【第二十六章 帰路】第二百六十六話
港を占拠する。
実質的な占拠か、支配的な占拠か、武力を全面にだした占拠か・・・。
モデストは、支配的な占拠が望ましいと考えているようだ。
「実質的な支配ではダメか?」
「はい。我らの力を自らの力を勘違いする可能性があります」
モデストが危惧していることは理解ができる。しかし、人材が居ないのも確かだ。実質的な支配なら、俺たちの大陸からある程度信頼ができる商人を派遣して、現時点で港を仕切っている商人たちを追い出せばいい。
人材の面から、俺としては”実質的な占拠”が望ましいと思っていた。
「勘違い?」
「はい。旦那様のお考えでもよいとは思いますが、1年もしないで、許可を出した商人が仕切り始めると思います」
「ん?」
「大陸では、旦那様だけではなく、他の者たちの”目”があります。もちろん、私たちの眷属が見張っています。しかし、エルフ大陸には、”目”を配置できません」
「”配置できない”?エクトルではダメなのか?」
「数年後なら、エクトルで対応ができるとは思いますが、現時点では難しいと思います」
「草原エルフと森エルフの管理か?」
エクトルには負担がかかる。
基本は、姫の護衛だが、テル・ハールが統治をすすめるにしても、今のママでは何も変わらない。エクトルが、統治に関わるかどうかは、本人に任せるとして、躾は必要になってくるだろう。それに、森の復興にも力が必要だ。俺たちの知識を、エクトル経由で”森の守り人”を僭称する者たちに教え込まなければならない。
「はい。それに、森の復興もあります。しばらくは、使い物にならないと思います」
「わかった。それで、”支配的な占拠”しか方法はないと言うのだな?」
「はい。支配層を特定して、圧力をかけます」
「殺した方が楽じゃないのか?」
「最終手段だと考えています」
「そうか・・・」
ん?そうか、武力を使ってしまうと、他の大陸が警戒をする可能性がある。
問題は、責任者だな。エルフの支配は終わっているから、商品の流通を含めて、今の支配層を排除するのは簡単だ。
「モデスト」
「はっ」
「港の現状を調べろ。支配層に圧力をかけるぞ」
「かしこまりました。旦那様。責任者なのですが、獣人族から選出するのを提案します」
「獣人族?」
確かに、獣人族は増えている。
安全な状況になって、周りからの批判もなくなっている。最初に作った集落から出る者も増えている。大陸の中なら、獣人族だからと忌避する者は少なくなっている。アトフィア教への牽制にもいいかもしれない。どうせ、将来的にぶつかるのは、自明だ。シロの父親が残した組織が頑張っているようだが、教皇たちは強固な支配体制を確立している。崩れたように見えても、民衆の意識を変えるのは不可能だろう。
エルフ族の意識改革にも良いかもしれない。
欠点としては、獣人族に支配層としての振る舞いができるのかだが・・・。俺にも出来ているから、大丈夫だろう。大丈夫だと思いたい。きっと、大丈夫だ。
「カズトさん」
「ん?」
「獣人の皆さんが、エルフ大陸にある港の責任者になるのなら、ローレンツに言って、信頼できる者を補佐に付けるのはダメでしょうか?」
そうか、たしかに、獣人族を忌避しているアトフィア教の司祭あたりが一緒に来れば、負担や不満も減らすことができそうだ。ローレンツからの推薦なら、下手なことはしないだろう。それに、アトフィア教への牽制としては最高の手札になりそうだ。アトフィア教の奴らなら、司祭が居れば、司祭に手心を加えるように求めてくるに違いない。そんな商人から排除していけば、担当者の負担は減る。あとは、シュナイダーから推薦させた者に担当させて、商人をまとめさせれば・・・。実効的な占拠と、支配的な占拠の両方が完成する。武力としては、獣人族の護衛を派遣すればいい。正面からぶつかれば、新種やエンリの一族が来ない限りは大丈夫だろう。港の護衛としても、十分な戦力が期待できる。
考えれば、悪い所はない。
「旦那様。奥様。それなら、バランスを取るためにも・・・」
「そうだな。ステファナが言っているのはわかる。うーん」
正直な話をすれば、面倒に感じてしまっている。どうせ、帰ったら、帰ったで、何か問題が発生するのだろう。
エルフ大陸のことまでかまっていられない。新種が気になる。新種の備えのために、エルフ大陸の港を抑えておきたい気持ちはあるが、そのためだけに、エルフ大陸にかかりっきりになるのは避けたい。
よし!
そろそろ、ステファナにも仕事をさせよう。
「ステファナ」
「はい。旦那様」
「大陸に帰ったら、モデストと二人で、エルフ大陸の港を支配する作戦に関する全てを任せる」
「え?」
「最高責任者は、シロ!」
「はい。カズトさん。お任せ下さい」
「実行の責任者は、ステファナ。補助と護衛にモデスト」
「はい・・・。私が?でも・・・」「勅命。承りました」
「ステファナ。シロは、実際には何もしない。ステファナとモデストで、エルフ大陸の港を支配しろ、作成の概要は、獣人族から港の責任者を選出する。護衛も獣人族をメインで揃えろ。教会や奴隷商の手配も行え。既存の商人に関しては、取捨選択を含めて全てを任せる」
モデストが呆れる表情をしているが、無視する。
俺が楽をしなくて、どうする?
ステファナの立場は、シロの侍女になっているが、帰り着いてしまえば必要性はすくなくなる。いや、フラビアやリカルダが確実にシロの世話を焼きたがるのは間違いない。
「私が?」
「そうだ。困ったらルートやクリスにも助言を求めろ。長老衆には、俺から話を通しておくが、長老衆には助言を求めるな」
「・・・。はい。承りました」
「うん。大丈夫。失敗しても、エルフ大陸の港が使えなくなるだけだ。一切、困らない。使いたくなったら、破壊すればいい」
「でも、旦那様たちの名声が・・・」
「それは、もっと気にしなくていい。俺たちは、名声なんて最初から気にしていない。悪名も同じだ。言いたい奴には言わせておけばいい。どうせ、遠くから吠えるだけだろう。それに、名声が落ちても、大陸を支配しているのには変わらない。俺たちは、俺たちだ」
シロが、ステファナの横に移動している。肩を抱きしめている。
よく見ると、ステファナは不安な表情ではなく、心の負担からだろうか、涙を流している。あれは、少なかったが部下が居たときに、仕事を任せようとした時に表情に似ている。不安から来る緊張なのだろう。
「ステファナ。失敗を前提に考えることは許さない。しかし、失敗しても構わない。ステファナが、経験を積んでくれることが、俺には重要なことだ。それに、成功しても、失敗しても、ステファナなら理由を分析して、俺たちに報告をしてくれるだろう?」
「はい。もちろんです」
「それなら、ステファナが行った経験は、報告書を通して、他の者にも積ませることができる。これは、エルフ大陸の港なんかに比べる必要もない位に、俺たちにとっては重要で、大切な物だ」
これは、俺の本音だ。
エルフ大陸なんて、おまけのような物だ。おまけで、ステファナが経験を積めるのなら、俺たちの収支はプラスになる。それも、大幅なプラスだ。人を選択して動かす経験は、シロの侍女になるのなら必須だ。それだけではない。これからは、新種への対応でステファナやモデストが動く可能性が高い。戦闘能力ではなく、俺が信頼できる者の順番で考えれば当然の人選だ。
「かしこまりました」
モデストとステファナが二人で、俺に頭を下げる。
これで、エルフ大陸は大丈夫だろう。ルートに詳細な話をして、手配を頼めば、ステファナの手助けにもなるだろう。ルートには、ステファナから要望が有った時にだけ動くように言っておけば、いいだろう。
見覚えのある場所まで移動が出来た。
エリンを呼び出して帰ってもいいけど、せっかくだから、港の情勢を見てから帰るか・・・。
本当に、これは新婚旅行か?シロが嬉しそうにしているから、いいけど・・・。
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