【第四章 スライムとギルド】第一話 贈り物
少女との会談は、無事に終了した。
無事だと思いたい。最低限。本当に、最低限のラインは守れた。少女たちと敵対はしていない。
「円香!」
孔明が何か怒鳴っているが気にしないようにしている。
千明がアトスを撫でている。私も、千明と一緒に現実逃避したい。茜は、少女からの依頼を達成するために、端末で格闘している。
「円香!」
「孔明。聞こえている」
「聞こえているのなら、返事をしろ。それに・・・」
孔明が見つめる先にあるのは、少女から渡された”贈り物”だ。
あの日、少女は、女王蟻をライ殿に吸収させた。
それが恐ろしいことだと考えても居ない自然な流れだった。
「円香!解っているのか?あのスライムは、スライムを吸収した。それが、異常なことだと、おまえなら解っているのだろう?」
孔明が”スライム”と呼んだのは注意しなければならない。
素性が解るまで、敵対してはダメだ。私たちが、敵対してしまえば、少女を中心にした者たちが、人類の”敵”になってしまう。
それだけは絶対に避けなければならない。
「孔明。解っていると思うが、注意しておく、スライムではない。”ライ殿”だ。スライムなどと呼ぶな」
孔明も解っているのだろう。
今のギルドには、主殿に繋がる魔物が居る。
それに、場所を把握されている。盗聴は大丈夫だとは思うが、少女たちが使えるスキルは未知な物が多い。盗聴に近いことが出来ても、驚かない。出来ていると考えて行動した方がいいだろう。結界だけでも厄介なのに、念話が使えるのは確定している。他にも、多数の未知なるスキルを保持している。
「・・・。そうだな。すまん。しかし!」
私が、茜の足下で寛ぐクロトとラキシを見たので、何が言いたいのか解ったのだろう。
私よりも、実践での経験がある蒼がライ殿を見て震えていた。そして、少女の横に座っていた私を見て、”よく座っていられたな”と言った。蒼は、あの場から逃げ出したかったらしい。少女の近くに居た、梟や鷲も私の”目”では見る事が出来なかった。そのままの種族では無いのだろう。動作が、通常の梟や鷲ではない。少女をきっちりと守れる位置に居て、解りやすく私たちを警戒していた。
少女の近くから、離れた者たちにも、動物の姿が確認できたと蒼が言っていた。
”鳥”の姿をしていたが、襲われたら勝てるとは思えなかったようだ。
ギルドに帰ってきて、蒼は本気で後悔していた。知りたくなかったようだ。勝てないと思った相手は今までにも居たが、絶望した相手は初めてらしい。
「解っている。ライ殿の行為が、恐ろしい行為だと・・・。主殿の様子だと、同族の吸収だけではないだろう」
帰ってから、実際に吸収を見ていた者たちで事象を整理した。
少女にもライ殿には質問をしなかったが、ライ殿がスライムを吸収した。他のギルドにも情報が存在していない。事象として確認が行われていない。
蒼が懸念しているように、ライ殿が特別なのか、それともスライムには”吸収”が備わっているのか?スキルなのか?
魔物が出現した当初は、魔物には固有のスキルがあると考えられていたのだが、特殊な攻撃を繰り出した魔物は居ない。
人が魔物を倒した時に得るスキルと同じ物を使ってくるだけだ。そのために、スキルには特殊な物は存在しないと思われていた。
そもそも、魔物が”意思”を持っているような行動も確認がされていない。
集団になったのも、先日の天使湖での出来事が数例目の数少ない事象だ。
何かが動いている?
「でも、円香さん。ラノベ設定のスライムだと、吸収は持っていて、当然のスキルだと思いますよ?」
茜の言葉に少しだけ気分が悪くなるが、言われてみれば・・・。いろいろと不思議だ。
「円香!ライ殿の話よりも、まずは喫緊の問題があるだろう?」
孔明が忘れようとしていたことを思い出させた。
主殿がギルドに”贈り物”として渡してきた魔石だ。
純度が高い魔石が5つ
買い取りではない。”贈り物”だと言われてしまった。ギルドが捕まえてきた”スライム”が産み出した魔石なので、ギルドが所持するのが”筋”だと言われて、とっさに拒否できなかった。
そして、主殿・・・。少女は、消えてしまった。今後の約束だけして・・・。
その頃には、蒼も千明も戻ってきて、少しだけ離れた位置から、少女や周りを見ていた。警戒していたわけではないが、何が発生しても対処ができるような状態にしていた。
それなのに、少女は私たちの前から忽然と消えた。
「そうだな。まずは、茜!」
「終わっています。ただ、前例がないので・・・」
茜が担当したのは、買い取りだ。結界石や念話石ではなく、魔石としての価値を算出して貰っている。
少女が用意した魔石は、ゴブリンの魔石だと言われたが、大きさから変異種か特殊個体の魔石だと思える。
少女は、”色付き”と呼んでいた。
「蒼。”色付き”という言葉から連想するのは?」
少女が簡単に言っている”色付き”。
「変異種か上位種・・・。特殊個体の可能性もある」
ゴブリンでも、倒すのに苦労する変異種。その上位種の可能性すらある。
「そうだな。主殿は、”色付きのゴブリン”と言っていたが・・・」
「上位種だろうな。魔石の大きさから・・・」
「蒼。上位種の魔石は、自衛隊でも採取しているぞ」
孔明が、魔石が入った透明なケースを持ち上げて、蒼に投げる。
蒼はケースを受け取ってから、眺める。確かに、大きさで言えば、通常の上位種の大きさではない。
「わかっている。解ってはいるが・・・。定義がされていないだろう?上位種の上位種とか、変異種の上位種とか・・・。簡単に倒せるような口ぶり・・・」
「そうだな。それで、査定はどうなる?」
蒼の話を遮るかたちになるが、何か考え始めたので無視する。
査定は、茜に任せてある。
ワイズマンの使用も許可した。結界や念話のスキルは、伏せるように指示を出してある。
「ワイズマンに問い合わせたら、変異種の魔石には値段がついていました。ギルドの買い取り価格です。買い取った魔石の情報も明記されていました」
「それで?」
茜から、変異種の魔石に関する情報を手渡される。
印刷してあるようだ。
確かに、少女から託された魔石は変異種の物ではない。大きさが違う。透明度も違っている様に思える。
「はい。魔石一つで、5万ドルです」
「・・・。5万ドル。主殿に、ギルドカードにチャージでもきついな。一度に動かせる金額ではない」
一つだけなら買い取りは可能だが、少女からは素材の買い取りも打診されている。
少女から売りたい素材の一覧を貰うことにはなっている。大凡の素材を口頭で聞いただけで、ギルドの予算が心配になってくる。
「はい。スキルがなければ・・・。本部に買い取り依頼が出せるのですが・・・」
「ん?茜?本部?」
本末転倒なのは解っている。
少女の言葉を信じるのなら、結界石や念話石や新たに渡された魔石は、”贈り物”だ。魔石として買い取ることを提案されたのだが、難しいことは伝えた。だからこそ、少女には買い取り値段の情報をオープンにして、ギルドの内部情報である”魔石の情報”を渡せば・・・。
「はい。問い合わせに際して、本部での買い取りを希望と返信がありました」
本部に魔石を買い取ってもらう。
いい考えだ。
「千明。主殿かライ殿に、連絡してスキルが付与していない魔石があるか聞いてほしい」
アトスと戯れていた千明が奥から返事をする。
結界石と念話石を本部に送ることはできない。しかし、通常の魔石としてなら可能だ。入手先を聞かれるだろうが、ごまかしは可能だ。
あとは、”贈り物”をどうするかだ。
動物を魔物にして、眷属にできる魔石?世界がひっくり返る。大きい動物は難しいようだが、猫や犬なら可能だと言われた。
少女の言っていることが、正しければ・・・。だが、本当だった場合に、捨てることもできない。既に、魔石に触ってしまっている。
少女から渡されたもう一つの”贈り物”。
ありがたい。凄く、ありがたい。ありがたいのは、間違いない。間違いないのだが・・・。扱いに困ってしまう
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