【第四章 スライムとギルド】第十九話 メモ

 

心に刺さっていた棘が抜けた。
まっすぐに俺を見ていた視線で、里見茜嬢が何かに気が付いたのだと思った。

そして、円香から直球を頭に投げられた。
気持ちが楽になった。

ギルドの情報を流す役割を持っていたからだ。
奴らの語っている”正義”には、どの角度から考えても共感が出来ない。しかし、真子を治すのには・・・。苦渋の選択ではない。俺は疲れてしまっていた。真子を殺して、俺も死ぬ事を考え始めた時に、奴らが俺に声をかけてきた。

最初は、眉唾以上の感想はなかった。
しかし、誘われるままに、奴らの会合に行くうちに、信じては居ないが縋ってみたい気持ちになってしまった。
そこからは、抜け出せない沼に嵌った感じだ。

本当に、重要な情報にはアタッチ出来なかったのは、円香が俺を疑っていたからだろう。

そして、今日の会合だ。
茜嬢が、あのスライムの所に行って素材を貰って来た。どうやらそれだけではないという話だ。奴らには、スライム嬢の話はしていない。話したとしても奴らは信じないだろう。悪い意味で奴らは”常識”を持っている。その常識から外れる事柄は、異端として糾弾するか排除するか・・・。

茜嬢のスキルは気になるが、それ以上に・・・。

「あのぉ・・・。円香さん。孔明さん。孔明さんは、妹さん。真子さんが治る手段を探しているのですよね?もし、私・・・、じゃなくて、ギルドが提供できる情報の中にあるとしたら、どうしますか?それでも、聖賢塾側の人間のままですか?」

意味が解らなかった。
真子が治る?
不可能だ。だから、俺は・・・。

私の発言で、円香さんが私を睨みつけています。
孔明さんは、私を可愛そうな子を見るような目で見ています。

「孔明さん!はっきりして下さい!真子さんが治る手段を私が提供できるのだとしたら、どうしますか?」

孔明さんの表情が歪みます。

「まて、茜!」

「いえ、待ちません。孔明さん。はっきり宣言してください」

”お姉ちゃん!”

え?ユグド?
このタイミングでユグドが私に話しかけてきた?

孔明さんを見れば動揺しているのが解る。

”お姉ちゃん。ギアスをかけられるよ?”

ギアス?

”うん。契約。聖樹の枝を埋め込む事で、約束を破ったら、聖樹が一気に成長する”

聖樹が成長?
ユグドの養分になるの?

その前に、私の考えがユグドに筒抜け?

”うん。お姉ちゃん。リンクを切らない状態だから、会話ができるよ?”

その当たり前だという様なレベルじゃないからね?
でも、今は助かった。

契約はわかった。約束は決められるの?

”うん”

そっちに行った時に教えて!

”うん”

「茜嬢」「茜!」

「あっごめんなさい。少し、眷属から連絡が入ったから・・・」

二人の表情が強張ります。
そうか、”遠隔での会話”の話はしていなかった。まぁ今更だよね。今更!

「茜。それは、スキルなのか?」

「あとで、まとめて説明します。今は、孔明さんです。孔明さん。答えてください!」

「茜嬢。俺が、ここで頷いたとして信じるのか?」

孔明さんはやはり筋を大事にしているのでしょう。
そんな事を確認しなくても良いのに、確認してきました。

「私には、解りません。でも、私たちには、仲間がいます。だから、孔明さんの言葉を信じます。それに、私の眷属のスキルを使えば・・・」

二人の顔が強張るのがわかります。
そうでしょう。そうでしょう。私も同じ気持ちです。既に、人間を辞めている可能性は忘れているので、”こいつ”何を言っているみたいな目で見るのは辞めてもらいたい。自覚はしていますが、認めていなければ大丈夫なのです。

「茜。そもそも、欠損を治せるのか?」

「どうでしょう?円香さん。孔明さんの話を聞きましょう。私の話は、孔明さんの覚悟が解ってからだと思いますが?」

円香さんの顔が歪むのが解る。
初めて、円香さんに勝てた気がします。これも、主殿の所でいろいろ見聞きした結果なので、主殿のおかげです。

「孔明!」

「円香。茜嬢。俺には・・・。縋るのなら、茜嬢の情報の方が・・・」

「そうですね。私の垂らしたいとは太いですよ」

「ははは。茜嬢に従う。俺はどうなってもかまわない。真子は、真子と家族を頼む」

心痛な表情を浮かべていますが、別に私は裁こうとか思っていません。

「わかりました。孔明さん。円香さんとバディーを組んでください。円香さん。孔明さんの監視をお願いします」

「は?」「え?」

「だって、私はこれから、凄く忙しくなります。これは確定です。レポートだけでも、数百件では済まない可能性があります。報告を聞いてくれたらわかりますが・・・。本当に、酷いですよ。聞いて後悔する内容が10件くらい。頭を抱える内容が5件ほど・・・。そして、報告した私を殴りたくなることが3件。あとは、聞かなければよかったと思う事が多数です」

ドヤ顔で二人を見ますが、信じてくれているとは思えません。
そうでしょう。ただ、素材を受け取りに行って話を聞いただけだと思っているのでしょう。

「茜」「茜嬢」

二人は可哀そうな子を見るような目で私を見ます。
その顔は忘れません。数時間後に、同じ目で二人を見てあげます。絶対です。

「どうですか?円香さん、孔明さん」

「孔明。二重スパイになるがかまわないか?」

「かまわない。そもそも、アイツらからの情報は、ギルドには必要ないぞ?」

「ある。アイツらの動きを知りたい。属している議員とか、敵対している議員や官僚がわかれば、情報の持っていき方が変るだろう?」

「そうだな。わかった。情報は、円香に流す。それでいいか?」

「茜。どうだ?」

「はい。大丈夫です。まずは、真子さんの復活を考えましょう」

「おいおい。いきなりだな」

呆れる円香さんを無視して、主殿メモを開きます。

主殿が書いたノートでは、報告の体裁が出来ていなかったことや、文字が”女子高校生”していたので、私が書き直した物です。
なので、全部ではありません。全部は無理です。そもそも、検証をしなければならない話が多すぎます。

ポーションの生成は、ギルドの目玉になると思って、報告書に書いてあります。
私の手書きなので恥ずかしいのですが・・・。ワイズマンに入力ができない様に、電子データにはしていません。

報告書の一部を円香さんと孔明さんに見せます。

「・・・」「・・・」

何か言って欲しい。
沈黙は怖いです。

「茜嬢。これは・・・」

「主殿から提供された情報の一部です」

「一部なのか?」

「はい。軽い、雑談で教えられた話です。縁側に座りながら、出されたお茶を飲みながら、”知っていますよね?”という雰囲気で教えられた内容です」

「・・・。おい。円香。・・・。円香!」

「孔明。すまん。茜。簡単に書かれているが、人での検証は?安全性は?」

「していると思いますか?」

「そうだな。最後の所が、問題になるか・・・」

主殿は、可能性の一つとして、”スキルを持っている必要がある”と書かれていました。スキルを得る為には、魔物を倒さなければならない。はずでした。

「あぁ。孔明さん。真子さんは?」

首を横に振る。
当然ですよね。スキルを持つ人は、全体の1%にも満たないはずです。

しかし、安心してください。

別の報告書を取り出します。

「これで、大丈夫だと思います。主殿が言うには、いくつかの方法で、スキルを得る事ができるようです。確実なのは・・・」

安全なのは、私や千明が行った方法です。
もう一つは、主殿も推奨はしないと言っていました。ただ、推奨しない方は、確実性が高い方法です。

私としては、安全を優先したいのですが・・・。

報告書を読んで、孔明さんが私を見ます。
私の考えが解ったのでしょうか?

「茜嬢。安全な方法は、確実では無いのだな」

「はい。可能性を上げる方法は、あります。主殿が行った方法なのですが・・・。私にできるか解らないので、主殿にお願いする必要が出て来るかもしれません」

「わかった。それは試してみてからだな。真子は、モモンガを部屋で飼い始めている」

「懐いていますか?」

「あぁいつも一緒に居る。片時も離れない」

「それなら可能性がありますね」

報告の前に、大きな問題が発生した。
問題の解決策は、報告に関連することだった。

主殿には感謝しなければ・・・。

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