【第九章 ユーラット】第十四話 襲撃
姫様が、ユーラットの宿屋の女将に頭を下げに来る。
帝国の姫様が、宿屋の・・・。それも、寂れた村にある宿屋の女将なぞに謝罪などありえない。
アイシャがルカリダを連れてきた。そして、姫様が持っていた、連絡用の魔道具を動かすための鍵を・・・。
姫様を騙したわけではない。姫様が正しい道に戻られるための試練なのだ。
ルカリダからは、姫様の行程を事前に調べさせた。
普段の行動でも、姫様が私にメッセージを送っているのが解る。
姫様は、神殿が使っているアーティファクトを使わずに、帝国の馬車でこちらに来るようだ。
やはり、姫様からの私に向けたメッセージで間違いない。
騎士の正装と言える恰好で待機している。
場所が宮殿でなく、寂れた港町の接収した古びた家屋なのが気に入らないが、ここから、姫様が神殿を御して、私たちが姫様の側近となり、王国を滅ぼし、私を騎士として落第だと言い放った者たちが・・・。帝国に凱旋して、私の前に跪くのが待ち遠しい。
ルルカとアイシャが準備をしている。
私の持つ剣を磨くのを忘れている。近衛兵団長の私の持つ剣を磨けるのは、名誉な事だ。鎧もしっかりと磨くように指示を出す。今は、3人だけだが私が騎士団長であるのは間違いない。
「そろそろか?」
立ち上がる。既に、姫様がこちらに向かっている。
ルルカとアイシャは、既に目的の場所に着いているはずだ。役割も与えている。使えない二人だが、足止め程度はできるはずだ。
姫様をお救いする場所は、神殿からユーラットに向かう街道だ。
愚か者の神殿は、神殿からユーラットに向かう道を折り重なるように作っている。私なら、一直線に作る。その方が、まっすぐで効率が良い。やはり、私のように優秀な人間が導かなければならない。姫様を神殿からお救いして、そのまま神殿を支配するための足がかりになる。
そして・・・。そして・・・。
ふふふ。
皆が私を認めるのも・・・。もうすぐだ。
—
「あの人は?」
「部屋で悦に浸っていました」
「本当に、愚かですね」
「計画は?」
「続行です。それにしても・・・」
「そうですね。あの人は、前には出ないのですね」
「配置に着きますか?」
「その前に、アーティファクトで神殿に来て欲しいそうです」
「え?」
「私たちは入れるようです。西側ですので、少しだけ急ぐ必要があります」
「わかりました。迎えが来るのですか?」
「指示された場所で待つように言われています」
—
予定になかったアーティファクトが、こちらに向かってくる?
私からは見えない場所で停まった?
こちらの作戦が露呈した?
そんなはずがない。私の計画は完璧だ。
違った。
ルルカとアイシャが飛び出さなくてよかった。
動いてしまって、警戒されたら作戦が台無しになってしまう。
作戦の場所に来てみれば、ルルカとアイシャが準備を終えているようです。
このくらいの作業はできるようですね。私の配下としては最低限でしょう。
やはり、近衛兵団には必要がない存在なのでしょう。
姫様の事を敬うように、団長である私を敬うことを知らないようです。私の姿が見えたのなら、すぐに作業を中断してでも、挨拶に来るのが正しい。
姫様が帝国の馬車を使う。残念ながら、帝国が産駒の馬は準備が出来なかったようだ。そのせいで、速度が出せない。帝国の馬を使えば、近衛が使っている馬を使えば、神殿のアーティファクトと同等の速度が出せるはずだ。帝国の技術は、大陸で1番だ。神殿さえも凌駕している。アーティファクトという未知の力のおかげで神殿は帝国と拮抗しているだけだ。
アイシャが聞いてきた話では、姫様の日記で、しっかりと神殿の戦力が分析されているようだ。流石は、姫様だ。あとは、私が調べた情報を付与して、帝国に送れば・・・。
やはり、ルルカとアイシャは姫様の・・・。その後に結成される近衛兵団には不適格だ。
剣や鎧の磨きも満足に出来ない部下は不要だ。切り捨てて、神殿がどれだけ非道な存在なのか帝国に知らしめる礎にしよう。
そうだ、ルルカとアイシャも姫様の為、未来の騎士団長である私の為なら喜んで死んでくれる。
アーティファクトが、目の前を通り過ぎた。
姫様ではないのは解っている。姫様が私に会いに来るのに、アーティファクトを使うはずがない。
いい加減な神殿のことだ、姫様の出発が遅れているのかもしれない。
メルリダとルカリダでは、姫様の準備に手間取っても不思議ではない。
鍵は、既に預かっている。
姫様が持っている極秘文章の入手は最低限の目標だが、姫様の救出も必要な事だ。
これから、帝国の精鋭が姫様の極秘文章を元に作戦を考えて、王国や神殿に攻め込む。
その時に、私がユーラットから帝国の精鋭を率いて、神殿で待つ姫様をお助けする。
いいぞ。いいぞ。
そうだ、私を先頭にして、神殿に攻め込む。
そして、姫様を救い出す。
姫様は、神殿と王国の情報を齎したことで、帝位継承の上位になる。私は、姫様をお救いしたことで、近衛兵団の団長に任命される。私以上に相応しい者は、帝国には存在しない。私が、団長となり、姫様の名で王国を滅ぼして、共和国や皇国や神国を滅ぼせる。
私が指揮する兵団が負けるわけがない。価値が確定している戦いだ。貴族や商人たちも、資金提供は断らないだろう。
そうだ。
姫様をこのタイミングでお救いするよりも、帝国の精鋭たちを私が率いて救出した方が、いいに決まっている。
姫様には、もう少しの間、我慢をして頂ければならないが、姫様なら解ってくださる。
—
「・・・」
「・・・」
—
ルルカとアイシャに指示を出す。
姫様が乗っている帝国の馬車が近づいてきている。
二人は、馬車の前方に出て、進路を塞ぐ。
逃げるようなら、御者を殺せばいい。
大事の前の小事だ。メルリダとルカリダが御者台に座っていても、躊躇しなくていい。
ルルカとアイシャに伝えた。
二人も解っているのだろう。黙って、頷いた。
二人の態度に私は満足している。しかし、この程度の事は、私が指摘しなくても、自分で考えて欲しい。やはり、二人は近衛には不要な人材だ。
蹄の音がする。
姫様が乗る帝国の馬車だ。
まだ見えない。
ルルカとアイシャの位置からなら見えるのか?
二人が武器を抜いて構える。
二人が飛び出した。
私の作戦通りだ。二人が馬車の進路を塞いだ。
馬の嘶きが聞こえてくる。
メルリダもルカリダも、訓練を受けている。
声を上げない。
姫様は?
私が待機している場所からでは、戦況が解らない。
剣戟が聞こえる。
メルリダかルカリダが倒れたようだ。
そろそろ、私の出番だ。
姫様を、帝国を導くものとして、しっかりと役目を果たさなければ・・・。
茂みから、馬車の位置を確認する。
ルルカとアイシャがルカリダを囲んでいる。
ここからは、私の役目だ。
茂みから飛び出す。
最初は、アイシャだ。
アイシャに斬りかかる。
アイシャは防御もできないまま、私の剣を右肩に受けて、そのまま地に伏せる。次は唖然としている、ルルカに斬りかかる。ルルカは、防御を行おうとしたが、私の速度には付いてこられない。左肩から私の剣が食い込む。反撃をしようとする、ルルカにもう一度、斬りかかる。
技量の差は埋められない。
簡単に、二人を血の海に沈める事ができた。悲鳴さえも上げる時間を与えない。
私ほどの技量が無ければ出来ない。
そのまま、唖然としているルカリダの腹に剣を突きさす。
メルリダも絶命しているとは思うが、技量が悪いルルカとアイシャだ、殺せていない可能性がある。
生き残るよりは、姫様と私の為に死ねるのだ、メルリダも本望に思うに違いない。
メルリダの首に剣を突きさす。
しっかりと、絶命しているのを確認して、馬車に近づく。私に、勝てる者は神殿には居ないが、油断はしない。最後まで、全力で戦うのが近衛の団長として必要なことだ。
近くに、誰も居ない事を確認してから、馬車に近づく。
姫様に・・・。
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