【第七章 日常】第六話 性愛

 

 夕花は、立ち上がった。晴海は夕花の姿を目で追った。

 二人が居る露天風呂は星や月の明かりだけに照らされている。入ってくるときには、足元を照らすライトが点灯するが人が居なくなれば消えてしまう。

 振り向いた夕花を照らすのは星の明かりだけだが、晴海には夕花がしっかりと見えている。夕花が微笑んでいるのも見えている。

「晴海さん」

 夕花は、他にも言葉を考えていた。抱いて欲しいと口に出そうと思っていた。
 しかし、自分を見つめる晴海を見てしまうと、名前を呼ぶのが精一杯だった。名前を呼ぶだけで心臓の音が晴海に聞こえてしまうのではないかと思えてくる。

「夕花。綺麗だよ」

 晴海も立ち上がって、夕花の側まで移動した。星の明かりに照らされた全裸の夕花を抱きしめる。
 柔らかい身体を強く抱きしめる。夕花も晴海の身体を抱きしめる。

「は」「夕花。好きだよ。夕花が欲しい」

 夕花が、晴海に確認しようとした口を指で塞ぎながら、晴海は夕花にストレートに告げる。

「はい。晴海さん。僕のすべては晴海さんのために存在します。晴海さん。僕のすべてを捧げます」

 晴海は言葉を紡ぐ代わりに、夕花を抱きしめて、夕花の求めるような唇を自分の唇で塞いだ。

 舌を絡め合いながら、二人は離れるのを恐れるように強く抱き合い。お互いを求める。

 晴海が、夕花を抱きしめていた腕の力を緩めた。夕花も、晴海に合わせて腰に回していた腕を晴海の首に絡める。晴海は、夕花の唇から離れた自分の唇を、夕花の左耳に持っていく、耳を優しく噛む。夕花の口から声が漏れる。
 外にあるのは海だ、波の音しか聞こえない。海には漆黒の帳が降りている。二人が居る露天風呂の明かりは消えている。入口の足元を照らしていた明かりも二人が遠ざかったので二人だけの世界を演出する装置の一つのようになっている。
 二人を見ているのは、夜空に輝く星々だけだ。

 夕花は、晴海の息遣いを耳で感じている。自分でも解る。身体が、心が晴海を求めている。首に回した片腕を晴海の頭に持っていく、片腕を下に降ろす。晴海も夕花がやりたいようにさせる。身体を少しだけ離して、夕花が触りやすいようにする。
 晴海は、唇を耳から離して、首筋に、そして柔らかい部分に移動させる。自分でも解る。心が、身体が夕花を求めている。夕花だけが欲しい。

 徐々に夕花の声が大きく早くなっていく。

「はる・・・み・・・さ・・・ん。だめ・・・。あっだ」

 晴海はしゃがんでいる状態だ。
 夕花は、晴海の頭を手で抑えながら、指を咥えて声が出ないように我慢している。

「夕花」

 晴海が立ち上がった。指は添えられたままだ。

「あ・・・。あ・・・。は・・・。い」

 晴海は、夕花の唇を塞ぐ。舌を絡めながら指を動かす。夕花も、手を動かす。

 夕花は、身体を震わせる。晴海も、限界だった。キスをしたまま、二人はお湯を汚した。そして、その場に座り込んでしまった。お湯の中に身体を預けて、お互いに抱き合うように支え合った。

「はる・・・みさ・・・ん」

「どうした?」

「きれい・・に、しな・・・くて・・・いいの・・・です・・・か?」

「いいよ。夕花。それに、湯船に浸かっちゃったからね」

「あ・・・。はい」

 夕花は、恥ずかしかったが嬉しかった。まだ手にぬくもりが残っている。触り続けていたい。

「夕花。欲しいの?」

「っ・・・」

「どうした?」

「晴海さん。意地悪です。触っていて、解っているはずですよね?」

「夕花。僕は、夕花が欲しい。夕花も同じ気持ちだと嬉しい」

「はい。僕も、晴海さんが欲しいです。すぐにでも、欲しいです。準備は出来ています」

 夕花は、それだけ言って晴海に身体を預ける。足を広げて晴海の上に座るようにする。手で自ら誘導する。一刻も早く欲しいのだ。あたっているのが解る。自分であてているのだ。

「夕花。まだ駄目だよ。7階に移動しよう。それからだ」

 晴海は夕花の身体を抱きとめた。夕花が座ろうとするのを途中で停めた。夕花が自分で”やろうとした”行動を阻止したのだ。晴海は、自分の意思で夕花を抱きたかったのだ。

「はい。晴海さん!」

 晴海は夕花を抱きかかえて、湯船から出る。お湯が滴るが気にしない。
 出口に近づくと足元のライトが光る。出口近くにあった、浴槽の清掃ボタンを押した。これでお湯が捨てられて、浴槽が掃除される。人の手での掃除ではないが、十分に綺麗になる。

 いつのまにか、晴海は夕花を、お姫様を抱くような状態にしていた。
 夕花は首に捕まりながら、重くないのか心配になってしまったが、晴海の腕の中が心地よくて何も言えなくなっている。舐められてしまった。自分で触ったときと違った快楽が頭を突き抜けてしまった。その瞬間に立っていられなくなった。晴海が自分の手の中で果てたのも解った。ドクンドクンと大きく脈打った。手や足にかかったが気にならない。
 廊下にも水滴が垂れるが、掃除ロボットが綺麗にするだろう。

 二人は、誰も居ない屋敷を全裸のまま7階に向かった。
 エレベータの中でも唇を合わせている。

 寝室に夕花を抱きかかえて入っていく。
 晴海は、夕花をベッドに寝かせた。上から覆いかぶさるようにして夕花の顔を正面に見た。

「晴海さん。僕は、貴方の物です。貴方を愛します。貴方だけを愛します」

「夕花。僕は、夕花のすべては僕の物だ。誰にも渡さない。僕だけを見て、僕だけを愛せ。僕は、夕花のただ一人の主だ」

「はい。晴海様。すべてを、命さえも、晴海様に捧げます」

 儀式が終わった。
 お互いを認めあったキスだ。舌を絡め。体液を交換する。

「晴海様。ご奉仕させてください」

「いいよ。どうして欲しい?」

「晴海様。仰向けで寝てください。ご奉仕いたします」

 晴海が仰向けになって、夕花が足の間に身体を入れる。手と口を使って奉仕を行う。晴海に奉仕すると決めた。見て覚えていた内容を実践したのだ

「晴海様。おねがいします」

 満足はしていないが、欲しくなってしまったのだ。口を離して、晴海を見ると、笑っていた。夕花の願いを叶えてくれるようだ。

「いいよ。おいで」

「はい!」

「このままで大丈夫?」

「大丈夫です。晴海様の全部を、私にください」

 夕花がベッドに横になり、手を広げる。晴海を、腕の中にそして・・・。夕花は、晴海をむかい入れる準備が出来ている。
 晴海は、夕花の足を持って上に乗るような体勢になる。

 7階の寝室の窓は閉められている。
 夕花の声と晴海の息遣い。そして、身体があたる音が響いている。

 夕花の声は、朝方まで断続的に部屋に響いていた。

 二人は体力の限界までお互いを求めた。
 そして、朝日が二人を照らす時間になって、お互いに力尽きた。抱き合ったままの状態で眠りについた。

 夕花は昼過ぎに目を覚ました。
 横には、愛おしい主が寝ている。夜のことを思い出して恥ずかしくもあるが嬉しくも有った。晴海が、自分を求めてくれた、それも、一度ではない、何度も何度も果ててくれた。その都度、抱きしめてキスをしてくれる。触ってくれた、舐めてくれた、綺麗だと言ってくれた、気持ちがいいと言ってくれた・・・。愛していると言ってくれた。誰にも渡さないと言ってくれた。一言一言が嬉しかった。晴海が満足してくれたのかわからない。でも、夕花は全身を、心を、晴海に委ねた。
 夕花は思っていた。自分を抱いてくれた。自分が気を失っても待っていてくれた。何度も何度も何度も・・・。自分も、晴海を求めた。何度も何度も何度も、晴海を求めた。体中で晴海を求めた。

(晴海さん)

 夕花は眠っている晴海の顔を見つめる。

「あんな激しく・・・。壊れちゃうかと思いました」

 そう言って、眠る晴海に口づけをする。

「大好きです。愛しています」

 また口づけをする。
 夕花は、起き上がって昨晩の片付けをしようかと思ったが、眠る晴海を見ると、もう少しだけ一緒に居ようと思って、晴海の胸に抱きついて目を閉じた。