ワケあり男の記事一覧
2022/01/23
【第二章 リニューアル】第五話 連鎖
女性は、店に入ってきた。静かな、店内に女性の歩く靴音が響く。 「マスター。ウイスキー・フロート」 いつもと雰囲気が違う常連の女性からの注文。 それも、今までに頼んだことがない。ウイスキー・フロートだ。 「バランタインの17年が入ってきています。どうですか?」 「うん!あっ足りる?」 女性は、普段と違うテンションでカウンターに座る。 上機嫌を装っているが、空元気なのは誰の目にも明らかだ。 「大丈夫です」 マスターは普段と同じテンションで、女性に向き合う。 「お願い」 タンブラーにロックアイスを入…
続きを読む2021/11/23
【第二章 リニューアル】第四話 眠れぬ夜
「マスター。ナイト・キャップをお願い。今日は、これで最後にする」 「かしこまりました」 マスターは、卵黄を用意して、ブランデーとキュラソーとアニゼットを2:1:1でシェイカーに注いて、卵黄を入れる。 注文した女性は、マスターの手元にうっとりとした視線を向ける。 「ナイト・キャップです」 女性は、マスターが置いたシャンパングラスに注がれた液体をしばらく眺めてから、喉に流し込んだ。 「マスター。私、夜を卒業するの」 「そうですか」 マスターは、シェイカーを洗いながら女性の独白に答える。 「それで」 「わ…
続きを読む2021/07/05
【第二章 リニューアル】第三話 雪うさぎ
「マスター。ボンペイをお願い」 マスターは、カウンターに座る女性の注文を聞いて、泣き出しそうな女性の表情を見て、ブランデーとスイート・ベルモットとドライ・ベルモットをカウンターに並べる。カウンターには並べなかったが、パスティスとオレンジ・キュラソーを用意した。 「ねぇマスター」 「はい」 「ボンペイの意味は?」 「『1人にしないで』です」 ステアして完成したボンペイを、マスターは女性の前に置く。 「ボンペイです」 「ふふふ。『1人にしないで』かぁ・・・。あの人が、好きだったカクテル。1人にされてしまった…
続きを読む2021/06/18
【第二章 リニューアル】第二話 希望
女性は、店に入るなり、カウンターに座った。 マスターが目を向けるが、女性は気にした様子は見せない。 「マスター。おすすめを頂戴」 マスターは、女性をちらっとだけ見て、頷いて、ゴールドラムとレモンジュースをシェイカーに注ぎ込み、オレンジキュラソーとアロマティックビターを入れる。シェイクしてグラスに注ぎ込んで、カットオレンジを添えた。 「カサブランカです」 「ありがとう」 女性は、カサブランカをゆっくりと喉に流し込んで、目を閉じる。 「マスター。同じものをお願い」 「かしこまりました」 店の中には、マ…
続きを読む2021/05/17
【第二章 リニューアル】第一話 再開
タンブラーに入った茶色の液体を喉に流し込みながら女性は、バーテンダーを見ている。 最後の一口を含んでから、ウィスキーの味を感じながら呑み込む。 「マスター。もう一杯」 「同じ物で?」 「うん。カウボーイをお願い」 マスターは、テーブルに磨かれたタンブラーを置いて、氷を入れる。そこに、アーリータイムズを45ml注ぎ込む。そこに、ミルクを105ml注いで、砂糖を小さじに1杯入れる。軽くビルドをする。ミルクが落ち着いたのを確認してから、ナツメグを振りかける。 「カウボーイ。『今宵もあなたを思う』」 女性は…
続きを読む2021/04/09
【第一章 バーシオン】第三話 夜を隠す
「マスター。いつもの!」 カウンターに座る女性の注文を受けて、ブランデーの瓶と、カカオ・ホワイトリキュールの瓶をカウンターに用意した。ブランデーをシェーカーに適量(30ml)を注いで、カカオ・ホワイトを半分(15ml)を注いで、生クリームを適量(15ml)を注いだ。シェイクしてショートグラスに注ぐ。 女性は、シェイクしているマスターの手元をうっとりとした目線で眺めている。 「ホワイト・アレキサンダー」 女性は、白く甘い香りがする液体を暫く見つめた。 「ねぇマスター?」 「どうしました?」 「アレキサン…
続きを読む2021/04/05
【第一章 バーシオン】第二話 マスターの仕事
「マスター。聞いてよ」 「聞いていますよ」 心地よいテンポで音を奏でていたシェーカーから、グラスに淡いオレンジ色の液体を注ぎ込む。 カウンターに座る彼女の前に、グラスを静かに置く。 「シンデレラです」 「夢見る少女か・・・。マスター。私、少女なんかじゃないですよ。汚れちゃっています」 「それなら、なおさら、それを飲んで、汚れを洗い流してください。貴女に必要なのは、夢を見る時間ですよ」 「夢を見るのには、私は・・・。ううん。マスター。ありがとう。夢を見せに行ってくる」 「いってらっしゃい」 女性がドアか…
続きを読む2021/04/05
【第一章 バーシオン】第一話 バーシオン
繁華街の外れにある寂れた雑居ビル。 その地下でひっそりと営業をしているバーがある。このバーは昼の1時から営業を開始して、夕方には店を閉めてしまう。 少しだけ変わったバーテンダーが居る。店名は、”バーシオン”ありふれた名前のカウンターだけの狭いバーだ。 「マスター。いつもの」 客層は、営業時間の関係もあるが、夜の店で働く”ワケあり”な者たちが多い。 素性は誰にも語らない。誰も聞かない。この街で働く、最低限のマナーだ。 「それを飲んだら、今日は帰ってください」 カウンターに座った女性は、”いつもの”モヒートを頼…
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