短編(一話完結)の記事一覧

2020/04/09

【初級】ある職場の 1 週間

 私が関わった多くの現場の中で、最強にして最悪な職場が最初に勤めた会社から派遣された部署でした。  そして、一番楽しかったのもこの現場だったと思います。  時期は、バブルが弾けたすぐ・・・。世間的には、システム投資をこれから行うと思っていて予算が組み込まれ始めた頃です。  仕事は途切れる事なく舞い込んできます。  その部署で作って売っていた物は、一式で買えば1億円程度はする物です。  それが月に何台かは売れていくのです。実際にはリース契約なのはわかっていますが、羽振りが良くなっていくのは当然の事です。  世…

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2020/04/09

【初級】今は1時間の睡眠を・・・

 私は、病院での激務を乗り越えて、会社に送還された。  別に問題が有ったわけではない。もともとその予定だったのだ。事務所でパッケージ開発だけを行えばよかったはずだった。  怒号も聞こえない。誰かの呻き声も聞こえない。  怨嗟の声や呪いの言葉も聞こえない。そんな一般的で健やかな気持ちで作業を行っていた。  私が会社に提案して作成したアプリケーションが納入された。  売上なんて気にしていなかったのだが、会社に貢献できたのは単純に嬉しかった。  4ヶ月間の時間を使って作ったアプリケーションが一本とはいえ売れたのだ…

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2020/04/09

【初級】自分の結婚式

毎年3月末から4月中旬にかけて地獄の日々を過ごす現場がある。長い時には、5月末まで続く。 この時期は、自分の部屋で過ごす時間はほぼ皆無で殆どの時間を職場で過ごしている。 それは、システム屋に出された、お上からの命令だからしょうがない。 4月1日から会計システムを変更して、新しい料金体制で業務を行わなければならない。 その仕様を決めているのが、”東京都千代田区霞が関1-2-2”にある役所だ。そして、その仕様が出てくるのが、早くても3月半ば。しかもこの時点で最終稿ではない。 お役所の文章を読んだことがある人はわ…

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2020/04/09

【初級】親の葬式

 徹夜作業まで必要がなく、終電では帰る事が出来る現場での話。  上司は、責任感もあり、人間としては尊敬に価する部分も有ったのですが・・・。  責任感に見合う能力が欠落していたのです。  上司は、40代後半で、チームリーダでした。現場に出ているチームのまとめ役をやっていました。  同僚からも客先からも部下からも頼り(便利)にされ(使われ)ていました。  確かに信頼はされていましたし、最低限の事は出来るのですが、能力が信頼を越えていないのです。これが不幸の始まりだったのです。その現場は、月で作業の偏りが激しい現…

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2020/04/09

【初級】パフォーマンスとしての徹夜

 徹夜作業。  実際には、貫徹をする時は少なく、途中で仮眠を取る。貫徹しても作業が進むわけではないためなのです。  しかし、状況によっては、徹夜をしたという事実が大事になることがあります。  そんな時の話です。  客先常駐の作業で、1週間泊まり込みの作業が続いていたある日。  客筋の上層部が、視察に来る事が急遽決まった(らしい)。  システムの納期が遅れている現場に”客筋”の上層部が来る事は殆ど無い。遅れている現場に来ても、誰も幸せになれないからだ。  そして、その現場では特にリリースが遅れている原因が客筋…

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2020/04/09

【歴戦の勇者】作者の戯言と注意事項

 本来こんな文章は必要は無いでしょう。  あくまでこれは”小説(フィクション)”であり”文章(想像の産物)”として公開しています。  しかし、何人かの人に遠回しに質問されました。 ”某有名企業の人ですか?”  違います。 ”あの話はあの会社の事ですよね?”  違います。 ”もしかして、自分の会社の事ですか?”  違います。  名前を挙げられた企業と仕事をした事はありますが、名前が通るような企業に在籍していた事はありません。  また、自分の周りに居た人に酷似していると言われても困ってしまいます。  それほど、…

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2020/04/06

【そして空を見上げた】あの日見た空

 私は、今会社の屋上に登っている。  あの人が最後に見た空は、私が今見ている空とは違うのだろう。こんなに、滲んで居なかっただろう。  私は、あの人が最後に見た空を見たかった。  光化学スモッグで汚れた空だが、あの人にはどんな風に映っていたのだろう。  空を見上げていた、口元は笑って居た。ただ、もう二度と、話をする事も笑顔を見ることもできない。  溢れ出る涙を拭って、部署に戻る。  もう一度空を見上げる。見上げた空は、何も変わっていなかった。  ここは、川崎駅から、南武線に乗って何駅か行った場所にある会社だ。…

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2020/04/05

【目が覚めるとそこには】夢で終わらない

 あぁこれは、いつもの夢だ。誰にでも、1つくらいあるだろう。  同じような夢。疲れた時に見る夢。誰かを殺したいと思っている時に見る夢。  窓も、ドアも、部屋の調度品がなにもない部屋。上も下もわからない白い部屋に私が全裸で居る夢をよく見る。  私は、部屋の中を抜け出すために走りまくる。床だけでなく、壁や、天井を使って、走りまくる。走って、走って、走って、疲れ切って、倒れる。最後は、なぜか部屋から抜け出す。  その時に、必ず振り返ってしまう。白かった部屋が、真っ赤に染まったシーンで目をさます。  目を覚ますと、…

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2020/04/04

【さよならの理由】取られる事の無いコール

 もう、貴方の事は忘れたほうがいいの?  もう、連絡帳にも入れていない、貴方の連絡先。  消すまでに、1ヶ月掛かったのよ?  消してからも、指が、心が、体中が覚えてしまった、貴方の連絡先。  連絡帳から選択しないでも、貴方の電話番号をコールする事ができる。  ダメな事だとは理解している。  この取られないコール音だけが、私と、貴方を繋ぐ。細い。細い。細い。一本の糸。  けして繋がる事がない。一本の糸。  あれから、コール音を何回聞いた?出るはずが無いコール。1回、2回、3回、4回、解っている事だけど、コール…

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2020/04/03

【最高のおめでとう】一番欲しい言葉

「弘樹(ひろき)!」  同級生で、幼馴染の由紀乃(ゆきの)だ。 「なに?」 「卒業前に、みんなでボーリングに行くけどどうする?」 「みんな?」 「そう、大志(たいし)や弥生(やよい)も一緒だよ」  うーん。ボーリングは魅力的だけど、僕は高校受験が残っている。 「ごめん。行きたいけど、受験がまだ有るからね」 「え?弘樹は、私立に受かっているよね?」 「うん。滑り止めだからね。本命は、商業だよ」 「そうだったの?」 「うん」  大志や弥生と家に来て、兄さんたちと受験の話をしていた。 「でも、私立なら、私と一緒に…

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2020/04/02

【3年目の出来事】3周年のチラシ

 高校生の男子が1人で住むには、少しだけ不釣り合いなマンションだが、大城(おおしろ)和義(かずよし)は一人暮らしをしている。  よくある理由で、不幸が重なったからだけだ。  高校2年になっているが、部活もバイトもしていない和義は、学校からまっすぐに部屋に帰ってくる。  マンションはオートロック機能がついている上に常時人が居る状態になっている。その上、部屋のドアには監視カメラがついていて、帰ってからでも訪ねてきた人を確認できる状態になっている。  和義が部屋のドアを開けると、白い1枚のチラシが床に落ちた。拾い…

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2020/04/01

【残された記憶】何気ない日々

 今日も憂鬱な一日が始まる。  最低な目覚めだ。 「太輔!太輔!朝だよ。早く起きて、ご飯を食べちゃいな!」 「解っている。起きるよ」  ほら、こうして、無理矢理起こされる。勉強なんてしてもしなくてもさほど変わる事はない。  母親も父親も弟も妹も幼馴染のあいつも俺に何を期待している。  どうせ、今更勉強しても変わらない。  中堅の大学に入って、運が良ければどっかの公務員にでもなれるだろう。そうじゃなかったら、俺程度が入られる会社なら、大した仕事もさせてもらえないだろう。楽しくもない仕事を、もらえる賃金で釣り合…

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2020/03/31

【残された3分】冷めてしまった紅茶

 私と彼の距離を表現するのに、一番適切な言葉は、紅茶が冷めない距離。  彼は隣の部屋に住んでいる。  それは偶然だった。  中学卒業までは、一緒の学校に通っていた。  高校になったら、彼のご家族は引っ越してしまった。何か理由が有ったのだろう。  中学卒業の時に彼に告白しようと思っていた。でも、告白ができなかった。  学校で一番可愛いと言われている子に告白されていた。受け入れると思っていた。 「紀子!」 「え?」 「一緒に帰ろう。オヤジとオフクロとお前のご両親は先に帰ると言っていたぞ」 「なんで?」 「ん?な…

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2020/03/30

【君と決めたルール】僕がルールを破る時

 何気ない日常の何気ない時間。  それが僕にとってかけがえのない物だったと知ったのは、何もかも・・・。”自分の身体”と”君への想い”と”君と決めたルール”だけが残された日だった。  君は、僕にそんな事を望んでいないだろう。  僕は、初めて、君との約束を僕の都合で破る事にする。  君と決めたルールは4つ。この4つは何が有っても変えないと二人で決めた。 1.嫌がる事はしない 2.他人に迷惑をかけない 3.辛くても笑おう 4.大切にする  だ。  今から1番と4番のルールを破る。 —  高校1年の最初…

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2020/03/29

【紙とペンと復讐】復讐を誓った男の行動

 そこは、寂しい港町。始発を待つ者は誰も居ない。  誰も居ないと解っていながら、1人の男性は毎日ホームに立つ。  ホームで始発電車が到着するのを待っている。  男が持つメモ用紙には、電車の時刻表と到着時間がメモされている。  ホームに電車が滑り込んでくるのを待っている。  数分後に、電車がホームに滑り込んできた。  男は、ホームに吊り下げられている時計を見る。毎朝、男が調整している時計だ。  電車が止まって扉が開く。  寂れた港町の駅では降りる客も少ない。  始発となれば、0人が規定の数字だ。  男は、ホー…

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2020/03/28

【隣の料理人】食事のスパイスは勘違い?

 その女性の住む部屋は、古いアパートだだ。 (はぁ今日も疲れた)  誰も待っていない部屋に女性が入っていく。手に持っているのは、近くにある弁当屋さんの袋だ。  部屋に入って、仕事場にしていくポニーテールを解いて、髪の毛を下ろす。 (どんどん。好きだけど・・・今日も、隣の部屋からはいい匂いがしている)  アパートと言っても、女性の一人暮らしだ。セキュリティには気を使った。  部屋を借りる時に、隣に音が聞こえないようにとか、周りにどんな人が住んでいるのかを確認していた。  しかし、匂いまでは気にしていなかったの…

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2020/03/25

【二番目の愛情】戸惑いの告白

 俺には長男だけど二番目の子供だ。  当然の事だと思う。  俺は少しだけ複雑な子供だ。  俺の父はバツ1なのだ。  父の再婚相手が、俺の産みの母で、産みの母の最初の配偶者が本当の父なのだ。  ようするに、俺が今『父』『母』と呼んでいる両親とは血が繋がっていない。  本当の両親が、どうなったのかは知らない・・・ことになっている。  一度酔った父が話してくれた。  俺の本当の父は、父の友人だった人物ですでに死去している。産みの母も、父と再婚して2年後に死去した。  自殺だと言っていた。父は、本当の母の死を自分た…

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2020/03/25

【白いフクロウ】御使い

 そこは終末医療専門の病院だ。  誰も訪ねてくる事もなく、ただ死を待つだけの人たちが、最後の時を心安らか過ごす場所だ。冥界に旅立つその時まで、サポートを行う病院なのだ。  1人の女性が運び込まれた。  身寄りのない女性。女性というには幼い。少女と言ってもいい年齢だ。 「先生」 「もって1ヶ月と言われている」 「でも、なんでここに?」  看護師が不思議に思うのも当然だ。  ここは救いのない病院。少女が最後を迎えるのに相応しいとは思えない。 「彼女の希望だ」 「え?」 「彼女は、とある事件の被害者の家族で、唯一…

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2020/03/22

【雨の日】海に浮かぶ傘

 僕は、雨が嫌いだ。  この表現は、間違っていないが、合っているわけではない。  正確に言うのなら、雨が降っているときに、差して一人で歩くのが嫌いだ。傘を差さないで移動することは、別に嫌いでもない。むしろ好きだと言える。雨に濡れながら歩くことで、思い出も、過去も、積み重なった想いも、全て流してくれる・・・そんな感じがする。  雨の日は、僕の心の中にある、蓋さえも溶かしてしまう。  思い出したくもない。でも、忘れたくない。そんな、蓋をしてしまい込んだ思い出を・・・。  そう、あれは、僕が初めて人を好きになった…

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2020/03/22

【近くて遠い50cm】最後の一歩

 僕が彼女を意識し始めたのは、何時だっただろうか?  彼女が、僕に向かって 「ちょっと家まで遠いけど送ってくれる?」  送った時に話した事がきっかけだったのだろうか?  彼女は、1つ年下の19歳になる大学生。話を聞いて初めて知ったのだが、僕と同じ大学の2つ下の学年になる。  僕と彼女の出会いは、バイト先が同じになったことがきっかけになる。  バイト先も同じだし、同じ大学に籍を置いている、話そうと思えば話せる関係にあるし、メールアドレス・電話番号も知っている。  同じ時間を共有する機会は多く存在している。  …

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2020/03/22

【嘘と裏切り】彼と彼女の選択

 彼は、僕にこんな感じで話を切り出した。 「彼女は僕を好きでいてくれるし、僕も彼女を愛している」  彼には家庭がある。  その事実を、彼女には告げているという。裏切りが成立してからの恋。  これほど残酷な結末を二人以外に強いる関係ははない。僕は、不倫を否定するつもりはない。僕には出来ない、ただそれだけだ。  僕の持っている”物”で、約束できることは、  ”裏切らないこと”  話すことに”嘘”を、入れないこと。聞かれていない事や聞かれたくないことは、そう答える。それが唯一、僕が、恋人や、好きな人たちに言ってい…

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2020/03/20

【感じた重さ】失った物

 確かに、僕は、彼女の・・・君の重さを感じていた。ほんの数秒前に、君は僕の腕の中に居た。  彼女は僕の前に現れた。僕は、一目見て君を愛する道を選んだ。そして、彼女もそれを受け入れてくれた。僕の心には、彼女がいて、彼女が側にいる日常が当然の事の様に思っていた。  僕は、彼女の夢を聞いて、彼女は僕の夢を聞いてくれた。そう、二人を別つ事が来ることを考えていなかった。  僕は、彼女と初めて身体を合せた公園に来ている。あの時は、確かに彼女を身体で感じる事が出来た。  そして、彼女も僕の重みを感じてくれていた。二人は、…

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2020/03/20

【消された証】過去の清算

 俺は、消防士をしている。  よくある話だが、この職業をしていると、”バカ”に遭遇する事が多い。  今日も、高校生の”ガキ”が、公園で花火をしていると連絡が入った。”警察に言えよ”とも思うが、公園の遊具が燃えていると言われたら、緊急出動しなければならない。  俺は、大木の様にはなれないだろう。  やつは、中学生の時に、学校で自殺騒ぎがあり、それが後に事故だと言われて、最終的には、いじめの延長で殺されたと知った。その殺人がきっかけで、同窓会で数名が殺されるという事件があった。やつは、それがきっかけで、今でも収…

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2020/03/20

【消えない絆】それぞれの思い

 僕には、彼女が居る。他の人には見えないが、僕には彼女を感じる事が出来るし、彼女を見ることができる。  彼女とのであいは、かなり前にさかのぼらなければならない。僕と彼女は、世間で言う”幼なじみ”の関係にある。僕が、彼女を好きだって事に気がついて、彼女が受け入れてくれたのは、つい最近の事で、彼女が肉体を失った日になる。  彼女が好きなアニメの劇場版のチケットを買って、日曜日に映画に誘った。彼女は友達と行く予定だったようだが、僕の誘いを受けてくれた。  そして、映画を見る前に、待ちの駅前の喫茶件で僕の気持ちを打…

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2020/03/19

【笑えない話】仕事を頑張る人

 あぁ今日も終電を逃してしまった。  しょうがない。いつものように、プロジェクトの進行状況を確認して、問題がありそうなところをレビューしておこうかな。  僕が務める会社は、ソフトウェアの開発を行っている。小さな地方都市の、小さな小さな会社ですが、幸いな事に仕事が切れる事がない。人手不足とまでは言わないけど、待機工数が発生しないくらいには仕事が充実している。こんな事を言うと自慢に聞こえかもしれないが、僕が開発した”開発ライブラリ”が売れている。  音声を使って操作コマンド入力を可能にする開発ライブラリだ。各種…

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2020/03/19

【見えない手】港町の喧騒

 僕の田舎は、東名高速が通って居ることと、銘産となる海産物があるくらいしか取り柄がない。田舎町だ。  その中でも、港に近い地区には、昔からの風習が残されている。中学校卒業を間近に控えた、十分冬と言われる季節に行われる行事だ。  春漁の豊漁と、新しく船乗りになる、男児が行う行事だ。  僕は、漁師にはならない。高校に進学するし、できれば、大学にも行きたい。伝統行事と言われるが、はっきりって迷惑この上ない。しかし、悲しい村社会・・・漁師ではない僕は、参加を拒否する事はできるはずだったが、円味(まるみ)が参加する。…

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