【第二章 スライム街へ】第十八話 報告

 

 円香さんにお願いされたミッションはクリアでいいのかな?

「千明!」

「あっ円香さん。舞に情報を渡してきました」

「そうか、解った」

「よかったのですか?」

「なにが?」

「舞は、直接報道はしませんが、制作ですよ?」

「構わない。どうせ、どこかに流す情報だ。それに、調べればわかることだ」

 確かに、新しい情報もあるけど、調べればわかる事だ。
 実際に、ギルドのメンバーになってみて解ったけど、隠すべき情報は、ほとんど存在しない。秘匿コードで呼んでいる、”ファントム”の情報くらいだ。ファントムを秘匿しているのも、マスコミに知られると、ファントムを探そうとする可能性があるためだ。私も、マスコミで過ごしていたからよくわかる。
 円香さんも、茜も、孔明さんも、蒼さんも、ファントムの存在は疑っていない。でも、ファントムの人柄は、解らないようだ。顕示欲があるような人物では無いようだが、それ以外は何も解っていない。だからなのか、下手に接触をして、スキルが接触した者に向かうことを危惧している。

「千明。おかえり。何か食べる?」

「え?」

 茜がキャンピングカーから顔を出す。
 打ち合わせが終わったようだ。

 円香さんは、茜と入れ替わるように、キャンピングカーに入っていった。中には、孔明さんと蒼さんかな?まだ、何か話さなければならないことがあるのだろう。

「茜?」

 茜が、私を見ているが、私から茜に話しておいたほうがいいことはない。はずだ。

「うん。打ち合わせは、終わったよ」

「そう・・・。何か、ある?」

 円香さんとの打ち合わせだろう。情報の精査をしていたので、その関係だろう。

「何も・・・。透明な壁がある限りは、何もできないよね。壁が無くなっても、キャンピングカーを盾にするしかないよね?」

「うん。絶望的な状況には変わりがないのね」

 舞にも説明した内容だけど、ギルドの中では規定路線だ。
 最良を考えても、最悪な結果にしかならない。どれだけ、希望的観測で流れを考えても、絶望しか出てこない。

「うん。でも、誰が、なんの為に、透明な壁・・・。蒼さんは、”結界”じゃないかって言っているけど・・・」

「結界?あの?結界?」

「どの”あの”なのか、解らないけど、多分、千明が考えている通りの”結界”だと思うよ」

 結界・・・。そんなスキルがあるの?
 たしか、ファントムが調べていたと言っていたけど、ラノベ界隈で定番になっている”結界”なら、私でも知っている。調べても不思議ではない。

「茜。でも、不思議じゃない?」

「何が?」

「うーん。うまく言えないけど、誰かが、結界を発動したとして・・・」

「うん」

「透明な壁の距離がおかしくない?」

「え?どういう事?」

 説明が難しい。
 透明な壁が結界だとして、誰が作ったのかは、解らない。結界だったとしても、意図が解らないから気持ちが悪い。なぜ、隔離するような結界を作成する?なぜ、距離を空ける?

「うーん。なんで、魔物と人の間が、あんなに不自然なの?」

「え?」

 ドローンで撮影した様子を、茜に見せる。

 茜が、私が持っていたドローンのデータを、地図上に展開してくれる。私が持っているドローンのデータは、透明な壁が作成される前の物だ。そのうえに、解っている透明な壁のデータが上書きされる。

 これで、透明な壁の状況がわかりやすくなった。
 全部ではないが、私が貰ってきたデータだけでも表示される。透明な壁と魔物の位置関係が、今まで漠然としていたが、はっきりと認識できた。

 魔物の配置までは解らないが、おおよその場所は解っている。
 茜と話ながら、魔物の位置を記入する。

 茜は、途中からタブレットではなく、パソコンを引っ張り出してきて、データを処理している。パソコンで処理をして、結果をタブレットで表示している。二人で、見るには少々手狭だが、表示させる方法が他にはない。パソコンのモニターを覗き込むわけには、表示させるデータが多すぎる。

「お!丁度良かった」

 後ろから、声がかけられた。蒼さんだ。

「丁度よかった?」

「あぁ地図で検証をしているよな?」

「うん。この辺りの地図に・・・。何か、新しい情報ですか?」

「茜。USBに入ったレイヤーを重ねて欲しい。3Dのデータになっているから、平面にしてくれると助かる」

「はい」

 茜が、USBを受け取って、パソコンに挿入する。
 表示していた地図が消えて、新しい地図のデータ上に、蒼さんが持ってきた情報が表示される。

 ドローンのデータだろうけど、もっと詳細なデータになっている。

「これは?」

「ん?自衛隊と警察と消防の奴らが飛ばしたドローンのデータ。かなり精密だろう?」

「そうですね。魔物の位置も表示しますか?」

 茜がデータを調べながら、地図にデータを書き加えていく。

「頼む。これで、魔物の数が把握できるだろう?」

 魔物と透明な壁が表示される。立体図ではないので、高さまでは把握できないが、茜の言葉から、ドローンは壁沿いにデータを収集しているようだ。高さの情報も入っている。

「え?」

「千明。どうした?」

「茜。面倒なことを・・・」「いいよ。今は、少しでも情報が欲しい」

 茜が了承してくれたので、私が思ったことを率直に伝えた。

「確かに面倒だけど・・・。おおよそでいいよね?」

「うん!」

 地図上に情報が表示される。

「茜。プロジェクターが、キャンピングカーにあっただろう。皆で見るには、タブレットでは狭い」

「わかった。千明。プロジェクターを持ってきて!蒼さんは、スクリーンの用意をお願いします」

 茜の指示で、私はキャンピングカーに向かう。途中で、円香さんと孔明さんが居たので、事情を説明した。
 二人も、後で合流するから、検証作業を進めて欲しいと言われた。

 プロジェクターは、150インチのモニターとして表示される。そこそこ、高級なモデルだ。
 茜がセッティングを行って、蒼さんが持ってきたスクリーンに投影される。地図が表示されて、そこから透明な壁が表示されて、魔物が表示される。

「千明の想像が当たったみたいね」

「”だからどうした”と思える情報だけどね」

「それでも、一歩前進だ」

 蒼さんが言ってくれたが、”だから何”と思われてもしょうがない。

 透明な壁がいくつかの円で構成されている。だから、茜には円の中心を求めてもらった。
 全部で、12の円が確認できた。

「ねぇ茜。円の中心に、魔物が居ないのは偶然?」

「蒼さんの見解は?」

「中心?本当だな。別の言い方をすると、結界の中心には、魔物が居ない。中心から離れた位置には存在している」

「偶然?」「どうだろう、偶然にしては、全部の中心というのは・・・」

「あっ!!」

「千明!」「何か、気が付いたのか?」

「蒼さん。魔物の行動範囲は把握できているの?」

「え?」

「移動距離と言ったらいい?」

「・・・。無理だな。俺たちは、魔物を把握したら、殺していた」

「そうか・・・」

「千明は、どうして、行動範囲が気になったの?」

「うん。さっきの違和感に繋がるのだけど、魔物と透明な壁・・・。もう、結界でいいよね?」

 茜と蒼さんが頷いてくれる。

「結界と魔物の距離が、不自然なくらいに似ていない?」

 茜が、大まかに魔物との距離を表示してくれる。
 似たような数字ではないが、そこはまだ情報が不足している。

「茜。他の、ドローンのデータから魔物の位置を追加して、移動している魔物が居ると思う。個体識別は不可能だから、大体の位置で!」

「わかった」

 沢山のデータから抽出しての表示になるから、時間が必要になってしまう。
 茜の”終わった”という声と同時に表示されるデータは、私が思っていた通りの結果になった。

「これは・・・」「そうか・・・。結界を張った者は、魔物の動きを把握しているのだな」

 結界の中に居る魔物が移動した場所を表示していったら、私が持っていた結界が張られる前のデータを突き合わせても、警察や消防のデータにも、打刻されているデータから、結界が張られる前のデータが存在していた。
 しかし、すべてのデータにある魔物の位置を表示させても、結界からはみ出すことはなかった。

 すべての魔物が結界の中から出ていないことになる。
 結界が張られたあとなら、結界のおかげだと考えられるが、結界が張られる前のデータでも魔物が結界の外に出ていない。

 このデータが正しいのか判断が難しい。でも、魔物に対する新しいアプローチになるのも確かだ。安全に倒せる距離が解れば・・・。