【二番目の愛情】戸惑いの告白
俺には長男だけど二番目の子供だ。
当然の事だと思う。
俺は少しだけ複雑な子供だ。
俺の父はバツ1なのだ。
父の再婚相手が、俺の産みの母で、産みの母の最初の配偶者が本当の父なのだ。
ようするに、俺が今『父』『母』と呼んでいる両親とは血が繋がっていない。
本当の両親が、どうなったのかは知らない・・・ことになっている。
一度酔った父が話してくれた。
俺の本当の父は、父の友人だった人物ですでに死去している。産みの母も、父と再婚して2年後に死去した。
自殺だと言っていた。父は、本当の母の死を自分たちの責任だと悔やんでいる。
父は友人に産みの母を頼まれたようだ。
死ぬ間際に頼まれたのだと言っていた。理由は話してくれなかった。
どういう経緯で母と結婚したのかはわからないが、母も産みの母を知っているようだ。
全員が、幼馴染と言ってもいい関係だったようなのだ。
そんな不思議な環境の中で、俺は二番目として生活してきた。
父の事も、母の事も、感謝しているし、尊敬もしている。弟の事も大事だ。しかし俺は、この家では2番目の存在でしか無いのだ。小さいときには、弟に嫉妬した事もある。でも、酔った父に真相を聞かされた時に、納得してしまった。
グレるという選択肢は俺にはなかった。本当の両親と、育ててくれた両親。どちらも俺にとっては両親なのだ。今の両親が二番目の両親などと考えていない。
明日、卒業式が終わったら、俺は家を出て一人暮らしを始める。
街に出て働くことになっている。就職先の寮に入る事が決まっている。
「父さん?なに?」
家を出る前に、父に呼ばれている。
部屋のリビングで、父さんの対面の椅子に座る。
「・・・」
なんかいいにくそうにしている。
もしかしたら、本当の両親の事を教えてくれようとしているのか?
「慧。明日の準備は終わっているのか?」
笑いそうになってしまう。
荷物をまとめて寮に運んである。父さんに運んでもらった。
そんな事も考えられないほど動揺しているのか?
「大丈夫。もう寮に運んだから、明日は着替えを少し持っていくだけだよ」
「あっそうだったな。・・・それでな」
「なに?」
話しにくそうにしているけど、チラチラとリビングからキッチンの方を見ている。
母がそっちで聞き耳を立てているのがわかる。
「あのな。慧」
「うん」
長い沈黙だ。
パタパタとキッチンから母が出てきたのがわかる。
「アナタ。慧が困惑しているでしょ」
「そう言っても・・・」
「もう。いいわね。私が」
「ダメだ!これは、俺の役目だ!」
びっくりした。
温和な父が母を怒鳴るなんて・・・。それほど、大事に思っていてくれたのか?
もしかして、二番目なんて思っていたのは、俺の勘違いだったのか?
「そ、そうね。アナタの役目ね。ごめんなさい。慧。少し、パパとママの話を聞いてくれる?」
母は、父の隣に座って、お茶を俺の前と自分と父の前に置く。
「もちろん。俺に関係する事?この目に関係する?」
両親が話しやすいように、目の話をする。
俺の目は、茶色と濃い青だ。父と母は、びっくりするくらいの黒色だ。この両親から、俺の様な目を持つ子供が産まれるわけがない。
両親は身体を少しだけ強張らせる。
大丈夫。俺は知っている、知っていて、父と母を、父さん。母さんと呼ぶ。呼んでいたいと思っている。
「慧。お前は、俺と母さんの本当の子供じゃない」
「うん。知っていたよ。だって、目が違いすぎるし、髪の毛の色も俺だけ違うからね」
わかっていた事だが、父にはっきりと言われるとやはり心に・・・来る。
「慧!でも、お前は、俺の子供だ。血が繋がっていなくても、俺と母さんの子供だ!」
「うん。ありがとう」
ダメだ。
泣くな!泣いちゃダメだ。涙を見せるな。哀しいわけじゃない。教えてもらえて嬉しいと思え!
「サトちゃん。あのね。私とパパの」「母さん!」
父が、母のセリフを止める。これも珍しい。
「そうね。私が言ってはダメね。ごめんなさい」
なにか事情があるのだろう。
「慧。お前の父親は、俺の同級生だった男だ」
父から、本当の父の学生時代の事を聞く。これは、ある意味・・・拷問に違いない。
なぜ顔も知らなければ、有ったこともない、父親の話を育ててくれた父から聞かなければならない。
学生時代の出来事なんて話の筋として関係ないだろう?
「アナタ」
「おっすまん。奴は、憎たらしいが、そんな男だった」
「そうだったのですね」
「他人事だな?」
「え?だって、俺の父さんは目の前に座っている人だけですからね。あった事もない人の事を父とは思えないですよ?」
「・・・。それで、お前の生みの・・・、本当の母親なのだが・・・」
ちらっと母を見る。
母が気にすると思っているのだろうか?それなら、杞憂だと先に話したほうがいいかも知れない
「そうね。加奈子の事は、私から話したほうがいいね」
「加奈子?」
「そうよ。慧の生みの親だけど・・・心が弱かったのね」
「??」
「加奈子は、慧を産んで、次の子を身ごもった時に、あの人が事件で死んでしまって・・・」
「え?」
「それはいいのだけど・・・」
事件?
死んだとは知っていたけど、なにかに巻き込まれて死んだのか?
「うん」
「優しいのね。そういうところは、加奈子にそっくりね。加奈子は、慧の妹になる女の子を産むはずだったのに・・・」
「死産だったの?」
「そうね。死産・・・かな。よほど、ショックだったのだろうね」
「でも、それだと・・・」
「そう、パパは、あの人に頼まれて、心が壊れた加奈子と結婚したのよ」
「え?」
「私との結婚が決まっていたけど、アナタを実子として向かい入れる為に、私との結婚を先延ばしにしたの」
「え?母さんはそれで」
「良くないけど、しょうがなかったのよ。加奈子には、パパも私も返しきれない恩があるのよ」
「え?それじゃ俺の事は・・・恩を返す・・・ため・・・なのか?」
自分で言っていて悲しくなってくる。
違うと否定して欲しい。でも、今の言い方じゃ・・・。
「サトちゃん。違うわよ!貴方は、私とパパの子供!これは間違いない!あの人や加奈子が生き返っても渡さない。私の、パパの宝物!」
俺もしっかり愛されていた・・・のだ・・・。二番目でもいい。俺の両親は、この二人だ。
「慧。すまんな。混乱させてしまって、こんな話は、しないほうが良かった・・・」
「父さん。母さん。俺、二人の子供で良かった」
「慧」「サトちゃん」
「知らない両親の事なんかどうでもいい。二人の馴れ初めとかのほうが気になるよ」
「サトちゃん。それは、サトちゃんがお嫁さんを連れてきた時に、お嫁さんにだけ話してあげますよ」
「ハハハ。それじゃ、隠し事ができない嫁さんを見つけないとな。その前に彼女を探してこないとな」
「そうだな」
少しだけ気になった事を聞いておく。
父と母が話したくなければ無理に話さなくて良いと先に言ってから聞くことにしよう。
「父さん。母さん。話しにくかったら話さなくてもいい。俺の両親は、父さんと母さんだから・・・。でも、教えて欲しい事がある」
ここで一息入れる。
父も母も俺をまっすぐ見てくれている。
「俺の産みの両親だけど、なんで死んだの?」
聞いてしまった。
本当なら、聞かないほうが良かったかも知れない。
「そうだな。お前には知る権利があるだろうな」
そう、父が語り始める。
学生のときの話だ。本当の母と父と母の3人は幼馴染だったらしい。
本当の父の家は、裕福だったようだ。
父と母の家も、加奈子と呼ばれた加奈子母さんの家も貧乏だったようだ。
不愉快になる話であるが、加奈子母さんは資金援助と引き換えに、本当の父のところに嫁入りしたようだ。その資金で、父も母も家族が残した借金を完済したようだ。だから、父も母も親戚の付き合いが殆ど無いのだな。
本当の父は家に来ていたお手伝いさんに刺された。事情は、結局わからなかったらしい。父の表情から、なにか知っているのはわかるが、わからなかったと言っている父の言葉を信じる事にする。
暫く生死の境を彷徨ったクズは、父と母を呼んで加奈子母さんを娶ってくれとお願いしたと言っている。
実際には、お願いではなく、命令なのだろう。この時点で、加奈子母さんは心が壊れてしまっている。クズの実家は、加奈子母さんと俺を家から追い出した。心が壊れて何もわからない状態の加奈子母さんに財産を放棄させている。
そして、父は加奈子母さんと結婚して、俺を引き取った。
加奈子母さんを、父と母の二人で面倒を見ていた。そして、俺が3歳になった時に、加奈子母さんは自ら命を断った。理由はわからなかったらしい。
加奈子母さんは父と母に、クズからの手紙を渡したのだと、俺に向けての手紙ではなく、父に向けての手紙だ。その時に、加奈子母さんの手はやけどしていたらしい。
封は切られていない。父も母も読みたくないのだろう。
俺に処分を任せると言って渡してくれた。
その場で破いて燃やす事もできたが、父と母が知らない事情が書かれているかも知れない。
好奇心を抑える事ができなかった。
—
親愛なる我が友へ
俺は、お前に勝ちたかった。お前は、俺が持っていない物を全部持っている。
俺が好きになった女は、お前の事が好きだった。
お前にとって二番目の女なのだろう。
俺が金の力で娶った。
加奈子は、俺の子供を産んだ後もお前の事を愛していると泣いていた。子供は、お前の子供だと思っているぞ?
子供を産んだ後にすぐに犯して子供を作った。
二番目を産んだ後でお前に返すつもりだ。もらってくれるよな?
加奈子の目の前で、他の女を犯すのも楽しかったぞ。
お前はいつまでも二番目だと思い知らせてやった。
—
素晴らしくクズな内容が長々と書かれていた。素晴らしくクズな内容で、手紙を燃やす事に戸惑いはなかった。
父と母にとっては、加奈子母さんの変わりかも知れない。
二番目の愛情なのかもしれない。
加奈子母さんからも、父からも母からも愛情を受けている。
加奈子母さんは本当に心が壊れていたのだろうか?
fin
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