【第五章 ギルドの依頼】第十七話 急報

 

 ヤスとリーゼは、2日に渡って領都中を歩くことになった。
 主に、リーゼの責任だが、ヤスにも問題はあった。リーゼが方向音痴だという事を認識しながら、リーゼが地図を持って案内することを許したのだ。ヤスなりの考えも有ったのだがすべてリーゼの方向音痴度合いが上回った。広いと言っても1日あれば十分回れる広さ程度の領都の中に、訪れる必要がある場所が11ヶ所あるのだ。
 一日目は迷いながらも4ヶ所に辿り着いた。リーゼはその時点でヤスに泣きついた。その日は、宿に戻ってゆっくり休んで翌日にヤスが地図を見ながら残りを訪れたのだ。一日目からヤスが地図を持っていれば1日で全部回れたのだが、ヤスはリーゼに自分自身が方向音痴だと認識させるために、わざとリーゼに案内させたのだ。

 全部を回った二日目の夜。
 ヤスは疲れて寝てしまったリーゼを部屋に残して、ラナとミーシャの呼び出しを受けていた。ラナがヤスを呼び出してミーシャと3人で宿屋の食堂を閉めて話をしたいと誘ってきたのだ。

「それで?」

 ヤスは、二人の真剣な表情から何か問題が発生したのかと思った。
 最初に思い浮かんだのが、武器と防具を盗まれたとかいうことだろうかと思ったのだ。

「ヤス。今から話す事は、リーゼ様には話さないで欲しい」

「わかった。ミーシャが話してくれるのか?」

「本来なら、コンラートが話すべきだろうが、彼は許可を取るために、王都のギルドと折衝中だ」

「あぁ?どういう事だよ?」

「ミーシャ。それでは、混乱するだけですよ。ヤス様。この街が今どのような状況なのか説明しましたよね?」

「あぁ覚えている」

「魔物たちがこちらに向かっていません」

「はぁ?それ・・・。まさか!」

「そうです。まだ確かな情報ではありませんが、ユーラット方面に向かって移動を始めたようなのです。いくつかの商隊が移動している魔物を確認しています」

「どういう事だ!本当に、ユーラットなのか?」

「わかりません。スタンピードの前兆が確認されてから魔物の集結が早すぎるのです」

 ヤスは落ち着くために出された飲み物を煽る。
 アルコールは入っていないが、紅茶のような感じがしている。

「ふぅ・・・。それで?俺に話を持ってきたって事は何かあるのだろう?」

「えぇ」

「スタンピードを確認してきて欲しい・・・とかなら無理だぞ?」

「いえ、それは大丈夫です。早馬を出しましたし、王都から来た商隊や帝国からの商隊が確認しています」

「俺に何をさせたい?」

「ヤス様。ユーラットに武器と防具と持てるだけの食料の輸送を頼みたい。それと、スタンピードの情報をユーラットのギルドに届けて欲しい」

「輸送は任せろ。本職だ。武器と防具・・・。まさか?」

「そうだ。ヤス様から買い取った物をユーラットに貸し出す。スタンピードが終わったら、また領都に運んでもらいたい」

「それは構わないが、情報は何故だ?魔通信で伝えられないのか?」

 二人はお互いの顔を見てからヤスを見る。
 ヤスとしては当然の疑問だ。武器と防具はわかる高品質な武器を持っていけば使える者ならそれだけで生存率が変わってくる。
 しかし武器と防具はユーラットにすでに有る。確かにヤスが売りに来たような高級品ではないが戦闘に支障が出るような物ではない。

 そして、今回領都に来てみてわかった事だが、思った以上にアフネスからの指示や説明がされている事だ。書面でのやり取りではありえない情報量だ。それに、ヤス以上に早く移動できる手段は無い。リーゼが言った”魔通信機”が答えだ。ギルド間なら通信できる事はヤスも認識している。

 それなのに、”通信”で一番伝えなければならない安全を脅かすかもしれない事象を伝えない事は考えられない。

「ヤス様。ユーラットのギルドに”魔通信”が繋がらないのです」

「・・・」

 ヤスは、自分が考えた最悪なパターンを思い浮かべた。

”エミリア。ユーラットの街に魔物が迫っているか調べられるか?”

”魔の森を除いた探索範囲内に魔物の気配は、ゴブリン種と思われる魔物が3体。獣種が6体だけです”

”それはユーラットの近くか?”

”『近く』が曖昧です”

”そうだな。魔の森を除いて、ユーラットの街から10キロ以内”

”10キロは探索範囲外が含まれます”

”探索範囲内は距離を教えてくれ”

”呼称名:表門から5.3キロです。呼称名:裏門から神殿の範囲内で魔の森以外では魔物は検知されません”

”そうか、ありがとう”

”はい”

「ヤス様?」

 ヤスがエミリアと念話で話しているのをミーシャが感じたようだ。
 説明はラナが続けておこなうようだ。

「なんでも無い。それで?」

「はい。ヤス様にはユーラットのギルドに武器と防具を運んで頂くとともに、ギルド長のダーホス殿に書簡を持っていって欲しい。それだけではなく、ユーラットの”魔通信機”の対処して欲しい」

「荷物運びは俺の仕事だ。問題はない。”通信機魔”は無理だな。俺に直せるとは思えない。まず、現物を見たことがない」

 ヤスのセリフを聞いた二人はヤスが記憶を無くしている事を思い出した。
 そしてミーシャが説明を始めた。

 ユーラットのギルドには予備を含めて3台ほどの”魔通信機”が置かれている。
 全部が故障しているとは思えないので、”魔石”がなくなってしまっているのだろうと予測できるという事で、ヤスには”魔通信機”で使う魔石の搬送をお願いしたいという事だった。

「ユーラットに魔物が到着している可能性はないのか?」

「商隊の情報や魔物の進行速度からそれは無いと見ている」

 ミーシャが断言したことで、ヤスはひとまず落ち着く事にした。

「わかった。魔石を運ぶのなら俺の仕事だ。武器と防具と一緒に運ぶ。どうしたらいい?」

「いいのですか?」「本当ですか?」

 二人は頼んでおきながらヤスが断ることを想定していたのだ。
 わざわざ持ってきた物を持ち帰ってくれという失礼にあたることを言い出した上に、ギルドの不始末を押し付けるようなことを言ってしまっている。

「そうだな。ミーシャ。冒険者ギルドからの依頼だよな?」

「はい。そうなります。依頼料は、銀貨5枚ですが受けて頂けますか?」

「いいぜ。ユーラットには世話になった奴もいるからな。それに、リーゼの帰る場所を守らないと駄目だろう?」

「そうですね。それでは、冒険者ギルドで手続きをしましょう」

「わかった」

 夜だが、そのまま3人で冒険者ギルドに向かう。魔道具だろうか、灯りが付いている。
 中に人影は見られないが、バックヤードでは怒鳴り声に近い音が聞こえている。

「そうだ、ミーシャ。手続きはいいのだが、買い取りは?」

「査定は終わっています。それを含めて説明致します」

「わかった」

 3人が冒険者ギルドに入るとミーシャが受付と少し話しをしてからヤスの所に戻る。

「コンラートの用事が終わるまで5分ほど待ってくれ」

「わかった」

 短いが長い5分が経過した。
 ミーシャは事情をしっかりと把握していたので、焦る気持ちが強いがヤスに知られたくない。ヤスが依頼を受けて、領都を立つまでは・・・。

「ヤス様」

 ドワーフ(ヤスの勝手な解釈)族なのに甲高い声(ヤスの偏見)のコンラートが奥の部屋から出てきた。

「手続きを頼む」

 ヤスは事務的に接する事にしたようだ。
 感情的になっても”いい事”がないことを理解しているのだろう。

「あぁまずは武器と防具と魔道具の査定だが、金貨39枚だ」

「わかった。それで、ユーラットに持っていくのはどれだ?」

 ヤスはいきなり本題を切り出す。
 焦っているわけではないのだが、早いほうがいいだろうと判断しているのだ。コンラートやミーシャも同じ様に焦っているのだが、ヤスと大きく認識が違う事があった。ヤスは、武器と防具と食料を受け取ったら、夜でも構わずに出発するつもりで居たのだ。スマートグラスは持ってきているし、外に出たら荷物を収納すれば速度を出しても問題ないだろうと考えていた。一人なら多少無理な運転をしてもいいだろうと考えていたのだ。
 コンラートとミーシャは、夜の帳が下りた状態では優秀なアーティファクトでも出発は難しいだろうと考えていた。そのために、出発までは数時間は余裕が有るだろうと考えていたのだ。

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