【君と決めたルール】僕がルールを破る時
何気ない日常の何気ない時間。
それが僕にとってかけがえのない物だったと知ったのは、何もかも・・・。”自分の身体”と”君への想い”と”君と決めたルール”だけが残された日だった。
君は、僕にそんな事を望んでいないだろう。
僕は、初めて、君との約束を僕の都合で破る事にする。
君と決めたルールは4つ。この4つは何が有っても変えないと二人で決めた。
1.嫌がる事はしない
2.他人に迷惑をかけない
3.辛くても笑おう
4.大切にする
だ。
今から1番と4番のルールを破る。
—
高校1年の最初の席決めの時に、隣に座ったのが君で良かった。
最初にルールを決めようと言ったのは君だった。どうせ、1学期だけだと思って、僕は承諾した。
それから、君は高校3年間ずぅーと僕の隣だった。
数え切れないほど、君はルールを決めた。
明日持ってくるお弁当をルールで縛った事も有った。
君はルールという名前のゲームを楽しんでいるようだった。僕も、君と決めたルールを守るのが嬉しかった。
ルールで君と繋がっているのがわかったからだ。
最初のキスも、君が決めたルールだった。
初めて身体を重ねたのは、僕が決めたルールと罰で、君がわざと破って罰を実行する事にしたからだったよね。
お互いにルールを決めて、ゲームを楽しんだ。
僕たちは、高校3年間で数えきれないルールを決めた。
僕たちは、高校3年間の高校生活をルールに則った恋愛ゲームを本気で楽しんだ。
—
私は、君に恋をした。
私は、君を最初から好きだった。
私は、最初から君を求めていた。
私は、最後まで君を守るつもりだ。
私は、ルールを決める事で、君を守りたい。
君は、私のすべて。私が、君のすべてじゃなくてもいい。私のすべては君の物。
私が、私で決めたルールだ。
—
男と女は、高校卒業して、就職した。
男の両親も女の両親も、高校卒業後に二人がプレゼントした旅行で・・・。飛行機事故で帰らぬ人となった。
それから、二人はお互いしか居ないと、より強く思うようになった。
高校時代から続けているお互いのルールでお互いを縛った。
二人しか居なくなった、男と女は自然な流れで、結婚した。
言葉は少なかった。
お互いが決めたルールではなく、社会的なルールには興味がなかった。
「結婚しよう」
「うん」
これだけだった。
二人だけの小さな小さな結婚式をあげた。職場の人も、古くからの友人も、誰も呼ばない二人だけの結婚式だ。
それが周りから見て異常な事だとしても、お互いは二人だけが決めたルールに従っている。
男と女には、社会が決めたルールに従って、多額のお金が舞い込んできた。
しかし、男と女は、そのお金を全額寄付してしまった。自分たちの決めたルール。
・お金は自分たちで稼いだ分だけを使う。
したがって、お互いに稼いでいないお金は必要がない物だった。
自分たちと同じ様に両親を無くした子供たちが居る事を知って、その子たちが過ごす児童養護施設に寄付する事に決めた。
もともと、肉親への興味が薄かった二人は、お互い以外は必要としていなかった。
そんな二人が決めたルールは、4つのルールの上に成り立っていた。
1.嫌がる事はしない
2.他人に迷惑をかけない
3.辛くても笑おう
4.大切にする
二人だけが解る二人だけのルールだ。
—
男は暗い部屋に通された。頭に巻いた包帯が痛々しい。
「細川さん。落ち着いて聞いてください」
「大丈夫です。落ち着いています」
「奥様・・・。真帆さんで間違いありませんか?」
「・・・。刑事さん。教えてください。僕が、ここで、真帆じゃありませんと言ったら、真帆は帰ってきますか?」
「・・・。細川さん」
「大丈夫です。落ち着いています。真帆と決めたルールで、いつだったかな・・・。そうだ、高校の文化祭で決めた物だ。”取り乱さない”と決めました。そうだ。破ったら、相手の望む所にキスをするだったかな・・・。ねぇ刑事さん。教えてください。僕が、ルールを守らないから、真帆は寝たままなのですか?」
男は、泣くわけでもなく、喚くわけでもなく、淡々と刑事に質問していた。
刑事が答えられるわけもなく・・・。時間だけが流れていった。
男は、唯一人の理解者で、ただ1人の肉親を失った。
通り魔に殺されたのだ。
—
お互いの休みを利用して、買い物にでかけた。二人で街にあるスーパーにでかけた。買い物をすませた帰り道。
「真帆!」
ナイフを振り回す男が、男の目に映った。
男は、女と男の間に身体を入れた。女は振り返って、ナイフを持った男が自分の半身を世界で一番大切な男に向かって、ナイフを振りかざしたのを見た。
女は、咄嗟に男を抱きしめて、身体を回転させた。
ナイフは、女の背中に刺さった。ナイフを持った男は、ナイフを抜いて、女を何度も刺した。骨にナイフがあたって折れるまで何度も何度も刺した。男は、倒れ込む女を支えて、地面に頭を打ち付けて意識を飛ばした。
「よかった・・・りゅうちゃんを守れた・・・。よかった。ルールを・・・わたし・・・守れたよ・・・りゅ・・・うちゃ・・・ん」
女は自分が死ぬ事が怖かった。
最愛の竜司に会えなくなるのが怖かった。
竜司が守れたのが嬉しかった。
—
竜司は1人だけになってしまった家に戻った。
笑っている真帆の写真を見つけて、部屋に飾ってある。
遺影は、二人で決めていた。
お互いにいつ死んでもいいようにルールを決めていた。
竜司は、真帆の生命保険を全額寄付した。二人が決めたルールを守ったのだ。
翌日から仕事に出た竜司を同僚や上司は心配した。でも、竜司は、真帆以外から心配されても嬉しくなった。
毎日のように流れるニュースにも興味がなかった。
犯人が解っても、真帆が帰ってくるわけではない。
犯人の父親が偉い議員の先生だからと言って、真帆が新しいルールを決めてくれるわけではない。
犯人の父親が代理人を通して慰謝料を持ってきたからって、真帆が自分のルールを守ってくれるわけではない。
竜司の顔は、笑顔で愛想笑いの状態で固まってしまったかのようになっている。
真帆と決めたルールの三番目を実行している。”辛くても笑おう”
親戚を名乗る者たちや、竜司と真帆の事を知っていると言っている者たちがマスコミを賑わしている。そんな話を聞きながら、竜司は笑って過ごしている。
竜司は、真帆と一緒に過ごした時間を大切にしたいだけなのだ。
マスコミや世間が、竜司を追い詰めていった。
竜司は、いつの間にか、壊れていた。
竜司は、真帆が眠る場所を毎日訪れて話しかけるのが日課になった。
高校の出会いから、真帆と最後に買い物に行った日までを繰り返している。
そして、真帆のルールを思い出して、最後に笑ってその場を立ち去る。
まるで、なにかやらなければならない事を思い出したかのように、にこやかに笑って立ち去るのだ。
(真帆。僕は、君と決めたルールを守るよ。でも、君はルールを守ってくれなかったよね。だから、僕もルールを破る。君と決めた罰を君は実行してくれるのだろう?)
—
男は、2つのルールを破る事に決めた。
”嫌がる事はしない”
男は、女が自分の復讐なんて望んでいない事は解っていた。嫌がるだろう事も解っていた。でも、自分の気持ちが抑えられないのだ。妻を、最愛の女性を、世界で唯一人の身内を奪った犯人が許せない。
”大切にする”
男と女は、決めていた。お互いの身体を大切にする事。自分の身体も心も大切にして、疲れたら休む事。自分の身体を傷つけない事。男は、復讐を果たした後で女の所に旅立とうと思っている。もしかしたら、会えない旅路かもしれない。長い長い旅路になるかも知れない。そう思っていても、男は女が居る場所に行くために、旅立つ決心した。
男と女のルールには、破った時の罰則がある。
4つの基本のルールを破ったら
男は言った
「死んでも許さない。ずぅーと一緒に居る」
女は言った
「ルールを破ったら、探してずぅーと側に居る」
—
「また、その事件ですか?」
「・・・。不思議な事が多いからな」
「そうですよね」
二人の刑事が見ている調書は、被疑者死亡で終わった事件だ。
被害者は、5年前に通り魔殺人事件を起こしている。
薬をやっていて、善悪の判断ができていなかったという理由で無罪になっている。父親が有名な議員先生だった事も影響しているのかも知れない。マスコミも、事件当初は通り魔事件と大々的に報じたが、犯人が解ってからは報道を自粛するようになった。
厚生施設に送られていた男が、遠い施設に移される事が決まった当日。
通り魔事件で唯一死亡した女性の旦那が通り魔犯を殺害した。
自分の妻が刺された場所をと寸分違わない場所を刺していた。背中を9箇所刺した。
警官の護衛も居た。少ないがマスコミも居た。
だが、誰一人として犯行現場を見ていなかった。
白昼の空白。そんな言葉が皆の頭によぎった。
男は、最愛の妻が眠る墓地の前で、墓地を汚さないように、布をかけて、墓地に寄り添うように自分で腹を切って自殺した。自分の血で墓地や地面が汚れないように、細心の注意がされていた。墓地とノートを抱きしめて眠るように死んでいた。
墓の前には、几帳面な字で事件を起こした事の謝罪と経緯が細かく書かれていた。
議員の息子が何時出てくるのかを知るために、男は議員の事務所で働き始めた事も書かれていた。議員の不正も全部メモとして残していた。
”他人に迷惑をかけない”
自分の死後に、警察が調べたりする手間を省いたのだ。男は女の決めたルールを守っただけなのだ。
墓地が汚れたりしたら迷惑をかけると思ったから、男は細心の注意をはらった。
男は、ルールを書いた、三冊にも及ぶノートを胸に抱いて、眠るように旅立った。
「どうやって殺したのか?」
「そうですよね。マスコミもいたし、警察も居たのですよね?」
「・・・。それに、刺し傷が全部同じなんてあり得るか?」
「無理ですよね。それに、事件現場から見つかる場所までもかなりありますよね?」
「あぁまるで誰かが助けたようだよな」
二人は持っていた調書を閉じた。
fin
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