【第五章 共和国】第六十五話 心の死
ここは?
”クスクス”
”クスクス”
”おきた”
”めざめた”
”久しぶり!”
”久しぶり”
え?
久しぶり?俺は、ここは・・・?
前にも、こんなことがあった・・・。よな?
あれは・・・。
そうだ。
エリとエトか?
”そう”
”おもいだした?”
思い出した。
アリーダ様は?
”もうすぐ”
”くるよ”
何か、準備をしているのか?
”準備!”
”準備?”
疑問で返されても困るのだけど?
”困る”
”困って”
わかった。
待っていればいいのか?
”うん”
”そうだよ。待っていて!”
待つのはいいけど、ここは?
”ここ?”
”どこ?”
精霊宮なのか?
”ちがうよ?”
”ちがう。ちがう。精霊はいないよ?”
そうか・・・。ちがうのか?
何もないのか?
”あるよ”
”あるけど、ないよ”
どういうことだ?
”アルノルト・フォン・ライムバッハ”
お久しぶりです。
アリーダ様
”アリーダ様だ”
”アルノルトだ”
”エリ。エト。しっかりと歓待できたのですか?”
”できたよ”
”うん。大丈夫”
”そうですか、私は、アルノルト・フォン・ライムバッハと話があります。呼ぶまで、下がっていなさい”
”は~い”
”うん!”
”パタパタ”
”パタパタ”
口で言っても意味があるとは思えないけど、必要なのでしょうか?
目の前に魔法陣が出現する。
その場所から、空間がはっきりと視認できる状態になっていく・・・。
最初は、床が現れて、次に壁が、白い部屋になって、床にも壁にも、天井にも色が着いて行く・・・。
椅子が現れて、テーブルが現れる。
窓があるけど、外は見えない。
本棚が現れて、上段から本が埋められていく・・・。最初の頃は、背表紙の色が20冊くらいで色が変っていた。一段目が終わって二段目からは同じ色が続いている。40冊くらいで、次の色に変った。その色で、本が並ばなくなった。何か、意味があるのか?
天井には、ライトがないが部屋は明るい。
窓からも採光はされていない。
不思議な空間だけど、不思議に思うのは今更だな。
「え?」
椅子に、一人の女性が座っている。
話の流れから、アリーダ様なのだろう。でも、どことなく、ユリアンネが大人になったらこんな感じの美人になっていただろう。と、思える。母上とは違う。なぜか、ユリアンネを思い出す。何故だろう。
「座ってください」
女性が、アリーダ様だと仮定をすると、俺の考えが読めているはずなのに、反応がない?
読んでいないのか?
「はい」
言われた通りに座る。
「紅茶でいい?」
紅茶なんて久しぶりに聞いた。
「はい」
「砂糖は必要なかったわね。ミルクだけあればいいのよね?」
そうだな。
砂糖を入れるのは邪道だとは言わないが、たっぷりのミルクとブランデーがあれば・・・。
「はい」
ん?
甘くするよりも、ミルクを入れて飲むほうが美味しいと感じる。
ん?
アルノルト?え?ん?
「ごめんなさい。混乱させてしまいましたね」
「いえ、アリーダ様。そろそろ、説明をお願いしたいのですが?」
姿が、アルノルトではない。
真辺真一でもない。
誰の姿を借りている?
「そうですね。でも、紅茶を飲むくらいは大丈夫でしょ?お茶菓子に、クッキーを用意したのよ?」
「はぁ」
用意された紅茶を口に運ぶ。
美味しい。ブランデーが入っていないのが少しだけ残念に思える。
「ブランデーは今後の課題にさせて」
「はい」
やっぱり、考えが読めるのですね。
「本題だけど、いい?」
「はい」
なぜか、真剣な表情に切り替わる。
何か、悪い状況なのか?
「そうね。アルノルト・フォン・ライムバッハ。貴方は、死にかけていました」
「え?」
「身体の死ではありません。心の死です」
「・・・」
「心当たりがあるようですね」
「はい。ご存じなのですか?」
「いえ、私は頼まれただけです」
「頼まれた?」
「そうです」
「誰にですか?」
「それは言えません」
言えない?
それは、解っているという事だな。
「対価は?」
「既に頂いております」
「え?」
対価が必要な事だったのか?
それにしても、俺が死にかけていたのはなんとなく想像ができる。
そのうえで、俺が死にかけている理由が解って、対価を払って俺を救おうとする人が居るのか?
「正確には、対価はお金や物ではありません」
「アリーダ様。わかりやすく説明をして頂けると助かります」
「そうですね。どこまでの記憶がありますか?」
記憶と言われても、カルラとアルバンを失って、エイダとクォートとシャープでゴミを片づけて、尋問らしい尋問にはならなかったけど、情報を抜き出して・・・。王国に帰ろうと、国境を目指した。
国境が見える丘の上で疲れて、休んだ。国境を見ながら、何かを考えていた。
考えていたのは、覚えているけど、何を考えていたのか思い出せない。
「・・・」
「国境の見える丘で、貴方は5日間に渡って座っていました」
「え?5日?」
「そうです」
普通は死ぬよな?
何かを食べた記憶も飲んだ記憶もない。
「ちなみに、アルノルト・フォン・ライムバッハとしての体調は大丈夫です。10日ほどなら食べなくても、飲まなくても、大丈夫でしょう」
「え?」
「今は、その話は横に置いておきます。貴方の心が死にかけていたのを心配した者が、対価と引き換えにこの部屋を希望しました」
「??」
「ここは、貴方の心です」
「は?」
「最初は、何も無かったのですが、二日目に貴方が戻ってきました」
「??」
「風も光も闇も音も匂いも色も何もなかった部屋に、色がついて、部屋になって、物が産まれて、過去と未来が出来上がった」
意味がわからない。
ここが、俺の心だというのか?
「そうです。本棚には貴方の歴史が刻まれています。貴方は読むことは出来ません」
「え?読めない」
「そうです」
「この部屋は何のために?」
「それは言えません。でも、貴方の心を修復するために必要な処置でした」
「よくわからないが、ありがとうございます」
「いいのですよ。対価は頂いています」
「聞いていいですか?」
「このような部屋は皆が持っているのですか?」
「持っています。この部屋で、最終面談が行われます。貴方は、その時では無いので、安心してください」
皆が持っている?
この部屋の役割があるのか?
地獄に行くか、天国に行くか、分かれ道みたいな場所か?
「そう、考えていただければいいでしょう」
「あっ。ありがとうございます」
時々、考えを読んでくるのがよくわからない。
読まれていると考えていればいいのだろう。
ユリアンネに似た姿で現れたということは、対価を払ったのは、ユリアンネか?ラウラかカウラということも考えられるけど、二人は俺を恨んでいるかもしれない。父上か母上というのも考えられる。ルグリダは?
カルラとアルバンは、俺を恨んでいるのだろう。
俺が、もっとしっかりとしていたら・・・。
「アルノルト・フォン・ライムバッハ」
「はい。今、名前を上げた者は、貴方を恨んでいません。間違っては行けません」
アリーダ様の表情が、今まで以上に柔和になる。
「・・・」
「・・・。わかりました。アルノルト・フォン・ライムバッハ。貴方の心を修復して欲しいと依頼してきたのは、ラウラとカウラの二人です」
「え?」
「対価は、彼女たちの修業期間です」
「え?修行?」
「そうです。ラウラとカウラ。及びユリアンネは、精霊に転生します」
「精霊に転生?」
「そうです。本来なら禁則事項なのですが、貴方には話して構わないと言われました」
構わない?
アリーダ様の上位者が居るというのか?
「・・・」
「修業期間というのは?」
「ラウラとカウラは、数百年の修行で、精霊に転生できる予定でした」
「修行は何を?」
「禁則事項に該当して話せません」
「そうですか・・・」
「ユリアンネは、精霊に転生しているのですか?」
「・・・。しています」
「何か、条件が・・・。教えてくれそうに無いので、聞きません。ユリアンネは、俺の様に記憶を残しているのですか?」
「残しています。本人の希望で、最後まで・・・」
「え?最後?」
「はい。死に間際までの記憶は消されていません」
「・・・。ありがとうございます」
「・・・。何を考えているのかわかりますが、いばらの道ですよ?」
「解っています」
「加護を1以上にしなさい。それから、闇の上位加護と守の上位加護を得なさい」
「ありがとうございます。何の事か解りませんが、わかりました」
—
懐かしい声が聞こえる。
3人?
違うな。5人?6人?
あぁ俺は、こんなにも・・・。
ラウラ。
カウラ。
ありがとう。
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