【第二章 ギルドと魔王】第七話 【連合国】

 

 連合国の首都にして、加盟国のすべての出先機関がある街は、ある意味で秩序がバランスよく保たれている。連合国の首都は、ギルドの本部が存在している。ギルドからもたらされる情報を扱って、連合国間だけではなく、各国とのバランスを取っているのだ。

 その連合国の首都にある。出先機関の一つで重大な会議が行われている。加盟国の出先機関に同じ部屋が設置されることになっている。この部屋の用意が難しい国は、連合国の重大な決定事項には関わることが出来ない。

「どうするのだ!」

 円卓には、6名が座っている。
 末席という概念はなく、皆が平等だと言われている円卓だが、明確な序列が存在している。

 言葉を発したのは、序列4位のだ。
 カップを握る手が怒りで震えている。

「どうするも、貴様の無能な部下が情報を持ち帰ってこないのだ、我らに何が出来る?」

 正面に座る男が、淡々と事実を述べる。
 序列4位は、新しい魔王の内情を探るなど簡単なことだと考えていた。出来る保証もなく、手を上げて、魔王ルブランから竹箆返ししっぺいがえしを受けていた。

「4位殿。それで、放った者たちは?」

「帰ってきたぞ」

「それなら、話が聞けるのでは?」

「無理だ。全員、首だけになっていた。ひどい者だと、目をくり抜かれて、耳を削ぎ落とされた状態だ」

 序列4位は、吐き捨てるように、状況を伝える。
 実際に、検分した者が言うには、目や耳は、生きている状態でくり抜かれて、削ぎ落とされている。実際の拷問は、それだけではないだろう。

「直接だ」

「は?」

「ギルドを通して、調査させた。それでも、魔王からの贈り物だと、直接、我が国の諜報機関が使っている屋敷の・・・。部屋の中に入られて、机の上に、置かれていた。首だけではない。諜報で使う道具までも丁寧に並べて置かれていた。それに、諜報員の誰も気が付かなかった」

 調査員は、ギルドからの派遣を装っている。それなのに、序列4位の国の諜報機関に送られてきた。

「え?」「は?」「む!」

 序列4位の言葉を、皆が解釈するまで時間がかかった。
 国の諜報機関の内部まで入り込まれて、首が置かれた状態になっても気が付かなかったのだ。それだけではなく、諜報機関の活動拠点は、他の国にも知られていない。秘匿されて当然の場所だ。そして、それを知る諜報員が拷問で口を割るとは思えない。諜報員から情報を吸い上げる方法を、魔王が持っている可能性がある。

「それで、4位殿?貴殿は、どうしたいのだ?」

「6位殿。諜報活動は続ける。魔王ルブランは異常だ。我らの驚異となる」

「4位殿。それは、解っている。この短期間で、あれだけの魔王城を作ってみせた」

「それだけではない」

「4位殿。何か、知っているのか?」

「・・・」

「4位殿?」

「2位殿。3位殿。今から、私が語るのは、私がおかしくなったからではない」

 序列4位が、上位者である二人に、”自分がおかしいのではない”と念を押している。

「わかった」「・・・」

 無口な3位は、目線で了承の意思を伝える。

序列4位が懐から、綺麗な紙を取り出して、皆の前に差し出す。

「これは?」

 一度も口を開いていなかった者が口を挟む。

「5位殿。魔王からの書状です」

「は?」

「執務室の机・・・。私が使っている机の上に置いてありました。そして、内容を読んでみて下さい。5位殿」

 序列5位は、序列4位が差し出した紙を受け取って、顔色が変わった。
 控えていた従者を呼んで、何やら指示を出している。

「5位殿?」

「すまん。すぐに確認する必要があった。皆も、読めば解る」

 序列5位が、他の者に紙を渡す。
 渡された者も、序列5位と同様に従者を呼んで、指示を出す。

 順番に回された紙が、序列4位の下に戻ってきたが、誰も口を開かない。
 時間だけが過ぎていく、交換された温かい飲み物から、上がる湯気だけが動いている状況だ。

 5分後。湯気も、途絶え、途絶えになった頃に、ドアを開けて外に出ていた従者たちが戻ってきた。
 皆、顔色が悪い。今から上位者にする報告が怖いのだ。この場では殺されるようなことはないだろうが、叱責くらいは覚悟している。

 耳打ちされた内容を、椅子に座りながら受けていた上位者たちの視線が、序列4位に集中する。

「確認ができたと考えて良さそうだな」

 序列4位は皆を見回した。

 手元にある紙に視線を落とした。

”魔王ルブランとの謁見は、ダンジョンの最下層の攻略後に果たされる。魔王城への侵入は、いかなる理由があろうと許されるものではない。魔王ルブランの居城を探っていたものが居た。命令を下したものに、亡骸を返却する。このようなことが続かないように、同じ文面の警告を貴殿たち関係者に配布した。確認されたし。また、貴殿らが崇める『神』にもよろしく伝えてくれ、このような行動が続くようなら、残念な結果を導いてしまう”

 脅迫とも、挑発とも、如何様にも取れる内容の文面だ。
 ここに並ぶ者たちが、文面で問題だと考えているのが、”神”に関しての記述があることだ。連合国は、神聖国が定める神を祀っているわけではない。しかし、連合国の上層部は同じ者を神として崇めている。恐怖していると言い換えてもいいかもしれない。その事は、上層部だけしか知らない事実だ。

「ギルドの裏切り共が魔王ルブランに教えたのか?」

「それはない。ギルドの上層部でも、神を知るのは一部だ」

「その一部が裏切ったとは思わないのか?」

「知る者には、我らと同じように、呪が施される」

「・・・」

 机を叩く音が部屋に鳴り響く

「神に関しては、神がお決めになる。違うか?」

 今まで、黙っていた。序列1位が口を開いた。

「・・・」

 黙ってしまった5名を見下すような目で見てから、序列1位は立ち上がった。

「ここまで新参の魔王に虚仮にされて、黙っているのか!」

 序列1位の激にも、他の5人は何も言えない。
 できれば、他の者たちが魔王に対応してくれることを考えている。できるだけ、自分のでは、”対応をしたくない”と、言うのが本音なのだ。

 各国の本音が解っているだけに、序列1位は気分が悪いのだ。
 新参の魔王と思って、対応を読み間違えたと思っている。

 ギルドと一緒に、魔王を討伐すべきだったのかもしれない。帝国に任せてしまったがために、魔王が成長する時間と糧を与えてしまった。

「・・・。わかった。俺たちが動く」

 序列1位が、魔王ルブラン攻略に動くことを宣言した。

「わかりました。私は、兵5千を出します。あと、食料と少ないですが拠出金も提供します」

 序列3位が、兵と支援物資の提供を約束する。
 同じように、他の者たちも、出来る範囲での支援を約束する。

 序列1位は、それを聞いて納得するように頷きを持って応える。

「それで、1位殿?誰が総指揮を司るのですか?」

「奴隷兵を出させる。その上で、我が国の騎士たちを出す。不満はあるまい?」

「・・・」

「南を守護する者を出す。我が国の選抜戦を、3年連続で優勝している者だ。先々月、少国家群にある魔王の討伐を終えて戻ってきた。1万ほどの戦利品も携えている。そのまま戦力として投入すれば、3万になろう」

 皆の視線が序列1位に集中する。

「貴国たちの献身は、神も見ていらっしゃる。必ず、魔王ルブランを打ち破ろう。決起は、3ヶ月後とする。それまでに、各国準備をお願いする。魔王ルブランが居る居城の近くは、4位殿が近いだろう。そこから、出陣したいと思うが、皆の意見を聞きたい」

 反対の声が上がるわけはない。
 序列1位の意見は絶対とは言わないが、逆らうことが出来ない。序列2位以下は、国力で入れ替わることがあるが、序列1位だけは不動なのだ。ギルド本部を有していることで、序列1位は他の国にない物を持っている。

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