【第七章 王都ヴァイゼ】第十六話 孤児とユーラット

 

 子どもたちはすぐに見つけられた。

 セミトレーラのライトに照らされた子どもたちは怯えていた。
 馬が居なくても走る大きな馬車で、大きな目玉から光を放って、自分たちを見ているように見えれば大人でも怖くなってしまうだろう。子どもたちは、粗末な格好で生きているのが不思議な状況になっている者も存在している。

 皆が怯えた目でライトが落とされたセミトレーラを見ている。
 最初、ヤスが近づこうとしたのだが、ドーリスに止められた。男性が近づくよりも、女性である自分が行った方がいいと判断したようだ。

 ドーリスを降ろして運転席から状況を観察しているヤスにマルスから連絡が入った。

『マスター。個体名ツバキが後30分ほどで到着します』

『わかった』

 ヤスは、窓を開けてドーリスに呼びかける。

「ドーリス。ツバキが3-40分で到着する食べ物が必要なら運んできた物資を使ってくれ」

 ドーリスはヤスの声を聞いて、OKのサインを送る。
 言葉を出さなかったのは、前に居る少年や少女との話を優先したほうがよいと判断したからだ。

 10分くらいして、ドーリスはヤスの所に駆け寄ってきた。

「どうした?物資が必要か?」

「あっ・・・。大丈夫です」

 ヤスは、ドーリスがアイテムボックスから食料を出しているのを見たがスルーして問いかけたのだ。意味はなかったが、ドーリスが隠したので、話をしていて何かアイテムボックスにしまったのだと判断した。

「そうか」

「彼らは、リップル領から、神殿の噂を聞いて流れてきたようです」

 唐突にドーリスはヤスに説明を始めた。

 ヤスは、黙ってドーリスの説明を聞いた。
 ドーリスが聞き出した内容は少なかったが、重要な話も多かった。

・彼らは当初はレッチュ領の領都を目指していた。
・入都を断られた。
・デイトリッヒに会うために領都に向かった。
・冒険者に神殿の噂を聞いた。冒険者が近くと通る商隊に乗っていけるように手配してくれた。
・休憩所では近くの木々から果物を採取して食べた。

「ドーリス。子どもたちは無事なのか?」

 ヤスの問いかけの意味をドーリスは正確に理解した。

「はい。リップル領を出てから1人の脱落もないと言っています」

「そうか、よかった。でもな、ドーリス。根本部分を説明してもらっていないぞ?」

「・・・」

 ドーリスが言葉を濁した部分だ。
 彼らが、レッチュ領を目指すきっかけがあったはずだ。

「彼らの居た孤児院が・・・」

「どうした?」

「はい。彼らの孤児院が、リップル子爵の次期当主を名乗る男性に接収されたようです」

「は?孤児院は、別に子爵が運営していたわけじゃないのだろう?」

「はい」

「それで、経営者や世話をしていた人たちが居ただろう?なんで、子供だけになっている?」

「・・・」

「ドーリス」

「彼らの言葉なので、本当かわかりません」

「そうか、教えてくれ」

「はい。引退した冒険者の老夫婦が経営していたらしいのですが・・・」

「あぁ」

 ヤスは、この時点ですでにどうなったのか解ってしまっている。
 言いにくそうなドーリスと先程見た子どもたちの様子で薄々とは気がついていた。

「殺されました。目の前で・・・」

「そうか・・・。証拠があっても、次期当主だと罪に問うのは難しいのか?」

「無理だと思います。レッチュ領ならしっかりとした証拠があれば・・・。でも、リップル子爵領では無理です」

「そうか、だから、領都では彼らを保護出来なかったのだ」

「え?」

「門番がどこまで考えていたのかまではわからないが、彼らを領都で保護しているとリップル子爵が知ったらどうすると思う?」

 ヤスの指摘は的外れだったのだが、ドーリスには危険があると思えた。

「子爵家から、領民を奪ったと言われる可能性があります」

「子供だけだから余計にそうおもうよな」

「はい」

 ドーリスもヤスも勘違いしていた。
 リップル子爵の自称次期当主が欲しかったのは、孤児院が建っていた場所なのだ。自分が気に入った者に与えて自分の評価を上げるためだ。孤児院が邪魔だったのだ。ただそれだけのために孤児院を潰して、管理人を子供の前で斬り殺したのだ。
 中に子供が住んでいたとしても興味の埒外にあった。実際、孤児院を取り壊す時に死んだか、逃げ出してスラム街にでも移り住んだと考えた。ただ、孤児院に有るはずだった物がなかったために、自称次期当主は荒事を専門に行っている者たちを雇って子どもたちを追わせた。追わせたが、子どもたちの行動が早かった。指の間からすり抜けるように難を逃れた。

 子どもたちが荒事を専門にしているやつらの手を逃れて自領を出て神殿近くにたどり着いているとは思っていない。

「あぁそれで彼らは神殿に連れて行っていいよな?ダメっと言っても、ツバキを呼んでいるから連れて行くけどな」

「大丈夫です。それで申し訳ないのですが、ヤスさんはユーラットに寄るのですよね?」

「そうだな。アフネスが何か渡したい物があるとか言っていた」

「ここまでくれば道案内も必要ないと思いますし、私はツバキさんと神殿に戻ろうと思います。私がここでツバキさんを待っていますので、ヤスさんはユーラットに移動してください」

「・・・。そうか、頼む」

 ヤスは、窓を閉めた。
 ツバキもすぐに来るだろう。ドーリスが入れば、子どもたちも安心できるだろう。
 それに、あの場所ならセバスの眷属たちが見守っていてくれるだろう。

 ヤスは安心しユーラットにハンドルを切った。

 途中でツバキが運転する小型バスとすれ違った。

 ヤスは、懐かしいユーラットに戻ってきた。

 ヤスは、裏門までセミトレーラを移動させた。セバスの眷属たちによる舗装された道を通り抜けた。

 裏門では、アーティファクトが近づいて来たのを知ったアフネスが待機していた。

「ヤス」

 セミトレーラを停めた。ヤスにアフネスが声をかける。

「アフネス。俺に用事が有るのだろう?」

「伝言を聞いてくれたのだな」

「あぁ・・・。それで?」

 アフネスは、窓越しに丸めた羊皮紙をヤスに渡す。

「これは?」

「リーゼの父親を中心にまとまった者たちで決めた事だ。ヤスが神殿を攻略したと認める証書だ。それと、アーティファクトがヤスの物だという証書も作成してある」

「え?」

「神殿の方は、持っていてくれればいい。エルフの関係者に何か言われたときに見せれば、大丈夫だ。アーティファクトは、ドーリスかサンドラに渡せばわかるだろう」

「どういうことだ?」

「ヤスのアーティファクトは複数存在するだろ?」

「あぁ」

「魔剣なんかと同じ扱いにして、所有登録をギルドでしてしまえば、たとえ盗まれても見つかれさえすれば取り戻せる」

「そりゃぁ登録しないとダメだな」

「頼む。ギルドに書類を出せばできるようになっている」

 ヤスは、アフネスに礼を言って神殿に向かう。
 セミトレーラでも曲がれるように設計された道なのでなんとか曲がれている。ヤス以外がセミトレーラを運転出来たとして、神殿-ユーラットの道は無理だとは思うが、ヤスしかセミトレーラを運転しない状況では困らないだろう。フルトレーラはヤスでも無理だと思うが、現状の運搬ならセミトレーラで十分だろうと思っている。

 何事もなく、神殿の都テンプルシュテットに到着した。神殿の守りテンプルフートでは丁度カスパルがバスでユーラットに向かう準備をしていた。何人かの神殿に入られなかった者たちを載せていくようだ。料金は取っていないので文句は出ていない。門の通過儀礼を試して入られなかったので、ユーラットで休んでからもう一度試すと言っている。幾度行っても結果は同じなのだが、諦めなければ道が開かれると思っているのだ。

「ヤス様!」

「カスパル。ユーラットか?」

「はい!行ってきます!」

「お!頼むな。途中でツバキとすれ違うかも知れないけど、俺は神殿に到着したと伝えておいてくれ」

「わかりました!」

「そうだ、ディアスは家に居るのか?」

「その・・・」

「どうした?もう喧嘩か?」

「違います!リーゼとサンドラと神殿の地下に・・・」

「え?カートか?」

「はい。夕方には帰ってきますが・・・」

「わかった。サンドラも一緒なのだな?」

「はい。多分」

「わかった」

 定刻になったので、カスパルは7人を載せてユーラットに向かった。
 ヤスは神殿の守りテンプルフートを通り抜けて神殿に向かうロータリーに近づくと、セバスが待っているのがわかった。

 ロータリーでは停めずに、そのまま地下の駐車スペースにセミトレーラを停めた。

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