【第五章 共和国】第五十七話 襲撃者?
しまった!
内通者の存在自体が罠の可能性を完全に忘れていた。
王国に帰ることで頭がいっぱいだった。
共和国のダンジョンが弱かったことや、思っていた以上に共和国の連中が弱かったから、気を抜いてしまっていた。
俺たちだけが、共和国内で実践形式の訓練をしていたわけではない。
帝国の奴らも、共和国を狙っていても・・・。それなら、俺たちを見つけて、情報を抜こうとしていても不思議ではない。
俺が、帝国の立場でも同じ事を考えただろう。
そして、実行する。
内通者が仕立て上げられたら、内通者に情報を送らせる。
情報が流れてくれば、情報を受け取るだけでも十分なメリットがある。情報が流れなくなったら、撤退か強襲をかける。相手は、内通者を見つけて、これで”安全”だと判断する。
安全だと判断しているのなら、強襲を考える。
安全だと判断をしないで、防御を固めたのなら撤退を考える。
「旦那様?」
俺が思考を加速させるタイミングで、カルラが声をかけてきた。
確かに、この場所に留まるのは避けた方がいいだろう。
しかし、思考がまとまらない。
「カルラ。情報を生業にする者としての意見が欲しい」
カルラに意見を求める。
情報の取り扱いなら、カルラの方が得意だ。
「はい」
いつもと違う表情で俺をしっかりと見つめている。
これは、プライドから来る姿勢なのだろう。それとも、俺に求められたから・・・。だとしたら、嬉しい変化だ。
「前提条件として、情報も欲しいが、相手の動向を調べている状況だ」
前提条件として、現状の俺たちの状況を説明する。
カルラには、言わなくてもいいとは思うが、自分自身で整理するために、状況の説明を行う。
「はい」
カルラも、俺が状況の説明を始めた事で、現状に当てはめていると理解が出来たのだろう。
表情が先ほどよりも厳しい物に変わる。
「相手に、自分たちが情報を抜き出していると知られても問題にはならない」
「はい」
これは、俺の憶測だけど、間違っている可能性は低いと思っている。相手に知らせる事で、相手の動きを狭めることができる。
仕掛ける側としては、たいした手間もなく、相手が取れる動きを絞ることが出来るのだ。
相手が、想定している範囲内で優秀でなければ出来ない。
優秀なのか?凡庸なのか?
罠を仕掛ける前に、事前調査である程度は把握ができる。
仕掛けられた側としては厄介な罠だ。
「相手が動きを見せるタイミングが知りたい」
ここからは、カルラの報告を通して相手側から見える状況を説明する。
「はい」
「内通者を仕立て上げて、情報を定期的に送らせる」
UDPでの送付ではないけど、受け取り側での処理がしっかりしていれば、情報の確度よりも、情報が送られていることが重要になる。
死活確認の方法では、俺もよく使っていた。
「はい」
「定期連絡が途絶えた。どう考える?」
カルラの表情が険しい。
俺が何を期待しているのか考えているのだろう。
「はい。まずは、内通者が捕えられたと考えます。しかし、すでに内通者が居ることは知られていると考えられる状況ですので、ターゲットが動きを・・・」
ゆっくりとした語り口で、しっかりと説明ができるように考えながら話しているのがよくわかる。
自分で、話しながら、俺の意図に気が付いたのだろう。
”ターゲット”という言葉で、表情が一気に変わる。
険しかった表情が、より厳しくなり、俺を見つめる目が表情以上に慌てているのが解る。
「その時に、ターゲットが普段と違う動きを見せていた」
俺たちの動きは、カルラは解っているのだろう。
状況として、俺たちの動きの補足を入れておく.重要な事だ。
ここからが、カルラに聞きたい事だ。
王国と帝国では考え方が違っているだろう。でも、指標くらいにはなるだろうし、今後の予測もできる。
「私たちなら、上位者に連絡をします。その後で、ターゲットの情報を精査して、急襲が可能なら実行部隊を動かすように進言します。もし、ターゲットが用心していれば、撤退をするか、ターゲットから距離を取ります」
「俺たちの状況としては、選択肢としては、どちらの可能性が高い?」
「旦那様の行いの半分・・・。四分の一でも把握できていれば、脅威と認定して、急襲を選択します。また、護衛についているのが、子供と女性です。このタイミングを逃すとは・・・」
カルラの顔がより一層厳しくなる。
現状の把握が出来たのだろう。
これは確定か?
しかし、襲撃者?
「カルラ。内通者は帝国の関係者だったのだよな?」
「はい。間違いなく、裏も取れています。最初は、共和国の一国だと言い張っていましたが・・・」
やはり、帝国か・・・。
王国を通り抜けられたのも気分が悪いが、その上で俺の情報を調べていたのか?
違うかな?
俺をターゲットにしているのは正しいだろう。
ただ、俺を初めから狙っていた感じはしない。
それなら、アルトワ・ダンジョンができる前から俺に網を張ることが出来ない。
状況と、俺たちの動きから、共和国のダンジョンに網を張っていたのか?
それも、なんとなく釈然としない。
俺たちは、ダンジョンでは下層に入る時には、注意を行っていた。
やはり、アルトワ・ダンジョンか?
それとも、ウーレンフートを監視していた流れか?
「カルラ。どこから、俺たちが見張られていたと思う?」
「私と旦那様の視線とスキルを掻い潜って?考えにくいです」
「そうだよな・・・。でも、実際に内通者が居た。それも、どうやら、ターゲットは、”俺”か”俺たち”だろう」
「え?」
「アルトワ・ダンジョンが狙いなら、襲撃か動きが有ってもいいと思うが、索敵が可能な範囲には、敵と思える者たちは存在しない」
俺とカルラが、知恵を絞っている間に、アルバンと近くを探索している。
アルバンなら採取をしているわけではないだろう。
戦闘は、俺たちが許可しない限りは、襲われない限りは逃げてくるように伝えている。アルバンなら、この辺りに生息している魔物なら、背後を取られて、先制を取られたとしても、対応ができるだろう。
「カルラ。アルとエイダは?」
エイダは、近くで反応があるが、姿が見えない。
「エイダは、先ほど、索敵を行うと、木に上がっていました」
上かぁ
3Dでの索敵ができるようにしないとダメだな。
今度、結界を参考に索敵を考えてみよう。
今までは、不便だとは思わなかったが、必要な時に出来ないと困る。
「アルは?」
アルバンは、索敵の範囲内に居る事は解っている。
カルラがアルバンの状態を把握出来ていればいい。
「探索だと思います」
問題はなさそうだ。
範囲内には居る。遠くには行っていない。それに、探索というよりも、散歩程度の感覚なのかもしれない。
状況が状況で無ければ、認めてもよかったのだが・・・。それでも、一人で離れるのはダメだ。
「カルラ?」
俺の索敵は、悪意や敵認定した者には反応するが、それ以外では、カルラの感知の方が優れている。
カルラが、何か気が付いた。
「旦那様。アルバンが、誰かと戦っています」
戦っているようには見えない。
近くで、反応はあるが、悪意がない?
それとも、魔物ですらないのか?
何と戦っている?
「え?」
索敵のスキルを発動するが、魔物は該当しない。
「しまった!襲撃か!」
「はい。しかし・・・」
「そうだな。俺たちも、アルと合流しよう。丁度、クォートとシャープもアルバンの場所に向かっているようだ」
「はい」
俺とカルラも、内通者と帝国の動きを考察するのを、棚上げして、アルバンの所に急ぐことにした。
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