレードがこちらに近づいてきた。
もちろん、マヤも一緒だ。マヤは、俺の肩に移動する。

「ルナ?」

「アデー。聞いて、リン君の配下に・・・」

俺が話をした内容を、なぞるようにアデレード殿下に話して聞かせる。
その時に、俺とミトナルの会話にあった、ダンジョンの話をアデレード殿下だけではなく、近づいてきた者たちに話して聞かせた。

それから、質問の雨あられ。

解らない事や、スキルに関係することは”解らない”と返答した。
それ以外は、正直に答えた。俺が、知らない事でも、ミトナルやマヤが答えてくれた。

質問が終わって、ルアリーナが代表して話をするようだ。

「いろいろ。答えてくれて、ありがとう。何が足りなくて、神殿で何ができるのか・・・。ようやく理解した。ミルが、私やアデーに・・・」

ルアリーナは、ミトナルを見てから俺を見てため息をついた。
人の顔を見て、ため息とは失礼だと言いたいが、雰囲気がどうやら・・・。問題は俺にあったようだ。

戦力と神殿の使い方に関しての質問が多かった。

ここまで詳しい話をしているが、オイゲンはまだ蚊帳の外でいいようだ。
俺があとで、オイゲンにして欲しいことを含めて話をすればいいと言われてしまった。

俺とミトナルで、オイゲンと話をすることで、オイゲンに関する話は終わった。
俺の奴隷だから、当然だけど、なんとなく釈然としない。

「それで?」

「うん。ミルから提案を受ける。アデーもいいわよね?」

アデレード殿下は、頷いてくれる。
質問の間にも、二人で話をしてくれていたようで、役割分担も出来ている。

皆で、話し合った結果。
アデレード殿下とルアリーナは、ギルドの仕事から外れる。その代わり、俺が購入してオイゲンに付けている奴隷を、ギルドのメンバーとして働かせることになる。これも、俺がオイゲンに説明する項目だ。

裏方に回ったアデレード殿下とルアリーナは、俺の眷属たちに、文字と簡単な計算を教えて、俺たちを含めた者に、王国の周辺事情や現在の貴族社会に関しての基礎知識と派閥の状況を教えてくれることになった。

教える者たちは、マヤが確認をしてくれたようだ。
アウレイアとアイルは辞退。リデルは、文字の読み書きだけを受ける。ジャッロとヴェルデとラトギは、簡単な計算まで受けることにしたようだ。ビアンコは、セトラス商隊に着いて行って、行商人の真似事をすることになった。詳細は、後日になるのだが、セトラス商隊の信頼できる者に、使役されているという設定で、ビアンコたちを行商に連れて行くことになる。神殿は、その代わりにセトラス商隊が商会になるための店を用意することになる。
また、サリーカからの要望で、ダンジョンに鉱石が採掘できる場所も設置する。
現状では、鉱石を扱って、武器や防具の作成はできないが、セトラス商隊が行商を行う過程で、人をスカウトすることになる。

そして、ダンジョンは、ギルドのメンバーにも解放することが決定した。
ミルがスキルを鍛えるのに丁度よいと言ったのが決め手になった。

ギルドの運営は、フェナサリムとタシアナとイリメリが行う。
対外的なトップは、ナッセが行う。

あとは、神殿の運営に関して、人材が足りないという結論になった。
当初の考えでは、俺の眷属たちを働かせればよいと思っていたのだが、フェナサリムから反対された。タシアナとイリメリも、俺の眷属を働かせるのには、消極的だ。
理由は、俺の眷属はなるべく”戦力”とすべきだという話だ。
すぐに、紛争や戦争になるとは思えないが、神殿の位置とやろうとしている事が、宰相派閥・・・。特に、アゾレム関係の貴族からの攻撃を呼び込みやすい。それなら、眷属が戦力として対抗できるように、鍛えてくれていた方が嬉しい。と、言われてしまった。
確かに、人を雇い入れて、力を付けるよりも、眷属を増やして、力を付けるほうが、”戦力”となるだろう。その為に、ビアンコたちは、セトラス商隊と一緒に各地を回ることにしたのだ。

そして、人材の確保が、俺の仕事と決まった。

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