短編の記事一覧

2020/04/06

【そして空を見上げた】あの日見た空

 私は、今会社の屋上に登っている。  あの人が最後に見た空は、私が今見ている空とは違うのだろう。こんなに、滲んで居なかっただろう。  私は、あの人が最後に見た空を見たかった。  光化学スモッグで汚れた空だが、あの人にはどんな風に映っていたのだろう。  空を見上げていた、口元は笑って居た。ただ、もう二度と、話をする事も笑顔を見ることもできない。  溢れ出る涙を拭って、部署に戻る。  もう一度空を見上げる。見上げた空は、何も変わっていなかった。  ここは、川崎駅から、南武線に乗って何駅か行った場所にある会社だ。…

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2020/04/05

【目が覚めるとそこには】夢で終わらない

 あぁこれは、いつもの夢だ。誰にでも、1つくらいあるだろう。  同じような夢。疲れた時に見る夢。誰かを殺したいと思っている時に見る夢。  窓も、ドアも、部屋の調度品がなにもない部屋。上も下もわからない白い部屋に私が全裸で居る夢をよく見る。  私は、部屋の中を抜け出すために走りまくる。床だけでなく、壁や、天井を使って、走りまくる。走って、走って、走って、疲れ切って、倒れる。最後は、なぜか部屋から抜け出す。  その時に、必ず振り返ってしまう。白かった部屋が、真っ赤に染まったシーンで目をさます。  目を覚ますと、…

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2020/04/04

【さよならの理由】取られる事の無いコール

 もう、貴方の事は忘れたほうがいいの?  もう、連絡帳にも入れていない、貴方の連絡先。  消すまでに、1ヶ月掛かったのよ?  消してからも、指が、心が、体中が覚えてしまった、貴方の連絡先。  連絡帳から選択しないでも、貴方の電話番号をコールする事ができる。  ダメな事だとは理解している。  この取られないコール音だけが、私と、貴方を繋ぐ。細い。細い。細い。一本の糸。  けして繋がる事がない。一本の糸。  あれから、コール音を何回聞いた?出るはずが無いコール。1回、2回、3回、4回、解っている事だけど、コール…

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2020/04/03

【最高のおめでとう】一番欲しい言葉

「弘樹(ひろき)!」  同級生で、幼馴染の由紀乃(ゆきの)だ。 「なに?」 「卒業前に、みんなでボーリングに行くけどどうする?」 「みんな?」 「そう、大志(たいし)や弥生(やよい)も一緒だよ」  うーん。ボーリングは魅力的だけど、僕は高校受験が残っている。 「ごめん。行きたいけど、受験がまだ有るからね」 「え?弘樹は、私立に受かっているよね?」 「うん。滑り止めだからね。本命は、商業だよ」 「そうだったの?」 「うん」  大志や弥生と家に来て、兄さんたちと受験の話をしていた。 「でも、私立なら、私と一緒に…

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2020/04/02

【3年目の出来事】3周年のチラシ

 高校生の男子が1人で住むには、少しだけ不釣り合いなマンションだが、大城(おおしろ)和義(かずよし)は一人暮らしをしている。  よくある理由で、不幸が重なったからだけだ。  高校2年になっているが、部活もバイトもしていない和義は、学校からまっすぐに部屋に帰ってくる。  マンションはオートロック機能がついている上に常時人が居る状態になっている。その上、部屋のドアには監視カメラがついていて、帰ってからでも訪ねてきた人を確認できる状態になっている。  和義が部屋のドアを開けると、白い1枚のチラシが床に落ちた。拾い…

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2020/04/01

【残された記憶】何気ない日々

 今日も憂鬱な一日が始まる。  最低な目覚めだ。 「太輔!太輔!朝だよ。早く起きて、ご飯を食べちゃいな!」 「解っている。起きるよ」  ほら、こうして、無理矢理起こされる。勉強なんてしてもしなくてもさほど変わる事はない。  母親も父親も弟も妹も幼馴染のあいつも俺に何を期待している。  どうせ、今更勉強しても変わらない。  中堅の大学に入って、運が良ければどっかの公務員にでもなれるだろう。そうじゃなかったら、俺程度が入られる会社なら、大した仕事もさせてもらえないだろう。楽しくもない仕事を、もらえる賃金で釣り合…

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2020/03/31

【残された3分】冷めてしまった紅茶

 私と彼の距離を表現するのに、一番適切な言葉は、紅茶が冷めない距離。  彼は隣の部屋に住んでいる。  それは偶然だった。  中学卒業までは、一緒の学校に通っていた。  高校になったら、彼のご家族は引っ越してしまった。何か理由が有ったのだろう。  中学卒業の時に彼に告白しようと思っていた。でも、告白ができなかった。  学校で一番可愛いと言われている子に告白されていた。受け入れると思っていた。 「紀子!」 「え?」 「一緒に帰ろう。オヤジとオフクロとお前のご両親は先に帰ると言っていたぞ」 「なんで?」 「ん?な…

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2020/03/30

【君と決めたルール】僕がルールを破る時

 何気ない日常の何気ない時間。  それが僕にとってかけがえのない物だったと知ったのは、何もかも・・・。”自分の身体”と”君への想い”と”君と決めたルール”だけが残された日だった。  君は、僕にそんな事を望んでいないだろう。  僕は、初めて、君との約束を僕の都合で破る事にする。  君と決めたルールは4つ。この4つは何が有っても変えないと二人で決めた。 1.嫌がる事はしない 2.他人に迷惑をかけない 3.辛くても笑おう 4.大切にする  だ。  今から1番と4番のルールを破る。 —  高校1年の最初…

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2020/03/28

【隣の料理人】食事のスパイスは勘違い?

 その女性の住む部屋は、古いアパートだだ。 (はぁ今日も疲れた)  誰も待っていない部屋に女性が入っていく。手に持っているのは、近くにある弁当屋さんの袋だ。  部屋に入って、仕事場にしていくポニーテールを解いて、髪の毛を下ろす。 (どんどん。好きだけど・・・今日も、隣の部屋からはいい匂いがしている)  アパートと言っても、女性の一人暮らしだ。セキュリティには気を使った。  部屋を借りる時に、隣に音が聞こえないようにとか、周りにどんな人が住んでいるのかを確認していた。  しかし、匂いまでは気にしていなかったの…

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2020/03/25

【二番目の愛情】戸惑いの告白

 俺には長男だけど二番目の子供だ。  当然の事だと思う。  俺は少しだけ複雑な子供だ。  俺の父はバツ1なのだ。  父の再婚相手が、俺の産みの母で、産みの母の最初の配偶者が本当の父なのだ。  ようするに、俺が今『父』『母』と呼んでいる両親とは血が繋がっていない。  本当の両親が、どうなったのかは知らない・・・ことになっている。  一度酔った父が話してくれた。  俺の本当の父は、父の友人だった人物ですでに死去している。産みの母も、父と再婚して2年後に死去した。  自殺だと言っていた。父は、本当の母の死を自分た…

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2020/03/25

【白いフクロウ】御使い

 そこは終末医療専門の病院だ。  誰も訪ねてくる事もなく、ただ死を待つだけの人たちが、最後の時を心安らか過ごす場所だ。冥界に旅立つその時まで、サポートを行う病院なのだ。  1人の女性が運び込まれた。  身寄りのない女性。女性というには幼い。少女と言ってもいい年齢だ。 「先生」 「もって1ヶ月と言われている」 「でも、なんでここに?」  看護師が不思議に思うのも当然だ。  ここは救いのない病院。少女が最後を迎えるのに相応しいとは思えない。 「彼女の希望だ」 「え?」 「彼女は、とある事件の被害者の家族で、唯一…

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2020/03/22

【近くて遠い50cm】最後の一歩

 僕が彼女を意識し始めたのは、何時だっただろうか?  彼女が、僕に向かって 「ちょっと家まで遠いけど送ってくれる?」  送った時に話した事がきっかけだったのだろうか?  彼女は、1つ年下の19歳になる大学生。話を聞いて初めて知ったのだが、僕と同じ大学の2つ下の学年になる。  僕と彼女の出会いは、バイト先が同じになったことがきっかけになる。  バイト先も同じだし、同じ大学に籍を置いている、話そうと思えば話せる関係にあるし、メールアドレス・電話番号も知っている。  同じ時間を共有する機会は多く存在している。  …

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2020/03/22

【嘘と裏切り】彼と彼女の選択

 彼は、僕にこんな感じで話を切り出した。 「彼女は僕を好きでいてくれるし、僕も彼女を愛している」  彼には家庭がある。  その事実を、彼女には告げているという。裏切りが成立してからの恋。  これほど残酷な結末を二人以外に強いる関係ははない。僕は、不倫を否定するつもりはない。僕には出来ない、ただそれだけだ。  僕の持っている”物”で、約束できることは、  ”裏切らないこと”  話すことに”嘘”を、入れないこと。聞かれていない事や聞かれたくないことは、そう答える。それが唯一、僕が、恋人や、好きな人たちに言ってい…

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