ちょっとだけ切ない短編集の記事一覧

2021/04/05

【第一章 バーシオン】第一話 バーシオン

繁華街の外れにある寂れた雑居ビル。 その地下でひっそりと営業をしているバーがある。このバーは昼の1時から営業を開始して、夕方には店を閉めてしまう。 少しだけ変わったバーテンダーが居る。店名は、”バーシオン”ありふれた名前のカウンターだけの狭いバーだ。 「マスター。いつもの」 客層は、営業時間の関係もあるが、夜の店で働く”ワケあり”な者たちが多い。 素性は誰にも語らない。誰も聞かない。この街で働く、最低限のマナーだ。 「それを飲んだら、今日は帰ってください」 カウンターに座った女性は、”いつもの”モヒートを頼…

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2021/01/17

雪上の愛情

私は、雪が嫌い。私から、母さんを奪った雪が嫌い。同じくらいに、父さんが嫌い。 本当は解っている。母さんを殺したのは、私だ・・・。雪ではない。 私が、初めて無断外泊をした日。母さんは、死んだ。 私が住む地方では珍しく、その日は雪が振っていた。当たり一面を白く染め上げるくらいの雪だ。私は、地面に降り積もる雪に、自分の足あとが残るのが嬉しくてテンションが上がっていた。友達に誘われて、遊びに行った。スマホも携帯もそれほど普及していない時だ。家には連絡をしなかった。小さな・・・。小さな・・・。そして、大きな反抗だ。私…

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2020/08/27

【手紙と約束】届いた手紙

「おばあちゃん!なんかTV局の人が来ているけど?」 「なにごとだい?」 「わからない!でも、なんか・・・。アメリカの人と一緒に来て『”ようすけ”からの手紙を届けに来た』と言っているよ?」 「よ・・・う・・・すけ?」 「え?・・・。あっ・・・。う・・・ん?通していい?」 「離れで待っていてもらってくれ。婆もすぐに行く」  洋介さん。貴方からの手紙なの?  もう私は97歳にもなってしまったのよ?  いつまで待っていればいいの? —  おばあちゃんがTVで紹介された。  でも、そのおばあちゃんは放送を…

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2020/08/27

【何度でもあの子を愛する】僕が愛した人

 塾の帰り道、公衆電話で親友が電話をかける。  そして、少しだけ話をして僕に受話器を渡す。  僕は、誰だろうと思って受話器に耳を当てる。  最初は何も聞こえない。  永遠に思える5秒間が過ぎた。  親友は少し離れた所に居る。相手が誰か聞く前に離れてしまった。  僕は、勇気を振り絞って話しかける 「もしもし。静間(しずま)誠司(せいじ)だけど?」  相手の息遣いが聞こえてくる。小さな吐息のようだ。  僕が緊張しているように、相手も緊張しているのだろうか? 「ねぇ。誠司くん。まだ私の事、好き?」  え?  この…

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2020/08/27

【残された赤】赤い視界

 君が俺の所から旅立って、もう23年が経っているよ。  でも、やっと、やっと、やっと、俺は君の所に行ける。  でも、俺はもう40を超えて、50に近くなってしまっているよ。君に嫌われないか不安でしょうがない。  頑張ったよ。君が好きだと言ってくれたスーツ姿。同じ形のスーツを着られるように、体型を維持しているよ。  髪の毛も薄くなるかと思ったけど、薄くならないで良かったよ。  白い色の髪の毛が目立つけど、君の所に行くときには、あの頃と同じで茶色に染めていくよ。  もう少しだから、もう少し・・・。  もう少しだけ…

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2020/08/27

【止まってしまった時計】動き出す時間

PM10時50分  病院の椅子に座る女性の手には、3時で止まってしまっている血塗られた時計が握られている。  3時で止まってしまった時計。あれから、何時間が経っているのか、女性にはわからない。わからないが、興味はなかった。  女性は血塗られた時計を、止まってしまった時計を握りしめている。動きを止めてしまった時計。  ただ時計を握りしめて居る。  女性は、時計に向けて何を祈っている。  その祈りを止める事は誰にもできない。 ★☆★ PM2時40分 「沙織!早くしないと塾の授業に間に合わないわよ!」 「大丈夫!…

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2020/08/27

【神社と僕たち】僕たちのお返し

 二人の少女は、学校の帰り道にある神社に来ていた。 (おねがいです。大好きなだいちゃんと両思いになれますように!) (大好きなたっくんが私の事を好きになってくれますように、お願いします) —  4人の少年と少女は、学校の帰り道にある神社に寄った。  学校の宿題をするためだ。 「ねぇ本当に”ここ”なの?」 「宿題には丁度いいだろう?」  反対する女子に、男子が肯定させるための意見を話している。 「そうだけど、ちょっと怖いよね」  もうひとりの女子も怖がっている。 「大丈夫だよ。俺、この前の祭りでも…

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2020/08/27

【精神融解】とけていく

 最近、同じ夢ばかりを見る。  1人の女の子がいじめられて自殺する夢だ。  いじめる方は毎回違う。でも、最後は決まって、知らない海に飛び込んでの自殺だ。  最初の事は、はっきりしなかった顔も今でははっきりと見る事ができる。  私ではない。私が知っている顔でもない。  青い海が赤く染まって、私を溶かしていく、海の中から空を眺めながら沈んでいく、赤い空が溶けていく私を見つめている。  そこで目を覚ます。  原因はわかっている。いつの頃なのかわからない。私の引っ越しの荷物の中に入っていた一冊の日記。  私が書いた…

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2020/08/27

【バレンタイン】初めて食べた手料理はしょっぱかった

 俺が通う高校までは電車で30分くらいかかる。  朝早い電車で駅員が居ない日もある。  市にある工業高校に通っている。そこで、部活をやっている。  最寄り駅までは、家から自転車で通っている。  自転車置場はすぐにいっぱいになってしまうのだが、朝練に向かうような早い時間帯なら自転車置き場も空いている。  毎日、電車に乗るわけでも無いのに、ベンチに座って居る2人のおばちゃんにも挨拶をする。  寝ているのか起きているのかわからないけど、挨拶しないでいると後で思いっきり怒られたりする。 「隆史(たかし)今日も部活か…

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2020/08/27

【発覚】大事な事は、奴らが教えてくれる?

 俺は、心霊現象と言われる類の物が好きになれない。  怖いからではない。見えてしまうからだ。  いつ頃からだろうか?  俺は、心霊現象を認知する事ができる。幽霊と言われる物がはっきりと見えてしまうのだ。相手も、俺が見えている事が解るのだろう。コンタクトを取ってきたりする。 「田村!どうした?疲れ切っているぞ?」 「うるさい。話しかけるな」 「おっおぉ・・・」  会社の同僚の村田だ。  同期だという事もあり、よく飲みに行ったりしている。お互いの事情もある程度は知っている。  違うな。奴の事情は、奴から聞いたわ…

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2020/08/27

【新しい絆】新しい傷

 僕の左手首には、古い傷がある。  手首に横一文字に切られた傷だ。リストカットをしたかのように見える。  高校受験のときに、担任から傷の事で注意を受けた。 「平田。その傷は隠しておけよ」 「なんでですか?」 「俺は、お前が自殺なんてしていないのは知っているが、始めて会う人には伝わらないだろう?不快に思う人が居るかもしれないからだ」 「そんな高校には行きたくありません」 「お前な」 「だってこの傷は、ママが僕を守ってくれた証拠です」  最後までしっかり言えたと思う。思うけど、涙が出てきてしまう。 「わかった。…

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2020/08/27

【ぬくもり】背中に感じたぬくもり

 背中に感じていたぬくもりがなくなってから、5年が経過していると教えられた。  冬になると実感として感じてしまう。  ついこの間までは、背中に当たる彼の背中から確かなぬくもりを感じる事ができていた。  そして、途中から加わったもう一つのぬくもりが・・・。  本当に、それだけで良かった。  私には、彼から感じるぬくもりと、彼と私が望んだぬくもりの二つがあれば十分だった。そして、新たに加わるはずだったぬくもり。ぬくもりの数だけ幸せを感じる事ができた。  たったそれだけのことだったのに、私が寒くて凍えそうなのに、…

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2020/08/27

【白】白い天井

 今日も目が覚めた、白い天井を見つめる。  目が覚めなければいいと本気で思った。私が死んでも誰も困らないし、悲しみもしないだろう。  両親は殺された・・・。弟も殺された・・・。祖父母も殺された・・・。なんで、私も一緒に連れて行ってくれなかったの?  マスコミを名乗る狂人が今日も家の外に居る。  あの人達は、私が死んだほうが良かったと思っているに違いない。窓からカーテンを少し開けて外を見る。やはり、狂人が沢山居る。そんなに、私が生き残った事が不満なのだろうか?  学校からもやんわりとだけど、登校してこないよう…

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2020/08/27

【待つ】青い鳥を待つ人

 私の会社は・・・私が就職した会社は、IT企業だ。とある大企業の子会社になる。  社長は関連会社と言っているがどう見ても子会社だ。資本関係がないので、子会社で無いのはわかっているが、役員などはとある大企業の元部長だとかが就任している。ちなみに、肩書だけなのか、会社でその姿を見た事がない。  別にそれを不満に思う事はない。仕事内容も別段大きな問題はない。ただ、システム会議に出ると、自分たちの立場を再認識させられるだけだ。私たちは、邪魔な存在だと現場では認識させられている。  なので、親会社の業績がダイレクトに…

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2020/08/27

【一冊の本】忘れられた絵本

 私は、この図書館が好きだ。  でも、街の事情とやらでこの図書館は今月末で閉じることが決っている。  今日は、その月末だ。ほとんどの本が持ち出されている。近隣の図書館や学校に送られているのだと言っていた。残された本は、痛みが激しかったり、引き取り手が居なかった本達だ。  閉じることが知らされた時に、私は会社を休んで図書館を訪れることに決めていた。会社の同僚にはバカにされたが、自分が好きな場所がなくなるのだ、そのくらいはいいだろうと思っている。  図書館に残された本は、欲しい人が持ち帰っていい事となっていた。…

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2020/04/24

【プレゼン10分前】気がついてしまった罠

「どうする?」 「どうするも、提案書は出したのだろう?」 「提出した」  俺は、システム屋のプログラマをしている。  社長にはしっかりと説明して、俺の肩書はプログラマになっている。人が少ない零細企業なので、プログラマでも仕様書も書けば、客先に提案を持っていく、それだけではなくメンテナンスからハードウェアの修理まで何でもこなす。  今日は、以前から話が社長の所に話が来ていた、大規模システムのプレゼンを行う日だ。 「行くしか無いか」 「すまん。無駄な時間だな」  俺のボヤキに社長は謝罪の言葉を口にする。 「いい…

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2020/04/24

【情報の虜囚】悪意と善意

 綺麗だな。  あちらこちらで僕が撒いた種が増えている。拡散され続けている。こんなに嬉しいものだったのだ。  街の中にも青い紫陽花が増えている。  街だけじゃなく国中を覆うように種を拡散しなければならない。  僕の望みは、この国の隅々まで青い紫陽花を咲かせることだ。  見届ける必要はない。  種は拡散し始めた。僕の手を離れたのだ。もう止まらない。止める手段が存在しないのだ。  伸び切ってしまった手足を切り落として小さいベッドで眠らない。受領した快適を手放せる者がどれほど居るのだろう。種の拡散を止める方法は存…

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2020/04/24

【都会へのUターン】地獄だった田舎暮らし

「オーナー。どうしましょうか?」 「お前は、何度言えばわかる。俺のことは”まさ”と呼べと言っているだろう!?」 「だって、オーナーはオーナーじゃないですか?」 「いいから、まさと呼べ!次は無いからな」  いつもの朝の風景だ。  俺は、新宿・・・。と、言っても有名な歌舞伎町ではなく曙橋という場所で生まれ育った。  新宿で過ごして大学も新宿にある2流の大学に入った。何も考えずに入れたIT企業に入社した。ブラック企業一歩手前の会社だった。働いて身体と心を壊した。地元に居るのが怖くなった。TV番組で取り上げられてい…

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2020/04/24

【私が作る最高のお祭り】プロポーズされた!最高のお祭り!

「そっちに逃げたぞ!」 「大丈夫だ。アキが待っている」 「また、アキのところかよ?!」 「アキの奴、何人目だよ。俺が連れてきたメスもアキが壊していたぞ?」 「しょうがないだろう?そういうルールなのだからな。ほら、次の祭りに行くぞ!それとも、アキの後で壊れてなければやるか?」 「そうだな。昨日は、一匹にしか出してないからな。アキの後で犯すことにする」 「殺すなよ?」 「そんなヘマはしないよ。薬漬けにして売るのだろう?」 「あぁアナルも犯しておけよ。薬漬けの後に好きものが買い取ってくれるからな」 「わかった。わ…

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2020/04/24

【4で割り切れて】400で割り切れて・・・

 空になったコップをテーブルの上に置いて旧友に愚痴を言う。 「ヨウコ!聞いてよ」  学生時代からの親友であるヨウコに話を聞いてもらう。 「はい。はい。今日はどうしたの?また、いつもの人?」 「そうなの聞いて!うるう年って有るでしょ?」 「うん」 「計算方法って知っている?」 「マキ。私のこと馬鹿にしているの?文系でもそのくらい知っているわよ。4で割り切れる年でしょ?」 「でしょ!でしょ!それでいいよね!」  私は、注文していたモスコミュールを一気に煽る。  ヨウコの顔が”今日も長くなるのか”と言っているよう…

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2020/04/06

【そして空を見上げた】あの日見た空

 私は、今会社の屋上に登っている。  あの人が最後に見た空は、私が今見ている空とは違うのだろう。こんなに、滲んで居なかっただろう。  私は、あの人が最後に見た空を見たかった。  光化学スモッグで汚れた空だが、あの人にはどんな風に映っていたのだろう。  空を見上げていた、口元は笑って居た。ただ、もう二度と、話をする事も笑顔を見ることもできない。  溢れ出る涙を拭って、部署に戻る。  もう一度空を見上げる。見上げた空は、何も変わっていなかった。  ここは、川崎駅から、南武線に乗って何駅か行った場所にある会社だ。…

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2020/04/05

【目が覚めるとそこには】夢で終わらない

 あぁこれは、いつもの夢だ。誰にでも、1つくらいあるだろう。  同じような夢。疲れた時に見る夢。誰かを殺したいと思っている時に見る夢。  窓も、ドアも、部屋の調度品がなにもない部屋。上も下もわからない白い部屋に私が全裸で居る夢をよく見る。  私は、部屋の中を抜け出すために走りまくる。床だけでなく、壁や、天井を使って、走りまくる。走って、走って、走って、疲れ切って、倒れる。最後は、なぜか部屋から抜け出す。  その時に、必ず振り返ってしまう。白かった部屋が、真っ赤に染まったシーンで目をさます。  目を覚ますと、…

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2020/04/04

【さよならの理由】取られる事の無いコール

 もう、貴方の事は忘れたほうがいいの?  もう、連絡帳にも入れていない、貴方の連絡先。  消すまでに、1ヶ月掛かったのよ?  消してからも、指が、心が、体中が覚えてしまった、貴方の連絡先。  連絡帳から選択しないでも、貴方の電話番号をコールする事ができる。  ダメな事だとは理解している。  この取られないコール音だけが、私と、貴方を繋ぐ。細い。細い。細い。一本の糸。  けして繋がる事がない。一本の糸。  あれから、コール音を何回聞いた?出るはずが無いコール。1回、2回、3回、4回、解っている事だけど、コール…

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2020/04/03

【最高のおめでとう】一番欲しい言葉

「弘樹(ひろき)!」  同級生で、幼馴染の由紀乃(ゆきの)だ。 「なに?」 「卒業前に、みんなでボーリングに行くけどどうする?」 「みんな?」 「そう、大志(たいし)や弥生(やよい)も一緒だよ」  うーん。ボーリングは魅力的だけど、僕は高校受験が残っている。 「ごめん。行きたいけど、受験がまだ有るからね」 「え?弘樹は、私立に受かっているよね?」 「うん。滑り止めだからね。本命は、商業だよ」 「そうだったの?」 「うん」  大志や弥生と家に来て、兄さんたちと受験の話をしていた。 「でも、私立なら、私と一緒に…

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2020/04/02

【3年目の出来事】3周年のチラシ

 高校生の男子が1人で住むには、少しだけ不釣り合いなマンションだが、大城(おおしろ)和義(かずよし)は一人暮らしをしている。  よくある理由で、不幸が重なったからだけだ。  高校2年になっているが、部活もバイトもしていない和義は、学校からまっすぐに部屋に帰ってくる。  マンションはオートロック機能がついている上に常時人が居る状態になっている。その上、部屋のドアには監視カメラがついていて、帰ってからでも訪ねてきた人を確認できる状態になっている。  和義が部屋のドアを開けると、白い1枚のチラシが床に落ちた。拾い…

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2020/04/01

【残された記憶】何気ない日々

 今日も憂鬱な一日が始まる。  最低な目覚めだ。 「太輔!太輔!朝だよ。早く起きて、ご飯を食べちゃいな!」 「解っている。起きるよ」  ほら、こうして、無理矢理起こされる。勉強なんてしてもしなくてもさほど変わる事はない。  母親も父親も弟も妹も幼馴染のあいつも俺に何を期待している。  どうせ、今更勉強しても変わらない。  中堅の大学に入って、運が良ければどっかの公務員にでもなれるだろう。そうじゃなかったら、俺程度が入られる会社なら、大した仕事もさせてもらえないだろう。楽しくもない仕事を、もらえる賃金で釣り合…

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2020/03/31

【残された3分】冷めてしまった紅茶

 私と彼の距離を表現するのに、一番適切な言葉は、紅茶が冷めない距離。  彼は隣の部屋に住んでいる。  それは偶然だった。  中学卒業までは、一緒の学校に通っていた。  高校になったら、彼のご家族は引っ越してしまった。何か理由が有ったのだろう。  中学卒業の時に彼に告白しようと思っていた。でも、告白ができなかった。  学校で一番可愛いと言われている子に告白されていた。受け入れると思っていた。 「紀子!」 「え?」 「一緒に帰ろう。オヤジとオフクロとお前のご両親は先に帰ると言っていたぞ」 「なんで?」 「ん?な…

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2020/03/30

【君と決めたルール】僕がルールを破る時

 何気ない日常の何気ない時間。  それが僕にとってかけがえのない物だったと知ったのは、何もかも・・・。”自分の身体”と”君への想い”と”君と決めたルール”だけが残された日だった。  君は、僕にそんな事を望んでいないだろう。  僕は、初めて、君との約束を僕の都合で破る事にする。  君と決めたルールは4つ。この4つは何が有っても変えないと二人で決めた。 1.嫌がる事はしない 2.他人に迷惑をかけない 3.辛くても笑おう 4.大切にする  だ。  今から1番と4番のルールを破る。 —  高校1年の最初…

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2020/03/29

【紙とペンと復讐】復讐を誓った男の行動

 そこは、寂しい港町。始発を待つ者は誰も居ない。  誰も居ないと解っていながら、1人の男性は毎日ホームに立つ。  ホームで始発電車が到着するのを待っている。  男が持つメモ用紙には、電車の時刻表と到着時間がメモされている。  ホームに電車が滑り込んでくるのを待っている。  数分後に、電車がホームに滑り込んできた。  男は、ホームに吊り下げられている時計を見る。毎朝、男が調整している時計だ。  電車が止まって扉が開く。  寂れた港町の駅では降りる客も少ない。  始発となれば、0人が規定の数字だ。  男は、ホー…

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2020/03/28

【隣の料理人】食事のスパイスは勘違い?

 その女性の住む部屋は、古いアパートだだ。 (はぁ今日も疲れた)  誰も待っていない部屋に女性が入っていく。手に持っているのは、近くにある弁当屋さんの袋だ。  部屋に入って、仕事場にしていくポニーテールを解いて、髪の毛を下ろす。 (どんどん。好きだけど・・・今日も、隣の部屋からはいい匂いがしている)  アパートと言っても、女性の一人暮らしだ。セキュリティには気を使った。  部屋を借りる時に、隣に音が聞こえないようにとか、周りにどんな人が住んでいるのかを確認していた。  しかし、匂いまでは気にしていなかったの…

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