【第二十三章 旅行】第二百三十六話

 

フラビアが言っていた、アトフィア教の残党に関する情報をまとめた書類が俺の手元に届けられた。

シロが襲われた状況を詳しく書いてあるが、確かに”野盗”に成り下がっている。主義や主張が見られない。
以前は、人族以外を襲っていたが、シロたちは人族が主になって移動をしていた。アトフィア教の司祭も見える位置に座っていた。それでも、襲ってきた。

「ルート。どう思う?」

書類を持ってきたルートに、書類を見せながら問いかける。

「シロ様が狙われたのでは無いでしょう」

「そうだな。それは良かったと思っている」

「はい」

「モデストからも何も言ってきていないのだな?」

「はい。定期連絡は入っています。数名の狂信者を捕らえて、処理した・・・。報告書には書かれていました」

「わかった。情報が書かれていなかったところを見ると、本当に狂信者だったのだな」

「そう思います」

「フラビアたちが捕縛した奴らも情報は持っていなかったらしい・・・」

「気にしすぎではないでしょうか?」

「ん?そうだな。俺も、そんな気がしてきた。でも、新種はたしかに存在する」

「はい。通常よりも、厳重な警備体制を構築しています」

「わかった」

手を挙げると、ルートは頭を下げてから部屋を出ていった。

確かに、考えすぎかもしれない。
新種がどこから来たのか?それがわからない限りは、安心は出来ない。アトフィア教は関係ないのかもしれない。狂信者が産み出したのではないのかもしれない。よくわからないから、恐怖を感じる。

俺の抹殺を考えるのなら、式のタイミングが千載一遇のチャンスだろう。必ず、俺を補足できる。俺の動きは、不規則に見えるだろう。
シロを狙うのも効果的だが、復権や大陸を手中に収めようと考えているのなら、俺以外を狙っても意味がない。シロを人質に取れば可能かもしれないが、シロを人質に取れるほどの”豪の者”が居るとは思えない。スキルがあれば可能かもしれないが、上位スキルでヤバそうな物は独占している。
スキルで問題になりそうな物は、レベル8の偽装や記憶だ。レベル7の即死や操作も問題にはなりそうだが、独占することは出来ているようだ。

「旦那様」

「どうした?」

珍しく、オリヴィエが執務室に入ってきた。

「お時間を頂いてよろしいですか?」

「あぁ大丈夫だ」

「旦那様。式の後に出す予定のお食事ですが・・・」

オリヴィエがメニューを出してくる。

問題はなさそうだ。
立食形式の式で、大皿で料理を提供する。

飲み物は、バーカウンターのような物を設置して、取りに行ったり、従者に取りに行かせたり、自分で注文してもいい方式にしている。

「問題はないと思うが?」

「3日間、同じ料理をお出ししてよろしいのですか?」

「あぁそうか・・・。俺の出席者はいいとしても、シロの出席者は同じでは飽きてしまうな」

「はい。カトリナ殿にも協力いただいて、各地の料理を調べたのですが・・・」

「どうした?」

「旦那様のレシピとあまりにも味に違いが産まれてしまって・・・。カトリナ殿も、これは出さないほうがいいという結論になりました」

「そうか・・・。でも、今からだと、味付けを変える位しか出来ないと思うぞ?」

「はい。もうしわけありませんが・・・」

「わかった。皆、キッチンに揃っているのか?」

「はい。準備を行っています」

オリヴィエと一緒にキッチンに移動した。
セバスや眷属たちも手伝って、料理を作っている。日持ちは、ライが居れば問題はない。

まずは、パスタの味を変えた物を作っていく、ミートソースだけではなく、カルボナーラもどきやペペロンチーノもどきを作っていく、スープパスタは大皿料理には向かないので、今回は止めにした。魚介類を運ばせて、具材を変えるだけでバリエーションを増やすことができる。
ピザも、具材の変更は可能だ。そのために、何種類かの具材を併せて作成して後は任せる。

中華っぽいレシピも渡した。
この世界の料理は、調味料を一つしか使わない。貴重だというのもあるが、塩だけ、胡椒だけを使っている。そのために、複雑な味にならない。出汁も取らないので、味が平面なのだ。
複数の調味料や、香辛料を組み合わせる方法を教えるだけで、いろいろ作ることができる。
あと、応用が出来ない。

お好み焼きっぽい物を作った時も、レシピどおりに作るのは良いのだが、アレンジが出来ない。
具材は決められた物以外は駄目だと思ってしまっているのだ。ヤキソバの具材も同じだ。

さて、これらの味の違いを伝えた。あとは、思いつく大皿料理のレシピを伝えた。

部屋から出ようとしたら、カトリナに捕まった。

「ツクモ様」

「カトリナ?」

「今のレシピは?」

「欲しい?」

「ものすごく!」

「明日は、甘味を作るぞ?」

「!!くぅぅぅぅぅぅ。両方、欲しいです!」

「売り出すのは、式が終わってからだぞ?」

「わかっています。材料の確保も考えなければならないので、すぐには売り出しません。手も足りていません」

「そうか、それなら、問題はない。明日も来るのだろう?」

「もちろんです」

翌日、今度はデザートのレシピを伝える。
簡単にできる物としてフルーツポンチを教える。最近、手に入った”てんぐさ”を使った寒天も作った。まんじゅう系の和菓子も作った。砂糖を大量に使うので、カトレアが原価の計算をして首を振っていたのが印象的だが、砂糖は量産ができる体制になっているので、それほど高くはならないと思う。

式の最後に手土産として渡すと言われたので、洋菓子ではなく和菓子のレシピを伝えた。

「オリヴィエ。こんな感じだけど、後は大丈夫だよな?」

「はい。組み合わせを教えていただいたので後は作ってみて調整します」

「頼むな」

「はい」

「カトレア!」

「え?あっはい。仕入れは大丈夫です」

「そうか、頼むな」

「はい」

「レシピは、渡すから安心しろ、いつもと同じでいいのだよな?」

「あっはい。お願いします」

カトレアが何かを考えていたのだが、気にしないで話をまとめる。
レシピの使用料を貰う形にする。あとは、カトレアが広げてくれるだろう。

特に、式で初めて出すレシピも多い。
それらは、式で出された料理として広めるのだろう。一部は、式に列席しない者でも無料で配られる。

式の準備が着々と進んでいく、俺の式典用の服も完成した。
シロのドレスも完成したと報告が入ったが、まだ見ていない。当日の楽しみだと言われてしまった。

自由区や商業区は、すでにお祭りモードになっている。
カトレアが先行して出したレシピを使った屋台が出ている。住民には、新しい試みとして”メダル”を渡している。メダルで、屋台で食べ物や飲み物と交換できるようにしたのだ。もちろんスキルでの売買もできる。物々交換は、屋台では出来ないでの、行政区で”メダル”と交換するようにしている。
子供や元奴隷たちにも、”メダル”を渡している。屋台では、メダルを行政区に持ち込めば、オークションで使えたり、物品と交換したり、スキルとの交換も可能だ。メダルの種類は二種類だけで、大メダルと小メダルだ。大メダルが一枚でレベル4相当になるように調整している。小メダルはレベル3相当だ。

平静だった、行政区も騒がしくなってきた。
ダンジョン区の風呂が大忙しだと言われても、もう俺には何も出来ない。ダンジョンで稼いでから、屋台を楽しもうとしていた連中が戻ってきて、風呂でさっぱりしてから自由区や商業区に繰り出しているようだ。

神殿区も、最後の調整が行われている。
式の準備は出来ている。アトフィア教の司祭も到着しているし、中央大陸からコルッカ教の司祭も到着して、打ち合わせを重ねている。どちらの様式でやるのかはもめさせなかった。俺が日本のチャペルでの式を模した感じにしたのだ。アトフィア教の司祭も、シロの祝福ができれば問題はないと言っている。
参列者の調整も、元老院が苦慮したが、なんとかまとまったようだ。

式を3回と言っていたが、実際には、アトフィア教の式をいれるので、4回だがアトフィア教の司祭が仕切る式は、本当の身内だけで行う。シロの為の式だ。
俺としては、残り3回は式ではなく、”披露宴”だと思っている。立食パーティーなのだから、式というよりも、披露宴だろうとは思っているが、最初にコルッカ教の司祭が仕切るので、やはり式なのかもしれない。

よくわからないが、明後日から式が執り行われる。

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