【第五章 ギルドの依頼】幕間 コンラートの決断
儂は、コンラート。辺境伯の領都にある冒険者ギルドのギルドマスターだ。
髪の毛が薄いのも、背が低いのも、全部”ドワーフ”の特性だ。ただ、一点違うのは、声が甲高いことだ。全部がドワーフ族の特性なら問題はなかった。父方の父。儂から見たら祖父だが・・・。その祖父の嫁がハーフリングだった為に儂はこんな声になってしまった・・・。らしい。
別にこまる事はないが、初めて合う人間からはかなり驚かれる。笑い出す者もいる。
アフネス殿から話しを聞いて、面談した人族も少しだけ驚いた顔をしたのだがすぐに表情を消した。
面談は問題なく終わった。しかしヤスと名乗った人族の事がよくわからなかった。
儂の鑑定眼で見ても、アフネス殿と同じ見解なのだが、頭の中で警鐘がなり続けている。冒険者だったころに何度も救われた感覚だ。この感覚は儂の命綱なのだ。ダーホスからの報告とアフネス殿からの説明で神殿を攻略して掌握しているのは間違い無いだろう。
ただ、見た目では強そうには思えない。冒険者というよりも、商人と言われたほうが納得できる。
ラナ殿の宿に泊まる事になっていると聞いて、守備隊のフリをして近づいたのだが”本当にこの男が?”というのが正直な感想だった。
その感想が間違っていたと解ったのは、ギルドの儂の部屋で奴と対峙したときだ。
部屋の前ではわからなかった。儂の前に座って目があった時から頭の中で警鐘がなり続ける。絶対に敵対しては駄目だと・・・。
しかし、儂もギルドマスターだ。
冒険者ギルドの利益になるように誘導しなければならない。
その目論見もアフネス殿によって見透かされていた。ミーシャによって阻まれたのだ。
ヤス”殿”が部屋を出ていったのをミーシャが追った。少ししてから、ミーシャが戻ってきた。
あの笑顔は何か合ったのだろう。
ミーシャは儂に書簡を手渡してきた。アフネス殿からの書簡だと言っていた。読まないという選択肢はない。だが読みたくない。
この後、領主に会いに行かなければならないのがまた気分を重くしている。
アフネス殿の手紙を読んで余計に領主に会いたくなくなってしまった。
ユーラットのエルフ族が全て”神殿を攻略したヤス”に味方する事にしたようだ。それはいい元々約定によりつながっていただけだ。”魔通信機”などのアーティファクト級の道具の利用は継続してくれるようなので問題はない。利用料も据え置きになると説明が書かれていた。確かに、問題では有るが大きな問題ではない。
アフネス殿が言っていることの問題点は次の項目だ。
エルフ一族・・・。正確には、アフネス一派は、ヤス殿に味方するためにユーラットに集結するということだ。
冒険者ギルドとしてはミーシャとデイトリッヒなので問題は大きくない。下も育ってきているので混乱も少ないだろう。
問題は、辺境伯に関係する施設だろう。報告しなくても、いずれエルフ族から辞表が出されれば解ってしまう。その時になって事情が辺境伯に届いたら冒険者ギルドの問題にもなってしまう。
アフネス殿は本気なのか?
書簡に書かれていることを全部実行したら王国はともかく法国や帝国は”敵”に回る可能性だってある。リーゼ殿のお父上とお母上のことを考えれば、アフネス殿の言っていることは解る。
「おい」
奥に控えている儂に付いている者を呼びつける。
「これを辺境伯と領主に渡してくれ」
「はっ」
「後日・・・そうだな。スタンピードが落ち着いたら、相談にあがるとお伝えしてくれ」
「かしこまりました」
辺境伯はこれで大丈夫だろう。
領主も問題は無いだろう。馬鹿息子もおとなしくしてくれるだろう。
問題の先送りにしかならないが、王国が何か言ってくるとは思えない。
ヤス殿の力を取り込もうと躍起になるかもしれないだけだ。
ギルドの方針も決めなければならないだろう。王都に招集されるのも時間の問題かもしれないな。
飲みかけだったエールを煽る。
一息入れたい所だが、問題は山積みだ。ヤス殿の持ってきた武器と防具が高品質なのは解っていた。買い手もすぐに見つかるだろう。魔道具もすでに見つかっているような物も多いが品質が最上級で使える物が多い。査定額は、ドーリスが算出した額に色を付けても良さそうだな。
翌日になって領主から書状が届いた。
対処が早いのはいいことだ。書状の中身も予想よりは良かった。辺境伯からの了承は後日になるようだがそれでも荷物を降ろせた気持ちだ。
エルフ族の件は全面的に了承された。後日相談すると書かれていた。これで一つの懸案事項が片付いた。
ヤス殿が持ってきた武器の目録を作る必要がありそうだ。
魔法が付与されている物もあり、”魔剣”だと言える物も多いので効果をしっかり明記しなければならない。
前向きな作業は楽しくなる。打ち直しや修復が必要な物が無いか確認しながら目録を記載していく。
スタンピードの前兆が見られることもあり武器と防具はありがたい。
「ギルドマスターは!」
下が騒がしい。
儂を呼ぶ声も聞こえる。
「コンラート様!」
「ミーシャか?どうした?」
「スタンピードが・・・。魔物の集団がユーラットに向かっています」
「何!それは間違い無いのか?」
「わかりません」
「今、王都から来た商隊を護衛してきた者の証言では、発生していた魔物がいつもの場所に居ないようです」
「それだけでは・・・。そうか、帝国からの商隊か?」
「はい。帝国からの商隊のいくつかが魔物に襲われました」
「それで」
「帝国から、ユーラットに魚を仕入れに向かった商隊が魔物の集団を確認しています」
「数は?」
「・・・」
「ミーシャ!」
「はい。1万~2万。オーガの上位種も確認しているようです」
普段の2倍から3倍?
何か・・・神殿関係でなければ良いのだが・・・。
「・・・」
「場所は?」
「商隊に付いていた護衛の話では、ここから1.5日程度の距離です」
「ユーラット方面にということだな」
「・・・。はい。それだけではなく・・・」
「なんだ?」
「ユーラットに”魔通信”が繋がりません。いくつかの番号を試しているのですが全部駄目です」
「・・・。アフネス殿の番号は?」
「駄目です。普段からこちらからの通信は繋がりません」
「商隊で1.5日の距離なら、まだ半分にも達していないな!」
「はい。それからこちらに商隊が戻ってきていることを考えると、半分地点だと考えられます」
「ミーシャ。リーゼ殿が襲われた場所と規模は?」
「え?あっほぼ同じ場所です。規模はゴブリンが15-6体と聞いています。上位種が居たと報告に書かれています」
「・・・。それが前兆だったのかもしれないな」
「マスター!コンラート様。今は、前兆云々を言っている時ではありません」
「・・・」
「対処は?ユーラットに向けて冒険者を出しますか?」
「出すにしても・・・。通常と違うと位置が不明だな。それに、ユーラットに事情を説明しなければ・・・」
「どうしますか?私とデイトリッヒが出ますか?私たちなら魔物の集団を突破できます」
「・・・。いや、ミーシャ。頼まれてくれるか?」
「はい。行きます。ユーラットは、私とデイトリッヒの故郷です」
「違う。ヤス殿に依頼を出したい。武器と防具と魔石を持っていってもらおう」
「え?」
「ミーシャとデイトリッヒだとどんなに急いでも、2-3日は必要だが、ヤス殿なら半日で到着できる。その上、武器や防具だけではなく食料も積んでいける。ポーションの類も可能かもしれない。それに、ミーシャたちだと到着と同時に魔物たちが迫ってくる可能性があり対処が遅れる可能性がある。ヤス殿なら1-2日程度の余裕が考えられる。ヤス殿が断った場合には、ミーシャ・・・。悪いが命をユーラットの為にかけてくれ」
「わかりました。ヤス殿の説得を行います。コンラート様は?」
「儂は、領主に会って事情を説明する。一番いい武器と防具をよこせと言っているのだが、できなくなった事の説明と、ユーラットに向けて冒険者を出す事の許可を得てくる」
「え?」
「忘れたか?ユーラットは、王家直轄だ。領都から冒険者だけでもユーラットに向けて出撃すれば問題になってしまう可能性だってある」
「あ!わかりました」
それから慌ただしい時間が流れた。
ヤスが承諾してくれたと連絡が入ったのは、儂が領主と”魔通信”で許可を取り付けた後だった。
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