短編(一話完結)の記事一覧
2021/05/17
【第二章 リニューアル】第一話 再開
タンブラーに入った茶色の液体を喉に流し込みながら女性は、バーテンダーを見ている。 最後の一口を含んでから、ウィスキーの味を感じながら呑み込む。 「マスター。もう一杯」 「同じ物で?」 「うん。カウボーイをお願い」 マスターは、テーブルに磨かれたタンブラーを置いて、氷を入れる。そこに、アーリータイムズを45ml注ぎ込む。そこに、ミルクを105ml注いで、砂糖を小さじに1杯入れる。軽くビルドをする。ミルクが落ち着いたのを確認してから、ナツメグを振りかける。 「カウボーイ。『今宵もあなたを思う』」 女性は…
続きを読む2021/04/09
【第一章 バーシオン】第三話 夜を隠す
「マスター。いつもの!」 カウンターに座る女性の注文を受けて、ブランデーの瓶と、カカオ・ホワイトリキュールの瓶をカウンターに用意した。ブランデーをシェーカーに適量(30ml)を注いで、カカオ・ホワイトを半分(15ml)を注いで、生クリームを適量(15ml)を注いだ。シェイクしてショートグラスに注ぐ。 女性は、シェイクしているマスターの手元をうっとりとした目線で眺めている。 「ホワイト・アレキサンダー」 女性は、白く甘い香りがする液体を暫く見つめた。 「ねぇマスター?」 「どうしました?」 「アレキサン…
続きを読む2021/04/05
【第一章 バーシオン】第二話 マスターの仕事
「マスター。聞いてよ」 「聞いていますよ」 心地よいテンポで音を奏でていたシェーカーから、グラスに淡いオレンジ色の液体を注ぎ込む。 カウンターに座る彼女の前に、グラスを静かに置く。 「シンデレラです」 「夢見る少女か・・・。マスター。私、少女なんかじゃないですよ。汚れちゃっています」 「それなら、なおさら、それを飲んで、汚れを洗い流してください。貴女に必要なのは、夢を見る時間ですよ」 「夢を見るのには、私は・・・。ううん。マスター。ありがとう。夢を見せに行ってくる」 「いってらっしゃい」 女性がドアか…
続きを読む2021/04/05
【第一章 バーシオン】第一話 バーシオン
繁華街の外れにある寂れた雑居ビル。 その地下でひっそりと営業をしているバーがある。このバーは昼の1時から営業を開始して、夕方には店を閉めてしまう。 少しだけ変わったバーテンダーが居る。店名は、”バーシオン”ありふれた名前のカウンターだけの狭いバーだ。 「マスター。いつもの」 客層は、営業時間の関係もあるが、夜の店で働く”ワケあり”な者たちが多い。 素性は誰にも語らない。誰も聞かない。この街で働く、最低限のマナーだ。 「それを飲んだら、今日は帰ってください」 カウンターに座った女性は、”いつもの”モヒートを頼…
続きを読む2020/08/27
【手紙と約束】届いた手紙
「おばあちゃん!なんかTV局の人が来ているけど?」 「なにごとだい?」 「わからない!でも、なんか・・・。アメリカの人と一緒に来て『”ようすけ”からの手紙を届けに来た』と言っているよ?」 「よ・・・う・・・すけ?」 「え?・・・。あっ・・・。う・・・ん?通していい?」 「離れで待っていてもらってくれ。婆もすぐに行く」 洋介さん。貴方からの手紙なの? もう私は97歳にもなってしまったのよ? いつまで待っていればいいの? — おばあちゃんがTVで紹介された。 でも、そのおばあちゃんは放送を…
続きを読む2020/08/27
【何度でもあの子を愛する】僕が愛した人
塾の帰り道、公衆電話で親友が電話をかける。 そして、少しだけ話をして僕に受話器を渡す。 僕は、誰だろうと思って受話器に耳を当てる。 最初は何も聞こえない。 永遠に思える5秒間が過ぎた。 親友は少し離れた所に居る。相手が誰か聞く前に離れてしまった。 僕は、勇気を振り絞って話しかける 「もしもし。静間(しずま)誠司(せいじ)だけど?」 相手の息遣いが聞こえてくる。小さな吐息のようだ。 僕が緊張しているように、相手も緊張しているのだろうか? 「ねぇ。誠司くん。まだ私の事、好き?」 え? この…
続きを読む2020/08/27
【残された赤】赤い視界
君が俺の所から旅立って、もう23年が経っているよ。 でも、やっと、やっと、やっと、俺は君の所に行ける。 でも、俺はもう40を超えて、50に近くなってしまっているよ。君に嫌われないか不安でしょうがない。 頑張ったよ。君が好きだと言ってくれたスーツ姿。同じ形のスーツを着られるように、体型を維持しているよ。 髪の毛も薄くなるかと思ったけど、薄くならないで良かったよ。 白い色の髪の毛が目立つけど、君の所に行くときには、あの頃と同じで茶色に染めていくよ。 もう少しだから、もう少し・・・。 もう少しだけ…
続きを読む2020/08/27
【止まってしまった時計】動き出す時間
PM10時50分 病院の椅子に座る女性の手には、3時で止まってしまっている血塗られた時計が握られている。 3時で止まってしまった時計。あれから、何時間が経っているのか、女性にはわからない。わからないが、興味はなかった。 女性は血塗られた時計を、止まってしまった時計を握りしめている。動きを止めてしまった時計。 ただ時計を握りしめて居る。 女性は、時計に向けて何を祈っている。 その祈りを止める事は誰にもできない。 ★☆★ PM2時40分 「沙織!早くしないと塾の授業に間に合わないわよ!」 「大丈夫!…
続きを読む2020/08/27
【神社と僕たち】僕たちのお返し
二人の少女は、学校の帰り道にある神社に来ていた。 (おねがいです。大好きなだいちゃんと両思いになれますように!) (大好きなたっくんが私の事を好きになってくれますように、お願いします) — 4人の少年と少女は、学校の帰り道にある神社に寄った。 学校の宿題をするためだ。 「ねぇ本当に”ここ”なの?」 「宿題には丁度いいだろう?」 反対する女子に、男子が肯定させるための意見を話している。 「そうだけど、ちょっと怖いよね」 もうひとりの女子も怖がっている。 「大丈夫だよ。俺、この前の祭りでも…
続きを読む2020/08/27
【精神融解】とけていく
最近、同じ夢ばかりを見る。 1人の女の子がいじめられて自殺する夢だ。 いじめる方は毎回違う。でも、最後は決まって、知らない海に飛び込んでの自殺だ。 最初の事は、はっきりしなかった顔も今でははっきりと見る事ができる。 私ではない。私が知っている顔でもない。 青い海が赤く染まって、私を溶かしていく、海の中から空を眺めながら沈んでいく、赤い空が溶けていく私を見つめている。 そこで目を覚ます。 原因はわかっている。いつの頃なのかわからない。私の引っ越しの荷物の中に入っていた一冊の日記。 私が書いた…
続きを読む2020/08/27
【バレンタイン】初めて食べた手料理はしょっぱかった
俺が通う高校までは電車で30分くらいかかる。 朝早い電車で駅員が居ない日もある。 市にある工業高校に通っている。そこで、部活をやっている。 最寄り駅までは、家から自転車で通っている。 自転車置場はすぐにいっぱいになってしまうのだが、朝練に向かうような早い時間帯なら自転車置き場も空いている。 毎日、電車に乗るわけでも無いのに、ベンチに座って居る2人のおばちゃんにも挨拶をする。 寝ているのか起きているのかわからないけど、挨拶しないでいると後で思いっきり怒られたりする。 「隆史(たかし)今日も部活か…
続きを読む2020/08/27
【発覚】大事な事は、奴らが教えてくれる?
俺は、心霊現象と言われる類の物が好きになれない。 怖いからではない。見えてしまうからだ。 いつ頃からだろうか? 俺は、心霊現象を認知する事ができる。幽霊と言われる物がはっきりと見えてしまうのだ。相手も、俺が見えている事が解るのだろう。コンタクトを取ってきたりする。 「田村!どうした?疲れ切っているぞ?」 「うるさい。話しかけるな」 「おっおぉ・・・」 会社の同僚の村田だ。 同期だという事もあり、よく飲みに行ったりしている。お互いの事情もある程度は知っている。 違うな。奴の事情は、奴から聞いたわ…
続きを読む2020/08/27
【新しい絆】新しい傷
僕の左手首には、古い傷がある。 手首に横一文字に切られた傷だ。リストカットをしたかのように見える。 高校受験のときに、担任から傷の事で注意を受けた。 「平田。その傷は隠しておけよ」 「なんでですか?」 「俺は、お前が自殺なんてしていないのは知っているが、始めて会う人には伝わらないだろう?不快に思う人が居るかもしれないからだ」 「そんな高校には行きたくありません」 「お前な」 「だってこの傷は、ママが僕を守ってくれた証拠です」 最後までしっかり言えたと思う。思うけど、涙が出てきてしまう。 「わかった。…
続きを読む2020/08/27
【ぬくもり】背中に感じたぬくもり
背中に感じていたぬくもりがなくなってから、5年が経過していると教えられた。 冬になると実感として感じてしまう。 ついこの間までは、背中に当たる彼の背中から確かなぬくもりを感じる事ができていた。 そして、途中から加わったもう一つのぬくもりが・・・。 本当に、それだけで良かった。 私には、彼から感じるぬくもりと、彼と私が望んだぬくもりの二つがあれば十分だった。そして、新たに加わるはずだったぬくもり。ぬくもりの数だけ幸せを感じる事ができた。 たったそれだけのことだったのに、私が寒くて凍えそうなのに、…
続きを読む2020/08/27
【待つ】青い鳥を待つ人
私の会社は・・・私が就職した会社は、IT企業だ。とある大企業の子会社になる。 社長は関連会社と言っているがどう見ても子会社だ。資本関係がないので、子会社で無いのはわかっているが、役員などはとある大企業の元部長だとかが就任している。ちなみに、肩書だけなのか、会社でその姿を見た事がない。 別にそれを不満に思う事はない。仕事内容も別段大きな問題はない。ただ、システム会議に出ると、自分たちの立場を再認識させられるだけだ。私たちは、邪魔な存在だと現場では認識させられている。 なので、親会社の業績がダイレクトに…
続きを読む2020/08/27
【一冊の本】忘れられた絵本
私は、この図書館が好きだ。 でも、街の事情とやらでこの図書館は今月末で閉じることが決っている。 今日は、その月末だ。ほとんどの本が持ち出されている。近隣の図書館や学校に送られているのだと言っていた。残された本は、痛みが激しかったり、引き取り手が居なかった本達だ。 閉じることが知らされた時に、私は会社を休んで図書館を訪れることに決めていた。会社の同僚にはバカにされたが、自分が好きな場所がなくなるのだ、そのくらいはいいだろうと思っている。 図書館に残された本は、欲しい人が持ち帰っていい事となっていた。…
続きを読む2020/06/17
【中級】青い鳥を探して
私が居る職場(部署)は、リーマンショックの影響は少なく、軽症で終わった。堅実にやってきたおかげだと考えていました。単純に特殊な技術を使っている部署の為にオンリーワンだったためだ。 他の部署からの流入は、使っている技術が特殊な関係で、すぐに人員の補充は行えない。 しかし、万年人手不足だったのだ。 そんな世間では、リーマンショックでの傷跡が痛々しかった頃に、私の部署に人員を出している外注会社があったのですが、その外注会社で人員整理が始まったのです。理由は、よくある話で、業績不振です。私の部署に来てくれている人た…
続きを読む2020/06/16
【初級】明日は我が身
あるプロジェクトにヘルプで入った時のですが、その現場は徹夜が続いている。よくある炎上案件でした。 メンバーはすでに限界を超えています。 限界を突破しているのも当然なのです。徹夜が続くのが日常になっていたのです。幸いな事に、その現場は使える風呂が近くにありました。着替えを洗濯出来る場所もありました。そのために、長期滞在を行っているメンバーが多かったのです。私たちヘルプメンバーは、メインでメンバーに休息を与えるためにやってきたのですが、そう簡単にメインメンバーが楽にならないのがIT業界です。 問題だらけのプロジ…
続きを読む2020/06/15
【初級】ダイエット効果
世の中にはいろいろなダイエット方法があります。 それも、新しい理論(ダイエット)が産まれて、試されて、また新しい理論(ダイエット)が産まれる。私たちが行ったダイエットは、それらの物とは違いました。意図してダイエットをしようとしたわけではありません。 一緒に仕事をしていたメンバーの全員が、10キロ以上の減量に成功しています。 100キロ超えの人間から、60キロ位しかなかった人(女性を除く)まで様々ですが、全員がダイエットに成功しています。 その驚異的なダイエット方法は・・・・。 精神的に追い詰められた状態で仕…
続きを読む2020/04/24
【プレゼン10分前】気がついてしまった罠
「どうする?」 「どうするも、提案書は出したのだろう?」 「提出した」 俺は、システム屋のプログラマをしている。 社長にはしっかりと説明して、俺の肩書はプログラマになっている。人が少ない零細企業なので、プログラマでも仕様書も書けば、客先に提案を持っていく、それだけではなくメンテナンスからハードウェアの修理まで何でもこなす。 今日は、以前から話が社長の所に話が来ていた、大規模システムのプレゼンを行う日だ。 「行くしか無いか」 「すまん。無駄な時間だな」 俺のボヤキに社長は謝罪の言葉を口にする。 「いい…
続きを読む2020/04/24
【情報の虜囚】悪意と善意
綺麗だな。 あちらこちらで僕が撒いた種が増えている。拡散され続けている。こんなに嬉しいものだったのだ。 街の中にも青い紫陽花が増えている。 街だけじゃなく国中を覆うように種を拡散しなければならない。 僕の望みは、この国の隅々まで青い紫陽花を咲かせることだ。 見届ける必要はない。 種は拡散し始めた。僕の手を離れたのだ。もう止まらない。止める手段が存在しないのだ。 伸び切ってしまった手足を切り落として小さいベッドで眠らない。受領した快適を手放せる者がどれほど居るのだろう。種の拡散を止める方法は存…
続きを読む2020/04/24
【都会へのUターン】地獄だった田舎暮らし
「オーナー。どうしましょうか?」 「お前は、何度言えばわかる。俺のことは”まさ”と呼べと言っているだろう!?」 「だって、オーナーはオーナーじゃないですか?」 「いいから、まさと呼べ!次は無いからな」 いつもの朝の風景だ。 俺は、新宿・・・。と、言っても有名な歌舞伎町ではなく曙橋という場所で生まれ育った。 新宿で過ごして大学も新宿にある2流の大学に入った。何も考えずに入れたIT企業に入社した。ブラック企業一歩手前の会社だった。働いて身体と心を壊した。地元に居るのが怖くなった。TV番組で取り上げられてい…
続きを読む2020/04/24
【私が作る最高のお祭り】プロポーズされた!最高のお祭り!
「そっちに逃げたぞ!」 「大丈夫だ。アキが待っている」 「また、アキのところかよ?!」 「アキの奴、何人目だよ。俺が連れてきたメスもアキが壊していたぞ?」 「しょうがないだろう?そういうルールなのだからな。ほら、次の祭りに行くぞ!それとも、アキの後で壊れてなければやるか?」 「そうだな。昨日は、一匹にしか出してないからな。アキの後で犯すことにする」 「殺すなよ?」 「そんなヘマはしないよ。薬漬けにして売るのだろう?」 「あぁアナルも犯しておけよ。薬漬けの後に好きものが買い取ってくれるからな」 「わかった。わ…
続きを読む2020/04/24
【4で割り切れて】400で割り切れて・・・
空になったコップをテーブルの上に置いて旧友に愚痴を言う。 「ヨウコ!聞いてよ」 学生時代からの親友であるヨウコに話を聞いてもらう。 「はい。はい。今日はどうしたの?また、いつもの人?」 「そうなの聞いて!うるう年って有るでしょ?」 「うん」 「計算方法って知っている?」 「マキ。私のこと馬鹿にしているの?文系でもそのくらい知っているわよ。4で割り切れる年でしょ?」 「でしょ!でしょ!それでいいよね!」 私は、注文していたモスコミュールを一気に煽る。 ヨウコの顔が”今日も長くなるのか”と言っているよう…
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