【第六章 ギルド】第二十話 おい

 

ギルドに俺のメリットを提示して、ミルとミアが居る訓練場に向かった。

「ミル!」

声をかけるが聞こえていないようだ。
音を遮断しているのか?

ミルが、ミアに武器の使い方を教えているのか?
ミアが、ギルドが用意している模擬戦用の武器を選んで、レオを相手に模擬戦を繰り返している。

ミアのステータスは低くない。テイマーなら、本人が戦う必要は少ないけど、戦えて困らない。ギルドが用意している武器の中では、短剣が合うようだ。レオが徐々に速度を上げるが、攻撃を当てられないが、しっかりと対応は出来ている。種族的なものなのか、ミアの特性なのかわからないけど、進化前のヴェルデゴブリンビアンココボルトなら倒せそうだ。ジャッロオークは、打ち合いは負けるだろう。ミアの足が止まる前に倒しきれれば勝てるだろう。

多分、1時間くらい武器を変えて、レオやミルとの模擬戦を繰り返している。

最初に気が付いたのは、ミアだ。俺に気が付いて、手を振っている。手を振り返すと、俺の所まで走ってきた。
あれだけ動いていたのに、まだ動けるようだ。ミルやレオも、ミアの後に続いているが、急いで走っている様子はない。ミアを追い越さないように調整をしているようだ。

「あるじ!」

ミアが俺に飛びついてくる。
しっかりと受け止める。

「ミア。すごいな」

「うん!ミル姉に教えてもらった」

ギルドの施設もすごいな。過保護なハーコムレイが作ったのか?短時間で、こんな施設が設置されるなんて、すごいな。もしかして、訓練場がないと、ルナが皆と一緒に王都の外に出て訓練をするから、作ったとか言わないよな?

「ミル?」

ミアに教えていたのが、ミルだから想像はできるけど・・・。実際に、ミルの考えは確認しておきたい。

「ミアが、リンの役に立ちたいって、それと、戦えた方がいいと思った」

想像していた通りだ。

「そうだな。レオが居ても、ミアが戦えた方が逃げるチャンスは増えるだろう」

「うん」

そうだよな。
ミアが戦って、相手を倒す必要はない。逃げ出せるだけの実力があれば十分だ。それは、俺にも言える。
俺はかっこ悪くても、逃げ出して、眷属たちと合流することを優先しなければならない。眷属は、俺が居るから神殿に協力してくれている。だから、俺は死んではダメだ。生き延びることを前提に考えなければならない。神殿は、マヤが安心して過ごせる場所だ。守る必要がある。

神殿に帰ったら、武器と防具を考えよう。
一緒に居ることが多くなるだろう。ミルとマヤの装備も見直した方がいいかもしれない。あと、ミアと一緒に王都に来た事で、テイマーの事情が把握できた。人型は種族的に難しいかもしれないが、アウレイアやアイルとリデルなら連れて歩ける可能性が出てきた。
教会も絡んでいるような事を言っていたから、フレットに相談しよう。ギルドとして、テイマーを評価できるように出来れば、最良だな。

「あっ!居た」

ルナが俺とミルを見つけて、駆け寄ってくる。

「もう決まったのか?」

「え?あっうん。それを含めて、リン君に話を聞きたい。ミルはどうする?」

ミルは、もう少しだけ訓練場に残って、ミアとレオと模擬戦を行うようだ。
それを聞いた、ルナが”少しだけ待って”と言って、戻ってしまった。

どうしたらいいのか、解らないが、何かしらの結論が出たのだろう。待っていると、タシアナとサリーカとフェムとカルーネとフレットとアルマールを連れてきた。本当は、イリメリも訓練場に来たかったが、話が進まない可能性を考えて、訓練場には来なかった。

どうやら、ミルが実践を経験していると聞いて、皆がミルとの模擬戦を・・・。と、いうことらしい。

ミルも、皆の提案を受け入れた。自分の為ではなく、ミアとレオが経験を積むのに丁度いいと考えたようだ。

「ミル。あんまり無茶はしないように・・・」

「うん。大丈夫」

ミルが怪我をするとは思っていない。
対人戦の経験を積むために、ミルはヒューマやジャッロやラトギと模擬戦を行っている。対獣でもアウレイアやアイルが相手をしている。多分、同級生の中で戦闘経験ではミルが頭一つ、抜き出ている。ステータスだけなら、俺の方が上だが、ブロッホがいうには、俺はステータスに寄りかかっているから、一流と呼ばれる者や、ブロッホたちのようにスキルが優秀な者には、負けないまでもかなり苦戦するだろうと言われている。同じ、チートを持った者たちが、訓練をしてスキルを磨いてきたら、俺では勝てない。落ち着いたら、俺も訓練をしないと・・・。

ルナの案内で、ギルドの建物に戻る。
先ほどまで話をしていたギルド長の部屋とは違う部屋に案内された。

「やぁ久しぶり」

「殿下?」

「リン君。座って、座って」

「はぁ・・・」

進められるまま、ローザスの前にあるソファーに腰を下ろす。ローザスの隣には、苦虫の数十匹を噛みつぶしたような表情のハーコムレイが座っている。

「リン君?」

「なんでしょうか?」

「うーん。硬いな。君は僕の”おい”なのだから、もっとフランクに、ローザス兄さんと呼んでくれても」「ローザス!」

ハーコムレイが、突っ込みを入れる。ローザスは、俺を見るが・・・。俺に何を求めている?

「アルフレッド殿下?」

言い方を変えてみた。

「リン君?解ってやっているよね?」

「それで?アルフレッド=ローザス・フォン・トリーア殿下。私を呼んだ理由をお聞かせいただきたい」

ローザスでは話にならないので、ローザスの名前を呼びながら、ハーコムレイをしっかりと見る。

「・・・。リン=フリークス」

「なんでしょうか?ハーコムレイ・フォン・ミヤナック次期辺境伯様」

「っち。まぁいい。貴様は、サビナーニ様の血縁なのか?」

「違います。俺の母親は、サビニ・フリークスです。父親は、残念なことに、ニノサ・フリークスです。サビナーニ様との血縁関係はありません。従って、アルフレッド殿下の”おい”ではありません」

王家に関わらないと宣言しておく、いろいろ立場の問題が出てきたら面倒だ。サビニがどんな人物でも俺には関係がない。俺は俺だ。
それに、貴族たちにも面倒な奴らが多そうだ。

「わかった。君が、聡明で嬉しいよ」

明らかに、ハーコムレイは安心する。ローザスは、まだ何かを言っている。気にしない方向でよいようだ。

イリメリが飲み物を持って戻ってきた。ルナと一緒に入ってきた。ルナとイリメリは、俺とローザスたちとは違う場所に椅子を持ってきて座る。

「兄様?話は?」

「進んでいない」

「はぁ・・・。ギルド長からの許可は貰ってきました。私とイリメリに任せるそうです。ただ、王都での活動拠点は残しておきたいとの事です」

「わかった。ナッセには後ほど、私からも謝意を伝えよう」

「ありがとうございます」

イリメリが頭を下げる。立場を考えれば、ルナが頭を下げないのは理解できる。

「リン君」

「ん?」

イリメリがいきなり本題にはいるようだ。いつまでもローザスに構っていられないようだ。

「ギルドは、リン君からの提案を受けることにします」

「わかった」

「リン=フリークス。概要は、イリメリ嬢やルナから聞いたが、本当なのか?」

「そうですね。ここで、本当だと言うのは簡単なので、現地を見てみますか?許可が頂ければ、どこかに入口を作ります」

「ルナの話では、入口は、無限ではないが、ある程度なら作れると聞いたが?」

「距離には制限はありますが、3-4箇所は準備ができます」

「入るための場所が必要になるのだな」

「はい。一つは、森の中にあるので、マガラ渓谷を越えなければならないので、不便です」

「わかった。メロナにある。辺境伯の屋敷の敷地内に作って欲しい」

「わかりました。さっそく・・・は、無理なのでしょうから、どうしますか?」

「っく。アルフレッドが居なければ・・・。ルナ」

「はい」

「俺は、こいつを連れていく、ルナとイリメリ嬢は、リン=フリークスにを連れて、ミヤナックの屋敷に向かってくれ、あとで現地に居る者たちへの指示をまとめる。俺は、父に・・・辺境伯に許可を貰ってから、こいつを連れて視察に向かう。それから、リン=フリークス」

「なんでしょうか?」

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