【紙とペンと復讐】復讐を誓った男の行動

 

 そこは、寂しい港町。始発を待つ者は誰も居ない。

 誰も居ないと解っていながら、1人の男性は毎日ホームに立つ。

 ホームで始発電車が到着するのを待っている。

 男が持つメモ用紙には、電車の時刻表と到着時間がメモされている。

 ホームに電車が滑り込んでくるのを待っている。

 数分後に、電車がホームに滑り込んできた。
 男は、ホームに吊り下げられている時計を見る。毎朝、男が調整している時計だ。

 電車が止まって扉が開く。
 寂れた港町の駅では降りる客も少ない。

 始発となれば、0人が規定の数字だ。

 男は、ホームで客を見ている。
 改札は自動改札が導入されている。それでも、お年寄りが多い港町なので、男の手伝いが必要になる場合がある。

 男は、誰も降りてこない事を確認した。
 男は、ホームから電車が離れたのを確認して娘が残した唯一のペンで、メモ用紙に電車が止まった時刻と利用者数を書き示す。

 男の仕事は、駅長となっている。男1人で廻しているような小さな駅だ。

 男は、天涯孤独だ。元々は、妻と小学5年生になる娘が居た。男の娘は、学校でいじめられていた。
 男が知ったのは、娘が海に身を投げてからだ。男が仕事をしている最中の出来事だ。
 そして、身体が弱かった妻が娘の自殺を知って・・・。翌日に自分で、自分の人生の幕引きを行った。

 男は、いじめで宝物だった娘と最愛の妻を失った。
 男は、止める周りの言葉を無視して翌日から業務に戻った。心に決めた事がある。誰にも話していない、誰にも相談していない事だ。

 それから、男は1人で過ごしている。死ぬことを考えた、しかし死ぬのを辞めた。辞めたと言うのは間違っている。男は、ある事を心に決めているのだ。それから、電車の時刻と利用者数を書き始めた。そして、時々利用者数の数字を4色で印を付けている。数字を○で囲んでいる。

 1日1枚のメモ用紙を使って、娘が修学旅行で買ってきた唯一の形見であるペンを使って、時刻と電車と利用者数と丸印を付けている。

 男が、メモ用紙にメモを作り始めて、7年。娘が本来なら高校を卒業する年になっていた。
 毎日付けていたメモも溜まっている。

 男は、終電が出ていくまで同じことを繰り返す。時間帯によっては、利用者の人数が数えられない事もある。その場合には、自動改札のデータを見る事にしている。

 そして、利用者が減っている事が解っている。

 7年。男にとっては長くも短くもあった7年がすぎた。形見である娘からもらったペンも修理をしながら使っている。メモ用紙も大量になっている。大量の紙とペンで記された印を見ながら、男は決心した。

 男は、娘をいじめた奴らが、娘が高校卒業するまでに、娘に詫びを入れてくる事を期待していた。
 そして、校長を除く学校関係者が1人でも謝罪に現れる事を期待していた。

 学校側もいじめの事実を認めた。男は、学校側が謝罪してくれるものとして、謝罪を聞いてから、娘と妻が待つ場所に向かおうと考えていた。しかし、学校だけじゃなくいじめていた本人たちやその親の1人も、謝罪に現れなかった。

 ただ1人、校長だけが・・・校長として謝罪に現れた。
 校長は、学校を辞めた。自分なりのけじめをとったのだ。男が嬉しかったのは、校長が自分の事を覚えていてくれたことだ。男は、校長がまだ新人と言われる年齢の時に、男の担任だった人物だ。
 涙を流しながら謝罪してくれた。そして、命日には毎年墓前を清掃して、仏壇にも謝罪に来てくれている。妻にも同じ様に謝罪してくれている。

 関係者の中で校長だけは許そうと男は考えた。

(まずは娘の担任の女性だ)

 7年間、担任は学校には電車を使って通っている。
 毎日顔を合わせておきながら会釈もしない。男が一番許す事ができない人物なのだ。

 メモから剥がして、大量になった紙の中から、担任の印を探す。
 担任は、今年に入ってから木曜日に遅くなる事が解っている。

「結城さん」
「え?」

 男は、担任を拉致して、県境を越えた山の中に生きたまま放置する事にしている。
 娘と妻が眠る海から遠ざけたかったのだ。

「結城さん。私の事がわかりますか?」
「なっ・・・。なんで・・・。こんな辞めて・・・。私が何をしたって言うのよ!離しなさい!」

 担任がヒステリックな声をあげる。
 男は、うるさそうにしながら話を続ける。

「そんな、ヒステリックにならないでください。私の事がわかりますか?」
「あんたなんか知らないわよ!早く、私を離しなさい」
「はぁ・・・。そうですか。残念です。私の事がわからないのなら、目は必要ないですよね」

 男は、持っていたペンで、娘の形見とは違うペンで、担任の目を潰す。
 担任の絶叫が響き渡る。心地よい音を聞いているかのように、男の心には揺らがない。

「うるさいですね。こんな人だったのですね。残念です。それに、謝罪するつもりが無いのなら、必要ないでしょう」
「し・・・ゃ・・ざ・・・い?」
「まだわかりませんか?本当に、残念な人ですね」

 男は、口枷をする。
 口枷が取れないように、顔に瞬間接着剤で固定する。手枷をして、足枷をして、小屋を出る。
 顔が判断できないように、薬剤を顔にかける。別に、これで死ななくてもどうでもよかった。事情を知ってから苦しんでもらっても構わない。男を恨んでくれても構わない。そう考えているのだ。
 小屋は男が購入したものだ。男は、自分がやりたい事が終われば、その後の事など考えていない。

「簡単に死なないですから安心してください。私はそろそろ帰らないと朝の業務に遅れてしまいます」

「それでは、結城。さようなら」

 男は、また翌朝から同じ事を行う。
 ホームや待合室から聞こえてくる噂話に耳を傾ける。

「結城先生が今日無断欠勤したけど、なにか聞いているか?」
「うーん。またじゃないのか?あの人、月に何回か同じ事をするからな」
「だよな。それに心配してもしょうがないだろうな」
「あぁそうだな。口うるさいヒステリックな人が居なくて静かで良かったよな」

 そんな話声が聞こえてくる。
 男がつける印の色がその日から減った。

 男が付けている印はあと3つ。
 娘からもらったペンで付けられ色は全部で5つ。一つは、これで使わなくなる。

 男は、そっと、ペンからその色を抜き取って、元々入っていた。使えなくなってしまったインクをペンに戻す。

(次は誰にしましょうか?決まった行動をしている人からにしましょう。そうなると、こっちの男ですね。この女は最後にしたほうがいいでしょう。早くしないと、娘と妻に合うのが遅くなってしまいます)

 男は、定期的に電車を使っている、二人の男を順番に拉致する事にした。
 男は、二人の男性を観察していた。それこそ、7年間毎日の様に観察していた。1人は、力があるように思えたので、男は考えて身体を鍛えた。力負けをしたら計画自体がダメになってしまう。

 インターネット通販で気絶させる事ができるほどの威力になっている違法なスタンガンを購入している。
 同じ様に、大量の違法薬物も入手している。自分で使うためではない。

 まず、男は、男性を拉致する。
 スタンガンで気絶させて、担任が待っている場所につれていく。首輪をして目隠しと口枷と手枷をしてある。首輪や目隠しや口枷や手枷を外すと電流が流れる仕組みになっている事を教える。実際に電流は流れるが死ぬほどではない・・・と、考えていた。

 男は次の日に、もうひとりの男を拉致する。
 そして、同じ様に首輪を目隠しと口枷と手枷をする。餌も何も与えない。必要ないと思っている。

 担任はまだ生きている。顔を潰した状態で二人の男の前に全裸で放置している。

 翌日、男は、娘を自殺にまで追いやった女を拉致する。

 男は、担任以外の口枷を外す。手枷を外して、男は姿を見せないで、3人に問う。

「7年前に自分たちが何をしたか覚えているのか?」

 3人から期待した言葉は返ってこない。

 男は、黒色以外をもとに戻したペンで、持ってきた紙に言葉を書く。

”思い出したら言ってくれ、明日また来る”

 そして、目隠しを外して、その場を立ち去る。
 用意してある食べ物や飲み物には、大量の媚薬が混ぜ込んである。
 同じ様に、部屋を温める為に用意した囲炉裏には違法薬物が混ぜ込まれた草木が置いてある。火をつければ幻覚作用がある煙が出るようになっている。

 最後の女は、全裸で首輪だけの状態になっている。
 どうなろうと関係ないと、男は思っている。

 翌日、男が小屋を尋ねると、予想通りの展開になっている。
 首輪を外そうと頑張った形跡もあるのだが、無理だったようだ。

 鉄の鎖で首を覆っているだけではなく首の周りも鉄製の者を使っている。

 男は、昨日と同じ様に、新しい紙に娘のペンで言葉を綴る。

 最初に死んだのは、担任だったようだ。
 男と女に食事を与えられなくて、何度も犯されてから死んだ。

 次は、片方の男だ。もうひとりの男に殺された。

 次は男が死んだ。
 女が最後に残ったのにはわけがある。

 男が、男と女だけになった時に、女にナイフを渡した。

 女は、男を刺して、自分の首輪を外そうとしていたができない。男に、懇願したが、男が求めている言葉ではなかった。

 男は、女の様子を観察した。そして、ヒントを与えたが女が思い出す事はなかった。
 女は最後まで、謝罪の言葉を口にする事はできなかった。でも、女は生きていた。

 男は、監禁してから、7日目に男のところに警察が来た。

 男は、翌日に娘が自殺した港から身を投げた。

 男は、詳細にメモを残していた。
 警察がたどり着く時に、女が生きていようと死んでいようと関係ないと書きながら・・・だ。

 女は、娘の友達だと、娘が紹介した女だからだ。
 男は、娘の友達が助かるのか、死んでしまうのか、どちらでもいいと考えていた。

 男の遺体はすぐに見つかった。
 男は、娘のペンと、妻が残した紙を持って、海に浮かんでいた。

 男の顔は穏やかだった。

 男が使っていた部屋には、男がメモに使った紙とインクが無くなったペン先と復讐の為に使った道具が残されてた。

fin

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